広告費なし低リスクを実現!食品・飲食店ECで売り上げを上げる方法

小林俊也(kobayahi toshiya)

クラウドハンドシステムズ株式会社 執行役員 谷口英明氏

現在新型肺炎の影響で飲食店をEC化していくケースがかなり増えています。しかし、EC化すれば売れるほど甘くはなく集客で苦労される方や、そもそもの商品規格がECに向いておらず売れないケースなど様々な問題が起きていると思います。

そこで今回は、食品ECのコンサルティングやサイトの制作~物流まで幅広い業務を行っているクラウドハンドシステムズ株式会社の谷口氏に食品ECの成功方法についてお話しを伺いました。

飲食店のEC化で気を付けること

飲食店のEC化で気を付けること

――普段、飲食店さんからどういったお話を聞きますか?

飲食店経営には多くのリスクが伴ってきます。その内容は、店舗の固定費や人件費、立地に依存する集客力など様々です。また、複数の店舗を持つのであれば資金面や提供する料理の品質、他にも経営者や従業員の健康面だったりと多岐にわたります。

そういった面からECをやりたいという声や、今までは店舗中心だったけど、ECを行う事によって経営を安定させたいというご相談が多くきます。

――EC化したい飲食店にはどういったお話をしますか?

飲食店様は、飲食店営業の許可を得ていると自由に店舗の中では食品を提供できるので、その延長線で考え、店舗で販売している商品をパッキングや冷凍できればECで販売できると思っている事があります。しかし、ECで販売したり、卸販売をするには、商品によって様々な免許や設備が必要となります。自家製のスイーツを扱うなら製菓の製造免許、自家製麺なら製麺の製造免許などですね。

例えば、自家製のハムやサラミなどをお店で提供している飲食店様はパッケージ化しやすいのでECをやりたくなると思うのですが、自家製の食肉をEC販売や卸販売をするための製造免許を取得するにはそのための設備だけでなく食品衛生管理者という国家資格を持った人材を設置する義務があります。

要は、飲食店で料理を提供する免許とECや卸での販売で必要な免許は違うので、“飲食店で提供出来ているからといってECでの販売許可が出ている訳ではない”というお話しはしますね。

コロナの影響でデリバリーやECサイトのサービスがかなり広がっていると思います。しかし、法的な裏付けがなく新規参入され、結果、悪気なくサービスを提供している状態だと、気温が上がり衛生環境も連動して変化して来た時、食中毒などの問題が起こったりするのではないか?と少し心配になります。

――他にも気を付けることはありますか?

他にも、EC化さえすれば売れると思っている方が稀にいらっしゃいます。EC化しても既に影響力のある人物や企業でない限り、すぐに売り上げを立たせることは難しいです。

飲食店様は中小零細のオーナー企業様である事が多く、広告費の考え方も、企業体力も通常の小売ECサイトを運営されている企業様と違ってきます。Web広告の10万円は、飲食店様には非常に大きな負担なんです。

ECでスグに売り上げをたたせるためには、Amazonや楽天などのECモールへの出店や、独自サイトでの展開、戦略ある広告運用など多岐にわたるコストが必要ですが、飲食店様にとっては現状の実店舗運営とは違うコスト感の費用が発生しますし、これを飲み込める資本力があることは稀です。ですので、飲食店様がEC投資できる手法を確立することが必要です。

これからEC化する飲食店の集客は?

――では、EC化したい飲食店はどうやって集客すればよいでしょうか?

広告費が通常のEC企業と同規模でかけられないとなれば結論は1つで、お店と同様にリピーターを増やすためにコストをできるだけ掛けずに試食の機会を増やす方法を考えるしかありません。通常の飲食店経営も一緒で1ヶ月に何回来店してくれるお客様を持てるか?を考えているはずです。飲食店ECも同様で、来店されたお客様にできるだけリピートしてもらうことが必要です。そのためにも、まずは実際の味を知ってもらう試食の機会を増やしたり、何かをきっかけに購入してもらう事が必要となります。

飲食店側のトータルのメリットを考えると百貨店のイベント出展やここ数年流行っていたグルメ系の食イベントなど、オフラインのイベントに露出することで、出店費用を回収しつつ試食の機会や実績をつくることが、ECの売り上げにもつながる一つの手法でした。

しかし、今はコロナ問題でイベントが無くなりいつ再開されるか分からない状況です。そこで、実践するべきはインフルエンサー施策だと思います。本当はお客さんに体験してもらい口コミをしてもらうのがベストですが、影響力のある方(インフルエンサー)に体験談を伝えてもらう事で自分が食べているかの様な体験をしてもらうということが期待できます。

インフルエンサーさんに体験談を言ってもらう場として、YouTubeは第3者を通じて味や触感を体感できて、あたかも自分で食べているような疑似体験ができるので相性が良いと思います。ただ、発信する媒体選定は商品やユーザーなどの相性で決めなければいけないので各社で見極める必要がありますね。

――YouTuberやインフルエンサーにアプローチしていくことが重要という事でしょうか?

地道な手段ですが、多くのインフルエンサーさんやブロガーさんに協力を依頼し商品を無料で提供する事で善意の協力を得られることもあります。今のコロナの影響を考えるとSNSやYouTubeの閲覧数は上がっているものの広告を出す企業数が減っているため、インフルエンサーさんにとってメリットのある企画や商品ができれば商品を取り上げてもらいやすいかも知れません。

しかし一方で、YouTuberさんやインフルエンサーさんにペイパブ(有料広告)の依頼をすると基本的に結構な費用がかかりますし、ネタとしてもヤラセ感が漂うため、インフルエンサーさんが自ら思わず取り上げたくなるような広報戦略がカギになります。

そのためには、地道に企画を組んでいき自社の取り組みをインフルエンサーさんやメディア企業が記事にしやすい様に網を張ることが大事です。網を張っても必ず記事になることはなく、文章の書き方や画像の選び方、ニュース性を踏まえた企画立てなど広報力が重要となりますが、きちんとした情報発信をし続ければ取材や記事化が起きるはずです。

弊社の実績としても、地道な企画と情報発信を行うことで、Webメディアで記事化してもらい、YouTuberやインフルエンサーにも取り上げられ、TVや雑誌でも取り上げていただいた事があります。おかげさまで、その商品は昨年のお取り寄せ大賞でも部門1位をとり、百貨店での売り上げNO.1の実績を上げています。広報戦略からそういった賞を沢山取っていき、インフルエンサーやメディアなど拡散力のあるところに取り上げられる根拠を培っていければ、更に施策が回っていきます。

こういった地道な戦略は施策の成果がでるまでに、1年間~1年半は期間を見ておく事が必要となりますね。

EC化する為の箱は何で用意するべきか

――EC化するために独自ドメインサイトや、Amazon・楽天などのECモールを利用するのはどちらが良いのでしょうか?

どちらにしても苦労をするので、同じ苦労をするならばお勧めとしては独自ドメインで自社のECサイトをもつことです。が、早く売り上げを立たせたい且つ予算があるのであれば、Amazonや楽天市場などのECモールに出店しても良いと思います。既に商品の認知があり、価格などの圧倒的にわかりやすい差別化ポイントがあれば大手モールでは勝機はありますね。しかし、予算が少ない場合やECモールの他競合商品に埋もれてしまうような場合だと売上を伸ばすことができず、ECモールへの出店費用の回収すらできない場合があります。

その点、BASEやストアーズ、カラーミーショップなどのASPカートと呼ばれるシステムで自社のECサイトを作れば、キャッシュへの負担は少なく済みます。特にBASE、ストアーズでは月額費用が0円で、かかる費用は商品が購入された後の決済手数料のみなので固定費を抱えるリスクはなくなります。

配送で気を付けること

配送で気を付けることクラウドハンドシステムズ株式会社プロデュースの商品

――ECで商品が購入された後、配送しなければなりませんが気を付ける事がありますか?

食品であれば衛生面に気を付けたパッキングを行う事は当たり前です。常温やチルド商品であればそこまで気を付ける必要がないのですが、冷凍の場合は長期保管すると商品の冷凍焼けや、冷凍庫独特のにおいがつくので気をつける必要があります。

また、生ものや出来たての食品をEC販売する際に冷凍技術は切っても切り離せません。フレッシュなものをそのままご提供できればもちろんよいのですが、物流にのせ宅配便で運ぶという段階を踏む以上、冷凍にせざる負えない状況が起きます。

実は日本は世界でもトップレベルの冷凍技術を持っている企業が多々あります。ECで食品を提供する以上、こだわりを持った職人さんであれば、冷凍技術にもこだわりたいと思うのは当然です。当社では数ある冷凍技術の中でも大手のスーパーやコンビニで実績を持っているCAS(キャス)を使って冷凍を行うことが可能です。全ての食品に万能というわけでは有りませんがCAS(キャス)を使うことで多くの食品の味を損なうことなく冷凍化出来ます。

食にこだわりがある消費者にCAS(キャス)を使って冷凍化していることを購買の一つの訴求ポイントとして広報戦略に組み込んでいくことも重要です。

他にも配送で気をつける点としては商品サイズです。常温であれば商品サイズをメール便規格にすることで、配送費を抑える事が出来ます。単純に小さければ配送費が安いという事もありますが、食品の場合複数注文が入ることも多く、また試食で商品を同梱することもありますので、できるだけ複数発送しても60サイズの段ボールに入れ込めるサイズにおさえることが重要です。また、特に冷凍便は通常よりも配送費が高いので消費者が決済前に購入をやめる事も多々あるので購買決定にも影響があることです。

飲食の未来

――最後に御社が日本の飲食に思う今後の未来をお願いします。

今まで飲食店経営のリスクであった固定費や人件費が、ECでの販売によって緩和される事が広まれば、もっと食品業界へ参入してくる人が増えてくると思っています。その結果、腕は確かだけど資金がないシェフ、料理好きなお母さん、普段は会社員だけど実はこだわりのカレー職人などの隠れた人材の参入が増え、限られた環境だけで手作り商品を提供し、小規模のビジネスでとしてECを活用し国内や海外含め販売していく「飲食ITフラッグシップモデル」が続々と出てくると思っています。

私は日本の“食”は世界で通用する数少ない日本の武器だと思っています。今まではお店に来店してもらうか、現地で実店舗を展開するなどリスク多、リターン小というモデルでしたが、今やECを活用することで世界中の人たちに日本の食を届けることが出来るようになったのです。もちろん法律や物流、言語、決済などの乗り越えなければいけない壁は多くあります。日本は現時点でも質の良い“食”のサービスを国内外問わず提供できており、世界中から日本の食は認められています。そういった実績もあるのですから、いつか日本の食をどの国でもECでお届けできる時が来るはずです。世界中で何度も動画再生されたPPAPの「ピコ太郎」のような食の職人さんがきっと出てくる。そんな未来になると信じています。


記者プロフィール

小林俊也(kobayahi toshiya)

新規事業開発室所属。ECサイト・EC支援事業者両社向けに価値のあるサービスを開発できるよう日々奮闘しています。

何かご要望あればお気軽にお問い合わせください。

mail :t.kobayashi@ecnomikata.co.jp
Twitter:@ecnomikata_tk

小林俊也(kobayahi toshiya) の執筆記事