業務の効率化だけがメリットではない。 社内の活性化にも寄与する外部委託
長野県長野市で48年の歴史を刻んできたヌボー生花店だが、ECを立ち上げたのも早い。店舗とECそれぞれの役割を明確に差別化するだけでなく、ECの運営においてはクラウドソーシングサービス・ランサーズを活用し、EC関連のバックオフィス業務を外部委託しているという。
人材不足という課題を抱えていても、クラウドソーシングによる業務の外部委託に慣れていない中小企業は多い。どうすれば外部委託を円滑に進め、社内のDX化を促進していくことができるのだろうか。ランサーズにおける外部委託のヒントを株式会社ヌボー生花店の山﨑年起氏にうかがった。
ECにおける最大のゴールは、販売数を上げることではない
――ヌボー生花店について教えてください。
山﨑 1974年に開業した花屋で、長野市内に4店舗を構えています。「お花のある心豊かな生活」を提案したいという思いから、そのうちの1店舗ではカフェを併設し、季節のお花やドライフラワーに囲まれながら、お花をモチーフにしたドリンクなどを楽しんでいただけるようにしています。私はシステムエンジニアとして働いていましたが、花屋を継ぐために2006年にUターンしてきました。
――ECを立ち上げたのはいつごろですか。
山﨑 戻ってきてすぐにECを立ち上げました。花屋を継ぐとはいっても、花屋の仕事は未経験でしたから、自分の経験を活かして貢献できることはないかと考えて立ち上げることにしました。ただ当時は、お花をECで注文することが定着していませんでしたし、花屋という業界とECの相性は良いとはいえません。店舗のやり方をそのままECに持ち込んでも上手くいかないし、ECの特徴である全国各地に届けるということにおいても、自社の特徴を打ち出すのはなかなか難しい。
――それでも店舗とECを運営し続ける理由は何でしょうか。店舗とEC、それぞれの役割をどのように捉えていらっしゃいますか。
山﨑 普段は店舗でご購入いただいている地域のお客様が外出できないとか、遠方で暮らすご家族が、お母さんが普段から利用しているヌボーの花を贈りたいといった時にご利用いただくなど、ECは既存のお客様を中心に活用いただく場だと捉えています。
私たちは地域のお客様にとって最高の花屋でありたい。だからこそ私たちが大切にしたいお客様に店舗での注文以外の選択肢を増やすこと、それがEC運営の主軸です。加えて地域の皆さまやお花の生産者さんとのコミュニケーションツールとしての役割を担うことのほうが重要であって、ECは販売がゴールではありません。売上額も店舗のほうが圧倒的に高いです。
イメージを深掘りさせるためのアプローチ
――店舗とECでの販売において、それぞれ注意していることは何でしょうか。
山﨑 お客様には1日でも長くお花を楽しんでもらいたいですし、それを実現するための環境づくりに徹するという点は同じですが、店舗とECでは当然かもしれませんがお客様へのアプローチ法が違います。店舗にご来店されるお客様はお花を選ぶだけでなく、店舗スタッフと会話するなど花屋でお買い物をする時間も含めたサービスを楽しんでいらっしゃいます。ECの場合は、母の日の贈り物など目的に沿って、どうすればより確実なものを選べるのかに基準を置かれています。写真と紹介文だけでよりお花を選ぶことになるので、注文する際に購入したいお花のイメージを深掘りできる写真や説明文を掲載しておく必要があります。花束のサイズが伝わるようにスタッフが花束を抱えた写真や、企業の受付やロビーに飾ってある様子を写真で紹介して、イメージしやすいように工夫しています。
――ECを活用することで社内のDX化が推進した、業務が効率化されたと感じていることはありますか。
山﨑 一般の方向けのECでは特にそういった面での変化は感じません。写真をアップするなどの業務まで社員では手が回らないですし、店舗での接客に集中してほしいので、それらの業務はランサーズで外部委託を行いました。
それよりも法人のお客様専用のECを設けたことで業務の効率化は飛躍的に改革されたと思います。お客様は電話などで確認しなくても、注文したい時にサイト上で注文いただけますし、注文履歴を確認することも簡単にできます。私たちは確認ミスなどを防ぐことにもつながり、業務効率化につながったと感じています。
業務のゴールを明確に提示することで意思疎通
――社内のDX化を推進させていく方法の一つとして、ランサーズをどのように活用されていますか。
山﨑 2012年から使っています。最初はチラシのデザインやデータ入力など簡単な業務の依頼から始めて、現在はECまわりのことはほぼランサーズ経由で依頼しています。デザインの変更や商品の登録、法人専用サイトは構築から全て依頼しました。
地域に貢献したいという気持ちがあるので、まずは地域で依頼先を探しましたが、私が理想としていた感性に合うところが見つかりませんでした。そこでまずはお試しで利用してみて、仮に失敗したらそれは勉強代だったと思えばいいという気持ちでランサーズを使ってみることにしました。
――ランサーズを利用する際に、不安や懸念はなかったでしょうか。
山﨑 一度も対面したことがない方と仕事をするので最初は戸惑いましたし、失敗も経験しました。しかしその原因は、依頼する内容が明確でなかったからだと、経験を重ねていくなかで学びました。依頼内容を絞りきれていない段階で依頼すると、業務をお願いしている方に迷惑をかけてしまいます。
プロとして何かアドバイスくださいといった抽象的な依頼は、どんなアウトプットがベターなのか判断しにくく、ランサーズでの発注の仕方には向かないように思います。依頼する側が明確なゴール設定を提示すれば、メール上のやり取りだけで十分に完結します。
ランサーズでの経験が活きた支援事業部
――ランサーズを利用したことで起きた変化はありますか。
山﨑 社内でも同じように業務におけるゴール設定を明確にしたことで、社員との間の齟齬も減りました。ランサーズのようなサービスを利用することは、齟齬がないように業務内容を伝えて、問題なく業務を完結させる方法を学ぶ場になったと感じています。リモートでも業務が遂行できたことが自信になったから、社内にリモートで事務作業を行う支援事業部を立ち上げることができたのだと思います。
ある社員から旦那さんの転勤を理由に会社を辞めるという申し出があり、何とか引きとめたいと考えたのがきっかけでリモートワーク勤務できる環境を整えました。弊社は社員の9割が女性です。リモートで働けたら、結婚や出産で会社を辞めなくても済むための選択肢の一つになると考えました。ただ社内に定着させるためには実績が必要ですから、店舗でもできる業務をあえてリモートでやってみるなど、より良い働き方を模索し続けています。ランサーズ経由で知り合った海外在住の方にも業務をお願いしているんですよ。
――人材不足をいかに補うのかは全ての企業の課題だと思いますが、それでもアウトソーシングはなかなか進みません。
山﨑 私の周囲を見てもそうですが、外注するというイメージがつかめず、最初の一歩が踏み出せない企業が多いです。実績ができると抵抗はなくなりますが、1件目の実績をつくるまでのハードルを高く感じてしまうからでしょう。
長野市では2021年度に副業人材をマッチングするプログラム「NAGA KNOCK!(ナガノック)」を実施しました。私たちも受け入れ企業の一つとしてプロジェクトに参加しましたが、行政の働きかけが後押しの一つになるかもしれませんし、私自身も実際にある花屋から依頼を受けて、リモートやアウトソーシングを導入しながら業務改善に向けたアドバイスを行っています。こうした支援の仕組みを構築していきたいです。
――バックオフィス業務を改善することで、業務効率は格段に上がりますからね。
山﨑 私もそう思います。弊社では法人のお客様が多いですが、安心して仕事を任せられる取引先とは、ちゃんと請求書が送られてきて入金作業が問題なく行われるという基本を押さえている会社です。フロントエンドがいくら優秀でも、バックエンドの体制が弱いとお客様には安心して取引していただけません。その当たり前のことを正確にこなすことが信頼度を高め、リピート率を上げることにもつながります。
そのためにクラウドツールを導入するなどしてバックオフィス業務の改革を進めてきましたし、社員にもバックオフィス業務の重要性を伝えています。社員が理解してくれると、会社がよくなるための改善に意識が向き、自主的に改善活動を始めてくれるようになります。そうした組織づくりを徹底して、ヌボーが大事にしている店頭での接客に社員が全力で集中してもらえるように、アウトソーシングする業務の取捨選択が大事だと思っています。