【第1回】川上から川下まで、全ての場所が儲かる価格で仕事をする

古屋 悟司

モノを売らずにコトを売った、ウソみたいなホントの話

究極の安売り。締め切り16時の即日発送。この二つを武器にして花を売り上げ会社は急成長。

しかし、神様は僕に試練を与えた。

売上7割減。花を仕入れるお金もない状況から、ビジネスモデルを大幅に変更し、モノを売らずにコトを売るを実践。

その結果、約18カ月でV字回復を果たしたが、その道のりは平坦なものではなかった。

花農家さんとのつながり、市場との連携、管理会計の恩恵。全てが複雑に絡み合い価格競争から抜け出すことに成功。

ゲキハナという名の花屋はカゲキなシゲキを受けながら、カンゲキを売る花屋に生まれ変わった。

全10回。すべてを惜しみなくあなたにお伝えしようと思います。僕に起こったウソみたいなホントの話を。

【第1回】川上から川下まで、全ての場所が儲かる価格で仕事をする

【第2回】「モノを売らずにコトを売る」の全ては、悪徳訪問販売で学んだ
https://www.ecnomikata.com/column/10779/

【第3回】売上7割減!から生まれた「三方良し」のビジネスモデル
https://www.ecnomikata.com/column/11145/

呼び出し

会社でひと仕事終え、僕は市場に向かいました。

誰もいない駐車場に車を停め、今朝の活気とは正反対の静かな花市場は、僕が歩く足音が自分で聞こえるほど静まり返っていました。

社長室へと続く階段を上り、僕は2回ドアをノックしました。

 「どうぞ〜。」

少し太めの声が聞こえ、ドアをゆっくり開け、「失礼します。」と挨拶をして中に入りました。

僕は花市場に「呼び出し」を食らっていたんです。


部屋の中には、花市場の社長と市場に雇われているコンサルタント兼税理士の方がいて、軽い会釈のあと、話し合いが始まりました。

小一時間たった頃でしょうか、結論が出て、僕は市場での買い付けが一時停止となる『売り止め』という処分に決まりました。

実は売り止めに至るまでには経緯がありました。

2年ほど前、売上は好調なものの、資金繰りに苦しみ、催促の少ない取引先への支払いを後回しにしてきたんです。

それが、いつもの仕入れ先である花市場でした。


ツケが回ってきたのでしょうね。


滞納額が500万円ほどまでに膨らんでしまったため、1年ほど前から、幾度となく督促の連絡をもらっていたにも関わらず、資金繰りが厳しくて支払う事ができなかったんです。

そして、最終的に支払い不能取引先と認識され、売り止めになってしまったわけです。

その話し合いの中で、市場の社長に教えてもらった事があります。


「古屋くん。三方良しって言葉知っているか?売り手良し、買い手よし、世間良し。近江商人の言葉だ。三方がしっかりと利益が出なければ、商売は継続することはできないんだよ。」と。


今でもその言葉を大切にしながら、僕は商売を続けていますが、その時がある意味、今の僕を形作るきっかけになった出来事の一つです。


自己紹介が遅れてしまいすみません。

花屋をやっている古屋と申します。

詳しくは、最下部のプロフィールをご覧ください。

このコラムでは、僕が体験した過去の出来事をきっかけに、いかにして、「モノを売るからコトを売る」にシフトしていったかのお話を、自社で行った事例などを元にあなたにご紹介していこうと思います。

そして、第一回目の今日は、イントロダクションとして、「川上から川下まで、全ての場所が儲かる価格で仕事をする」意味について、少しお話ししようと思っています。

休憩時間や、仕事で煮詰まった時などの息抜きに、読んでいただければ幸いです。


レッドオーシャンで三方良しを叫ぶ

レッドオーシャンで三方良しを叫ぶ花の流通は中間業者が入り乱れているが、どれも必要不可欠な機能を持っています。
中抜きをするのも良いけれど、それは安くしたい一心の表れとも取れます。

花の業界では、川上は種や赤ちゃん苗などを農家さんに販売する種苗会社があり、そして、川下にはいわゆるエンドユーザーである消費者の方がいらっしゃいます。

全ての方が色んな意味で儲かる事によって、持続可能な一つの形、生態系の様なものができあがっていく事が自然だと考えています。

僕は、あくまでも自己犠牲ではなく、誰もが利益を手にする形が理想だと思っています。

ただ、昨今の様に、セール・セール・セールの激戦レッドオーシャンさながらの状況の中で、「わかっちゃいるけど自分が可愛い。お客さんへの奉仕も疲れたし利益も出ないから、なんとか安く仕入れられないだろうか。」と言うのが正直なところで、販売するお店としては、安く仕入れて、安く売るというのが当たり前になっていますよね。

僕がいる花の業界でも、「安く良いものを!」という流れですから、種苗会社さんも安く卸そうとしますし、お客さんも安く買おうとしているわけです。

でもそれをしてしまうと、必然的に薄利になりますから、沢山買ってもらわない事には商売が成り立ちません。

でも、「モノ余りの時代」と言われて久しいですから、沢山売るのも難しくなっているという、八方塞がりの状態だったりするわけです。

「どうしたら良いわけ?」と悩んでいる方も少なくないでしょうし、僕自身も悩んでいた1人です。

もちろん、今、僕自身にとって、悩みが無くなったかと言えば、そんなことはありません。

僕自身も日々悩み、考え、トライ&エラーを繰り返しています。


採算が合わないことはやりたくない

採算が合わないことはやりたくないどうしてもこの花をこの形でお客さんにご紹介したかったんです。

今日は一つだけ、僕が経験した出来事をお話したいと思います。

長野県で毎年行われている大きな展示会があり、そこに出かけた時のエピソードです。

大振りで立派なペチュニアというお花の鉢がありました。

僕はどうしてもその花が売りたかったんですけど、作っている農家さんは全国にはいらっしゃるものの、みなさん小さな鉢での仕立て。

僕はそれを販売しても、どうにもお客さんが喜ぶとは思えなかったんです。

自分で大きくする自信がなかったり、仕上がっている大きなものが欲しいと思うお客さんは少なくないと思っていました。

ペチュニアが展示してあったのは、そのお花の赤ちゃん苗を販売するメーカーさんのブース。

話をお伺いしていると、とても綺麗な花なのに、赤ちゃん苗はあまり売れないとの事でした。

その理由はあまりに単純で、


「価格」が原因でした。


高いのかと言われれば、高いと言えば高いし、高くないと言えば高くないのですが、その赤ちゃん苗を農家さんが仕入れて、製品に仕立てて市場に出荷した際、セリで値段がちゃんとつくかというと、そこが問題。

市場では僕らのような花屋がセリで花を買いますが、その花の価値がわからなければ、高い値段は提示しません。

もちろん、需要と供給のバランスやお天気にも相場は左右されますから、値段がつかなかった場合に、農家さんが赤字になる可能性が高いお花だったんですね。

早い話が、採算を合わせていくのがとても難しい商品と言うわけです。

それで農家さんも、「綺麗だな〜。作ってみたいな〜。」って思っていても、手を出しづらいために、種苗会社さんでも売れ行きは上々というわけではなかったみたいです。


全ての人が利益を手に入れる売り方はないのか?

そこで色々考えてみました。

種苗会社さんも儲かり、農家さんも儲かり、花市場も儲かり、僕らも儲かり、お客さんも満足する方法はないのだろうかと。



・種苗会社さんは定価で卸せれば儲かります。

・農家さんは作った商品が希望価格で全て売れれば儲かります。

・花市場は手数料が入れば儲かります。

・僕らはその商品が、適正な限界利益でロスなく売れれば儲かります。

・お客さんは、見た事もない素敵なお花が、お値段以上だと感じていただき、ある一定期間楽しんで満足ができれば喜んでいただけます。



「できない。売れない。作れない。」と嘆いていても何も始まりません。

僕はあちこち回って、「じゃぁ、それやろうよ!」と言ってくれる人探しから始めました。

まず、その場で種苗会社さんに「僕が作ってくれる人を探すから、作り方の指導や、そのお花が持つ癖などの情報提供を農家さんにしてくれる?」とお願いしてみたところ、即OKがいただけました。

次に農家さん探しです。一度テスト的にでも作った事がある人の方が失敗が少ないだろうということで、そんな人を探すところから始めたい。ここからが花市場の出番なのですが、「それ!オレやりたい!」という元花市場勤務のブローカー的な人物が現れたので、その仕事をそっちに振る事にしました。

なので、そのブローカー的役割の人物に、流通手数料を支払う形にし、手数料の料率も花市場と同等の料率で双方納得。

とにかく話が早いのは嬉しいですね。

彼にお願いしたら、あっという間に適任の農家さんを見つけてきてくれて、しかも、もともと僕ともお付き合いのある顔見知りの農家さんで、これまた話が早いのです。

トントン拍子に話が進み、数量限定で作ってもらえる事になりました。

農家さんへの取り分ですが、そこは言い値です。1鉢あたりいくらで作るか(僕に卸すか)の価格も、「採算の合う金額で出してね」ということでお願いしたところ、拍子抜けするほど安い価格を提示されました。

これには僕もビックリです。

話を聞いてみると、「ロスがないと言う条件だからその金額で良い」との事。

売り先が決まっていて、損がないのであれば、モノの値段は下げられるのではないかと思ったほどでした。

さて、作る流れが出来上がったので、次は販売する流れです。

これ自体は僕が自由に決めていく部分なのですが、お客さんの満足を第一に考えなくてはいけません。

そこで、あまりに安すぎる値付けはタブーではないかと思いました。たしかに仕入れは安く収まっています。ですから、ギリギリまでお値段を下げていく事は可能です。

でも、商品価値に見合わない価格を付けてしまうと、それ相応の商品だと思ってしまう可能性があるのではないかと思いました。

個人的な体験で恐縮なのですが、1,000円で買ったシャツと30,000円で買ったシャツ、どちらの方がちゃんとお手入れしようと思いますか?

僕は清水の舞台から飛び降りるつもりで買った30,000円のシャツをとても大切にしています。もはや一張羅。ここぞ!と言う時に着ますし、着た時には背筋が伸びます。そんな小市民です(笑)

そんな事を考えると、仕入価格が安くても、良い商品はしっかりとした価格で販売した方が、お客さんもお手入れをきちんとしてくれるでしょうし、育て方の説明もちゃんと読んでくれるはずと思いまして、それなりの価格を付ける事にしました。

そして、基本的には予約販売で販売をしていくので、早期ご予約の方へクーポンをお配りし、価格を少しだけ下げてご提供する事にしました。

結果的に、販売直後はリアルタイムランキングで1位を取るほどの人気商品となり、お客さんも玄関先に飾ってくれて満足していただけたようでした。

また、育て方が上手く行かない時には、お電話やメールでお問い合わせもいただき、大切にしてくれていたようです。

農家さんも、自分で作っておきながら、「これ、何鉢か分けてもらっても良い?」と連絡をもらったり、「地元の直売会でも売りたいから少し分けてー!」とか、なんだかんだと最終的には予定通りロス無しで終わり、流通の過程の中で全ての人が利益を手に入れる形となった企画の一つでした。

なぜモノを売らずにコトを売る?答えは、次のページへ

モノを売らずにコトを売る意味

展示会に行ったのが9月の末。お花をお客さんにお届けし終わったのが4月上旬。7ヶ月をかけた企画でしたが、みんなが笑顔になれた企画の一つだったかなと思います。

そして、誰も損せず、適正価格で全てが流れたことが、一番の収獲でした。このような形で商売が営まれていれば、健全な利益を出しながら経営する事も可能ではないだろうかと考えています。

川上から川下まですべての人が利益を手にするのが、僕の考える「三方良し」の考え方です。やっていくのは大変ですが、モノを売らずにコトを売ることで、可能になるのではないかと思っています。




最後までお読みいただきありがとうございました!!


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次回のお話は・・・。


「コトを売る」の全ては、悪徳訪問販売から学んだ


です!!


9月20日(火)の予定です!お楽しみに!!


(@^^)/~~~ばいばい!


著者

古屋 悟司 (Satoshi Furuya)

1973年東京生まれ。
あとりえ亜樹有限会社代表取締役
V字回復研究所 所長
「さしすせそ」がうまく言えない東京育ち。
大学卒業後、トヨタのディーラーに就職。新人賞を獲得後、さらなる収入アップのためにブラック企業へ足を踏み入れる。
訪問販売業で荒稼ぎするも、自宅が火事になり全てのやる気をなくし退職。
2002年再起をかけ花屋ゲキハナを開業。2004年楽天市場へ出店。
倒産の危機を経験し、三方よしを学ぶ。
その経験を生かして書いた会計本『「数字」が読めると本当に儲かるんですか?』は、国内外で高い評価を得てロングセラーに。台湾で翻訳され、中国でもその予定あり。
好きな食べ物は、ラーメンとカレー。
現在、「V字回復研究所」を立ち上げ、会う人と会社を元気にする活動をしています。


花屋ゲキハナ
https://www.gekihana.jp/

V字回復研究所
https://furuyasatoshi.com/

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