薬事法の基礎② 「広告」とは?

【連載コラム】これだけはおさえておきたいECの法律問題
アンダーソン・毛利・友常法律事務所 弁護士 木川和広

第4回:2016年EC業界注目の法律トピックTOP3
http://ecnomikata.com/ecnews/backyard/7679/

第5回:薬事法の基礎① 「医薬品」とは?
http://ecnomikata.com/ecnews/strategy/7711/

あるサプリメントの広告が薬事法上の「医薬品の広告」と見なされた場合、未承認医薬品の広告の罪が成立し、2年以下の懲役または200万円以下の罰金に処されます。私がEC事業者の方から頻繁に相談を受けることの1つに、商品のLP(ランディングページ)と効能効果の説明をどのように切り分けたら薬事法違反にならないかというものがあります。

今回のコラムでは、薬事法の「広告」概念について、基本的な考え方をご説明した上で、近時の注目すべき摘発事例についてご紹介したいと思います。

薬事法上の「広告」とは?

平成10年に出された厚生省の通達「薬事法における医薬品等の広告の該当性について」では、以下の3つの要件を満たす場合が、薬事法上の「広告」に該当するとされています。

①顧客を誘因する意図が明確であること
②特定医薬品等の商品名が明らかにされていること
③一般人が認知できる状態にあること

一般に公開されたウェブページであれば、③の要件を満たすことは明らかですから、問題になるのは①と②です。1つのURLのページの中に、ある成分の効能効果の記述とその成分を使ったサプリメントの商品名が記載されていれば、このページが未承認医薬品の広告に該当することは当然でしょう。

一方、成分の効能効果の記述とサプリメントの商品名が別のページに記載されていれば、原則として、未承認医薬品の広告には該当しませんが、効能効果が記述されたページに商品ページへのリンクが張られているような場合は、それぞれのページが一体のものとして、未承認医薬品の広告とみなされます。

要するに、医薬品的な効能効果の記述とサプリメントの商品名が、客観的に見てどの程度つながっているかによって、①顧客を誘引する意図が明確であること、②特定医薬品等の商品名が明らかにされていることという2つの要件の成否が判断されることになるわけです。

次に、この点に関する注目すべき2つの摘発事例をご紹介します。

プロポリス事件

2014年2月、神奈川県警は、「がん細胞が死滅する」などと標榜し健康食品のプロポリスを販売したとして、健康食品販売会社の役員を逮捕しました。

この事件では、病院の待合などで患者向けに配布されていた無料の健康情報誌の記載が問題になりました。この事件で、販売会社は、商品名を記載した広告ページには医薬品的な効能効果を記載せず、ページを数枚隔てた健康情報ページでプロポリスの癌への効果をうたっていました。

見開きの左に商品の広告ページ、右に成分の効能効果という掲載の仕方であれば、効能効果が商品の広告と容易にみなされてしまうため、販売会社としては、ページを数枚隔てて両者の関係性を薄めようとしたのだと思われますが、結論的には、無料の健康情報誌が全体として1つの広告とみなされたわけです。

強命水事件

2014年8月、長野県警は、「痛み、かゆみを消す」など医薬品的な効能効果をうたって、「強命水」という飲料水を販売したとして、販売会社の役員を逮捕しました。

この事件で、販売会社は、通販サイトに掲載した「薬事法を遵守するために」という説明の中で、効能効果に関する体験談サイトを直接リンクすると薬事法違反になるためリンクは張らないと記載する一方で、「検索サイトで『諏訪 不思議な水』と検索すると、体験談やモニター情報がご覧になれます」と記載していました。

長野県警は、直接リンクが張られていないとしても、このような「検索誘導」によって商品名が記載されたページと効能効果が記載されたページを結びつけた場合には、双方のページが一体として商品の広告に該当すると判断したわけです。

薬事広告と刑事罰

上記のプロポリス事件では販売会社役員に執行猶予付きの懲役刑と罰金刑、強命水事件では販売会社に略式命令の罰金刑が科せられました。前科があるような場合でなければ、基本的に薬事法違反で実刑判決が出ることはありませんので、刑事罰そのもののインパクトはさほどではありませんが、やはり何と言っても、逮捕の報道が出てしまうこと自体が、多くの事業者にとっては致命的でしょう。

上記の2つの事件の販売会社は、その後も事業を継続しているようですが、ネット上には、今でも逮捕の報道記事が残っています。