日本EC企業が中国EC市場で成功するために欠かせないこととは?

西村 勇哉

21178_thumbnail_600350_thumbnail.jpg 左:中国トレンドExpress 編集長 森下 智史氏
右:ECのミカタ株式会社 編集長 石郷 学

11月11日、中国で行われた「独身の日」。出荷件数、売上ともに過去最高の結果となり、EC大国としての矜持を保ったといえよう。そんな中国EC市場に参入している日本EC事業者も少なくない。しかし、成功していると言える企業がほとんどないのが現状だ。中国で、日本製品の信頼は非常に高いにもかかわらず、中国越境ECでは成功しきれないのはなぜだろうか。

今回は留学から就職と、17年間中国で生活をし、現在は日本企業の中国向けマーケティングサポートに携わる中国トレンドExpressの編集長・森下 智史氏とECのミカタ編集長の石郷 学が「日本のEC事業者が中国で活躍する為には」をテーマとし、対談を行った。

中国EC市場を把握するには情報の整理が足りていない

石郷:中国越境ECは市場も大きいですし、隣国ということもあり、参入している日本EC事業者は非常に多いです。その中で、成功を収めているEC事業者は全体のどれくらいの割合になるのでしょうか。

森下:何を持って成功とするかは非常に難しいですが、ほとんどの企業は未だ手探り状態です。定番商品として中国に根付いているのはユニクロ・資生堂のような大手企業だけだと思います。もちろん中小企業でもしっかりとしたファンを獲得し、収益を上げている企業もあります。

石郷:事業者からは中国EC市場での成功パターンというものが非常に見えづらくなっていると感じます。なんとなくTmallがいい、JD.comがいいという断片的な情報はあると思うのですが、全体感の把握がなかなか難しくなってきています。

このような状況になってしまった理由は、どこにあるのでしょうか。

森下:5〜6年前までは、非常にシンプルだったなと個人的に感じています。アリババとテンセントが中心プレーヤーとして、事業を展開していました。そしてアリババの中に、TmallとTaobao、テンセント は京東(JD.com)に投資を行うなど関係を構築してきました。とてもシンプルでわかりやすいですよね。今でもその影響力は強く、中国EC市場の約8割のシェアを占めています。

しかし、急激な市場の成長と共に、越境EC専門のアプリや、CtoCなどの市場が台頭し始めて、混戦模様になっています。越境EC系でいうとKaola.com、ECモールとしては最近ではAmazon、主に女性をターゲットにハイレベル商材を取り扱う唯品会(VIP)といったECサイトが非常に多くなり、どこに出店すればいいのか、一つ一つ分析を行いきれない。情報も、量としては多くなっているものの、おっしゃるように断片的なものばかりで、EC事業者が何をすればいいのか、わからないといった背景はあると思います。

石郷:情報が整理しきれていないということですね。しかし、その中でもやはりアリババ、テンセントの影響力は凄まじいですね。

情報収集の要『SNS』を支えるのはソーシャルバイヤーの存在


森下:アリババは中国のEC市場を作り上げたといっても過言ではないので、多くの人から支持されています。2018年の独身の日の流通総額は世界各国で取り上げられましたが、大事なのはなぜアリババがここまで大きな影響力を発揮できるようになったかです。

EC黎明期から現在に至るまで、中国でも商品が本物かどうかは多くの消費者にとっての不安材料になっています。その社会の状況に対し、アリババはAlipayという決済サービスを通して消費者がニセモノや劣悪商品を買わされるというリスクを下げることに成功しました。

Taobao上でユーザーが商品を購入した場合、その代金は直接店舗には支払われず、いったんAlipayが預かります。そして店舗から届いた商品をユーザーが確認して受領した時点で、Alipayは代金を店舗側に支払うシステム。つまり単純に決済システムの整備だけではなく、それを「店舗与信」に近い形で活用し、ユーザーに提供したのです。

石郷:中国において、ネット上での商取引に信用を与えたのがアリババだったんですね。2018年においてもその影響力の大きさは益々拡大しているように思えます。

しかし、勘違いしてはいけないのが、アリババに商品を出店したから売れるということではない、ことです。とあるイベントで中国ECサイトを非常に推す人などにもお会いますが、何が売れているか、しか話してくれません。でも事業者が一番知りたいのは、どのように売れたかです。

森下:まさにその通りです。2018年はそれを考えされられる事件が起こりました。その代表的なものが「酒粕マスク」の大ヒットでしょう。

中国で人気の女優が同商品を使っていることを小紅書(RED)の自身のアカウントで紹介したところ、瞬く間に拡散され、それを見た多くの消費者が買い求めたことからECだけではなく、日本の店頭からも消えてしまいました。

ここで多くの人が勘違いをしてしまったのです。

「小紅書を使えば売れる」、「KOLのような有名人を使えば売れる」といった単純な話ではないですよね。酒粕マスクに関して言えば、企業が戦略的に行ったプロモーションではなく、ラッキーパンチのようなものです。もちろん品質の高い優れた商品だと思いますが、その売れたモデルを「別のプロジェクトで再現できるか?」といえば、それは難しいですよね。

石郷:確かに戦略を立てての施策ではないからこそ、品薄になっているのでしょう。その中でも、日本の店頭からも消えているのはどのような理由からなのでしょうか。

森下:ソーシャルバイヤーに中国のフォロワーから問い合わせ、発注が増えたためだと思います。ソーシャルバイヤーというのは、SNSでつながっている中国在住のフォロワーから注文を受け、日本で日本の商品を買い付けて郵送する、すなわち中国在住の消費者の代わりに商品を購入する人のことを指します。そのため、彼らの事を中国語で「代購」と呼びます。買い占めをして売りさばく転売屋と錯誤してしまう人がいるのですが、ソーシャルバイヤーは、あくまでも自身のフォロワーからの依頼で商品を購入する人たち。注文もなく「まず買い占め」をするバイヤーとは分けて考える必要があります。

石郷:SNSの普及に伴い、越境ECにおいては、このソーシャルバイヤーを通しての購入率が増えていると思いますが、数字で表すとどのくらいの割合になるのでしょうか。

森下:おっしゃる通り、中国人が日本商品を購入する場合の販路は、ECモールが35%、日本旅行が25%、SNSで購入が40%ほどです。このSNSのほとんどが、ソーシャルバイヤー流入です。

実際にお付き合いのある、バイヤーさんにはフォロワー数千人を抱えている人もいます。

どのようにして生まれたかというと、例えば日本に住んでいる中国の方が親族や知り合いから頼まれて購入していた、いわばお手伝いのレベルが、クチコミや紹介などで広がり、ビジネスレベルに進化していったと考えられます。

実は中国国内で国内の商品を扱っているソーシャルバイヤーも多いのです。中国は国土が広く、その地域でしか販売していない商品も多く存在します。そうした商品を需要のある他の地域在住者の代わりに購入して販売する。日本では馴染みのない文化かもしれませんが、中国の方々にとっては一般的な購買方法なのです。

石郷:SNSの普及が進めば進むほど、ソーシャルバイヤーの需要も増えていきますよね。日本製品の品質の高さに加え、自身が信頼しているバイヤーが購入したものなので、信頼も付加できますね。

こう聞くと日本のEC事業者はどう売るか、も大事だと感じますが、より良い商品を製作することが大事になってきますね。そのあとに認知・信頼を得ていくという順番になってくると思います。


森下:その通りだと思います。

ソーシャルバイヤーについて、日本の企業では直接接触する機会が少ないため、若干ネガティブなイメージを持つ人も少なくないようです。
単純な買い占め屋と異なるのは、彼らは数百から数千のユーザー(消費者)を抱えていますが、その根底にあるのは「信頼感」。すなわち「偽物を売らない」、「ユーザーからのニーズに応える」、「商品について細かくレクチャーする」といった、ユーザー側に立ったサービスによってフォロワーから信頼され、継続的な購入に結びついています。

また、彼らは中国で知られていない日本の商品をユーザーに紹介しますが、あくまで「消費者視点」で、自身の利用経験、他の商品との比較した体験を伝えるなど、客観的な情報発信を行うことで、ユーザーからの信頼を得ている部分があります。

同時に彼らは自分が売りたいがために事実でない商品情報を伝えると、それによって信頼を失い、ユーザーが離れてしまうことをよく知っています。

こうしたソーシャルバイヤーたちを味方につける意味でも、日本の企業が商品企画に力を入れるのは間違っていないと思います。彼らが「良い商品」、「中国の消費者にとってプラスになる」と思ってくれれば、それを積極的に中国側へ発信してくれるでしょう。

石郷:非常に基本的なことですよね。いい商品が売れるという、ECに限らずマーケティングの基本です。なぜ齟齬が発生してしまっているのでしょうか。

森下:私も不思議なんですよね。日本市場ではあれほど冷静に、しっかりとした分析をする日本人が中国市場に進出するとなった瞬間に、日本発のブランドという強みだけで売れると思ってしまっています。そこまで甘くはないと言いたいですね。中国消費者にもっと寄り添い、分析を行えば自社の問題にはすぐに気づけると思います。

実際に足を運んでみるのも有効な戦略だと思います。近いですからね(笑)。よく、中国の人たちが日本商品に対して良い感情を持っていないのではないかという話も耳に入ってきますが、メディアで報道されているように輸入品の博覧会(中国国際輸入博覧会)まで行っています。自分自身で積極的に情報収集を行っていれば、偏向的すぎる考えにはならないと思います。

石郷:確かに我々も、中国で日本商品が人気ということは把握していますが、何が人気なのか、どうしてその商品が売れているのかという共通項はあまり考えないなと思いました。

売れている商品には、売れるべき理由があるんですね。そこまでに至った理由は、消費者分析など地道な努力があったと。中国を市場として捉えるのではなく、もっと消費者にフォーカスした視点が必要だと感じます。

ECのミカタ編集部のまとめ

越境ECにおける決済、物流、言語、税制などの課題。それらに共通してくるのがその国独自の文化だ。欧米であれば確かに視察に行きにくいだろう。しかし、隣国でもあり、日本の商品と相性のいい中国であれば、分析を行えば行うほど、結果はついてくる。中国に進出をしている事業者も、これから参入を考えている事業者も、初心を忘れずに中国消費者と向き合うことが何よりも重要になってくることが浮き彫りになった対談だった。

記者プロフィール

西村 勇哉

メディア編集部 編集チーム所属
見た目はヒョロイのに7歳から空手を習っています。
他にも水泳、サッカー、野球、弓道の経験有り。
たまにメルマガに登場しますが乃木坂46の話しかしません。

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