ECは地方創生の糸口になるのか。富山県朝日町から学べたこと

西村 勇哉

富山県朝日町役場・町おこし協力隊の方々

多くの人がご存知の通り、日本の少子高齢化、地方から都市部への人口流出は大きな社会問題となっています。今でこそ技術や社会インフラが発展し、ネットショップを介し、地方の商品を都市部で、都市部の商品を地方で購入できるようになりました。しかしネットショップを運営している地方事業者はまだまだ多くありません。理由としては知識や社会インフラが未熟であることが挙げられると思います。EC支援企業も情報発信には力を入れていますが、地方事業者までしっかりと届くことは多くありません。

なぜ地方には情報が届きにくいのでしょうか。今回私はそんな地方にECの可能性を探りに取材してきました。様々な業界があるなかでも特にEC業界は地方事業者が活躍できるフィールドなのではないでしょうか。地方の商品を地方にいながらも東京・大阪といった消費地に送ることができるのですから。

原風景がなお残る富山県朝日町

訪れた地域は富山県朝日町。日本海に面しながらも、標高3000メートル級の山もある自然豊かな町です。農業が盛んなのか町のいたるところに田んぼが点在していました。また縄文時代の遺跡や、源平合戦の際に活躍した武将ゆかりの神社など歴史情緒にもあふれています。春には「雪山」「桜」「菜の花」「チューリップ」が同じ場所から見ることのできる公園があり、春の四重奏と題して多くの観光客、プロカメラマンが訪れる名所もあります。

魅力溢れる朝日町ですが少子高齢化の影響が強く、今や人口12000人の約40%が高齢者。人口の減少も年々増加しています。空き家も多く見受けられました。日本創成会議からは消滅可能性都市の1つに数えられています。

今回はご縁があり朝日町役場の方に案内していただき、事業者の方々に話を伺うことができました。

地方事業者の本音はなんなのか。

実際に朝日町を見学した際、目を引くような商品は多かったです。

ガラス細工で干支の動物やひな祭り人形を作製する職人や名産品のヒスイ、創業400年の酒蔵、室町時代から伝わる黒茶のバタバタ茶。残念ながら、その多くは電話でのお問い合わせになっており、ネット注文に対応できていません。しかし多くの事業者は今より販路の拡大はしたいと考えているのです。

ではなぜネットショップを行わないのか。

最もスタートラインに近い人だと、そもそも何をすべきかわからない、といった意見が目立ちました。単純に知識がないということです。自分でサイトを作らなければならないと思っていた方もいました。BASEやSTORES.jpなどの簡単にネットショップを作成できるサービスを聞いたことがない人も非常に多かったです。

自発的に情報を収集し、現状を革新的に変えていこうと思う人が非常に少ない印象を受けたのが正直な所です。これが地方の普通なのかもしれません。良い意味でも悪い意味でもゆっくりとした雰囲気。普段東京で過ごしている私からしたら非常に心地よくも思うのですが、仕事において何かを変えようとするには不利に働いてしまうこともしばしば。とはいえ都心のスピード感を押し付けるのは逆効果にしかならないでしょう。どちらが正しいと言う話ではないので非常に難しいところです。

この状況に役場の方は「みんなEC・SNSマーケティングなど新しいテクノロジーは気にはなっているが、最初の1歩が踏み出せていない。とりあえずやってみようという考えを持つ人は少ないので、専門家にみんなのやる気に火をつけてほしい。」とのこと。

また「東京からビジネスチャンスを探りに来る人の多くは地方視察を数回しかしてくれません。町からしたら半年ほどじっくり腰を据えていただいて一緒に課題解決を行いたいのが理想です。その場に行かなければ見えないことは非常に多いと思います。そして同じ文化、仕事のスピード、そして何より人の考え方を経験しないと都会と地方とのギャップはなかなか埋められません。」といった本音も教えてくれました。

なるほどと思うことは非常に多く、説得力もありました。しかし半年という期間を1つの地域に注力するためには慎重にならざるを得ません。企業としても大きなリスクを背負うのは避けたいのが本音です。うまく折衷案を作るなど工夫する必要があると感じました。働き方に多様化が求められている現在、サテライトオフィスなども徐々に普及してきているので様々な視点からアプローチは可能だとは思います。

HYGGEのハーブ。古民家を改造して喫茶店に改築した。


もちろん町の中にはネットショップに興味を持ち、情報収集を行っている人もいます。ハーブと喫茶のお店HYGGE(ヒュッゲ)を営んでいる坂口さんはネットでハーブを売りたいと考えたことはあるそうなのですが、ハーブという特殊な商材なので、一人一人にあったご案内をしたい。しかし凝ったサイトを作成する予算、そしてなにより人材不足で断念した経験がありました。

他にも多くの事業者が口を揃えて言うのは、人が足りない、でした。確かにネットショップを始めるとなると受発注処理や、アフターフォローなど業務は増えるでしょう。坂口さんも喫茶店を経営しながらのネットショップの運営は難しいのではと考えていました。

運営代行など外注といった方法も考えられますが、そこまで力を入れすぎるとリスクも大きくなってきます。

地方事業者のリソースをいかにカバーしていくか

町おこし協力隊の方々

この地方の永遠の課題ともいえる人手不足。解決する方法がないわけではもちろんありません。町内で行えることがあるとすれば組合を結成し、役場との連携強化などでしょうか。その中で地域を引っ張るリーダー的な存在がいるとうまく歯車が回ることが多いように思います。しかしそのような地域は多くはありません。リーダーを町内で育てるのにも時間はかかります。外部の人材を活用しようとしても上述のように、腰を据えられるかという問題に直面します。

町の役場がECサイトを運営することも可能性としては大いにありなのではないでしょうか。ネットショップを運営する上で重い業務となってくるであろう受発注処理やアフターフォローなどを役場が代行できれば事業者の負担も軽くなってきます。

企業としての動きとは別に、町おこし協力隊という外部からの人材が朝日町で活躍できる制度もあります。農家や観光PRなどを行なっており、第三者的目線を持ち合わせているので様々な気づきをしていただいて町にフィードバックをしてくれているのだとか。都会から移住してきた方も町おこし協力隊には参加しており、活気ある団体の1つです。今後メンバーが増えれば、より大きな施策の実現も可能になっていくでしょう。

地域は能動的に、企業は自分の目で見ることが求められる

ここまでをまとめると地方事業者の多くの人にとってEC業界はハードルが非常に高いイメージのビジネスになってしまっているようにも思えます。新しい販路を開拓したいと思った時に「助け船」としてECがあるべきなのにこのハードルが高いと思われてしまっているのはEC業界に携わる人にとって課題なのではないでしょうか。実際にはECの利便性は格段に上昇し、主婦でもネットショップを運営している人、副業レベルで運営している人など多くの人がネットショップを運営しています。誰でもネットショップは運営できるようになっているのです。

ではなぜ地方のイメージと、実際のEC業界の現状にギャップが生まれてしまっているのでしょうか。


主に2つの理由があると思われます。

1つ目は地方事業者の受動的姿勢です。スマホの普及、ネット環境の充実により、情報量は多くなり、必要な情報自ら調べるものになりました。つまり情報が届くのを待っているだけでは本当に必要な情報は届きにくくなっているのです。今回訪れた朝日町の事業者には積極的に情報を調べるような姿勢を持っている人は多くありませんでした。受動的な姿勢が本来のEC業界の現状を見えなくしてしまっているのです。

2つ目はいくつかのEC支援企業が地方の現状を本当の意味で把握できていないことです。朝日町を数字だけで判断すると、超高齢化、都心への人口流出が止まらないなど、一緒に仕事ができるのか不安に思ってしまうかもしれません。しかし、実際に現地まで足を運び、地元の人と話をすればECの需要があり、それに対して予算を使える環境があることがわかります。

地方は受動的な姿勢を続け、一方で、ECに知見がある企業もその地方への先入観により新たな可能性を模索しないが故に、”何も動きがない”。これが朝日町におけるEC業界の現状です。おそらく同じ状況に陥っている地域は他にもあると思われます。

日本のEC業界は確かに成長を続けています。しかし海外EC市場に目を向けると、日本の何倍もの勢いで成長している国は多くあります。今後、日本国内のEC化率を上昇させるためには、地方のEC活性化は欠かせない要素になってくるのではないでしょうか。

地方と企業の歩み寄りが今後の鍵に

結局、ECで地方は活性化するのでしょうか?私は関わる人が本気になれば可能だと思います。都市部でなくともネットショップを運営し、販路を拡大している例は非常に多くあります。

そして地方と何か仕事をしたいと考える都市部の人が気をつけなければならないのは、地方をわかった気にならないことなのではないでしょうか。共通する悩みは多くあると思いますが、同じ地域でない限り地方の本当のニーズは変わってきます。そこの細かい把握が甘いまま企業が動くとなると、企業・地方の双方にとっても無駄な時間になりかねません。

また地方は今以上に情報に敏感になるべきです。日本だけではなく、世界が情報社会となっている現代では欲しい情報は自ら調べに行く時代となっています。毎日ニュースは更新され、その中には地方活性化に貢献するサービスも多く、機会損失を生じさせている地域は多いのが現状です。

しかし地方、企業、そして顧客の三方よしを心がければチャンスは大いにあると思います。地方には様々な魅力があり、その魅力をより大きく、そして発信する役目を担う企業も多くあります。関わる地域、企業がいかに歩み寄って仕事を行なうべきか、EC業界はもちろん、日本全体の問題となってくるでしょう。

都心よりも速いスピードで少子高齢化と人口減少が進んでいる地域に対して企業は何を提供すべきなのか。そこを見誤らないためにも今回の視察は自分の目で現実を見ることができ、非常に勉強になりました。

日本は超高齢化社会に突入し、人口もどんどん減少していきます。今のまま何もしないと、朝日町のような地域が増えることは確実です。日本が手遅れになる前に、今動くべきなのではないでしょうか。

ECノウハウ

記者プロフィール

西村 勇哉

メディア編集部 編集チーム所属
見た目はヒョロイのに7歳から空手を習っています。
他にも水泳、サッカー、野球、弓道の経験有り。
たまにメルマガに登場しますが乃木坂46の話しかしません。

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