意外と知らないメルマガの法規制(上)

【連載コラム】これだけはおさえておきたいECの法律問題
アンダーソン・毛利・友常法律事務所 弁護士 木川和広

第5回:薬事法の基礎① 「医薬品」とは?
http://ecnomikata.com/ecnews/strategy/7711/

第6回:薬事法の基礎② 「広告」とは?
http://ecnomikata.com/ecnews/strategy/7799/

EC事業者の営業において欠かせないツールの1つがメルマガです。このメルマガを規制する法律が2002年に施行された「特定電子メールの送信の適正化等に関する法律(特定電子メール法)」です。EC事業を始めたばかりの事業者はもちろん、長年EC業界で活動されている事業者でも、意外とこの法律の具体的な規制内容をご存じないことが多いようです。

そこで、今回と次回のコラムで、特定電子メール法について、2回に分けてご説明したいと思います。今回は、特定電子メール法上の事業者の義務について、次回は、違反に対する行政処分や刑事罰についてご説明します。

「特定電子メール」とは?

「特定電子メール」とは、「広告又は宣伝を行うための手段として送信する電子メール」と定義されています。通常、メルマガは広告・宣伝のための手段として送信されるものですので、「特定電子メール」に該当します。メルマガの内容が直接的にサービスや商品の広告・宣伝を含まなくても、「広告・宣伝しようとするウェブサイトへ誘導することが送信目的に含まれる電子メール」も特定電子メールに該当しますので、基本的に全てのメルマガが「特定電子メール」に該当すると考えて良いでしょう。

オプトアウト規制からオプトイン規制へ

事前の同意無くメルマガを配信できるけれども、配信停止の要求があった場合には配信を停止しなければならないという規制形態を「オプトアウト規制」、事前の同意無しにはメルマガの配信が許されないという規制形態を「オプトイン規制」といいます。2008年の特定電子メール法の改正では、それまでのオプトアウト規制に代わってオプトイン規制が導入されました。したがって、現在では、原則として、受信者の事前の同意がなければ、メルマガを配信することは許されません。

「同意」の前提として、メルマガの送信が行われることを受信者が認識できるような形で説明する必要がありますが、この点について、総務省と消費者庁が共同で作成した「特定電子メールの送信等に関するガイドライン」では、以下のような場合には、適切な説明の表示と言えないとされています。

・極めて小さい文字又は極めて目立たない色の文字で記載されている場合
・約款や利用規約が長く、ウェブサイトを膨大にスクロールして、注意しないと認識できないような場所に記載されている場合
・「関連サイトから広告・宣伝メールが送信される」とだけ記載され、送信者が具体的に特定されていない場合

同意の取得方法と記録保存義務

メルマガ送信に同意するチェックボックスに予めチェックが入っている方式を「デフォルトオン」、チェックボックスが空欄になっていて受信者が自分でチェックを入れる方式を「デフォルトオフ」といいます。法律上はどちらの方法を採らなければいけないという決まりはありませんので、デフォルトオン方式を採用することも可能ですが、ガイドラインでは、デフォルトオフが推奨されています。また、デフォルトオン方式を採用する場合であっても、チェックボックスが複数ある場合には、一括で全てのチェックを外す機能を付けることが推奨されています。

また、適切な同意が得られたかどうかを事後的に確認できるようにするため、「同意を証する記録」の保存が義務付けられています。ウェブサイト上で同意を取得する場合には、送信に同意したアドレスと同意の取得時期が記載されたリストに加えて、そのウェブサイトの説明画面のデータを保存することになります。保存期間については、特定電子メールの送信をしないこととなった日から1か月間です。

オプトイン規制の例外

明示の同意がない場合であっても、受信者がメルマガの送信に同意していると考えられる以下の場合には、オプトイン規制の例外として、明示の同意なくメルマガを送信することができます。

①受信者が書面でメールアドレスを通知した場合
②取引相手に送る場合
③メールアドレスを公表している団体・個人に送る場合

「書面でメールアドレスを通知した場合」の具体例としてガイドラインに挙げられているのは、名刺にメールアドレスが記載されている場合です。メールアドレス入りの名刺を渡す場合には、そのメールアドレスに営業メールが来ることも、黙示的に許容していると理解されているのです。

オプトアウト

受信者がいったんはメルマガの配信に同意した場合であっても、配信停止を希望した場合にはメルマガの配信を停止しなければなりません。

オプトアウトの通知をする場合には、受信対象となっているメールアドレスを明確にする必要がありますが、具体的な通知の方法は特に限定されていません。したがって、例えば、電話やFAXで配信停止が通知された場合でもオプトアウトとして有効です。

表示義務

事前に同意を与えた送信者からの特定電子メールであるかどうかを確認できるようにすると同時に、確実にオプトアウトができるようにするため、特定電子メールには以下の事項を記載することが必要です。

①送信者の氏名又は名称
②オプトアウトの通知ができること
③オプトアウトの通知を受けるためのメールアドレス又はURL
④送信者の住所
⑤苦情・問合せ等のための電話番号、メールアドレス、URL

終わりに

今回は、特定電子メール法上の事業者の義務をご説明しました。義務の内容はそれほど複雑ではありませんので、一度きちんと自社のメルマガが法律に適合しているかチェックすることをお勧めします。

次回は、これらの義務違反に対する行政処分と刑事罰について、実際の摘発事例を紹介しながらご説明します。