【第7回】思い込みやオゴリが商機を逃している
タキシード、燕尾服、モーニングコート、フォーマルスーツ・・・
メイドインオオサカの紳士礼服を製造販売するフォーマル専門店ノービアノービオ。1952年に礼服の生地問屋として創業、今は製造から小売(ネットと実店舗)まで手がける、いわゆるSPA企業ですが、小さな小さな町工場です。
バブル最盛期、従業員230人 年商65億円、紳士礼服メーカーとして業界2位。バブル崩壊後、従業員20人、負債45億円、在庫は倉庫に14億円分。
年商65億から負債45億円、約100億円のジェットコースターを下りきった頃、服の「フの字」も知らない素人だった僕は楽天市場店のスタッフとして、この会社にやってきました。
順調に伸びていた頃、相次ぐ大手の参入で再び窮地に。首の皮一枚すらちぎれそうなとき、次々と訪れた出会いと気付きと・・・たくさんの先達に出会い、学び、SNSを使ってV字回復。
SNSは次々にピンチをチャンスに変えてくれました。
子供の頃から大好きだった僕の「ヒーロー」に自社のタキシードを着てもらえ、「僕より僕のことを知ってる日本一のファン」と抱きしめてもらえた・・・。
SNSをやってたら、売上が伸びて子供の頃から大好きだった方に約30年越しで対面が実現、これまでの想いを伝えることができ、夢がかなった瞬間。
スタッフ数人の小さなECサイトのごくごく平凡な僕に起こったウソみたいなお話。
これから記させて頂くことは特筆すべき秀でたスキルなど何もない普通の僕がやってきた、「今日から誰にでもできるお話」です。
このお話を通じ、皆さんのお店のコンバージョン率+0.1%~に少しでもお役に立つことができればと、経験した全てをお伝えしていきたいと思います。
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困りごと解決は、何でも屋になることではない
第6回が公開されたその日、モーニングコート(上図)の大口受注がありました。夏場に試練を迎える重衣料メーカーにとって、モーニングコートのような袖物の大口がどれほど有り難いことでしょうか。
普段着ではない服。100人の結婚式や300人の入学式・卒業式でもモーニングを着用しているのは1~2人。礼服よりも更にニッチな商材への大口のオーダー。でも、あるんですよね、取れるんですよね。
「あなたが探している商品は私が取扱っていますし、困りごとやご相談ならお任せ下さい」
をしっかりページに記載していれば。
そんなモーニングコートでは、こんなこともありました。商圏もドかぶり同業店。でも、敵ではありません。高め合う意味では「競合」ですが、言わば「協合」。ともに協力しあい情報交換するような仲。そのお店の責任者の方からのお電話。
新婦のお父さんが事故の後遺症・怪我が原因で普通のモーニングコートを着られないこと、体も曲がり、左右で手の長さも大きく違ってしまっているのでレンタル用の衣装では対応できないことを告げられました。それでも、愛娘の結婚式でお父さんにモーニングを着て頂きたいという相談。
「いくつかのお店で断られてウチに最後の望みを持って来て下さっていて。難しいことはわかりますが、なんとかなりませんか?」
一組のお客さんにここまで真剣に向き合う担当者さんの気持ち、新郎新婦とそのご家族のため、工場のみんなと相談。不安はありましたがオーダーで請けることにしました。
納品後、大丈夫だったかなぁと気になっていたら、担当者の方から電話を頂きました。
衣装合わせでお父さんがモーニングを着て、新婦さんと腕を組んで鏡の前に立った瞬間、ご家族みんなが大泣きしたというんです。
「素敵な結婚式を迎えられると本当に喜んでもらいました。私も、もらい泣きしました。相談してよかったです」
震える声で、それでも弾むような声で言って頂きました。
「困りごとの解決」を強調すると、他社さんが請けない無理難題ばかり集まるという声があるのも確か。そこは書き方・伝え方で、
「あなたが探している商品、そのものは無いかもしれない。でも、それに近い提案はできるかもしれない」ということが大切ですね。
ですが他社が嫌がることが商機に繋がることも多々ありますし、お客さんの声が集まると「そんな用途があるんだ」「そんなニーズがあるんだ」「それは他店じゃできないんだ」という知見が社内にたまっていくんですよね。
繰り返しになりますが、専門家になりすぎて
「皆さんの当たり前はお客さんにとって当たり前じゃない」
を見失ってはいませんか?俯瞰して観てみるといいですね。
自分たちは「どこで」「誰のための」「何を」「どうやって」「製造・販売している」「お店です」自社の得意なことを、どのスタッフさんでも答えられるような環境づくりが大切ですね。
客単価アップの道は緩急巧みなピッチングで
ある日、親交のある電気部品ショップの方がfacebookに投稿していた出荷梱包の写真に興味を持ちました。
そこには、すぐにわかるものと何に使うんだろう?というパーツが混ざっていました。照明のスイッチパネルの枠と、コネクタのような部品。前者はわかるけど、後者は?気になって伺いました。
「それって業者さんですか?」
「ううん、この買い方は業者さんじゃないね。このパーツだと、こういう修理を自分でする人かなぁ?」と。
これすごいですよね。お客さんに聞いたわけじゃないのに、何をするかがわかる。経験豊富なベテランならではですが、経験の浅い若手にこそ、この「推理ゲーム」を体験してもらうべきだと思います。
弊社ですと、ネクタイとチーフ、ベスト、シャツ、カフス、ラペルピン。袖物でないフォーマルアクセサリーでも、コーディネートでお買い上げ頂くとスーツ1着に匹敵する額になります。
お買い上げ頂いた商品の「色」「デザイン」「組み合わせ」でお客さんをイメージする。そこからお客さんに向かってコンテンツで発信する。
「あなたが探している商品は私が取り扱っています」
を能動的にお店側から準備しておくのです。
先述の電気部品店さんは「照明のスイッチが効かなくなった。だけど部品の劣化で接触が悪くなっているだけなら、業者を呼ぶまでもなく、部品を2つ3つ取り替えれば直る」
「学校の授業で技術が得意、プラモデルやラジコン作りが好きな人なら充分できるレベルだよ」と、仰っていました。
この、専門家のお店の方の考えをお客さんとブログで繋いでみるとするなら、
タイトルは「実は簡単。部屋の照明のスイッチ交換・修理は自分でできる」
書き出しは「壊れた?接触不良?照明のスイッチが壊れたと思ったら」
この組み合わせだけで、「部屋」「照明」「スイッチ」「交換」「修理」「自分で」のようなキーワードの掛け算ができます。
さらに「壊れた」と「故障」と言い換える。「接触不良」を「点かない」に言い換えれば、応えられる検索クエリは増えていきますよね。
そして、交換方法とパーツの紹介をすれば、安価なパーツでも組み合わせで購入を促すことで客単価アップが狙えますよね。
実際YOUTUBEでも「照明スイッチ 交換」で多数の業者による動画があり、多いものでは再生回数が40万回を超えるものも散見されます。
動画PVの1%がリンクをクリックして、さらにその1%がECサイトで購入したとして、40万再生なら40件。あくまで数字上の話ですが意外と大きなポテンシャルを秘めていますよね。
実際に、僕も顧客側としてこの体験がありました。自宅の液晶テレビが故障した時のこと、保証期間も過ぎているので修理か買い替えか思案していました。
そこで
「テレビの型番 修理 相場(値段)」
で調べると、体験談はブログ、動画に様々。特殊な機構をもっているモデルだったので修理費は25,000円~30,000円のようでした。
もう少し上乗せすれば新品が買えるのに、修理を後悔したという意見もちらほら。その中に自分で修理したという方のブログを発見。
「テレビの型番 故障の症状」で検索すると、同じ症状はわずか648円のパーツを購入すれば修理できるとのこと。
それでダメなら諦めもつくと思い部品を購入。見事に修理に成功しました。上図右の写真のファンがその該当パーツです。
次は100円ショップの事例です。ちょっと買い物をと思って、ついつい買いすぎるのが100円ショップ。
大手チェーンがいくつかある激戦区でありながら、独自色を出して生き残る地域のショップ。それは少し変化球のコンテンツによる集客でした。
やわらか頭で皆さんも連想してみて下さい。
問題:テニスボール3つと洗濯ネット1つ
このお客さんは4つの商品で何をしたかったでしょう?
答え:陣痛時の痛みを和らげるため。
出産を経験、立ち会われた方なら聞かれたことがあるはず。陣痛時に腰のあたりを押したり転がしたりして使うことがありますね。手に持って転がすほか、洗濯ネットに複数入れて腰の辺りに枕として使う。
検索窓に「陣痛 テニスボール」と入れると「自分で」「使い方」「どこ」「何個」などがサジェストされます。普通の用途ではないけれど、見つけてもらいやすくなる例ですね。
続いて
問題:懐中電灯と色付きセロハンと無地のクリアファイル
答え:手作りライトセーバー
懐中電の頭にセロハンをつけ、クリアファイルを筒状にして巻き付けて刀身をつくれば、簡単にライトセーバーもどきのおもちゃが作れてしまいます。
夏休みの工作にも最適ですよね。こちらも懐中電灯やクリアファイルの通常の使い方ではなく、変化球で提案してみた例です。
「100均 ライトセーバー」「ライトセーバー 簡単 手作り」などのキーワードが見受けられます。照明のスイッチと同様、こちらもYOUTUBEやブログがたくさんヒットします。上図左の写真が実際に我が家で作った100均商品のライトセーバーもどきです。
ただ、これら実例のある同じ手法では後発になってしまいますので、皆さんの商材・サービスでどんなことができるかを社内でも話し合ってみると良いかと思います。
【この章のまとめ:コンテンツによる集客は緩急】
ストレート「あなたが探している商品は私が取り扱っています」
変化球「当店で取り扱っている商品ではこんなこともできます」
どんなに速いストレートでも、投げ続ければ打たれる。速球がなくても、変化球を織り交ぜて打たせて取る投手がいる野球と同じで、ストレートのコンテンツは細い針のように刺さると強いが、ずれると刺さらない。
こんなコンテンツをたくさんみてきました。書き手が専門家になり過ぎるがゆえに。しかし、顧客目線で書くと針は短くても、剣山のようなコンテンツになると思います。
1本の針ではなく、無数の針がある剣山のように幅広いエリアでお客さんをキャッチ。この緩急が集客コンテンツの肝になると思います。
SNS広告で思い込みの壁を壊す!
2014年の秋、とある自社ドメインのECサイトからお手伝いの依頼を頂きました。50代、特に60代~を中心とした婦人靴の通販サイトでした。
「現状の制作・メンテナンス会社の対応が遅く、イベントやキャンペーンが後手後手になっている」
実に多いお問い合わせです。
更に、制作会社・広告コンサル・経営コンサルと複数の支援企業が入っている。これもあるあるですね。「船頭多くして船山に登る」ような状況に陥っているお店さんも少なくありません。そして、結果的に多くの経費が出ていってしまっていることも。
そこへ4番手に呼ばれたのが僕ですから、もう費用をかけたプロモーションはできないわけです。そこで、僕は解析ツールでECサイトの健康診断から始めました。
お店の受注スタッフさんたちにもお話を伺いながら、ほどいては縫うような作業を繰り返し、お客さんを知ることから始めました。これは第2回で書いた自社でもやってきたことをこちらでもやってみた感じです。
出てきたのは下記のようなお話(2014年9月当時)
・お客さんは60代前後の女性が多い。
・ホームページを観ることはできるが、ネット注文はできず電話注文の方が多い。
・ご主人、お子さんなど、男性名による代替注文が多い。
・カタログ通販や催事での露出機会を増やしている。
・上記の理由からSNSをスマホで利用している人はほぼいない。
といった感じでした。
確かにスマホが過半数を超えてくるサイトも珍しくない中、デスクトップが多いこと、接続してきているスマホの機種をみても、アニメコラボ機種など若い男性が好むような機種も多く含まれており、お子さんやお孫さんによる代替注文も相当数あることは裏付けされました。
ですので、当時はスマホサイトはほぼ手付かず、重要なニュースだけをトップページに載せるだけで、希望の商品を探しやすいとは言えないサイトでした。
そこで、本当に思っている通りなのか、お客さんの属性を知りたいと、少額で有用なデータ収集に向いていると思うfacebookの広告を2週間出稿しようと提案しました。
ところが、経営陣・コンサルさんから猛反発。「ウチのお客さんがスマホでfacebookやってるとは思えない。Facebookページで反応があるのも40代まで」と仰るのです。
ここで説得に使ったのは弊社の事例です。ECサイトを始めた98年99年、ブログを集客に活用しはじめた2007年頃にあって、主たるお客さんは新郎新婦のお父さんたち。当時の50代60代と今の50代60代ではネットの利用率もスマホの利用率も違いますし、今後3年後5年後を見据えるなら今やっておくべきです。
このお話で納得頂き、facebookに2週間広告を出稿すると、その結果は上図の通り。最も広告に反応してくれたのは55~64歳の女性。そのユーザーの90%以上がスマホで見ていたのです。
【結論:マダム、めっちゃスマホでfacebookやってた】
という答えを導き出すことができました。
思い込みやオゴリが商機を逃している
先程のfacebook広告自体のクリック数は4,444回、転換率は1.48%、およそ65件の注文を上乗せすることができました。
この前日談として、もちろんブログでのキーワード調査があり、新しいニーズの掘り起こしもありました。そこに散りばめられていた検索クエリには、シニアの女性ならではの靴に関する悩み、迷い、困りごとがたくさんあったのです。
そのデータを元に、手付かずだったスマホサイトを改善。それまでになかったタップすれば電話がかかるボタンの設置で電話注文もさらにしやすく改善。悩み事、用途などからわかりやすく商品も探せるようなメニューに改修しました。
2014年の秋から1年半ほどお手伝いさせて頂き、2013年~2014年→2014年~2015年で157%。2014年~2015年→2015年~2016年で131%の売上となり、ご一緒してからの2年で205%の売上となりました。
出会った頃、1%あるかないかだった転換率は、facebook広告とスマホサイトの改修で1.45~1.5%に。更にコンテンツを加え繁忙期には1.68%まで向上しました。たかが0.5%されど0.5%。
お客さんの様子を知ることで、お客さんから見ても飛躍的に飛び込みやすいお店になり、問い合わせからの電話注文成約率は50%近くになったといいます。
自分自身の「燕尾服なんて誰が着るの?」「タキシードなんて映画の中の衣装」という思い込みが覆された経験があるからこそ、他社さんにも、思い込みを覆そうという提案ができたと思います。
しかし、今回のお店のように、社内での思い込みやオゴリが、実は貴重な商機、お客さんとの出会いを逃していることは本当に多いと感じます。
ぜひ、皆さんのお店でも、シミュレーションしてみて下さいね。
今回のお話が少しでも皆さんのお店の集客に、転換率改善にお役に立てたなら幸いです。
第7回も最後までお読み頂き、ありがとうございました。
ぜひぜひ今回のご感想・温かいお言葉をよろしくお願いします。
http://www.machicollege.jp/contact
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次回のお話では、更に具体的な事例を交えていきたいと思います。
次回も宜しくお願いします!
【第8回】商品の良さを語れないお店に未来はない
https://ecnomikata.com/column/19209/