ライザップの事例から考える景品表示法への対応
【連載コラム】これだけはおさえておきたいECの法律問題
初めまして。アンダーソン・毛利・友常法律事務所の弁護士の木川と申します。このたび、「これだけはおさえておきたいECの法律問題」と題して、コラムを連載させていただくことになりました。よろしくお願いいたします。
私は、いわゆる「ヤメ検弁護士」でして、2012年までの12年間、刑事事件の捜査公判や法務省での法案作成を担当していました。そのうちの最後の2年間は、東京地検医事係検事として薬事法を担当し、サプリメントの表示に関するEC業界の取締りなども担当しました。弁護士転身後は、表示広告に関する法律問題を中心に、EC業界のクライアントの皆様から、消費者トラブルのご相談を数多く受けております。
このコラムでは、EC業界の皆様が日常的に遭遇する法律問題について、具体的な事例の解説を交えながら、分かりやすくご説明したいと考えております。初回となるこのコラムでは、少々以前の話題になりますが、ライザップの景品表示法問題について解説します。
ライザップの広告は何が問題だったのか?
今年の5月、神戸のNPO法人「ひょうご消費者ネット」が、ライザップの「30日間全額返金保証制度有」という広告について、景品表示法の有利誤認表示に当たる疑いがあるとして、改善を求める申入書を送付しました。
ライザップの広告には、「プログラム開始1ヵ月までの間は全額返金保証の期間とさせていただき、内容にご納得いただけない場合、全額を返金させていただきます。」と記載されていました。しかし、この広告には、「制度の適用には一部例外がございます。詳しくは当ジム会則をご覧ください。」との注意書きがあり、会則には、「全額返金は会社が承認した場合に限られる。」、「転勤など会員側の事情による場合には返金しない。」という趣旨の記載がありました。
ひょうご消費者ネットは、会社の一存で返金の可否が決められるにもかかわらず、確実に返金されると消費者が誤認するおそれがあり、景品表示法の有利誤認表示に当たるとして、記載の削除を求めました。
有利誤認表示とは何か?
景品表示法は、「価格等の取引条件について、著しく有利であると誤認される表示」を有利誤認表示として禁止しています。典型的な有利誤認表示としては、二重価格表示があります。これは、常に1980円で販売しているにもかかわらず、「通常価格3980円のところを今だけ1980円」と表示するような場合です。また、サービスを継続利用する場合には追加費用が発生するにもかかわらず、当初費用だけで継続利用できるように表示するような事例も、有利誤認表示に当たります。
ライザップの広告は、実際には1か月以内の退会でも全額返金の対象にならないことがあるにもかかわらず、無条件に全額返金の対象になるように誤解される可能性があったため、消費者団体から有利誤認表示だという指摘を受けたわけです。
ライザップの鮮やかな幕引き
ライザップは当初、「大変困惑している。申し入れは法的根拠を欠くものだ。」とのコメントを公表しました。しかし、その後すぐに、法令違反はないというスタンスは維持しながら、問題を指摘された会則の規定を削除することで、問題の幕引きをしました。現在、ライザップのHPには、「最高水準の結果をお約束すべく、プログラム開始から30日間はいかなる理由でも、ご納得いただけないときは、全額を返金いたします。」と記載されています。
ライザップは、問題とされた会則を早々に変更して、広告の表示内容に実態を合わせることで事態を収束し、会社のイメージが悪化することを回避しました。会社の危機管理としては、非常に上手な対応だったと思います。それでは、ライザップが消費者団体からの申入れを拒否して、広告も会則も変更せずに突っ張り続けたら、どのような結果になったでしょうか。
次回は、このような観点から、景品表示法違反に対する消費者団体の差止訴訟や行政当局の措置命令などについて解説します。