ファンケルのCRM施策が新たなステージへ CRM協会を通じて考える理想のお客様との関係とは
CRMは実店舗、EC関係なく重要な経営戦略だ。しかしECでは直接、顧客と顔を合わせる機会が少ないためCRMに対しての対策が難しく疎かになってしまうことが多い。実際、他社がどのようなCRM戦略を行なっているのかを参考にしようとしても、情報交換をする機会はほとんどないのではないだろうか。
このような担当者の悩みに対して、交流の場の提供を行なっているのが一般社団法人 日本通販CRM協会(以下「CRM協会」)だ。毎月、勉強会やセミナーを行っており、多くのネットショップ運営者が参加している。
今回はCRM協会の参加者である、株式会社ファンケル(以下、「ファンケル」) 通販営業本部 営業企画部 CRM戦略グループ 課長 河内達也氏に同社のCRMに関する取り組み、及びCRM協会で経験した出来事を伺った。
創業から受け継がれてきたお客様想いの遺伝子
ファンケルは無添加化粧品や、サプリメント、発芽玄米、青汁を主要事業として展開している。特に無添加化粧品は創業の原点とも密接な結びつきがある。
「ファンケルグループの創業理念は”正義感を持って世の中の『不』を解消しよう”です。1980年頃は、化粧品に含まれる防腐剤などの添加物が原因で、肌にアレルギー反応がでてしまう「黒皮症」などの肌トラブルに悩む女性も多く、社会問題化していました。創業者は女性を美しくするための化粧品が、逆に肌悩みにつながっていることに疑問をいだき、そんな女性の悩みを解消すべく、防腐剤などの肌に負担となる成分を一切含まない世の中で初めての「無添加化粧品」を誕生させたのです。こうした世の中の『不』を解消したいという創業理念は今でも受け継いでおり、すべての事業はこの理念に基づいて展開しています。」
河内氏曰く、創業からの想いをそのままに、安心・安全な化粧品・健康食品を販売しているファンケルは製販一体で商品をお客様に届けている。研究・製造・商品開発から販売・出荷に至るまで、1つの商品に多くの人が関わり、想いが込められているのも特徴だという。
「私が今の部署に配属されたのは2008年でした。入社した2006年から2年間は実店舗でお客様への接客を行っていました。今でも当時の経験が活きていると感じることは多く、販促活動の取り組みの中でタオルプレゼントのキャンペーンを企画した時も原動力はお客様の笑顔を見たいという想いからでした。実際に多くのお客様からお喜びの声をいただいたことはとても印象に残っています。」
実店舗とEC、2つの現場を経験している河内氏だからこそ、販売形態は異なっていてもお客様への気遣いは変わらない。
「お客様一人ひとりのニーズに寄り添うことができるECサイトにしたいと常に考えています。お客様の属性によって閲覧する商品、購入する商品は全く異なります。その属性をできる限り細分化し、お客様に満足してもらえるようマーケティングオートメーションなど様々なデジタルマーケティングツールを早くから導入してきました。まさにCRMについても同様で、一人ひとりのお客様と長く深い関係を築きたいと考えています。」
ホスピタリティを感じられるCRMを行うためにCRM協会へ
もともとCRMには興味があった河内氏。CRM協会に参加したきっかけにはどのような背景があったのだろうか。
「私たちが大事にしていることは一人ひとりのお客様と信頼関係を築いて、より長く深いお付き合いをしていくことです。そのためには商品だけでなくファンケルという企業の姿勢やこだわりなども好きになっていただく必要があり、最新のテクノロジーによるパーソナライズされたアプローチはもちろんのこと、ファンケルらしい、心で繋がるようなホスピタリティ溢れるCRMが重要だと考えました。このような背景から、CRM協会に興味をもったのがきっかけです。」
以前から、化粧品や健康食品を正しい使い方をしてもらい、継続いただくためにフォロー体系を一つひとつ変えたり、お客様のご要望に応えて、払い込み用紙のお客様控えの文字色を領収印が目立つような色に変更するなど、基本的なフォローからより細やかなアプローチまで体系化できていたファンケルだが、お客様により会社や商品に対して愛着を持ってもらうために何をすべきかを追求すべくCRM協会に参加することになったそうだ。
「CRMは会社によって独自性があり、今までは他社のCRM担当の方と会う機会はほとんどありませんでしたが、CRM協会ではCRMに携わる多くの方と接点を持つことができ、その中で情報交換をさせていただき、自社に持ち帰って活用できることがないか模索中です。」
河内氏は、お客様の期待を超えることでファンケルをより好きになっていただきたいとも話していた。CRM協会のセミナーでも共感することがあったそうだ。
「先日のセミナーで講師の方が”CRMを考える際は、コスト効率を一番に考えて CRM戦略を構築してはいけない。一番に考えることはどうしたらお客様に満足してもらえるかだ。まずはお客様に満足いただけることを念頭に置き、コスト効率はその後に合わせていけばいい。”と仰っていました。この言葉には非常に共感しました。このような考えを持つ方と一緒に議論できることはとても刺激になります。」
貴重な事業者同士のつながりを形成する場にも
CRM協会は月1で勉強会や講師によるセミナーを開催している。CRMをいかに活用するかといったセミナーはもちろん、不当表示・誇大広告の解説を弁護士にしてもらうなど、違った意味で参加者の助けになる内容も勉強することができる。
河内氏はCRM協会の魅力は他にもあると話す。
「CRM協会ではセミナーや勉強会に参加した人たちと知り合い、意見交換の機会を得ることができます。同じ業界から他業種まで幅広い方が参加されており、しかも勉強会やセミナーに参加していることからもわかるように、参加者の情報感度は非常に高く、実際に話を聞くと非常に細かいところまでこだわった取り組みをされている話なども聞くことができ、刺激になります。当社でも実現を見据え、社内検討まで持っていけるような情報交換もできるので、とても有意義な時間だと思っています。」
ネットショップ運営者同士の横の繋がりは非常に作りにくいのが現状だ。しかし、運営者同士、共通の悩みや考えがあるはずで、CRM協会が情報交換を行う場としても重宝されるのは当然のことなのかも知れない。しかも自ら情報を収集しようと考えている人が多いので成果につながりやすいという点も、無駄足になるかもしれないといった不安を解消することにもつながるだろう。
出会いがチャンスに 同じ目標を持つ仲間と行えることとは
河内氏がCRM協会に参加した1番の理由は「お客様にファンケルを好きになっていただき、長く深いお付き合いをしたい」から。今後、セミナーや勉強会をいかに自社に活用させたいか、展望を伺った。
「値引きなどお得感だけのつながりはどうしても商品への愛着が薄くなり、その結果リピート率が下がってしまいます。それよりも会社や商品のすばらしさをお伝えし、なおかつお客様に喜んでいただき、お客様から長く愛される関係性を目指したいと考えています。」
さらに河内氏はお客様の話を聞いて気づくことがあるという。
「お客様からいただく声を聞いていると、人を通した体験は共感を得て、印象に残りやすいと感じます。例えば電話窓口の担当者との会話や、店舗スタッフとのやりとりを通じて喜んでいただけたという声はよく聞きます。通販では顔が見えないので実店舗より難しいですが、その分人を通じた体験こそ、感動や共感を呼び、ファンケルを好きになっていただくために重要だと考えています。」
また、河内氏は今後のCRM協会での活動にも意欲的だ。
「せっかくCRM協会に参加しているので、横のつながりはもっと活用していきたいと考えています。目指すところは、お客様に喜んでもらうという点で皆様と同じだと思いますし、ここで出会った方と何かコラボ施策など新しい価値を創造できれば非常に面白いと思います。同じ業種・業界の参加者を、競合としてではなく仲間として、一緒に高め合えていける関係になれるのもCRM協会ならではの強みだと思います。今後も参加を継続し、1人でも多くの人にファンケルを好きになってもらうことに注力していきたいと思っています。」
様々な業種が集まるCRM協会には情報、課題のヒントが多く眠っている。情報収集、勉強はもちろん、横のつながりを形成する場として活用してみるのはいかがだろうか。