【連載コラム5回】「CPA至上主義」の次の打ち手?ネットでのブランディング広告 〜2016年ネット広告のトレンドワードとクリエイティブ戦略〜

安藤達也

【連載コラム5回】「CPA至上主義」の次の打ち手?ネットでのブランディング広告 〜2016年ネット広告のトレンドワードとクリエイティブ戦略〜

●過去コラム

【連載コラム第1回】媒体技術で考えるネット広告 〜2016年ネット広告のトレンドキーワードとクリエイティブ戦略〜
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【連載コラム第2回】インフィード広告の成功の鍵 〜2016年ネット広告のトレンドワードとクリエイティブ戦略〜
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【連載コラム第3回】今年は動画広告が勝負所! 〜2016年ネット広告のトレンドワードとクリエイティブ戦略〜
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【連載コラム第4回】データを征する者は広告を征する!? 〜2016年ネット広告のトレンドワードとクリエイティブ戦略〜

EC企業にとってのブランディングとは?

EC企業がプロモーションの重要指標として必ず追求している「CPA」。ご存じのとおり、Cost Per Action = 顧客獲得(acquisition)一人あたりの支払額のことです。ほぼすべてのEC企業が「新規顧客の獲得」や「既存顧客の引き上げ」を目的として、効率化・最適化を図るプロモーションに注力することになっているのではないでしょうか。

しかし、そういった最適化の果てに、多くのEC企業が「新しい顧客層の開拓」や、市場が成熟化していく中で「競争との差別化」「企業や商品の“らしさ”」を求められることとなります。その意味で、EC企業にとってのブランディングは、「CPA至上主義」の次の打ち手と言ってよいでしょう。

本当に「ブランディング」は、テレビCMだけでいいのか?

数年前までであれば、上記にあげたような課題を解決する広告手法として真っ先にあげられるのは「テレビCM」でした。しかし、テレビ番組視聴率・視聴態度の変化や、スマートフォンの普及、通信環境の変化により、昨今ではメディア環境が劇的に変化してきています。このような環境から、もはや生活インフラとなっている「LINE」や、市場の伸びが著しい「動画広告」「ディスプレイ広告」を活用したキャンペーンプロモーションを実施されるEC企業様が、昨今では増えてきています。

背景としては、テレビCMでリーチする事が難しいターゲット層の存在(※)が明らかになってきたことや、デジタル上での認知・好意度形成を目的としたキャンペーンプロモーションを実施する方が、テレビCMのみに依存したものよりも販売促進施策につなげやすい、といった“EC”の特性が挙げられます。

このような市場環境の変化を踏まえまして、ここで少し、ブランディング戦略の立案と実行のための具体的なポイントについてご紹介したいと思います。

最適なプロモーション戦略立案と実行方法

(1)KPI設定と計測設計

新規顧客の獲得のための差別化戦略やブランド戦略を実行する際には、各企業やブランドの状況に応じた「プロモーションKPIの設定」と、そのKPIを計測するための「計測システムの設計」が必要となってきます。

企業やブランドによって、扱っている商品・サービスも業界におけるポジションも異なりますから、すべてのプロモーションにおいて共通化可能な一律のKPIというものは存在しません。しかし、「よくわからないので全部やってみよう!」「難しいから今まで通りたくさん認知して!」というのはあまりにノープランすぎます。企業が目指しているKGIに対して、コミュニケーションにおけるどの変数(≒コミュニケーションレバー)を動かせば最も効果的に相関するかを分析し、仮説をもってKIPとして設定することが重要です。

また、それらを適切に計測するための「計測設計」も非常に重要です。「知ったから売れた」「好きになった」という従来の計測だけでなく、デジタルの指標(検索、ファン、購買など)に対してどう相関したか、どのメディア・クリエイティブが影響したかなどを考察し、ナレッジ(知見)として蓄積・資産化していくことが必要になります。そのようなデータの可視化と蓄積こそが、デジタル時代のプロモーションの競争力となってくるでしょう。

(2)メディアプランニング (誰に、どこで)

KPI設定と計測設計ができたら、次は具体的に「誰に、どこで、何を、どう伝えるか」というメディアプランニングとクリエイティブ戦略です。まずは「戦略的にターゲットにアプローチする」ためのメディアプランニングからお話させていただきます。

「誰に」「どこで」の部分にあたるメディアプランニングは、先にあげたようなメディア環境の変化から、目的とターゲットによっては「デジタル広告の方が、TVCMよりも効率的にアプローチできる」という結果が得られるケースも増えてきています。

弊社では、目標とする指標に対して、それぞれの業界や企業のポジショニングでの最適なメディアプラン(アロケーションと運用ロジック)を分析・開発・提供する組織として『次世代ブランド戦略室』という専門部門を組織しています。今後増加するネットでのブランディング広告やデジタルの施策アプローチについて、最も効果的な施策が何か?を明確にしていくことは、我々にとって非常に重要なテーマです。

直近では、認知・好意度形成を目的とした「動画広告」の活用理論として、TVCMに接触しない層へのWeb動画広告ターゲティングを可能にする新サービス「LowTV Focus(ローテレ フォーカス)」の提供を開始しています。
https://www.cyberagent.co.jp/newsinfo/press/detail/id=11686

今後このような商品とサービスが続々とリリースされる予定ですので、この分野のデジタルシフトも加速度的に成長していくと予測しています。

もちろん、プロモーション開始前に仮説立てたメディアプランニング(アロケーションの設計)も、各々のメディア・クリエイティブの施策を細かく実際に運用・コントロールしていくことが重要です。仮説はあくまで仮説であり、システムとして完全な状態でない以上、運用しながら最適化していく、というのが、デジタルマーケティングの基本的な思想と言ってもよいでしょう。

(3)クリエイティブ戦略(何を、どう伝えるか)

最後に、「何を、どう伝えるか」というクリエイティブ戦略(企画・制作)についてご紹介します。

この分野のクリエイティブは、CPA至上主義のレスポンス広告のクリエイティブと異なる視点が求められます。そもそも「クリエイティブ」はアートと違って明確な目的と目標のために実行されるものですから、目的が変わればその設計も異なるのは当たり前のことですね。

以前の記事でバナー広告や動画広告のクリエイティブレバー(変数)のコントロール方法について少しご紹介しましたが(ECのミカタ『今年は動画広告が勝負所!』:https://goo.gl/JO56SC)、認知や好意度や印象形成を目的とする場合には、「訴求や企画のコンセプト」や「シンボル」はもちろん、それぞれのフォーマットやクリエイティブレバーのコントロール方法も大きく異なってきます。

例えば、好意度を高めたい場合には、やはり15秒という尺は短すぎることがデータからも明確に読み取ることができますし、バナー内でのエンゲージメントがLTVに相関するためインタラクティブな表現を活用した方がいいとか、広く認知するための訴求や企画コンセプトのテーマ性の違いなども非常に明確に出ます。また、レスポンス広告と同様、それぞれの媒体に合わせて表現を最適化することも非常に重要であることがわかってきています。

右脳的なアイデアや表現力を高めると同時に、目指すゴールとターゲットに対して「どんな媒体で」「どんなフォーマットで」「何を・どう伝えるか」ということや、「どう伝えるか」の設計が狙っている指標とどう相関するか、などを科学的に検証していくことは、今後のブランディング広告においても重要になってくるでしょう。

『温故知新』:「挑戦」と「経験」のバランスが大切

「CPA至上主義」の次の打ち手としてのブランディングは、近年EC分野においても非常に注目されるようになってきました。EC企業がLINEを活用したり、動画広告やリッチアドを活用する中で、エンゲージメントや認知・好意度形成と獲得・LTVの相関を証明する実績なども増えており、いよいよ一般化するフェーズに入ってきたという実感があります。

また、このような新しい施策の実行にあたっても、これまでネット広告で培ってきた多くの知見やメソッドをしっかりと応用していくことが大切です。ターゲットごと、メディアごとに表現を最適化することや、出したら終わりではなく、効果を最大化するために正確且つスピーディーに広告を運用改善していくこと、その広告効果を細かく分析・考察し、科学的に実証して資産にしていくことなど。

このようにデジタルマーケティングの技術と知見を活かしながら、常に新しい打ち手とその効果の実証をいち早く取り組んでリードしていくことができるかが、今後のECビジネスの成功の分かれ道になるのかもしれません。


著者

安藤達也 (Tatsuya Ando)

株式会社 サイバーエージェント
クリエイティブソリューション局 局長
1983年 兵庫県生まれ。同志社大学卒。  2007年 株式会社サイバーエージェントに入社。インターネット広告事業本部クリエイティブ局にてコピーライター、プランナーとして活躍後、同社大阪オフィスのクリエイティブテクノロジー局の立ち上げに従事。国内外の幅広いクライアントのWebマーケティング戦略の立案と実行を担当。その後、クリエイティブソリューション局局長に就任。現在に至る。