ユニファイドコマースとは?導入企業の事例やほかの戦略との違いを解説
ユニファイドコマースは、現代のビジネスにおいて顧客体験を向上させる重要なマーケティング手法の1つです。このマーケティング手法は、オンラインとオフラインのチャネルを効果的に統合し、顧客データを一元管理することで、パーソナライズされた購買体験を実現します。
本記事では、ユニファイドコマースの導入を検討している企業やECサイトの担当者に向けて、基本情報から成功事例、課題解決のポイントまで幅広く解説します。
ユニファイドコマースを通じて、顧客満足度の向上とビジネスの成長を目指しましょう。
ユニファイドコマースとは
ユニファイドコマース(Unified Commerce)とは、顧客体験を一元化するための新しいマーケティングアプローチです。直訳すると「統合された商取引」となり、オンラインやオフラインといった販売ルートによる表現を取り払った新しい概念を指します。ECサイトや実店舗、SNSなどさまざまな顧客との接点(チャネル)の壁をなくし、顧客に対して統合・統一された買い物体験を提供する取り組みです。
ユニファイドコマースは、顧客1人ひとりのニーズにより的確に応えることを目的としています。在庫情報や、顧客の閲覧・行動・購入履歴など、ECサイトや実店舗における顧客情報をデータ化して一元管理し、その情報をもとに商品を紹介したり、コンテンツを配信したりとマーケティングに活用することで、個々人に合った接客が可能になります。
市場規模の成長も顕著であり、近年では特にEC市場の進展がユニファイドコマースを後押ししています。経済産業省の報告では、日本の電子商取引市場は拡大を続けており、ユニファイドコマースの導入が企業競争力を高める鍵として注目されています。
参考:令和5年度電子商取引に関する市場調査の結果を取りまとめました |経済産業省
ユニファイドコマースとオムニチャネルの違い
ユニファイドコマースとオムニチャネルは、いずれも顧客にシームレスな購買体験を提供することを目的としていますが、その実現方法には大きな違いがあります。
オムニチャネルでは、複数の販売チャネルを「連携」させることに重きが置かれています。たとえば、実店舗とオンラインストアを連携させ、オンラインで購入した商品を実店舗で受け取れるようにする取り組みがその一例です。ただし、オムニチャネルではチャネルごとに異なるシステムやデータベースが使用されることが多く、顧客情報や在庫データの統一には課題が残ります。
一方、ユニファイドコマースはこれらの課題を解決するものとして登場しました。すべてのチャネルを1つのプラットフォーム上で統合し、リアルタイムのデータ管理を可能にする点が特徴です。
ユニファイドコマースとOMOの違い
ユニファイドコマースとOMOは混同されることがありますが、それぞれの目指す方向性には違いがあります。
OMOは、オンラインとオフラインの融合を推進する考え方です。具体的には、オンラインで収集したデータを活用して実店舗での購買体験を向上させたり、逆に店舗での顧客行動をオンラインマーケティングに活用したりすることを指します。OMOでは、オンラインとオフラインが互いに補完し合う関係を築くことが重視されています。
ユニファイドコマースは、OMOの要素を含みつつ、さらにデータの統一化と一元管理にフォーカスしています。OMOがオンラインとオフラインの融合を主眼とするのに対し、ユニファイドコマースはその融合を可能にするための技術的な基盤を提供します。この点で、ユニファイドコマースはOMOの実現を後押しする手段としても位置付けられます。
ユニファイドコマースが注目される背景
ユニファイドコマースが注目されているのには、顧客が求めるものと企業が求められるものが変化してきた背景があります。
かつては、テレビ・ラジオ・新聞・雑誌といった4マス媒体に広告を出すことで、企業はターゲット層の大半にリーチできていました。しかし、近年はSNSといったメディアの普及により、人々が利用する媒体が多くなり、顧客にリーチするにはさまざまな媒体での広告掲載が必要となっています。
加えて、昨今は顧客ニーズへの対応力が高いほど企業の評価も高くなる傾向にあることから、従来のマスマーケティングの効果が薄れてしまうようになりました。
また、実店舗で実際に手で触れてから購入し、次回以降はECサイトで定期購入するなど、店舗とECサイト、いずれの店でも購入できるといった利便性を求める人も増えています。複雑化するカスタマージャーニーへの対応として、ユニファイドコマースという発想が求められているのです。
さらに、顧客に合わせたさまざまな媒体でのアプローチが必要となった関係で、Web広告を活用する企業が増えていますが、これに伴って広告費も年々増加しています。
一方で、新規顧客の獲得には既存顧客をつなぐよりも5倍コストがかかるという、「1:5の法則」も発見されました。低コストで利益につなげるには、ユニファイドコマースにより既存顧客を維持することが重要だといえます。
ユニファイドコマースを導入するメリット
ユニファイドコマースの導入は、企業にとって単なる業務改善の手段ではなく、むしろ全体的な事業戦略を根本から支える基盤となります。
ここでは、企業側と顧客側、それぞれの視点から得られる主なメリットを紹介します。
- 業務の効率化できる
- すべての顧客情報を一元管理できる
- オンラインでも店舗でも変わらない買い物体験を提供できる
- より効果的な販売促進と商品提案を実現できる
- 店舗とネットの垣根をなくすことができる
業務の効率化できる
ユニファイドコマースは、業務プロセスを統合し、効率化を図るための仕組みです。在庫管理や受注処理、配送手配など、これまで分断されていた業務を1つのプラットフォームで管理できるようになります。
例えば、リアルタイムでの在庫確認が可能となるため、オンラインとオフラインの両方での販売活動をスムーズに進めることができます。この効率化により、作業の重複がなくなり、業務にかかるコストや時間を大幅に削減できるでしょう。
すべての顧客情報を一元管理できる
ユニファイドコマースを活用すると、顧客データを1つのシステムで管理できるようになります。このシステムにより、顧客の購入履歴や行動データを一元的に把握することが可能です。情報をもとに、顧客の嗜好やニーズに合わせたパーソナライズドサービスを提供することで、顧客満足度を大きく向上させることができます。
また、企業側では、データ分析を通じてより効果的なマーケティング施策を展開することもできます。
オンラインでも店舗でも変わらない買い物体験を提供できる
ユニファイドコマースの最大の特徴は、顧客がどのチャネルを利用しても一貫性のある体験を得られる点です。
例えば、オンラインで商品を購入し、店舗で受け取りや返品ができるといった利便性が顧客にとって大きな魅力となります。このシームレスな体験は、顧客の満足度を高めるだけでなく、リピーターを増やし、ブランドの信頼性向上にもつながります。
より効果的な販売促進と商品提案を実現できる
ユニファイドコマースでは、リアルタイムで顧客データを収集・分析できます。このデータを活用することで、顧客ごとに最適化されたマーケティング施策を実施できるようになります。
例えば、購入履歴に基づく商品の提案や、行動パターンに応じたキャンペーンをタイムリーに提供できます。
店舗とネットの垣根をなくすことができる
ユニファイドコマースは、ECサイト、実店舗、モバイルアプリといった複数のチャネルを1つに統合します。これにより、顧客はどのチャネルを利用してもスムーズに買い物を楽しむことができ、企業はすべてのチャネルで一貫したサービスを提供できます。
【事例】ユニファイドコマースを導入した企業3選
ユニファイドコマースの導入により、顧客体験の向上と業務効率化を実現している企業が増えています。以下に、具体的な取り組みを行っている3社の事例を紹介します。
ベイクルーズ
アパレル大手のベイクルーズグループは、オムニチャネル化で実現した統合プラットフォームをベースにリアルタイムに顧客を理解し、1人ひとりに合ったショッピング体験を提供する「ユニファイドコマース戦略」を推進してきました。
顧客が求める商品画像をAIに認識させ、似ている商品をベイクルーズストア内から検索できる新機能などが一例です。
これにより、店舗とECのクロスユース(両方のチャネルを利用している顧客)率と購入平均単価も向上しています。
出典:ベイクルーズグループ、ECでの売上高が500億円を突破!
TSIホールディングス
「nano universe」など、多くのアパレルブランドを展開するTSIホールディングスは、ユニファイドコマースを導入することでオンラインとオフラインの両方でシームレスな顧客体験を提供しています。
例えば、同社では店舗とECが一体となり顧客体験を向上させる取り組みを実施。実店舗のスタッフがECコンテンツの強化に貢献し、顧客体験価値を高めることでEC売上や実店舗への来店につなげています。
ヒマラヤ
スポーツ専門店のヒマラヤは、ユニファイドコマースとして「圧倒的に便利」を目指し、デジタル技術を活用して顧客体験の向上と店舗オペレーションの省力化の両立を推し進めています。
2024年7月にはユニファイドコマースの一環として、店舗内での売場案内、お買い得情報の提供、スタッフとの通話・呼び出しなど、多様な機能を搭載する「ロボットガイド」を開発したと発表しています。
過去にも店舗の効率化と顧客体験の向上を同時に追求するさまざまな取り組みを積極的に実施しており、ユニファイドコマースに力をいれていることがわかります。
出典:ヒマラヤ飯塚店にロボットガイド“Well”が体験入社!店頭での実用化に向けた実証実験を開始
ユニファイドコマースの導入支援サービス
ここでは、ユニファイドコマースの購入をサポートする事業者およびサービスを紹介します。
TIS株式会社
TIS株式会社は、ユニファイドコマースの実現を支援するコンサルティングサービスを提供しています。同社のサービスは、戦略、組織、顧客コミュニケーション、コマース、データ活用、ITの観点から簡易アセスメントを実施し、課題の明確化と計画の作成を行うものです。
ユニファイドコマースを実現したいが何から手を付けていいかわからない、在庫や顧客情報など店舗とECの融合ができていない、コンサルだけでなくITシステムの構築から運用までワンストップでサポートしてほしいといった方におすすめです。
さらに、TISはデジタルマーケティングの知見をもとに作成したアセスメントシートを活用し、企業の経営戦略や業務・組織、IT、データ活用の観点で課題を明確にします。このアセスメントに基づき、ビジネス・IT面で専門のコンサルティングチームが実現性のある計画を策定し、企業に提案してくれるのはもちろん、提案をもとに、企業の業務への適用やITシステムの実装、その後の運用までをサポートします。
W2株式会社
ECサイトの構築に強みを持つW2株式会社は、ユニファイドコマースの実現を目指し、ECプラットフォーム「W2 Unified Commerce」を提供しています。
W2 Unified Commerceは、必要な機能をあらかじめ連携した状態で提供されるため、大規模な初期投資を抑えつつ導入できます。また、クラウドベースの設計により、データの整合性を保ちながら異なるシステムとの統合をスムーズに行える点も魅力です。
さらに、スタッフによるライブ配信や商品コーディネートの提案など、直接的な顧客コミュニケーションを支える機能も特徴的です。スタッフが接客の質を高めると同時に、業績に直結するインセンティブを得られる仕組みが整っています。
あわせて読みたい:
業界の最前線で活躍するCEOや重役が考える「最適な顧客体験」とは…W2「Unified Shift 2024」レポート
株式会社電通デジタル
電通デジタルは、ユニファイドコマースの実現を支援するソリューション「One tempo」を提供しています。
「One tempo」では、電通デジタルがこれまで培ってきた顧客体験デザインやコマースマーケティングの知見を活かし、オンラインとオフラインを問わないデータ統合を実現します。顧客体験を設計するだけでなく、ECやアプリ内での接客、チャットサポート、マーケティングオートメーション(MA)など、多岐にわたる接点をカバーしています。
また、同社はスターターパックを提供しており、プラットフォームの選定から構築、実行までをシームレスに支援しています。
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電通デジタル、パーソナライズされた購買体験を創出する「One tempo」の提供開始
ユニファイドコマースでよくある課題
ユニファイドコマースは、顧客体験の向上や業務効率化を目指す企業にとって魅力的な施策ですが、導入や運用に際していくつか課題があります。
ここでは、ユニファイドコマース導入の際にぶつかりやすい壁と対策について紹介します。
チャネル間のデータ統合が難しい
ユニファイドコマースの中核は、ECサイト、実店舗、モバイルアプリなど複数のチャネルにまたがるデータを統合することです。しかし、多くの企業では既存システムが分散しており、統一されたプラットフォームを構築することが技術的にもコスト的にも難しくなっています。
この問題を解決するには、データ統合を支援するクラウドベースのプラットフォームを活用することが有効です。また、導入前に各システムの互換性を確認し、段階的な移行計画を立てることが重要です。
運用体制の再構築が必要になる
ユニファイドコマースを導入すると、企業全体でのデータ共有や業務プロセスの見直しが必要になります。
そのため、IT部門だけでなく、マーケティングや販売部門も新しいシステムに慣れる必要があります。特に、従業員のスキルギャップが大きい場合、新システムへの適応に時間がかかることがあります。
この課題に対しては、システム導入後の研修やサポート体制の強化が効果的です。また、企業内の各部門間で継続的にコミュニケーションを取り、現場の意見を取り入れた運用改善を図ることも大切です。
導入コストとROI(投資収益率)のバランスが難しい
ユニファイドコマースは、メリットを最大化するために大規模な初期投資が必要となる場合があります。
しかし、全ての企業が投資に見合うだけのリターンを得られるわけではありません。特に中小企業では、ROIの確保が課題となることがあります。
この問題を防ぐためには、自社の規模や業態に合ったプラットフォームを選択することが重要です。初期投資を抑えられるスターターパックの利用や、段階的な機能導入によるコスト削減が有効な戦略となります。
ユニファイドコマースを成功させるポイント
ユニファイドコマースを導入し、その恩恵を最大限に活用するためには、戦略的な計画と実行が不可欠です。
以下では、成功のための具体的なポイントを3つ紹介します。
顧客体験を中心としたアプローチをする
ユニファイドコマースの本質は、顧客がどのチャネルを利用しても一貫性のあるシームレスな体験を得られることです。そのため、顧客の行動データを詳細に分析し、ニーズに基づいたパーソナライズされたサービスを提供することが重要です。
例えば、購入履歴や行動データを活用し、オンライン上でおすすめ商品を提示すると同時に、実店舗でも同様の提案ができる仕組みを整えることで、顧客満足度を向上させることができます。
また、顧客と直接関わるスタッフの接客にもデータを活用することで、より的確な提案やサービスを実現できるようになるでしょう。
テクノロジーと人材のバランスを最適化する
ユニファイドコマースの導入には、適切なテクノロジーの選定が欠かせません。しかし、システムだけに頼るのではなく、それを運用し改善していくための人的リソースも確保する必要があります。特に、スタッフのスキルアップを図るための研修や、データの活用方法を学ぶ機会の提供が必要です。
また、導入するプラットフォームの柔軟性と拡張性も重要になってきます。企業の成長に合わせて機能を追加できるシステムを選ぶことで、長期的な運用が可能になるでしょう。
段階的に導入する
ユニファイドコマースは全てを一度に実現しようとすると、コストやリスクが増大する可能性があります。そのため、段階的に導入を進め、各フェーズで成果を確認しながら改善を行うことが成功の鍵となります。
例えば、最初は一部のチャネルのみ統合を進め、その効果を測定してからほかのチャネルに拡大するのがおすすめです。また、導入後も顧客や市場の変化に対応するために、データ分析をもとにした改善を継続的に行うことが重要です。
ユニファイドコマース導入の流れ
ユニファイドコマースを導入するためには、計画的かつ段階的に進めることが重要です。それぞれのステップを以下に分けて解説します。
- 現状分析と課題の特定
- 戦略策定と目標の設定
- 適切なプラットフォームの選定
- システムの構築とテスト
- スタッフのトレーニングと導入準備
1)現状分析と課題の特定
最初のステップは、自社の現状を詳しく把握すること。オンラインとオフラインのチャネルがどのように運用されているのか、顧客データがどの程度統合されているのかを分析しましょう。
2)戦略策定と目標の設定
次に、分析した課題を解決するための戦略を策定します。この戦略は、短期的な目標と長期的なビジョンの両方を含むべきといえます。
売上向上や顧客満足度の改善など、具体的なKPIを設定することで、導入後の効果を測定しやすくなります。また、導入プロセスを複数のフェーズに分け、それぞれの段階で何を達成するべきかを明確にすることが大切です。
3)適切なプラットフォームの選定
戦略を策定した後は、自社に最適なユニファイドコマースプラットフォームを選ぶ段階です。このプラットフォームは、既存のシステムと連携可能であり、柔軟性が高いものを選ぶことが重要です。
また、サポート体制やカスタマイズのしやすさも選定の基準となります。特に、中小規模の企業では、初期投資を抑えたスターターパックを提供するサービスを検討するとよいでしょう。
4)システムの構築とテスト
プラットフォームを選定したら、次はシステムの構築に移ります。この段階では、在庫管理、顧客データ、注文処理などを統合し、リアルタイムでのデータ共有が可能になるよう設計します。構築が完了したら、テストを行い、トラブルの発生を防ぐための調整を行います。
特に、ユーザーエクスペリエンスを重視し、顧客がどのチャネルを利用しても一貫性のあるサービスを受けられることを確認しましょう。
5)スタッフのトレーニングと導入準備
新しいシステムを効果的に運用するためには、店舗スタッフはもちろん、運営に関わるすべてのスタッフのトレーニングが欠かせません。システムの操作方法やデータ活用の仕組みを学ぶだけでなく、顧客対応における新しいアプローチについても理解を深める必要があります。
ECでユニファイドコマースを導入するなら、プロの力を借りるのがおすすめ
ユニファイドコマースは、顧客体験を向上させ、EC事業の成長を加速させる効果的な手法ですが、導入と運用には高度な専門知識が求められます。
複数の販売チャネルを統合し、データを一元管理するシステムを構築するには、適切なプラットフォームの選定や、業務プロセスの再設計が欠かせません。
これらの作業を効率よく進めるためには、専門的な支援サービスを活用することが効果的です。
ECのミカタでは、ユニファイドコマースの導入を検討しているEC事業者様に最適な支援事業者を紹介するマッチングサービスを提供しています。
自社の予算や規模、目的などを事前にヒアリングし、最適な支援事業者をご紹介するので、スムーズにユニファイドコマース戦略を進められますよ。
また、ユニファイドコマース導入にあたって、マーケティング施策やECサイト運用の見直しを図るケースも出てくるでしょう。ECのミカタでは、EC事業にかかわるあらゆる業務をサポートできる事業者をご紹介できますので、ざっくりなご相談でも問題ございません。
ご相談から事業者のご紹介まで、完全無料でご利用いただけますので、ぜひ一度お問い合わせくださいね。