ECサイトの制作料金は高い?安い?EC事業者が知るべき制作知識
EC業界の発展に伴い、自社のサイトを持ちたいという声を非常に多く聞きます。しかしECサイトの制作は、販売手法や商品によって必要な機能やコンテンツが大きく変わる為、一概にどこの制作会社が良い、このカートシステムが良いと言えない分野です。
そこで、今回はECサイトの制作やEC運営代行、広告運用代行を務め、なぜかお笑い芸人まで輩出している株式会社これから シニアコンサルタント 小野寺克吉氏にECサイト制作に関してのポイントを初心者でも分かるようにお伺いしました。
そもそもECサイト制作とは何か?
小林:こんにちはECのミカタの小林と申します。本日はECサイト制作に関して手順や価格、重要なポイントなど色々なお話を聞ければと思いますのでよろしくお願いします。早速ですが、そもそもECサイトはEC事業者にとってどういう存在になるでしょうか?
小野寺氏: 現実で言うと自分のお店をもつことです。その中で、いわゆる自社のECサイトをもつ場合は路面店のイメージですね。一方でAmazon.co.jp とか楽天市場、Yahoo!ショッピングなどのECモールへの出店は、百貨店やショッピングモールなどのテナントに出店するイメージですかね。
小林:ちょっとおバカな質問しますけど路面店だと何がいいんですか?
小野寺氏:現実もWEBも一緒ですけど路面店だと自分の色が出せますよね。インテリアや決済など自由に出来ます。一方でテナントであれば店の坪数や形、販売形式など出店するデパートなどに完全に合わせなければいけないですね。デパートがお客さんを呼んでくれるので集客面は助かりますが、売り上げから何パーセントは出店料や売上手数料で引かれますね。路面店だとお店のローンはあるかも知れませんが、テナントへの出店で発生する制約がないので色々と自由ですよね。
小林:分かりやすくありがとうございます。ECでも独自のサイトを持つかECモールに出店するかという話はよくあるので、やっぱりよく似ていますね。
ECサイトができるまで
小林:では、ECサイトを制作していくまでにはどのような工程があるのでしょうか?
小野寺氏:ざっくり分けると①コンセプトやターゲットの選定②必要な機能の洗い出し③カートシステムの選定④カラーなどの基礎デザイン決め④ワイヤーフレーム作成⑤デザインカンプ確認⑥コーディング⑦修正確認⑧納品と大きく分けて8段階で進んでいきます。
まず自分の店を作るのであれば、どういうユーザーに買ってもらいたいのか決める事。ユーザーへの販売方法を決めてもらい、そこから、ECサイトに必要な機能を考えてカートを決めていきます。
そして、ターゲットや売り方、機能を考慮してデザインを進めて、ワイヤーフレームという設計図を書いていきます。それを元にHTML・CSSなどの言語でコーディングといったフローですね。
小林:なるほど。特に気を付けるべきことはありますか?
小野寺氏:特に①~③をきちんと固めていないと後々、前提が崩れてコストやリソースが増えるため要注意です。
小林:例えばどのようなことがあげられますか?
小野寺氏:良くある例ですが、定期通販の場合はリピート機能が必要となりますし、コンテンツの更新頻度が高ければCMS機能を重視する必要がありますよね。最初の段階でこういった必要機能の洗い出しをしてないと、後でやっぱり別のカートシステムが良いと言われても取り返しがつきません。
小林:そうなったら確かに費用もリソースもかかりますね。機能面の他には何かありますか?
小野寺氏:ユーザー想定やペルソナ設計ですね。バッサリ言ってしまうと、物があふれている時代だからこそ、商品を買う為のストーリーとか、どういった人にこの商品が合うか、そういったバックボーンがないと商品は買われないです。
小野寺氏:どこにも売ってないような独自の商品であれば、そこまで凝った設計をしなくても売れる可能性はありますが、結局そういうのはAmazon.co.jpや楽天市場で売っています。
なので、ターゲット(ユーザー)やコンセプトをしっかり定めてECサイトを作らないと、印象の薄いECサイトになり、結果的に売り上げも上がらないのです。
小林:ECサイトの制作を進めやすくすることにも役立ちますよね。
小野寺氏:そうです。ECサイト全体の仕様に関わってきますので、こういうコンセプトだから、こういった写真を撮らなきゃいけないとか、こういう商品であれば他と比較してこのぐらいの価格設定をしなければいけないとか、共感を得るためにこういうコンテンツもあった方がいいですよねとか、制作会社からのアドバイスもしやすくなります。
小林:なるほど。最初からECサイト側で決めている事も多そうですね。
小野寺氏:それが現実として、お問い合わせをいただく人のほとんどは、いくら以上で送料無料にしますか?と聞いても「やっぱり送料無料の方がいいですか?」といわれる程度の温度感で、最初から上流部分が決まっているケースは少ないです。そういった場合は僕らのような制作会社が支えてあげなければいけませんね。
また、1から機能開発すると費用が増えていくので、基本的にはどのカートシステムならば再現できるかがポイントになります。その為、制作会社側がどのカートシステムに対応できるかによって提案が変わると思います。
小林:ECサイトさんがカートシステムを選ぶ判断基準はどういうのが多かったりしますか?
小野寺氏:基本的な判断基準は、機能面とセキュリティ面、価格の3つですね。月額の利用料はどう違うのか月額費用以外に発生する費用はないのか、どういう機能が備わっているかなど。セキュリティを気にするのは結構大手の会社様が多いですね。
小林:でも、最近だと各社カートシステムもかなり開発されていているので、基本的なことはどのカートシステムでもできると思っていますがいかがでしょう?
小野寺氏:大体そんなイメージですが、細かい所での違いが多くあります。例えばfutureshopであればユーザー側がLINE IDでネットショップにログイン出来たり、LINE@で会員登録出来たりとソーシャルログイン機能が充実しています。あとはカートによってはユーザーがスマホで注文履歴が見れなかったり、OOpayが使える使えないだとか、こういった細かいところなので、お客様はもちろん知りませんし、僕らも追いつくためにかなり頑張っています。
基本的に自社だけで選定するのは難しいと思うので、制作会社と密にコミュニケーションを取って提案をもらう事がおすすめです。
3) ECサイト制作にかかるコスト
小林:ECサイトさんはコスト面を良く重視しますが、制作側としてはどう思いますか?
小野寺氏:もちろん、EC事業者さん側のご都合で予算がかけられないことはあると思います。しかし、WEBでの制作物だから安くできるというのは勘違いです。その道のプロにお願いすることは、その会社の失敗や成功経験も踏まえたノウハウを提供するという事なので、付加価値として会社によって費用が高くなるのは当たり前だと思います。
小林:確かに。EC業界以外でも、専門業の方は付加価値も含めて相応の対価でお仕事するべきですね。では、ECサイト制作でかかるコストを細分化するとどうなりますか?
小野寺氏:弊社の場合大きく分けてディレクション費・デザイン費・コーディング費の3つに分かれていて、専門分野である付加価値としてディレクション費のボリュームが大きくなっています。
小林:コストを下げるとすればどこですかね?
小野寺氏:100歩譲って削ってもいいのは細かいデザイン部分です。ボタンの色やバナーの色などでCVRが下がる事はそこまで多くは無いので。ただ、どのようなサイトにするかの設計に必要なディレクションの予算を削るとCVRが上がらないケースもあるので注意が必要です。
小林:予算が30万~50万程度しかないという声も良く聞きますが?その場合はいかがでしょうか?
小野寺氏:カラーミーショップやショップサーブなどテンプレートが豊富なカートシステムを利用しテンプレートをほぼそのままで制作すれば費用のご要望自体は叶えられるかも知れませんね。
他にも、ECサイト制作の経験が少ない制作会社にお願いすると良いでしょう。知見がないので、ノウハウ吸収の実験台として安くできるかもしれません。
小林:でも、それって良くなさそうですね?
小野寺氏:テンプレートを使う事は否定しませんが、アパレルのテンプレートなのに水産加工のネットショップを作ってしまうなどはやめた方がいいですね。
後はECについて知見やノウハウが少ない制作会社さんにお願いしてしまうと、ECサイトはできたものの売り上げアップさせる為の施策が想定された作りになっておらず、結局リニューアルしないといけなくなったりします。
小林:まぁ、そういったリスクはついてきますよね。
小野寺氏:実は弊社に来るECサイト制作のお問い合わせの内、7割8割がリニューアル案件です。特に今言ったネットショップとして売上を上げるための設計になってないっていうパターンが多いです。ある程度しっかりしているECサイトであれば、リニューアルという話も出て来ないはずですが、それでも僕らにリニューアル案件が多いというのは、ちゃんとしてないサイトがとても多いということなんですよね。
小林:結果的にECサイト制作に強みを持っている所にお願いした方が良いってことですね。あと、費用が高くなりやすいECサイトの構成などあったりしますか?
小野寺氏:LP主体の単品リピート系であれば、カートシステム上でCMS機能が弱いことが多いので、LPをアップデートする度に制作会社にお願いしていれば改修費用がかさみますね。後は制作するページレイアウトが多い場合などもコーディングの作業時間が増えるので、費用が上がります。他にも、記事を更新して情報発信を行う場合にはワードプレスなどを組み込む必要があるので費用が高くなりますね。
小林:同じページレイアウトを流用したり、最低限の機能だけにすると費用を削減できそうですね。ただ、それで集客力やCVRが下がったらコストパフォーマンスが悪くなるのでバランスが大事ですね。
小野寺氏:おっしゃる通り、安かろう悪かろうの世界ですよ。ECサイトの場合、基本的にTOPページと一覧ページ、商品ページの3つがあれば販売出来るのですが、先程の話もしかりコンセプトページをしっかりしたいとか、カテゴリごとにLPを設けたいなど、通常の制作範囲から外れて広がっていくとそれに伴って費用が上がって行くという事です。
制作過程で生まれるトラブル
小林:ECサイトを制作する上でトラブルになりやすいことはありますか?
小野寺氏:制作会社あるあるですが、よくご要望いただくのはデザイン部分です。バナーを数pxあげてほしいとか、色合いを少し淡くしてほしいとか、このページだけフッターをこうして欲しいなど。あと弊社ではあまりないですが、ディレクターがワイヤーフレームを綺麗に書きすぎてしまって、お客様に過度な期待を持たせてしまい、コーディング後にデザインについて揉めてしまう事もあるそうです。
すぐできる物から、お選びいただいたカートの仕組み上不可能なものなど様々なトラブルが制作には付き物ですよ。
一番困るのはサイトに掲載予定の商品写真が納品されないことですね。僕らは、写真を撮らないのでお客様に納品いただくのですが、ごく稀に音信不通になるお客様がいます。ご連絡はしますが、こればかりはどうしようもないです(笑)
小林:絶対できない修正依頼も来たりしますか?
小野寺氏:その代表例としてはカートの決済画面ですね。セキュリティの関係上、カートシステム会社が規制をかけていて制作会社が介入出来ないことが大体です。変にコードが書けるようになっていると、ハッキングされてカード情報漏洩リスクが増えるので当然の対処ですね。できてボタンの色が変更できるとかそのレベルですよ。
小林:なるほど。確かにそうですね。
小野寺氏:ただ、共通事項として大半が売り上げにつながる要望ではないです。バナーを数px上げても売り上げへの影響はほぼ無いないので、本音としては早くローンチしてPDCA回しながら、改修していくことがおすすめです。
リプレイスの際の注意点
小林:新規で作りたい事業者ではなく、リプレイスでの制作では注意点は変わりますか?
小野寺氏:リプレイスの場合でも、ターゲット選定や必要な機能が明確化されていない場合があるので、そのあたりを詰めていくとカートシステムの変更を検討しなければいけない事があります。そして、カートシステムを変更すると検索順位への影響や登録している会員への影響がでてきます。
カートシステムが変更されると当然URLが変わるので検索エンジンからの評価が一時的に下がります。会員に関しては情報が初期化されるので、ログインIDとパスワードの再設定でユーザーが離脱してしまい、再購入率が下がる可能性があります。また、ユーザーの注文履歴も初期化されるのでお客様とECサイトさんでのトラブルが増えます。特に、定期通販だと注文履歴がたまっているのでしんどいですね。
更に、大きな問題として注文履歴の移行はセキュリティの問題上で外部の会社、ここでいう制作会社が介入出来ないケースが多いです。システムによっては介入せずに出来る場合もありますが、基本的に外部の会社が個人情報を閲覧してしまう事は避けるべきでしょう。
小林:確かに個人情報のようなセンシティブな内容は介入させない方がいいですね。
小野寺氏:どのカートシステムからどのカートシステムに変えるかによって影響も対策も変わるので、その部分は制作会社に相談すると良いと思います。
小林:興味本位でのお伺いですが、そもそもカートシステムに依存するからダメなんだ!という発想のEC事業者さんもいたりしますか?
小野寺氏:中にはいるかも知れませんが、フルスクラッチで今のASP型ショッピングカートと同規模の物を開発すると億以上の費用が必要となりますよ。もちろん費用だけでなくスピードも全然違います。
また、ショッピングカートよりもカスタマイズの柔軟性があるパッケージ型でも、いろんな事をやりたいとなると、最初の制作費で3,000万円位はかかりますし、月額50万の運用費用がかかる場合もあります。その為、こだわった要件が無く、予算に限りがある場合はASP型とかSaaS型のショッピングカートで十分事足りると思いますよ。
サイトができてからがスタート
小林:サイトを作った後に事業者側への注意点はありますか?
小野寺氏:ECサイトの制作はゴールではなくスタートという事は必ずお話します。よほどの大企業や有名人でもない限りは、ECサイトをオープンしただけで売り上げが立つことはまずないでしょう。制作段階で決めていた運用や機能をきちんと使ってECサイトを動かしていくことが大事です。
小林:具体的にはどんなことがありますか?
小野寺氏:LP主体の単品通販であれば広告を運用して新規ユーザーを獲得すること。総合通販の場合は商品を乗せ続けることですね。新しい商品をどんどん載せて検索エンジンへのインデックスを増やしていかないと行けません。これが出来ていないのに売り上げが上がるサイトはほぼないですね。
小林:数10商品しかないEC事業ではどうでしょうか?
小野寺氏:そういった場合はギフト訴求で更新頻度を上げる事ができます。日本だと月に1回は何かしらのイベントがあるので、それに合わせたカテゴリや特集を作っていけば、新規ユーザーの流入や回遊が高まり購買につながります。
また、自社のターゲットの消費行動に合わせてキャンペーンを打つことや、1度購入いただいた方へメルマガやLINE公式アカウントでアプローチすることなど、施策を回して1つの店舗として動きを見せる事も大事です。
他にも、ECではお客様と対面することがほぼないので、お客様の指摘がもらえず在庫切れの商品を気付かずに何か月もサイトのTOPに掲載していることもあります。サイトで表示している内容は気を付ける必要がありますね。
小林:なるほど。でも、お話の大半はやって当たり前のような気もしますけど・・・
小野寺氏:そうです!当たり前の事です。リアルで路面店を構える場合、駅前でビラを配ったり看板をもって立ったりして自分たちで集客のアクションを起こしますが、なぜかECの場合だと制作会社が作ったから人が来ると思ってしまうんですよね。
弊社の場合はECの運営代行や広告運用代行までご依頼いただければご支援させていただきますが、あくまで制作会社は大工さんや注文住宅メーカーの立ち位置です。お客様の要望に合わせて制作会社のノウハウを用いてより良いECサイトを作っていくことが仕事なはずです。
小林:そういったことが制作の現場ではあるのですね。
小野寺氏:あと、制作会社が声を大にして言いたい事として、費用さえかければいいECサイトができる訳ではありませんが、競合が数百万かけて理想のECサイトを作っている中で、妥協しまくった30万のECサイトで勝てるんですかという事ですよ。
ECサイトさえあれば売れた当初は、競合の参入も少なくドラクエでいう最初のダンジョンなのでヒノキの棒レベルのECサイトで戦えたのですが、今は機能も豊富で制作範囲も広いECサイトが競合として立ち並んでます。いってしまえば最後ダンジョンです。そこに対して銅の剣を装備しても敗北するだけです。
それだったらもうダンジョンに入らない方がいいですよ。そこまで加味してECサイトをやるかやらないかを検討した方がいいですね。
小林:なるほど、確かにもう時代が違いますね。
小野寺氏:そうなんです。今回お話したことを踏まえたうえで各社制作会社へ問い合わせしていけば、スムーズかつ質の良い仕事ができるのでお互いにとってプラスになり、より良いECサイトが生まれていきます。それは、制作会社にとってもEC事業者にとってもwin-winになるはずです。
そういったことが積み重なり、EC業界がさらに発展していきステークホルダーの幸せにつながっていけばいいなぁと思っています。