2024年3月景気動向 多くの業界がプラスに転じる中マイナスで推移する業界は?

宮地彩花【MIKATA編集部】

株式会社帝国データバンクは2024年3月15日から3月31日までの景気動向調査を行い、その結果を公表した。ここでは、業界別の景気動向に絞って紹介する。

調査概要

調査時期:2024年3月15日~3月31日
調査方法:インターネット調査
調査事項:景況感(現在)および先行きに対する見通し
経営状況(売り上げ、生産・出荷量、仕入れ単価・販売単価、在庫、設備稼働率、従業員数、時間外労働時間、雇用過不足、設備投資意欲)および金融機関の融資姿勢について
調査対象:2万6935社
有効回答企業:1万1268社
回答率:41.8%

出典元:2024年3月の景気動向調査(株式会社帝国データバンク)

国内景気は、3カ月ぶりに改善

株式会社帝国データバンク(以下、TDB)の景気動向調査によれば、2024年3月の景気動向指数(以下、景気DI)は前月比0.5ポイント増の44.4となり、3カ月ぶりの改善となった。要因として、金融政策の正常化がスタートしたなか、好調な観光産業やインバウンド消費の拡大などがあげられるという。

また個人向けサービス業を中心とした個人消費関連の上向き、一部自動車メーカーの工場再開や北陸新幹線の延伸などによる地域経済の押し上げも景気DIの回復に大きく寄与している。一方で物価高に伴う仕入れ単価上昇が再加速したこと、不十分な価格転嫁などによる企業収益への影響はマイナス材料となった。

10業界中8業界で改善、新年度を控え個人消費が景気を押し上げる

業界別の景気動向は、10業界中8業界が改善。押し上げ要因としては、インバウンド需要のほか、春休みを迎え「旅館・ホテル」など個人消費関連の業種が上向いたこと。また卒業や異動など新年度に向けた季節需要も大きな押し上げ要因となった。

好調な一方で、金利の引き上げや仕入単価の高止まりなどを不安視する声も見受けられたという。

■業界ごとの総評

■サービス業界(51.0):前月比0.6ポイント増。2カ月連続で改善
インバウンド需要や送別会・繁忙期を迎える自動車教習所の関係で、多くの業種が前月比で上向きに。一方で、インボイスなどの制度改正にともなう需要に落ち着きがみられる「情報サービス」は景気DIが50以上と良い状態を維持(※1)しつつも3カ月連続で悪化という結果となっていた。

■不動産業界(49.3):同1.0ポイント増。3カ月連続で改善
都市部を中心とした不動産ニーズの増加、3月から4月にかけ異動や新生活の影響で住宅需要が高まったことが押し上げ要因となった。一方で新築物件の高額化や、マイナス金利解除による住宅ローン金利の上昇を懸念する声があげられていたという。

■小売業界(40.6):同0.2ポイント減。2カ月連続で悪化
値上げによる買い控えの影響が表れ6カ月連続で悪化に。また自動車の不正問題に起因して受注停止や納車延期などが響き「自動車・同部品小売」(同1.2ポイント減)は2カ月ぶりに落ち込んだ(※2)。

■卸売業界(41.4):同0.5ポイント増。3カ月ぶりに改善
外食産業の売上高増加にともない客先からの注文も増加し、飲食料品卸売では、2カ月連続の改善となった。また24年7月3日から発行が開始される新札(紙紙幣)発行に伴う製品の更新などがピークを迎えているようだ(※3)。

一方で、中国経済の不安定さを懸念する声のある「再生資源卸売」(同1.8ポイント減)については3カ月連続で悪化したとしている。

■製造業界(40.2):同0.4ポイント増。4カ月ぶりに改善
外食産業の安定がプラス材料となり「飲食料品・飼料製造」(同1.4ポイント増)は3カ月ぶりに改善し、過去最高水準に。また依然として影響はあるが大手自動車メーカーの工場再開など「輸送用機械・器具製造」(同2.3ポイント増)は4カ月ぶりに上向く結果となった。一方で「電気機械製造」(同1.1ポイント減)は客先で在庫が積み上がり、受注量が鈍化していることから2カ月連続で悪化したようだ。

※1:景気DIは、50を境にそれより上であれば「良い」、下であれば「悪い」を意味し、50が判断の分かれ目となる(小数点第2位を四捨五入)。また、企業規模の大小に基づくウェイト付けは行っておらず、「1社1票」で算出している(株式会社帝国データバンクより)。

※2 関連記事:ダイハツ不正、物流業界にも大打撃 配送3社、赤帽も影響を免れない?
※3 参考元:新しい日本銀行券の特徴(日本銀行)

個人消費の行方が景気回復のカギに

今後の景気予測として、TDBによれば個人消費を中心として緩やかに持ち直すだろうと見込んでいる。金融政策における金利引き上げの時期や規模などが注目され、賃上げやボーナスの増加、減税などによる個人消費の行方が景気回復のカギとなるようだ。

また景気動向に関わるプラスの要因としては、消費者の実質賃金の上昇やインバウンド需要の拡大、生成AIの発展・普及にともなう生産性を向上させる設備投資の実行。注視すべき事項については、人手不足や2024年問題への対応、為替レートや海外経済の動向があげられる。

EC事業者にとっては、物流の2024年問題による配送費の値上げや原材料高騰による商材の値上げなどが関心の高い事項だろう。小売業界の総評でもあったように、消費者の買い控えによる影響が不安材料となるが、好調な業界動向を見つつ自社の売上にどう転嫁できるか考えていきたいところだ。