中国人約650万人のパネルに調査可能 越境ECの成否を分ける「マーケット調査」の重要性
成長を続ける中国の越境EC市場への展開を画策する企業も多いのではないでしょうか。しかし実態としては、売上を大きく伸ばしている事例は少ないです。
そこで、中国市場のリサーチを行う株式会社ヴァリューズの子安 亜紀子氏と、姜 茹楠氏に、近年の越境ECの動向を解説していただきつつ、成功するためのポイントを伺いました。
ユーザー理解が必須 越境ECは次のフェーズへ
子安 中国の越境EC市場は依然として伸びていて、日本企業の中国進出も増加しています。しかし、その一方で攻め所に悩んでいるというご相談も増えています。その理由の一つに、調査が行われていないことが挙げられます。確かにここ数年で中国のECモールへの出品がしやすくなり、出せば売れる時期がありました。
しかし多くの企業がトライアンドエラーで進出したため、売れる理由も売れない理由も把握することができず、先の悩みにつながっています。
姜 日本の市場であればある程度の推測もできますが、異文化となれば話は別。食一つをとっても、日本人と中国人の興味・嗜好性は異なります。そのため、日頃どんな食生活を送っているのか、日本の調味料や食材を購入する理由は何かといったマーケット調査が求められています。
子安 言葉を変えると、ユーザー理解が必要なフェーズに移行したとも言えます。そこで改めて、きちんと調査をしようという機運が高まってきたのだと思います。
商品特性に合わせた モールの使い分けが大切
子安 そういった時流を受けて、「直近1年以内に日本商品を越境ECで購入した中国人に向けた調査」を実施しました。今回の調査の特徴は、日本商品のみの購入体験に絞っている点にあります。
商材のジャンル別に「どのモールを利用するか」「その理由は何か」といった項目をアンケート聴取しました。
利用されているのはやはり、天猫(T-mall)、京東全球購(JD)、Amazon.co.jp(アマゾンジャパン)といった巨大モールが多く、5割以上の方に購入経験がありました。主な理由は、品揃えの豊富さと信頼感という意見が大多数です。しかし一方で、化粧品の上位には小紅書(RED)などが入り、特徴のあるECモールの利用も盛んであることがわかりました。
その理由としては、家族、親友、親戚のおすすめが主な動機になっています。
姜 中国人は親しい人の口コミを重視する傾向があります。日本以上にSNSが利用されているので、その活用は重要なポイント。
ボリュームを取るなら巨大モールへの出品を、口コミでの拡大を目指すなら特徴のあるモールを選択するなど、商材やターゲットによって使い分けることが有効です。
顧客ニーズに広く応えるオリジナルの調査設計
子安 弊社の『中国調査サービス』は、現地でアンケートリサーチをかけて、レポートをまとめるものです。基本的に、お客様のご要望に合わせて、独自に調査設計を行い、売りたい商材とその周辺情報をきちんと把握できるような個別対応を行っています。
近年では、さらに踏み込んだ調査を希望されるお客様も増えているため、アンケート結果から条件に合う人をピックアップし、テキストベースのインタビューを行えるメニューを追加しました。併せて、口コミのデータから、商品がどのように語られているのか、関心の高い商材は何かといった分析ができるサービスも始めています。
姜 また四半期に一度、訪日中国人を対象としたインバウンドの定期レポートも実施しており、滞在中の行動や購買したもの、越境ECの利用率などの調査データを発表しています。
王道のブランド構築が鍵 調査から多角的な発信を
子安 中国市場で成功するためには、誰が、どういう目的で商品を購入しているかを理解することが必要です。すると、おのずとアピールポイントや戦略が決まってくるからです。確かに、一部の中国消費者の中には、「日本の商品だから」「あの人のおすすめだから」といった理由で購入されることもありますが、それだけではロングセラーにはなり得ません。やはり本質的なユーザー理解が欠かせないのです。
姜 確かに中国では、企業が仕掛けていないにもかかわらず、あるきっかけで突発的に広がるケースがあります。しかしその一時的な現象から、口コミやKOLマーケティングを展開しても意味がありません。そういった手法にユーザーも慣れていますし、狙って話題を作るのは難しいからです。
子安 ものを大きく売っていくためには、「このブランドだから買いたい」という段階まで引き上げることが必要です。しかし「ブランド別の広告投下量」の調査データを見ると、中国や韓国の企業に対し、日本企業は桁が違うほど少ない。コストをかけてでも、調査に基づいたブランドメッセージを多角的に発信していく王道のブランディングが、成功への近道です。
2020年は絶好の機会 アピールからリピートへ
子安 2020年は、越境ECにとっても大きなチャンスです。
ますます増加する訪日中国人に向けて、いかにインバウンドから越境ECにつなげられるか、リピートされ続けるブランドになれるかが、成功の鍵を握ります。今後は、商品理解からリピートされていく企業が勝つ世界になると思います。
姜 一方で、先のインバウンド調査においては、「旅行先の情報収集をライブ動画サイトで行う」と答えた人が、前回に比べて伸びています。ここ半年程で人気が高まっているTik Tokをはじめ、新しいメディアをうまく活用していくことも、ブランドメッセージを広く届けるために効果的です。
子安 改めて中国の市場規模を考えると、日本の企業が越境ECを通じて販売している金額はまだまだ少ないと言えます。しかし調査から市場の可能性を見極めて仕掛ければ、ブランドとしてもっと大きくなると信じています。
弊社のサービスでは、中国の提携先を通じて、広いエリアに分布する最大約650万人のパネル会員に調査をすることが可能です。
さらに直近では、施策立案を行うパートナー企業と連携し、調査から具体的な提案までお手伝いできるような仕組みを整えています。
中国市場に大きく進出をしたいと考えていらっしゃる企業の皆様のお力になれれば幸いです。
<ECのミカタ通信 2018 Autumn vol.16より抜粋>