ソーシャルECで海外にモノを売る!YouzanJapanが手がける中国向け越境ECの新プラットフォームとは?
「販売チャネルを拡大するために越境ECに取り組みたいが、何から手を付ければ良いか分からない。また、大きな初期投資を行う資金的な余裕もない」──。そういった悩みを抱える企業に朗報だ。
YouzanJapanが開始した越境ECサービスとは、どのようなものか。そして、ソーシャルECを軸とした越境ECは、コロナ禍でインバウンド消費がほぼ消滅した今、地域経済回復の起爆剤になると期待されている。
その答えを探るため、株式会社YouzanJapanの千里智傑COO、公共政策研究者で北海道大学公共政策大学院客員教授の石井吉春氏、YouzanJapanのサービスを活用して越境ECを開始した株式会社積丹スピリットの岩井宏文氏の3人を取材した。
中国向け越境ECの具体的な方法論と、ECの新しい形態として日本でも注目されつつあるソーシャルECの可能性を紹介する。
顧客と直接つながる「ソーシャルEC」が中国で急成長。注目の販売手法に
ソーシャルECとは、企業がSNSやチャットツールなどを駆使し、消費者と直接コミュニケーションを取りながら、オンラインで商品を販売する手法のこと。
企業は商品情報やキャンペーン情報などをSNSに投稿し、商品の認知度を高めたり、見込み客を集めたりする。インフルエンサーマーケティングやSNS広告を活用することも多い。販売チャネルはECモールだけに頼らず、自社ECサイトを積極的に使う。そして、顧客情報に基づくCRMによってファン(リピーター、固定客)を増やしていく。
日本ではまだソーシャルECという言葉はそれほど一般的ではないが、中国では近年、ソーシャルEC市場が急成長しているという。
千里氏:「中国におけるソーシャルECの市場規模は、2019年時点で日本円にして約31兆円(2兆605億元)でした。ソーシャルECの成長率は前年比63.2%増で、EC市場全体の成長率を大きく上回っています」
ソーシャルECは「検索」や「広告」だけに頼らない販売手法
アリババやAmazon、楽天市場といった従来型のECプラットフォームにおける買い物では、ユーザーは主に「検索」「広告」「レコメンド」を経由して商品にたどり着く。また、顧客情報は原則としてECプラットフォーム側が管理するため、店舗はCRMを行いにくい。
一方、ソーシャルECでは、例えば中国ではチャットツール「WeChat」や動画配信サービス「抖音(TikTok)」、ライブ配信ツール「快手」などが使われ、店舗と顧客が直接つながる。店舗はキャンペーンなどを顧客に対してダイレクトに実施して購入を促進。顧客情報は店舗が管理するためCRMを行いやすい。
千里氏:「中国でソーシャルECが急成長している背景には、アリババなどが運営する大手ECプラットフォームの中での競争が激化し、オンラインの新しい売り方を模索する企業が増えているという事情があります」
巨大なECプラットフォームでは、出店者は広告枠を購入するにせよ、検索結果の上位に商品を表示させるにせよ、莫大な費用をかけなくてはならない。資金力のある大手企業が勝ちやすい一方で、資本力が弱い中小企業は集客に苦戦することが多い。
千里氏:「検索や広告を主体とした従来型のECプラットフォームは、依然として重要な販売チャネルであることは間違いありません。しかし、ECプラットフォームに出店するだけで商品が売れる時代ではなくなりました。資金力がない中小企業にとって、ECプラットフォームで売るのは年々難しくなっています。そういった事情を背景に、ソーシャルECが急成長しています」
Youzanが手がけるソーシャルECプラットフォームとは?
Youzan店舗システムの生みの親であるCHINA YOUZAN(ヨウザン)は、中国でソーシャルECプラットフォーム「Youzan」を提供しているPaaS・SaaS企業だ。2012年に創業し、現在は香港証券取引所に上場している。
集客や顧客管理、SNS連携、販促、決済など数千種類の機能を備えたプラットフォームを提供し、インフルエンサーマーケティングやWEBプロモーション、サイト運営代行事業なども手がけている。同社のサービスの導入実績は、実店舗とEC事業者を合わせて543万店舗(2020年8月末時点)。同社のプラットフォームを利用している消費者は中国で4億人を超えているという。
千里氏:「YouzanのプラットフォームはECの機能が1000種類以上、リアル店舗の機能が2000種類以上あります。Wechatや快手、愛逛などとも連携しており、オンラインでの集客から販売までシームレスに行うことが可能です。ITの専門知識がない企業でも、ソーシャルECを簡単に始められて、大きな売り上げにつなげることができます」
「Youzan」を基盤とした越境ECサービスを2020年5月に開始
YouzanJapanが2020年5月に開始した越境ECサービスは、CHINA YOUZANが中国で展開しているソーシャルECプラットフォーム「Youzan」を基盤としている。
そのため、日本企業は中国に向けて越境ECを行う際、アリババや京東などのECプラットフォームに出店するのではなく、「Youzan」のECプラットフォームを使って中国の消費者に商品を販売する。
中国で顧客を獲得するまでに、ある程度の時間は必要だが、顧客と直接つながることができるため、ファンが増えていけば中長期的に安定したビジネスを展開することが可能だ。
YouzanJapanの越境ECサービスは、越境ECに必要なECサイトの開設や出店申請、国際物流、売上金の日本円での入金などをYouzanJapanが定額でサポートする。現地でのインフルエンサーマーケティングやライブ配信、WEBプロモーション、顧客対応、卸販売のプランニングなども支援するという。
千里氏:「中国で多くの実績があるソーシャルECプラットフォームを基盤としているため、日本企業は中国でソーシャルECを素早く、初期投資や運用コストを抑えて始めることができます」
越境ECはコロナ禍でインバウンド消費が消滅した地方経済の救世主に
千里氏:「中国では、日本製品に対するニーズが根強いです。新型コロナウイルスの影響で日本に旅行ができなくなったことで、日本の特産品などを越境ECで購入したいと考える中国の消費者も出てくるでしょう」
日本企業が中国に向けて越境ECを行う意義を、こう強調した。近年、日本から中国に向けた越境ECの販売金額は年々拡大している。経済産業省の調査によると、日本から中国への越境EC市場規模(販売金額)は2019年時点で前年比7.9%増の1兆6558億円だった。
2020年1月以降、新型コロナウイルスの感染拡大によって外国人観光客が減少し、今後しばらくはインバウンド消費が見込めなくなった。こうした中、地方経済を活性化させる手段として越境ECへの期待感は高まっている。
越境ECは日本の地域振興において、どのような役割を果たすのか。
公共政策研究者で地域振興政策にも精通している北海道大学公共政策大学院客員教授・石井吉春氏は、コロナ禍でインバウンド消費の回復が見込めない中、地方の企業が地域外の消費者の需要を取り込む方法として越境ECの可能性に着目しているという。
石井氏:「新型コロナウイルスの影響で訪日観光客の消費が当面見込めなくなりました。地域経済へのマイナスの影響は計り知れません。インバウンド消費が新型コロナウイルス以前の水準に戻るのは、早くても2年後と予想しています。今は国や地方自治体が経済支援策を実施しているため、なんとか持ちこたえている企業が多いですが、このままではいずれ多くの企業は経営が困難な状況に陥るでしょう。こうした状況において、地域外の需要を取り込むための方法論として越境ECに注目しています」
従来、中国向けの越境ECは、ECプラットフォームに出店するのが一般的だった。しかし、先ほど言及したようにECプラットフォームの中での競争が激化しているため、思うように売り上げが伸びず、黒字化を果たせずに撤退する店舗も少なくない。
そういった越境ECのハードルを下げる意味でも、YouzanJapanの越境ECサービスは大きな可能性を秘めていると石井氏は期待感を示した。
石井氏:「YouzanJapanのプラットフォームは、ECサイトの開設や事務手続きの負担が比較的軽く、きめ細かいマーケティング支援の仕組みがあるため、中小企業でも使いやすいと思います。国内の事業活動の延長で輸出を行えるプラットフォームとして注目しています」
さらに石井氏は、越境ECに取り組むことは北海道の観光政策において「複層的な需要拡大に貢献する可能性がある」ことも指摘した。
石井氏:「インバウンドによる消費は『旅中(旅行中に現地で買い物をすること)』を想定しています。しかし、越境ECを活用すれば『旅前(旅行に出発する前)』と『旅後(旅行から帰国後)』の需要も生み出すことが期待できます。越境ECの経済効果は、それ単独で考えるのではなく、数年後に訪日観光客の人数が戻ったときに、消費の複層化につながる効果も想定すべきではないでしょうか」
北海道の企業が集まった「北海道商店」が9月1日にオープン
2020年9月1日、YouzanJapanの越境ECサービスによって1つのECサイトがオープンした。化粧品や酒類など、北海道ブランドの商品を中国に向けてオンラインで販売する「北海道商店」だ。
「北海道商店」の特徴は、複数の企業が商品を持ち寄り、1つの店舗として運営していること。各社の人気商品を集めることで、単独で出店するよりもブランド力を高める狙いがある。また、ECサイトの運営費用やプロモーション費用などを複数の企業が負担することで、1社あたりのコスト負担を減らせるメリットもある。サイトオープン時点で約10社が参加している。
「北海道商店」に参加をしている北海道のクラフトジンメーカー、株式会社積丹スピリットの岩井宏文社長は、越境ECを開始する理由について次のように話した。
積丹スピリットのクラフトジンは、北海道で育った植物を自社で蒸留して製造している。商品力の高さに加え、北海道の農場と蒸溜所が作ったクラフトジンというコンセプトが注目を集め、テレビやラジオで取り上げられた。北海道における1つの希望として話題となり、商品の売り切れが特出した。
岩井氏は「北海道商店」が地域振興に果たす役割について、大きな期待を寄せているという。
岩井氏:「地方の企業は今、国内はもとより、海外にも販路を広げていかなくてはいけないと考えています。北海道内の多くの事業者が『北海道商店』に参加すれば、中国での発信力も高まっていくはずです。北海道に興味を持っている中国の消費者の心に響くような、さまざまな取り組みを実施していきたいです」
YouzanJapanでは北海道商店について石井氏、岩井氏に詳しくお話いただくウェビナーを9月28日(月)に予定している。気になった方はぜひ参加してみてはいかがだろう。
近い将来、日本でもソーシャルECサービスを開始
YouzanJapanは近い将来、ソーシャルECのプラットフォームを日本でも展開するという。詳細はまだ明かされていないが、中国で展開しているソーシャルECプラットフォーム「Youzan」のようなサービスを日本でも提供することが予想されている。
YouzanJapanの千里氏は、コロナ禍で人の移動が減っている今、地方の小売店やメーカー、生産者らが日本国内でソーシャルECに取り組みやすくすることで「地域振興に貢献したい」と意欲を示した。
千里氏:「観光客が減った今、地域振興のためには新しいビジネスモデルを取り入れる必要があります。具体的な方法論の1つがECです。ただし、ECサイトを開設するだけでは不十分。ECを通じて全国にファンを増やしていくことが重要です。そのための有効な方法はソーシャルECだと考えています。中国で培ったソーシャルECのノウハウを日本の企業に提供し、地域振興に貢献していきたいです」
新型コロナウイルスの感染拡大を受け、日本でもSNSやライブ配信を活用したオンライン販売が活発化している。大きなポテンシャルを秘めた「ソーシャルEC」は、日本でも急成長する可能性は十分にある。YouzanJapanが手がける越境ECサービスと、近い将来日本でリリースするソーシャルECプラットフォームに期待したい。