アパレルECのサイズ課題に向き合ってきたVirtusizeとFABRIC TOKYOが考えるパーソナライゼーション

西村 勇哉

右:Virtusize 代表取締役 上野オラウソンアンドレアス氏
左:FABRIC TOKYO 代表取締役社長 森 雄一郎氏

アパレルECのサイズ課題は昔も今も変わらず事業者の大きな課題となっている。近年ではZOZOスーツなどテクノロジーで解決しようという動きも多く、消費者側の関心度も高くなっている。

もちろんアパレル業界でも、事業者もベンダー側も課題解決に向けた取り組みを行なっている企業は多い。

今回はサイズ課題の旗振り的存在であるVirtusize(バーチャサイズ)とFABRIC TOKYOの代表にお話を伺った。

サイズ課題をITで解決する共通点を持つ2社

サイズ課題をITで解決する共通点を持つ2社

――もともと、VirtusizeもFABRIC TOKYOも創業者自身の体格が大きいというサイズ課題に悩まれていた共通点があると伺いました。

アンドレアス:そうですね、Virtusizeの創業者は195センチくらいの、背が高いスウェーデン人でした。そのため自身にフィットするアイテムが少なく、洋服選びにはいつも困っていました。

――そこから衣服というアイテムではなく、ツールを作成した理由はなんだったのでしょうか。

アンドレアス:創業者も私も同じ意見を持ち合わせています。それはECとファッションの相性が悪いということです。

オンラインの市場はとても魅力的です。しかし、ECは標準化されている商品と非常に相性がいい。例えば本や家電などです。誰が持っていても同じ機能のため、個人にフィットするかどうかの課題が少ない。そのため写真と値段の情報だけで購入できます。

しかしながら、ファッションは標準化されている商品とは異なります。自分自身の身体にアイテムがフィットするかどうかはとても重要な点ですが、写真や値段では、着心地はわかりません。また、着丈や腕の長さの情報などもフィット感を感じるまでの有益な情報とは言えないと思います。あくまでも目安に留まります。

ただ消費者の本音は「ECでファッションを買いたい」であると思います。あらゆる商品はECで購入可能なのに、ファッションはそうではない。そこであらゆるブランドへツールを提供すれば、サイズとフィット感の大きな問題が一気に解決します。このような考えからアパレル市場全体のサイズ課題を解決したいと思い、今のサービスに行き着きました。

――FABRIC TOKYOは、なぜスーツをメインに展開を行なったのでしょうか?

:僕達は最初からツールではなく、オーダーメイドスーツを作りたいと考えていました。

というのも僕の原体験の影響が大きいです。

20代前半のとき僕は不動産のスタートアップ企業で働いていたのですが、とても忙しい職場でした。毎日色々な方々とお会いするので、スーツもずっと着ていましたね。そんな忙しい日々の中で時間を見つけてスーツを探しに街へ行くのですが、僕も腕が長かったりしてなかなか自身に合うスーツが見つからない悩みを持っていました。

そんなときに友人に紹介してもらったオーダーメイドスーツに感銘を受けたのが一番最初のきっかけです。ただオーダーメイドって敷居が高いという先入観があり、そこまで流行っていませんでした。実際、当時の僕も敷居の高さは感じていました。

例えば値段が高く、20〜30代には当たり前であるECでは購入できないなど、さまざまな悩みがあります。

この敷居を取り払いたいと考え、ITを活用して、サイズの悩みを解消し、オーダーメイドの楽しさをもっと多くの人に伝えるためにFABRIC TOKYOを2014年に創設しました。

創業時は街のテーラー屋と連携することで様々な展開を行えるのではないかと考えたこともありましたが、ITに明るい会社がそもそも世の中に無く、サイズ課題を解決しようと考えている人は多くなかったと感じています。そのため自分たちでやるしかないという想いはありましたね。

消費者のサイズ課題への興味は年々増えている。解決はデータ活用

消費者のサイズ課題への興味は年々増えている。解決はデータ活用

――2社ともファッション業界、サイズ課題の解決を1つ視野に入れたビジネスを行なっており共通点も多いと思います。それぞれお互いの会社のことをどう見てるのかなっていうのが気になっています。創業年も近いですよね。

アンドレアス:Virtusizeの日本法人設立は2013年です。

:FABRIC TOKYOは2012年に創業で今のサービスは2014年からですね。

アンドレアス:FABRIC TOKYOさんはオンラインオーダーメイドのパイオニアだと感じています。ある意味リーダー的存在ですよね。また商材もビジネスで男性をターゲットにしているため、非常にわかりやすいです。個人的にはFABRIC TOKYOさんのロイヤルユーザーがとても多いと見ています(笑)

:そうですね。約45%近くのお客様が1年間のうちに再購入をしてくれています。しかもその複数回購入をしていただける方も多い。1年間に3回4回とご購入いただけることが増えてきているので、LTVは急速に高まっています。

成長の要因はいくつかありますが、ひとつはお客様のサイズのデータをしっかり保有していて、サイズに本当に不安なく買えるっていうユーザー体験を提供しているっていうこと。

ふたつ目は、商品カテゴリーの拡充です。

スーツやシャツだけじゃなくて夏はポロシャツ、冬はコート、他にもカジュアルジャケットなど、ビジネスシーンで使う商品をどんどん増やしています。

その結果、お客様の購入タイミングがすごく増え、リピート率も非常に上がってきていますね。

――逆にFABRIC TOKYOから見た、Virtusizeの印象を教えてください。

:EC単体やECファーストのいわゆるD2CやD2C的なアパレルブランドはとても増えてきています。この動きの中でEC上でサイズがわかるVirtusizeの存在は大きいですよね。

従来のECは、楽天やZOZOTOWNのようなモール型が主流でした。ただ最近ではプラットフォームに依存せずに、自社ECに力を入れる事業者も多い。BASEやSTORES.jpを活用したオンラインファーストのスタートアップブランドの数も増えてきています。その時に試着なく、サイズ課題を解消できるVirtusizeの有用性は高いです。

アンドレアス:EC業界のサイズへの関心は創業してからの数年間で今が一番高いレベルだと実感しています。

それこそVirtusize日本法人設立の2013年と今の周りのリアクションは大きく異なります。2013年はサイズにそこまで気を遣わずとも、消費者はある程度商品を買っていると考えている事業者様が実際いましたが、今はそのように考えている事業者様はほぼいません。

サービス自体も当時から面白いと言っていただくことはありましたが実際の導入企業数は本当に数社程度でした。

今ではAcne Studiosなどの海外ブランドも合わせると100社近くが弊社サービスを導入していることからも、サイズ課題に対してアパレル事業者がどのように向き合っているのかがわかると思います。

:アンドレアスが言う通り、当時は「あったらいいな」っていうものが、今は「無くちゃいけないな」に変わってきていますよね。

FABRIC TOKYOも創設から5年半。需要は間違いなく高まっています。それは売上の伸びや、会員数が年間2〜3倍のペースで増えていく推移を見てもわかります。

ただ大手のスーツ会社さんのEC化率ってまだ1%なんですよ。アパレルのEC化率が大体10%前後くらいなので、まだまだ課題は多いと思っています。やはりスーツはアパレルの中でも特に様々なサイズ感が求められるアイテムなので。

そうなると、スーツはECとの相性は良くないのかもしれません。解決方法として、弊社は、リアル店舗で独自の採寸の仕組みを持ち、取得したサイズやライフスタイルのデータをもとにECで買っていただくというオムニチャネルかつパーソナライズのモデルを運用しています。

このデータを活用し、いかに顧客満足度を高められるかがプラットフォームには求められているのではないでしょうか。

ブランドへの安心が惰性になる危険性が・・・

ブランドへの安心が惰性になる危険性が・・・

――2019年にはZOZOTOWNが展開したMSP(マルチサイズプラットフォーム)事業が始まり、消費者側もECのサイズ課題に敏感になったのかなと思うのですが、実際いかがでしょうか?

アンドレアス:そうですね、数は増えていないと思いますが、もともと消費者にあったニーズが顕在化したと思っています。自分にピッタリフィットする商品が欲しいというニーズですね。ZOZOさんもこのような消費者ニーズに対しての様々なソリューションを考えているでしょう。MSPが最終的なゴールではなく、また何か施策は考えていると思いますよ。

――アンドレアスさんが指揮を取るなら、最終的なゴールはどこに行き着くと考えていますか?

アンドレアス:パーソナライゼーションが1つ、ゴールになると思います。

MSPは身長と体重の統計ですよね。もちろんそれだけのデータを集めて活用するのは大変ですが、個人を見ているデータではありません。あくまでも平均値です。パーソナライゼーションは個人の好みまで含めたデータが必要になるので統計ではわからない情報も多いですが、消費者ニーズはここまで高まってくると思います。

ただ全てをパーソナライズするのは非常に大変なので、バランスが大事になります。メインがMSP、その先にパーソナライゼーションの構図を作れるといいですね。

その上で、新規顧客をブランドやプラットフォームがどれだけ満足させることが出来るか、しっかりと考える必要があります。

MSPに関してもパーソナライゼーションに関しても、既存で買ったことのある消費者であればお店にはデータがあり、消費者には一度買った経験があるので、安心して買い物ができます。

しかし、新規の場合はそうはいきません。ここの溝を埋めることはとても重要です。

「安心して買い物できる」、ロイヤル顧客になるということなので素晴らしいことである一方、他のブランドとの出会いを妨げる要因にもなりかねません。

――慣れているブランドでの買い物がどんどん惰性に働いてしまうということでしょうか。

アンドレアス:はい。同じブランドでもシーズンごとで少しずつ形は変わるので、年間を通して自分自身に合う買い物をするのは難しい。だからVirtusizeでは新規のブランドをハードルなく利用できるようにサービス展開を行なっているのです。

:なるほど。そうして欲しいですね。僕は本当に合うサイズがないので。

でも今の話聞いて改めて実感するのは、ブランドとの新しい出会いを消費者はすごく求めていますよね、現代人はどんどん忙しくなってきているので、ウインドウショッピングとか行く時間も無くなってきているじゃないですか、

それにECでアイテムが買えるので、週末にはショッピングではなくアウトドアや旅行とかに出かける、このようなライフスタイルになってきています。

だからどんどん新しいブランドに出会わないんですよね。

――ECの検索は自分の知っているブランドを調べがちですよね。

:そうなんです。僕はAcne Studiosとかすごい好きなブランドなんですけど、やっぱり買っちゃうのは安心しているからかもしれないです。

この安心感がすごいポジティブなのか、それともちょっとその惰性なのかは考える必要がありそうです。ブランドとの新しい出会いがあったら、消費者に乗り換えられてしまうかもしれないですよね。でもお客様に選択肢を与えるっていうのはサービスプロバイダーとしてはやるべきことです。

でもそういうプラットフォームはあんまり増えていないですよね。そこはすごくチャンスがあるし、そんなサービスが出てきたら個人的には使ってみたいと思いますね。

アンドレアス:そうですね。新しい出会いもないし、出会いがあってもまだ不安が大きいからユーザーも買わない。なので、いつもと同じブランドでアイテムを購入する。

:そうだね、まさにまさに。

サイズ課題の解決は【画期的な体験】になる

――実際にサイズ課題が解消されたユーザーからの声などで印象的なことはありましたか?

アンドレアス:たくさんあります笑。

以前、ユーザー様からVirtusizeのサービスを利用して涙したと言われたことがあります。前に購入したものと比較できるということが非常に嬉しいと。こういう言葉は弊社としても刺激になりますし、非常に嬉しいですよね。

:お客様ですごく背が低い方がいらっしゃいました。量販店だとサイズが全く合わないんですと。背が低い・高い人ってフィットしなくとも、なんとか無理やり着られるんですよね。

ですけど、店に売ってないサイズってことで、自分が社会から阻害感を受けるみたいな印象になってしまうんです。結構、この悩みは僕も同様の経験があるので共感できる部分はあります。

その中でも、FABRIC TOKYOはオーダーメイドなのでそのようなお客様にも対応できます。そうなると、自分の存在を認めてもらえた、承認されたって気持ちになって、外に出ていくのもすごく恥ずかしくなくなり、むしろ楽しくなったって言っていただけることがありました。

ファッションのサイズって、格好良くみせるとか、便利になるとかそういう側面もあるけれども、マイノリティの人たちに前向きになれるようなそういうサービスになれる可能性があります。

これくらい洋服ってすごいパワーを持っています。自信をもって着れる洋服で毎朝でかけることができたら、その人達の一日って確実に変わるんですよね。そんな人が今後も増えればいいですね。

アンドレアス:サイズに悩んでいた人の問題を解決できることは、当事者からすると想像以上にインパクトのあることなんですよね。

――サイズ課題解決することで売上やCVRの向上に留まらず、エンドユーザーの生活を一気に変えてしまうポテンシャルがあるんですね。

:もちろん様々な良い面があります。Virtusizeのサービスであれば、返品率が下がったりとか、CVRの向上、EC事業者側のメリットも、そのユーザー側のメリットもすごくありますよね。

データ活用でパーソナライゼーションをより深く掘り下げる

データ活用でパーソナライゼーションをより深く掘り下げる

――FABRIC TOKYOもVirtusizeも顧客のサイズデータを初めとして、様々なデータを保有していますが、今後応用的に活用する予定などあるのでしょうか?

:FABRIC TOKYOはあんまりないです。今後もビジネスウェアをオーダーメイドで買えるというシンプルな体験を作っていきます。今まではスーツ、シャツが主流でしたが、夏場はポロシャツでもいい会社も増えています。冬はコートとか出していますが、自分の買ったスーツの上に着るコートのサイズで製作するので、しっかりとフィットします。本当に感動するレベルです。なので応用というよりも、ロイヤルカスタマーをさらにロイヤル化する、シンプルにお客様の満足度とかを高めていくことに、これからもデータは活用していこうと思っています。

アンドレアス:Virtusizeでは逆に色々な展開ができると考えています。基本的なコンセプトはサイズデータをメインにしつつもあらゆるビッグデータを活かして、便利で快適なオンラインショッピング体験を提供していくことです。

今までに培ったデータを元に他ブランド同士でもレコメンドが可能になりますし、よりユーザーが新しいブランドと出会えるようにするキッカケはどんどん作りたいですね。

――2020年にもなりましたが、これからファッションECのサイズ課題はどのように変化していくとお考えでしょうか?

アンドレアス:先ほどの話と被りますが、やっぱり体のサイズはパーソナライゼーションですよね。身長・体重が同じでも、スタイルや好みは全然違います。なのでパーソナライゼーションがカギになることは間違いない。

消費者ニーズも顕在化し、サプライヤー側もどんどんサービス展開をしていかないといけないですよね。

Virtusizeでは、ある程度のパーソナライゼーションを支援した上で、レコメンド機能の精度を高めてベストフィットさせる商品を探すお手伝いを支援できればと考えています。

:FABRIC TOKYOも頑張りますし、Virtusizeも今後も伸びると思います。それに僕達以外のソリューションも増えてくると思うので、より便利で楽しいショッピング体験ができてくるといいですよね。僕は買い物大好きな人間なんでどんどん便利になって欲しいです。

――新興のブランドだとどのような考えが必要になるでしょうか?いきなりツールを導入したり、実店舗で採寸というのは少々ハードルがあると思います。

:ブランド側は少し難しいですよね、ちょっと僕が思うのは、既存のアパレル会社は自社の顧客データを基にしたマネキンをベースに新たな洋服を作ります。自分たちがターゲットにしている顧客層のリアルなサイズから洋服のブランドってモノづくりをしていくのが一般的です。

ただ新しいブランドを立ち上げようとしている人たちっていうのはターゲット顧客のサイズデータすら持っていないわけですよね。つまり参考にできるマネキンがいないわけです。Virtusizeがそういう新しいクリエイターに対してサイズを提供するとかして、クリエイターがよりブランドを立ち上げやすいような機会をつくれるとか、そういう動きはもしかしたら今後あると面白いかもしれないですね。

アンドレアス:そうですね、Virtusizeは現状だとサイズにフォーカスした事業展開をしていますが、裏では日々大量に送られてくるデータを解析している「ファッションビッグデータカンパニー」です。サイズという切り口以外でも、データを活用して解決できる課題はたくさんあると思いますので、よりユーザー様にも事業者様にも価値あるサービス開発ができればと思っています。


記者プロフィール

西村 勇哉

メディア運営事業部 編集チーム所属
見た目はヒョロイのに7歳から空手を習っています。
他にも水泳、サッカー、野球、弓道の経験有り。
たまにメルマガに登場しますが乃木坂46の話しかしません。
連絡先→nishimura@ecnomikata.co.jp

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