日本酒が再興するために必要なブランディングを考える

野中 真規子 [PR]

左:株式会社chipper 代表取締役 十時悠径氏
右:社外顧問 中山雄介氏

コロナウイルスはあらゆる旧来のビジネスモデルを破壊し、事業者は他社に依存せず、慣習に囚われる事の無い新たな販路を構築しなくてはいけない時代に突入した。

D2Cビジネスモデルの設計から販売・運用までをサポートする株式会社chipperでは、現在日本酒をメインに、食品や飲料、伝統工芸品にターゲットを絞ってブランディングを行なっているという。同社が日本酒に注力する理由や、EC参入にあたり中小規模のメーカーが重視したいポイントについて、代表取締役の十時悠径氏と社外顧問の中山雄介氏にお話を伺った。

大手プラットフォームの変革やコンサル、事業者側に携わった知見で、メーカーのEC運営を強力バックアップ

――まずはchipperの業務内容を教えてください。

十時氏:D2Cビジネスのブランディング、宣伝、企画、運用サポートや構築後の運用を前提としたサイト構築を行なっています。得意分野はShopifyを使った構築、運用です。それ以外のカートでも問題ありませんが、私たちはブランディングで大切なストーリーテリングや、顧客と直接繋がるコミュニケーションを重視しています。それを最も実現しやすいのはShopifyだと考えています。

――十時さんと中山さんは、前職ではどのような業務を行い、どのような知見をお持ちなのでしょうか。

十時氏:新卒で楽天に入社し、ECコンサルティングに従事していました。その後、自分自身での事業者経験を挟み、2017年にchipperを創業しました。得意ジャンルはホームライフ製品で、アパレル、日本酒、美容品、工芸品を中心に、累計500企業以上のブランド立ち上げから販売までをサポートしてきました。

中山氏:私は防衛大学を卒業後、海上自衛隊、セブンイレブン・ジャパン、富士通での米国駐在、日本コカ・コーラを経て、2011年にAmazonジャパンに入社しました。食品事業部を歴任したのち、楽天に移籍。ジャンル制組織への移行期において、食品飲料ジャンルの戦略部長を担当しています。2017年にはInagoraに転職し、日本酒をはじめとした日本産伝統食品の輸出推進を担当しています。専門は「口に入るもの」で、ここ2年は特に、日本酒にフォーカスしています。

歴史の深さやサスティナブルな製法の日本酒は、海外で注目されている

――chipperが日本酒を初めとした食品商材に注力されているのはなぜですか?

中山氏:新規の参入障壁が高く、まだ伸び代が大きい市場だと考えているからです。しっかりとした戦略があればプロダクト品質が高い日本酒、日本品質の安全な食品はもっと脚光を浴びるはずなんです。

EC事業を差別化するには、価格を下げる、他社が仕入れられないような限定商品を仕入れる、プライベートブランドで勝負する、の3択が主になります。

誰でも仕入れられる商品は安くするしかありませんが、中国生産や資金力のある大企業には勝てません。他社が仕入れられないレア商品はコネクションがないと難しい。中でも日本酒メーカー、酒蔵はその傾向が顕著です。そのため、プライベートブランドを持っているメーカー・酒蔵は大きなアドバンテージを持っているのです。しかし、意外とこの点を優位であると気づく事業者は多くありません。

また日本酒の需要は国内では減少傾向にありますが、海外でのポテンシャルは拡大しています。日本酒は米という農産物を原材料として、加工品をあまり使わず、蔵に棲みついた麹菌を用いて作られます。こうした工業社会で忘れられた、「自然と共存しながら生きる」という古来日本のあり方を体現したサスティナブルな製法や、神話の時代から存在しているという長い歴史、国名がそのまま酒の名前になっているという特殊性、といった話は海外の方に非常に魅力的に映りますし、「だから日本は技術力が強いのか」と納得していただけるようなこともあります。

十時氏:ただ日本酒の歴史、酒蔵毎に異なる背景やこだわりを明確に伝えられている事業者は日本酒業界を見ると数少ない。そのため、酒蔵がメッセージを顧客へダイレクトに伝えられることは、有効なブランディングになるのです。

社外顧問 中山雄介氏

中山氏:ブランディングを行なっていない酒蔵が多いのは、今までは必要がなかったから、に尽きると思います。長年、地元の酒屋や問屋に卸すことで流通をカバーしていました。それが何百年も続けてきた常識だったのです。しかし、新型コロナウイルスは常識を覆してしまった。実店舗は運営ができず、卸や問屋の流通も止まってしまった。

その結果、販路が無くなった酒蔵は、消費者とダイレクトに繋がることのできるECにチャレンジする必要が出てきました。しかし、数ある日本酒から自分たちのお酒を選んでもらうためにはAmazonや楽天ではなく、自社ECを立ち上げ、ブランディングをする必要があるのです。

こだわりのある酒や食品こそ、D2Cの手法で売っていくべき

中山氏:通常ですと、酒蔵さんはECをやりたいと思っても実現が難しい。まずマンパワーが足りません。またそれぞれが酒作りに集中しているため、EC運営はおろか、マーケティングや海外展開は遠い存在です。

しかし大手ECプラットフォームに出店して広告を打つような売り方や、派手なインフルエンサーを使うようなマーケティングは、そもそも予算がありませんし、日本酒を飲むような人たちには刺さりません。

そのため私たちがベストだと考えていることはブランド構築から入るD2Cの手法です。単純に商品をECサイトに載せて終わりではなく、商品の魅力を引き出してブランディングし、顧客にメッセージを伝える必要があります。そこでD2Cビジネスのプロである十時さんと僕のキャリア、やりたいことが合致し、一緒に酒蔵さんのD2Cをサポートすることになったのです。

十時氏:いい商品が簡単に買える状況で、売り上げのために値下げ戦略をするだけでは継続的な成長はできません。広告やキャンペーンを打ってスポットで売るやり方では、資金力のある大手が勝つことになります。

中小メーカーが適正価格で売るなら、ブランディングしながら共感や応援をしてくれるお客様を定着させて、ストーリーに紐づいたコミュニケーションをすることが重要です。弊社はそこにフォーカスしながら事業者のサポートを行なっています。

視点を少しずらしていけば、顧客との最初の接点が生み出せる

視点を少しずらしていけば、顧客との最初の接点が生み出せる株式会社chipper 代表取締役 十時悠径氏

――広告費が出せないメーカーでも、SNSなどを活用して自社のストーリーをうまく伝えているところもあります。反面、とくに日本酒や伝統工芸品のメーカーさんの場合は作ることに没頭しているため、自社商品の良さを伝えることに慣れていない方も多い。どのような点に気をつけてメッセージを発信すべきなのでしょうか

十時氏:商品の価値を、プロダクトアウトという動きだけでなく、顧客の立場からどう距離感を埋めていくか、そこでどういうストーリーを見せるかを検討し、売り方を決めていくことが大切です。弊社ではそこにフォーカスしていきます。

市場でレッドオーシャンのところに品質がいい商品であることを推しても、特にECでは良さが伝わりにくい。ターゲットとなる顧客との最初の接点を生み出すために、視点を少しずらしていくことが大切です。

中山氏:酒蔵さんは作りにフォ―カスしているので、ブランドという意識がほぼありません。昔は酒といえば日本酒でしたが、ビール、リキュールに取って代られ、日本酒はコンビニやスーパーからも消えています。消費者に認知されていないのでネットで検索すらされにくいのです。

しかし中にはブランディングに注力している酒蔵もあり、コアな日本酒ファンに刺さっています。そのような事例があるのだから他の酒蔵メーカーでもチャンスはあります。

十時氏:盛んになったzoom飲み会など、お酒のあるコンテンツをどう生かしてどうコミュニティを醸成していくのか。そこはかなり意識してやっていく必要がありますね。

中山氏:ECスタート段階では、広告費をかけられないところから新規ユーザーを獲得する構造を作る必要がある。しかしそれができた瞬間に、日本酒の共感マーケティングは他の商品よりも圧倒的にやりやすくなります。美味しくて、サスティナブルな製法で歴史が深く、飲むほどに農家や地方経済を豊かにし、世の中のためもになるという、日本酒にしかない魅力があるからです。

Shopifyなら、優良顧客を引き込むためのマーケティングが実現できる

中山氏:ただ魅力もチャンスも多い日本酒ですが、ECを始めるには様々な課題を持ち合わせていることも確かです。

実は酒業界、食品メーカーECの運営は大手企業でも自由に展開することはできていません。実店舗など大手流通網に相当数商品を納めており、価格条件が1社ごとに詳細に決まっている中で、メーカーがAmazonや楽天に出店して自由に価格を下げれば小売店からクレームの嵐になることは目にみえていますし、自社サイトを作ってもトラフィックを集めることは難しいです。

うまく展開している大手企業は、自社ECと一般流通で商品を分けたり、ファンサービスに特化する例をよく見かけますが、自社ECとしてフルスペックで展開することは難しい。ただShopifyを活用すれば様々な課題が解決できる可能性があります。

十時氏:中小メーカーでも、自社ECと流通とで商品を分ける手法はありだと思います。まだ実現はしていませんが、Shopifyの拡張機能には、どのお店を経由して商品が購入されたか、というログデータが購買データに紐づく形でわかるようになります。これを利用して購買を辿れば、単純にShopifyの紹介プログラムでフィーを発生させる仕組みも構築できるなど、技術面での変革も可能です。

Shopify最大のメリットは、ターゲットに対してピンポイントに打てるマーケティングツールに特化している点です。国産カートも非常に便利なのですが拡張性が弱く、ASPに依存してしまい、技術的に課題解決ができません。そこを解決するためには、多額な開発費をかけてフルスクラッチでサイトを作らなければなりませんが、その場合、制作するだけで完結してしまいがちです。そもそも中小企業にはそのような開発費がないのが現状です。

その点Shopifyを使えばアプリを拡張でき、低コストでのカスタマイズが実現できます。サイトの構築だけで終わらず先々の運用、戦略のすり合わせまでを見据えながら、構築を進められるのは大きなメリット。メーカーにとっても価値があり、弊社としてもスピーディーに展開していく面白さや、広がりがある。やりたいこと、ブランディングをしっかりして打っていくことができます。

――具体的にはどのようなマーケティングを実現できるのでしょうか?

十時氏:例えば先ほども言及した、紹介プログラム。誰かの紹介で商品を購入した場合、双方にポイントやクーポンが付与される拡張サービスです。口コミで広げていく戦い方は、一番確度が高く、広げやすい。他システムでも似たような形で展開することは可能ですが、外部システムを使ってアフィリエイト登録からお客様を引き込むなど、質の高い顧客を集められません。Shopifyであれば簡単なアプリでコストもかからず、よりブランディングに特化した形の紹介プログラムを引くことが可能です。

またShopifyはお店を構築するというよりは、「お客様とのコミュニケーションができていれば、どこで買っていただいてもいい」という考え方が根底にあります。1つのサイトに依存するとやれることに限界がありますが、ShopifyならSNSで繋がった人にはSNSから購入できるようにするなど、無駄のない展開も可能です。

Shopifyでもう一つ注目しているのは、デリバリーECの機能です。たとえば地域の酒蔵さんから近隣のお宅に宅配することが可能になります。業務用酒屋が減っている中で、昔の酒屋さんが配達してくれるような世界観を再現することができます。

昔ながらの慣習を全て捨てるべきなどとは私たちも考えていません。地域には地域で大事にしていることがあります。日本酒のような地場に根付いてきた産業は特に顕著です。しかし、何も変えずにはいられない状況になってしまいました。慣習を大事にしながら、新しいことに挑戦することが今の時代に求められていることだと思います。

システム、デザイン、マーケティングの観点から、商品に合った売り方を提案

システム、デザイン、マーケティングの観点から、商品に合った売り方を提案

――Shopifyの制作会社はパートナー企業筆頭に多いですが、chipperならではの強みとは。

十時氏:一つはエンジニア体制がしっかりしているので、細かい要望も実現できるところです。またマーケティングのプロフェッショナルもおります。また、そうした知識だけでなく受注処理や物流などバックヤードやデザイン・クリエイティブに注力している会社は、この規模感ではあまりないと自負しています。

――実際にchipperさんに依頼した場合、どのようなやりとりでビジネスを進めていくのでしょうか。

十時氏:クライアント1社に対してエンジニア、デザイナー、アートディレクター、マーケターの最低3人体制でサポートし、結構な頻度でミーティングをしながら、メーカーさんとお互いにアイデアを出し合い、やりたいことをどう技術的に実現できるかを落とし込んでいきます。

商品の専門性は酒蔵さんでないとわからないので考えを伺うことで、マーケター、エンジニアの発想も変わってきます。依頼を受けるというよりは、プロジェクトチームとして参画します。クライアントと一緒に企画戦略を考えながら、一緒に手を動かしていくイメージです。

「共感マーケティング」で食品や伝統工芸の魅力も伝えていきたい

十時氏:chipperは元々アートで立ち上げた会社で「クリエイティブとデータを掛け合わせることで、D2Cブランドを支援すること」を強みとしてきました。そのあたりの話は長いので、ぜひ以前の記事を読んでいただければと思いますが、日本酒と並んで弊社の強みが生きる、食品や伝統工芸のような奥の深いカテゴリの魅力も伝えていきたいですね。

中山氏:広告はもう世の中では飽きられているし、今後は共感マーケティングがトレンドとして上がってきます。共感を得ることは非常に難しいのですが、それが具現化できたら商品の本来の魅力が効いてくるはずで、我々はそこを目指したいと考えています。

特に日本酒や伝統工芸品、食品などの特産品は、消費するものですからマーケットが深く、温度管理や賞味期限があるためEC化率が低い。そこをデリバリーやECでカバーできたら、マーケティングポテンシャルは大きくなります。そこを我々がサポートしながら、業界を押し上げていければと思います。

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記者プロフィール

野中 真規子

ライター。著書(電子書籍)『片付けられない、という「思い込み」をなくして、今すぐ片付けるための本』(ハウスキーピング協会)が好評発売中。ECのミカタにおいては、ECサービスのお話から伝わる本質的なメッセージを受け取り、拡散することが歓びです。

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