コルク佐渡島社長に聞く!”ECは恋愛でいう“都合のいい人”?

石郷“145”マナブ

 株式会社コルク(以下、コルク)という会社がある。今後は、優れた作家にはエージェントがつくことの必要だとして立ちあがった会社だ。例えば、僕らが何気に目にする「漫画本」だって、根底にあるのは作家が生み出す作品や作家の才能、つまりはコンテンツである。僕らはここに価値を感じてお金を払っている。

 コルクは、ネットの世界の中で、その価値をもっと最大化している。そして、その場でファンの心をくすぐる、本ではない第二の「モノ」を、通販という手段で訴求してきている( http://bit.ly/24Ektsz)。価格ではないECでの売り方であり、僕はそこに意味を感じて、その部分の発想の源についてコルク代表取締役 佐渡島庸平さんに話を聞いてみた。

では始めよう。コルク佐渡島社長に聞く!ECは恋愛でいう“都合のいい人”?

「EC=巨大倉庫」という考え方とは違ったところで

石郷 まずECに対して、どういうお考えをお持ちですか?

コルク佐渡島 基本的に、いわゆる、ECってどこから始まっているんだろうという話として、巨大倉庫みたいなイメージがあるわけです。例えば、現実の世界でものを売ると、そこには空間に限りがあるけど、ネット上では限りがないですよね、という感じで、Amazonもそうですし、型番も品番もたくさんありますよ、このイメージが強いですね。

石郷 でも、そればかりじゃないとお考えなんですよね?

コルク佐渡島 そうですね。僕はECの一番の魅力は、倉庫の大きさではないと考えているんですよ。売り場を閉鎖的にすることによって、適切な人しか来ないということもあり得ると思うんです。そうすることによって、逆に、魅力を感じてもらえるってことがある。

石郷 ネット通販の今までの発想とは逆に、売り場を、ある一定の人に狭めて提案することで、価値が出てくる場合があると。

コルク佐渡島 そう。例えば、サザンオールスターズのTシャツが、伊勢丹に行って売っていたら、サザンファンがそれで買うのか?フレンチのすごく美味しいところが、屋台で食べるとしたら、行きたいか?便利さとか、安さだけが判断基準ではないですよね?満足度が伴う商品っていうのは、代用品じゃダメなんです。

 つまり、雰囲気のある場所の美味しいフレンチだから、「どうしてもそこで誕生日を祝いたい」といった発想になるのと同じで、作品が関わってくると、たとえTシャツなどでも雰囲気を楽しむものなんですよね。先ほどのサザンのTシャツはライブ会場で売っているから、買うわけです。売る場所にこだわらないといけないよね、って話なんです。

石郷 では、それを作家だったらどうやっていくのが良いと考えたんですか?

コルク佐渡島 ファンの人しか見ていない濃いECサイトを作って、HPの中に世界観を作って、そこで商品の提案をする。ユニクロみたいなたくさんTシャツが並んでいる中で、宇宙兄弟だったりすると、(別にどれでもいいのだけど)宇宙兄弟でもいいかなという、消極的な選択になる。

売り場でユーザー絞られ、だから文字情報が活きる

石郷 不特定多数の一つではなく、それが欲しかったんだと言わせるだけの環境づくりが大事だということですね。

コルク佐渡島 そうです。あと、ECのメリットって顧客からどんな人かって教えてもらえるところです。日本ではあまりやってないですけど、アリババではチャットしながら、物を売るわけですよね。その感覚ってすごく重要で、チャットしていると顧客がどんな人かってわかって、最適な薦め方ができる。

 確かに、リアル店舗でも、お客さんの服装とか、見た目から年齢とかを想定しますが、ネットでは会員登録してもらうと、文字情報としてそれがわかる。データで理解できて、それぞれのお客さんに対して、正しい接客をできると、理想的です。正しい接客は、ネットのほうがしやすいと思っているんです。

石郷 なるほど。最初に、世界観を絞り込んでいるからこそ、次のステップとして、文字情報で具体的な情報を得ることが、一層活きてくるわけですよね。

コルク佐渡島 そうですね。ECサイトでは、フレンチで言う所の、大衆料理屋のような感じじゃなく、きちんとした内装ができているということと、あとは、お客さんを深く知れば、お客様に必要な情報だけを届けることができる。コミュニケーションもより密なものになるんですよ。だから、アマゾンとかをやろうとしている人と全く違う考え方なんで、別にぶつかり合うこともない。今、ECサイトをやっている人の多くは、小ロットで色んな種類のたくさん在庫を抱えようとしているけど、在庫を抱える必要はなくて、より密なお客様との関係性が築けると思っているんです。

 これは一例なのですが、銀座には、森岡書店という店があって、そこの店では1商品しか売っていない訳です。毎月、1作品しか出さない。でもその一作品がしっかり売れるから、黒字化できたというわけです。導入する人数を絞って、正しくコミュニケーションを取れば、やっていくことができる。

石郷 狭い空間を作り出すのもネットの大いなる魅力だと。

コルク佐渡島 今まででは、リアル店舗だと、たとえば「宇宙兄弟ショップ」を作っても、宇宙兄弟ファンがその存在に気づけなかったり、来れなかったりで成立できなかった。でも、ネットの中の店舗では、できてしまう。

ユーザーが見えれば、売り方だって変わってくる

ユーザーが見えれば、売り方だって変わってくる

石郷 そうなると、商品の売り方も変わってくるんですかね?

コルク佐渡島 そういえば、ついこの間、フリマアプリで、使い捨ての箱(…のような何かだった気が…)が売れたっていうのがニュースになっていたんですね。その売り方が今の時代を物語っていると感じました。

 そのような箱が、幼稚園などの行事で必要で、持っていく必要があったりするわけです。でも、ドンピシャのタイミングに、家には意外とない。フリマアプリでピッとして買えてしまうんだったら、忙しい主婦は欲しい。だから、そのフリマアプリで「幼稚園で急に、こんなものを持ってきてください、そんなことを言われて、困っているお母さんへ」と説明がついていて、売れてたらしいんです。「商品じゃなかったものが商品になってしまう」んですよね。商品じゃないと思われたものを、見せ方によって、商品に変える。それが、今のECの面白さだと思っています。

 ECサイトの主流では、ニーズがわかりやすい商品しか売っていない。でも、人が欲しいのはそれだけではない。「あったらいいな」とたま~に人がかすかに思うもので、実店舗では売っていないものでも、ネット上ではそれをしっかりと商売にできる。

 ECが始まった当初から今に至るまでネットショップを運営してきた皆さんは、ある種、そこのトップランナーとしてのメリットは享受したんだけど、そのあとの新しい流れ、もっと多くの人がECでものを買うようになったとすると、もっと変なニーズも生まれてくるはずなんだけど、それに応えるシステムはまだ持っていなさそうだと感じています。

石郷 なるほど。うちならでは、っていうのは、どんなものにあったりしますか?

コルク佐渡島 梱包用のダンボールを凝っています。宇宙兄弟ならではのデザインです。本来、ダンボールってコストを下げるように仕向けていきそうなところですが、そこに凝って、お金をかけ始めたわけです。

 そもそも送料無料とか、安いのが好きなお客さんは、価値をお金に感じているってことです。宇宙兄弟ファンの方には、お金以外の価値、楽しみを感じてもらえるように工夫したいから、送料もいただいて、それにふさわしい価値を提供できるように僕らも頑張る。配送用のダンボール箱にしても、変わっていけば次はどうなるのだろうと気になるわけです。さすがに年二回買って、ダンバールの変化を楽しみたいって、なって欲しいんです。

 人は期待をしているから、その期待を超えてくると楽しいわけです。期待をわざと下げておくっていうのも、楽しんでもらうための手であって、とにかくまずは何らかの期待をしてもらうってこと自体が面白みを生みます。「期待するほどじゃない」とわざわざ言ってみても、今度は、逆に何だろ?何だろ?ってなるかもしれない。そういう遊びを、自分たち自身が楽しみながら、お客さんとコミュニケーションをしています。

店長さん、恋愛でいう“都合のいい人”になってない?

石郷 そう考えると、まだまだインターネット通販の持つ潜在的能力は大きいけど、それを運営する店の側が活かしきれていない可能性もあるんですかね?

コルク佐渡島 どうですかね。確かに、皆さん、売る工夫は、すごくされている。だから、ECって本当に便利なんですよ。でも、便利ばかりでいいのかな、って思うんです。例えば、ですよ。送り迎えをしてくれる彼氏や、食事をおごってくれる異性の友達って、便利だから、すっと友達だと思うんです。でも、なかなか恋人に昇格できないじゃないですか?そこで大事なのは、人が本気で付き合うときの態度を取った方がいいってことなんじゃないかと思うんです。

 その意味では、ECって、みんな都合のいい人の行動を取っていますよね?それって正解なのかなって思います。それが恋人との関係だったら、正解じゃないってわかるんだけど、お客さんとの関係だと、それが見えなくなっちゃう。だから、こういう私たちの売り方もきっとあるし、受け入れられるという自信もあるんです。

石郷 なるほど、今後、ECサイト側も、売り上げを追うあまり、都合のいい人にならないようにしないとってことでしょうね(笑)。独自の世界観を作り、ユーザーの気持ちにリーチしてくると、面白い商品も出てくる。一般では受けれられないようなものでも、ネットなら、それができるかもしれないと。今後の考え方を進める上で、参考になる意見がたくさんありました。本当に、ありがとうございました!

企画・構成 石郷“145” マナブ


記者プロフィール

石郷“145”マナブ

キャラクター業界の業界紙の元記者でSweetモデル矢野未希子さんのジュエリーを企画したり、少々変わった経歴。企画や営業を経験した後、ECのミカタで自分の原点である記者へ。トマトが苦手。カラオケオーディションで一次通過した事は数少ない小さな自慢。

石郷“145”マナブ の執筆記事