刺激的な表現で衝動買いを誘う時代はもう終わり! EC事業者や代理店が持続していくための新常識とは

野中 真規子

昨今のWeb広告は表現規制が強まっており、EC事業者は管理に追われているのが現状だ。大量に広告配信していると、二次受け、三次受けの代理店が事業者の知らないところでグレーな表現や使用禁止の写真を掲載してしまうリスクもあるが、効果の最大化を狙う上では数を減らせないというジレンマもある。

そもそもホワイトな広告であればチェックもいらないはずだが、なぜ今多くの事業者がグレー広告のリスクに悩む自体に陥ってしまったのだろうか。そして、本当にグレー広告でないと商品は売れないのだろうか。

最近の広告規制や解決策について、LP作成・分析・配信最適化ツール「Squad beyond」を提供する株式会社SIVAの代表取締役 杉浦稔之氏に伺った。

誤解をあおる広告表現で、EC事業者や代理店が処罰の対象に

――2020年〜2021年にかけて、景品表示法や薬機法の規制にはどのような変化があったのでしょうか。今のタイミングで政府や媒体が規制を強めているのはなぜでしょう。

最近強まったというよりは、以前から厳しかった印象ではあります。私はGunosy出身で以前は広告を運用する側にいました。その時にも、インフィード広告や、ニュースメディアなどのディスプレイ広告+記事の広告が流行していたこともあり、具体的な事業者に調査が入っていました。

2020〜21年にはコロナの影響でのデジタル化が進みWeb広告量が増えたこと、その結果クレーム件数も増えたことから取締りも強化されていると思います。大きく変わったのは、広告表現の違反が実際の処罰対象になったことです。今までも事業者に対しての業務停止の罰則はありましたが、最近では、代理店、アフィリエイターなど広告主でない人も書類送検などの処罰がされるようになっています。

ユーザーのリテラシーも上がってきていますし、SNSなどでも声を上げやすい時代ですから、問題になる前に正しい方向に進んでいくべきだと思います。

「大量に配信したいが、チェックは避けたい」という矛盾

――多くのLPや記事広告を作成し、テスト配信を行う事業者にとって、広告運用のチェックは非常に難しいように思えます。実際にEC事業者・広告運用担当者から悩みを聞くことはありますか?

作業の膨大さ等々の悩みを抱えていても、それを仕組みやシステムで根本から解決できるという発想にならないことがほとんどと認識しています。多数の広告を同時運用し、チェックするのが当たり前だと思っているので、改善するとしても「エクセルを使う人を雇う」などの発想しか出てこないのです。

なぜなら広告運用のシステムに共通の規格がなく、一次受けの代理店から二次受け三次受けの代理店、アフィリエイターまで、広告に関わっている人がそれぞれ別のシステムやツールを使っているので、事業者としては共通の規格を浸透させるより、人手を使って手動でチェックするほうが早くなってしまうのです。また、1クライアントのために代理店側がシステムを入れ替えると言うのも現実的でなく、人手以外に解決策がないという状況が散見されます。

もちろん、全ての広告を手動で管理すれば膨大な時間かかります。たとえばひとつの商品を売るのに記事型LPなどを制作する場合でも、一次受けの代理店の他、二次受け、三次受けの代理店も含めて5箇所がそれぞれ10個の広告を制作したら、それぞれ何千文字とあるLPを50回チェックすることが必要です。

さらに当然LPは一度作って終わりではなく、成果を出すためのPDCA、つまり内容を更新していくわけですから、その都度の確認も必要です。「1文字でも変わった場合は配信しないように」とか、「芸能人の写真を不正使用しないように」とルールを定めていても、事業者が規制する手段がないため、確認ミスや、人の目の届かない夜間などに本来NGの内容のものを配信してしまう代理店やアフィリエイターがいるのも事実です、もちろん全員がそうではありませんが。

大企業であれば人を雇って把握しているところもありますが、2〜3人でも月100万円ほどの人件費がかかり、中小規模の事業者では難しいでしょう。2020年までは1回目、2回目までの違反は注意だけで終わっていたこともあり、あえてチェックなしで配信し、注意を受けたらその代理店との取引を見直す、または注意された後に直すというようなやり方をとっていたところも多かったと思います。

しかし今は1回目から処罰される可能性が高まっており、SNSなどでの炎上リスクも一昨年とは比較になりません。チェックなしで配信するリスクはとても大きい。最初から管理する体制をとらなければいけません。

とはいえ基幹システムも多くあり、全員に共通したものを使わせるのは無理です。そのため、クライアントから代理店に罰則を強めるルールを作って覚書などで別途契約を結び、違反時のリスク管理をしている事業会社やASP事業者も見かけますが、複数の代理店に依頼をしている場合はリーガルチェックだけでも時間がかかる。あとは広告配信後に変わっているのを見つけたらアラートを出すシステムもありますが、変わる前に対応が必要なので遅いんですよね。

そもそも、問題が発生したときの対応を強化するよりも、事故が起こらない方法を考えるべきですし、そんな爆弾を抱えるような取引で売上をつくること自体がリスクです。

数年後まで見据えて信用を築いていく時代

――ホワイトな広告運用を行うことは事業者にとってどのような影響をもたらすのでしょうか。短期的な目線で見ると過激な表現を控えることが売上に響くと考える事業者もいるかと思います。

急激に跳ね上がったものは落ちやすく、逆に緩やかに積み上がってくるものは落ちにくい、というのが世の常です。直近の契約数欲しさに「無料お試し1ヶ月」キャンペーンなどをしても、確かに顧客は一瞬増えますが、離れていく人も多い。そもそも衝動的、刹那的に買い物する人はメリットしか見ないのでクレームにつながりやすいですし、強い言葉に惹かれて来る人は、他社の強い言葉に乗せられて離脱しやすいので、ロイヤル顧客を育てることにはなりません、

一方、正攻法でやり続けることは積み上げになり、ブームは来づらいですが、定着した顧客は離れにくくなります。広告の運用者自身にもスキルがつくので広告がすたれにくいですし、加えて数値を見ながら改善していくなどの施策を続けるうちに、再現性のある広告のやり方やそれが実現できる組織も育ってきます。

明日明後日の売り上げだけではなく、3〜5年後も見据えながら商売をしていくことが大切だと思います。

――事業者が意識を高めていても、勝手に二次受け、三次受けの代理店が不正な動きをしてしまうこともあるかもしれません。

継続性のある代理店と継続性のある取り組みができることがベストですが、どこがそれにあたるのかわからないですよね。代理店自身が出している実績などがわかる履歴書的な内容を第三者が把握できる体制が今後は必要です。

代理店側も3年後、5年後にためになる業務ができているかどうかを考えるべきです。ブロックチェーンなどもそうですが、改竄できないものを使って信用経済を築く時代がきていますから、広告においても嘘をついたり、悪いことをしている企業にデメリットが生じる状態になってきている。トレーサビリティを確立し、お互い全部見せた上で、どれくらいの利益を分け合っているかがわかるようにしていかないと発展性がありませんし、継続的な取り組みにはなりません。

広告は極端な言い方をすると、見るつもりのなかった人に無理に見せるものでもあります。そのため見る側が勘違いすることもあります。一方で、見る側に知らなかったことを教えてあげるコンテンツでもありますから、本来の広告は優れているとものだと思っています。それを見る側に信頼してもらうことが大切です。そういうやり方を目指すことで事業者も代理店も結果的に長続きし、ECを使うすべての人のためになるのではないでしょうか。

業界の常識を変え、信頼のおける広告だけが流通する世の中に

――SIVAとして、EC業界にどう貢献していこうと考えているか教えて下さい。

そもそも不正な表現が起こらない仕組みを作ろうと、Squad beyondというCMSを開発し、事業者が簡単に広告運用を束ねることができるメリットを提供しています。

たとえば広告制作時に禁止文字を「これは落ちます」とマークを表示させることができ、グレーな広告が生まれないようにします。クライアントであるEC事業者は代理店の制作状況がわかり、代理店もクライアントの情報を見ることができるようにするので、気になる点などがあれば該当の配信を非表示するようなこともできます。

多くの事業者が使ってくれるほどに、機械学習で過去の代理店の広告運用に関する情報が蓄積されることも大きなメリットです。この情報をもとに、たとえば商品に合った代理店や広告媒体を選んだり、まだ実装はできていませんが代理店が過去に広告配信した時のCTR、CVRなどを見ながら目標数値の検討材料にしていただくようなことも可能です。

実際にSquad beyondを使っている企業は、D2Cにチャレンジしたい企業が多いのですが、D2Cにおいてどういう代理店がどういうやり方で広告を運用しているかがわかりますし、審査機能や検閲機能もあるので好評をいただいています。費用は月額約10万円から。閲覧権限のあるユーザーを追加するなどマイナーチェンジも可能です。グレードアップして月額20万円でお使いの企業もいますが、人を雇うより安く効率的なので、アップグレードしていく方は多いです。
 
ご存知の通り、広告業界は構造化され縦割り分断されていますが、そのせいで歪みが起きている。この状況が進んで、政府がネット広告を禁止したらもう終わりです。そこを新しい思想で作り替えることを今やらないと解決しないという思いで、スクワッドビヨンドを開発しました。広告業界のため、EC事業者のため、顧客のためにも「これが常識だ」という規模まで広めていきたいですね。

善意で運営する中小規模EC事業者や代理店の力になりたい

――今後の展望をお聞かせください。

同じEC事業者でも、事業の性質や規模によって広告に関する情報量の差がありすぎると感じています。たとえばリスティング広告では5千円くらいから使えるものもありますが、そういうことを知らず、売り上げが上がらなくて困っている方たちに対して、広告展開のやり方をわかりやすくサポートしていきたいですね。

今の広告代理店の乱立ぶりは、高度成長期の町工場に似ていると思っています。大規模な工場で技術を得た人が自分たちの工場を立ち上げてきたように、大手広告代理店から独立して細々と運営している代理店も多い。その中で技術の高いところと大企業をマッチングさせるプラットフォームを確立して、善意ある代理店に光が当たるようにしていきたいですね。

代理店やマーケターの運用スキルや今までの成果が可視化されることで、そういった未来をつくることとも可能だと思っています。いずれはSquad beyondを世界にも広げて、正しい行いが正しく評価され、継続的に健全な発展ができる世の中にできればと考えています。


記者プロフィール

野中 真規子

ライター。著書(電子書籍)『片付けられない、という「思い込み」をなくして、今すぐ片付けるための本』(ハウスキーピング協会)が好評発売中。ECのミカタにおいては、ECサービスのお話から伝わる本質的なメッセージを受け取り、拡散することが歓びです。

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