地方のパン屋にECの発想で光を当てたパンフォーユーの成功秘話【オフィスのミカタ&ECのミカタ連動企画】

石郷“145”マナブ

 2年ぶりの再会であった。何気なくそのビジネスの面白さに着目して会いに行った相手は、実は僕らと深い接点があった。オーダーメイドのパンの通販をしようと考えていた株式会社パンフォーユー(以下、パンフォーユー)の社長矢野健太氏は、今から2年前、思う通りに行かず、悶々と悩む中でECのミカタのイベントに顔を出してくれていたのだ。でも、それがどうだ。見事に乗り切って、話題を集めているのだからわからないものだ。

 今回は新媒体「オフィスのミカタ」との連動企画で、街のパン屋さん(製造する店舗)の視点で我々『ECのミカタ』、パンを届ける先の企業(利用する側の立場)の目線で「オフィスのミカタ」(https://bit.ly/2YqgrJd)とで、視点を分けて書いてみたので合わせて、見てほしい。

 パンフォーユーは地方にある美味しいパン屋さんの逸品とも言えるパンを全国のオフィスに届けている。地方にあるパン屋さんに光が当たり、パンフォーユーは勿論、本来光が当たらなかった街のパン屋をきっかけに、原材料屋にも商機をもたらし、商品価値と売上を向上させている。

 僕自身、気になっていたのが、街のパン屋さんは「自分達でネット通販をするなどすればいい筈なのに、取り組んでいない」という事実。ショッピングモールなどでパン屋を検索すれば分かるが、意外なほど少ない。その理由はビジネスの根幹部分にあり、実は多くのお店は個人経営であり、ネット通販のための受注管理や出荷などにそうは簡単に、コストが避けないためやむなしという事情があるのだ。

 一方で、それらのパン屋には大きな悩みがあって、そうしたお店の殆どは、自分のお店に売る以外では近所の学校に卸すこと以外手段がなく、人口が減少する中では、それも販売数が減ってきていたのだ。

 パンフォーユーの視点で学ぶべきところは、このパン屋に商機を見出しただけでなく、そのパンの売り先を全国のオフィスにした点である。それでいて、パンフォーユーにはパン屋への想いがあるから、美味しさの提供にこだわった。だから、その日その場所でそのパンを食べたかのような感動を伝えたい一心で、独自の袋に入れ、冷凍にしている。パン屋の輝きは少しも損なう事なくパン屋のファンの裾野を広げているのだ。

美味しいパンはその店でしか食べれないのを都会のオフィスで買える逆転の発想

美味しいパンはその店でしか食べれないのを都会のオフィスで買える逆転の発想

 しかし、最初からうまくいったかと言えばそうではない。最初こそ、お客様にオーダーメイドで自ら美味しいパンを製作して、一般消費者に対して販売していたわけだが、これが思うようにいかなかった。一番の懸念材料は送料。その問題に応えるため、いくつかのオーダーメイドパンをセレクトしてもらい「送料無料で20個程度をまとめて送る」ようにしたが、そもそもそれだけの量は家庭の小さな冷凍庫では収まりきらない。まだ認知がないない中で、浸透しずらかったのは無理もないのである。

 ところが、矢野さんは逆転の発想で乗り切る。この送り先がオフィスであれば、それは話が変わる。何より送料についても、対会社であれば、経費として処理され、社員の充実した生活を考えれば、その分の経費は前向きな予算と受け止められる。送料は問題視されることなく、美味しいパンを届けることに注力できたのである。また、オフィスでは社員数が一般家庭よりは多く冷凍庫は確保でき、かつ一人当たり、2、3個そこから手に入れればいいので、回転率も良くなり、現実的なのである。

 そして、その仕入れ元を全国にある多くの街のパン屋にしてみたわけだ。勿論、美味しい価値のあるパンを提供したいという当初の理念はそのままに。そして、美味しいパンが地元で食べるくらいの美味しいパンたる所以には、冷凍保存するときの袋にあると説明したが、実は袋のコストは一個9円程もかかっている。しかし、これもパンの単価を250円程度に引き上げる事で、それを可能にしている。

 考えてみればわかるが、最近の高級食パンのブーム然り、1000円近く払う人がいるように、美味しいものにはお金を払う習慣が出てきており、安易に安売りに走らなかった事が成功の要因に繋がっているのだ。

企業との間にサブスクリプションを実現で安定した収益

企業との間にサブスクリプションを実現で安定した収益

 地方では安く販売しているものでも、例えば都会のパン屋ではパンを高く売っているので、単価が引き上げられても抵抗なく購入していくのである。この事実にはビジネスの本質がある。価格というものは本来、お客様が納得する価値の提供であって、環境が変わればその価値も変わり、価格も変わる。安売りしない事で、逆に地方のパン屋のブランド価値を引き上げているというのも重要だ。

 そして、これらのパンは同じ商品ではなく、パンフォーユーが約15店ほどのパン屋から商品をセレクトして、中身を変えて、企業側に毎月の楽しみを演出する事で、継続顧客を生み出した。

 また冷凍庫のない会社には冷凍庫ごと貸し出しして、サブスクリプションを実現しやすい環境を作っている。言うまでもなく街のパン屋にとってはこの存在はとても大きく、冒頭話した通り、美味しいパンを作っているのに地域のキャパに限界を迎えて、売上が伸びていなくとも、この取り組みにより、パンフォーユーの分がそのまま、売上に上乗せされて、光を与えている。これは形を変えた“地域復興”ではないか。

 僕は全国にはまだ見ぬ、多くの人の心を魅了する商品や店があり、人がいると思っている。このビジネスはネットの利点を生かし、地方のお店に光を与えるだけでなく、安易な安売りで乗り生きるのではなく、どう付加価値をつけるかに重きを置いていて、事実活力を与えているのが、素晴らしいと思った次第なのだ。


記者プロフィール

石郷“145”マナブ

キャラクター業界の業界紙の元記者でSweetモデル矢野未希子さんのジュエリーを企画したり、少々変わった経歴。企画や営業を経験した後、ECのミカタで自分の原点である記者へ。トマトが苦手。カラオケオーディションで一次通過した事は数少ない小さな自慢。

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