アパレルECに革命を起こすECシステムになるのか「BRANDIT system」の機能に迫る

西村 勇哉

株式会社Brandit 代表取締役 CEO 鍛治良紀氏

2020年6月に正式版がローンチされた*BRANDIT system。代表自身が体験したアパレル業界の課題を解決するためのECシステムだという。本記事では、システム開発の背景、機能詳細から費用体系まで、株式会社Brandit代表の鍛治良紀氏に伺った。

*ビジネス特許出願済み

ターゲットとなる事業者は。

ターゲットとなる事業者は。

BRANDIT systemは、小中規模のアパレルEC事業者をターゲットにしており、アパレルに特化したECシステムです。

BASEやSTORESを卒業するレベルの事業者と説明するとイメージが湧きやすいでしょうか。

そもそも僕達が支援したいと考えているアパレル企業と、多くの方の認知を集めているアパレル企業では前提条件が大きく異なります。

ECが成長する前から活躍をしているアパレルのビジネスモデルはやはり実店舗ありきです。そのため、実店舗を展開したらその中身を埋めるために商品を開発・製造します。どちらかと言うと、商品の生産はブランド都合になってしまいがちです。

商品を製造したら、販売するためにどの店舗にどれだけの商品を割り振るかといった話になるのですが、従来から実店舗ファーストの考え方をされている企業だとECチャネルにアイテムがほとんど降りてこないんです。

この規模の大手ブランドになると実店舗連携を行なう必要があるためフルスクラッチ規模のシステム構築やパッケージシステムでも店舗のPOSと連動することが必要ですが、実店舗を持たない中小のアパレルECやスタートアップのD2Cブランドであればそんなことは必要ありません。

―――いわゆるSaaSのECシステムを利用しているEC事業者が多いということでしょうか?

おっしゃる通りです。しかし、アパレルはサプライチェーンが多く、システム構築するのが難しい。よくシステムをAPIなどで繋ぎ込んでカスタマイズする企業も多いのですが、それをやってしまうことでアリ地獄のように深みにハマって抜け出せなくなってしまうのです。

アパレルに理解のある人がシステム構築をするとスムーズなのですが、システム会社さんなどはシステムのプロであって、アパレルのプロではないんです。例えば在庫管理システムを追加したい場合でもアパレルの商慣習ではなく、ECシステムとAPIによる繋ぎ込みがしやすいことを優先した提案を受けることが多いです。

アパレル担当者もシステムについてのリテラシーを持っている人は少なく、自身の規模や商流にあったシステムかどうかはわからない、そのためオーバースペックのシステムに費用を払っていることが日常茶飯事です。

そのため私達のシステムはアパレルにとって無駄なものを徹底的に排他し、アパレルにとって必要な機能のみを取り入れることを意識しています。

鍛治: BRANDIT systemでは、各担当者が自身で持っている情報を順番に入力していくことでアイテム単位の管理が可能になります。

MDや生産担当者が、商品の予定原価や販売予定価格、品番などを入力し商品登録すればその「アイテム単位」に、倉庫への入荷予定時期、商品情報の入力が可能になり、入力完了後にECに反映されます。WMSとも自動連携できる仕組みが実装されているため、アイテムごとに受注データから売上データへも自動集約されます。

これにより劇的に変化することが2つあります。

1つは現場業務オペレーションの簡略化です。

元来、アパレルでは役割が細かく分担されています。この何が問題かというと、それぞれの担当者が行っている業務や追いかけている数字をお互いに理解・把握していないということです。

例えばMDや生産管理は、モノを作るために原料や商品原価を考えますが、EC担当は売価や商品情報に目が向きがちですし、ロジ担当者は商品がいつ入荷されるのかが、各々のKPIになっています。同じブランドのメンバーにも関わらず、担当者同士で向いている方向、使っているシステムもバラバラなのです。

その結果、それぞれの担当者同士で逐一情報を共有するための連絡を行なっていたりします。

しかし、BRANDIT systemは商品原価も売価も出荷情報も全ての情報を集約することができるシステムです。その都度 、在庫情報や商品情報、マスター情報を共有せずとも各担当が全ての情報を確認できるので、無駄な連絡が必要なくなり、大幅なオペレーション改善に寄与します。

2つ目の変化は、利益がわかりやすくなることです。

アイテム毎の管理を可能にした結果、そのアイテムの原価・仕入れ数・残在庫・売り上げなど全ての情報がシステム上で確認できます。結果、従来は売り上げや受注額までしか見れなかったところ、粗利まで確認することができるようになります。

さらにはZOZOTOWNなどのプラットフォーム情報も在庫管理も担う機能があるため、同システムへCSV登録を行えば、EC上の在庫・売り上げ情報を全てBRANDITのシステム上で管理することができます。各プラットフォームの手数料情報も登録することができるので、売り上げから販売手数料と原価を引き、利益計算が可能になります。

プラットフォームは売り上げというKPIは確かに大きくなりますが、その分の手数料も発生します。その時に無計画に商品を大量に卸すのではなく、利益から逆算した上で管理することが重要だと考えています。

言ってしまえば、BRANDIT systemはアパレルECの統合システムなんです。中小企業でもスクラッチ開発をすることなく、上司や経営層が知りたい情報も現場の作業に必要な情報も1つのシステムで全てわかることが大きな変化だと思います。

データ活用を行った販売戦略も可能に。

鍛治:ここまで情報を細かく取ることで、あらゆる戦略に理由ができます。

例えば、データを活用することで無駄な在庫を抱える必要がなくなります。

従来、アパレル業界は大量消費・大量生産の考えが強く、その分在庫を多く抱えてしまったり、廃棄コストが高くなってしまうことが大きな課題としてありました。

ただ最近ではOEMメーカーや商社も小ロットで生産・卸ができるようにかなり歩み寄ってきている印象を受けます。ただ最低でも50〜100枚単位になってしまうことが多いです。

最近増えているインフルエンサーやYouTuber、芸能人の方々が自身のアパレルブランドを立ち上げることが多くなってきていますが、小売の経験がない人からすると先行して商品を生産すること、そこに投資を行うことに抵抗を感じる人がほとんどです。

僕達は小売やアパレル未経験の方にも正しく、楽しいビジネスをしてもらいたいと考えています。そのため私たちは OEMメーカーとパートナーを組み、初期では1商品、15〜30ロットから生産できる体制を整えています。

これくらいの枚数ですと、OEMメーカー・商社からすると営業マンの人件費と比較するため採算が合わないので普通はやってくれません 。

そのため、小ロット生産を希望する事業者にはBRANDITのシステムをご利用いただくことを条件にしています。そしてBRANDIT system であれば、アイテム毎の管理が容易なため、売れ行き商品・そして利益率の高い商品をフラグ立てし、すぐに追加生産のアラートを出すことが可能になります。

従来のアパレルビジネスは大量に仕入れて販売を行う形でしたが、私たちは商品の売れ行きを確認した上で追加生産を行う、いわば小ロット生産を何度も繰り返す体制を整えています。その結果、売れ残りが発生したとしても15〜30程度で抑えることができるのです。

正直、弊社もかなり大変ですが、中小アパレル事業者の運営をサポートし続けることを考えると、このビジネスモデルがベストだと考えています。

そのために、事業者自身でもどのアイテムを優先的に生産し、どのように販売していくのがベストなのかがわかるように、勝ち負け表という機能を搭載しています。

勝ち負け表
左上に勝ち負けが表記し、現在のアイテム詳細も確認できる。

勝ち負け表では、ランキング形式になっており、アイテム毎に現在の在庫数や損益分岐点がわかるようになっています。

例えば、8月の売り上げ目標に対して、500万円のビハインドがあった 場合、勝ち負け表から売り上げランキングの高いアイテムを販売していこうと考えますが、在庫数が少ない場合、生産担当は追加発注を行う必要性がわかります。EC担当者も同じ情報を確認しているため、商品が追加されたら人気商品を中心としたキャンペーンを展開するといった流れが出来上がります。

勝ち負け表以外にも、日毎にどのようなキャンペーンを打ったか、その結果どれくらいアイテムが売れたか、などあらゆるデータがシステム上に集約できます。そのマイクロデータをもとにすることで、今まで“なんとなく”で動いていた行動が、“根拠”をもとにした理由ある行動になるのです。

管理画面のUI/UXも限りなくわかりやすいデザインにしています。そのため、ECを初めて触る人でも、若いインフルエンサーの人でも、誰でも動かせるようなUI/UXを意識して設計しました。

やりたい「意思」に、やれる「意図」を示す

BRANDIT systemの費用は月売上の11%の成果報酬型です。GMV100万円以下の場合は、10万円です。初期費用はデザインテンプレを使用しての制作であれば23万円。非常に安価な価格設定にしています。テンプレも実際にECを運営しているブランドを参考にしているものをいくつか用意しているので初期を抑えたい方でも利用しやすいかと思います。

月額費用の参考にしたのは既存のASPサービスです。大体小規模システムが6%ほど、中小規模以上の拡張性あるシステムで20%の中間のシステムになるので、間をとって11%に設定しました。さらには月額固定費のSaaSシステムに追加でAPI連携をした時のコストを参考にしています。

ロジサービス(WMS・ハンディ)に関しても、私たちが提携しているパートナー倉庫さんに本来納める分の実費をいただいています。ここに私たちが儲けたいから、通常価格に上乗せして請求していることはありません。
もしくは、自社でロジ部分を持たれている場合のWMSについてはAPIで連携をすることも可能となっております。

事業者ご自身でシステム選定する手間も必要ないですし、アパレルに特化しているシステムであることと、私も弊社メンバーもアパレル経験者なのでマッチしていないシステムを提供することはしません。

今後の展望

今後の展望

今、D2Cという言葉が一人歩きしていると思います。本来ここに込められた意味というのは、顧客と直接コミュニケーションをとり、いいプロダクトを提供することです。もちろんECサイト上では会話はできません。そのためにお客様のニーズや行動履歴をデータとして把握し、その上で施策を展開する必要があります。

では今現在、どのくらいのEC企業がお客様の声を拾い上げられているでしょうか?データを把握せずに、感覚値で判断していませんか?

インフルエンサーが立ち上げたアパレルブランドにおいても、初期はお客様も多くないですし、一人一人にファンビジネスの延長線上でSNSを通してコミュニケーションが取れると思います。

しかしブランド規模が個人から中小へ成長するにつれてインフルエンサー個人に依存し続けるのは、インフルエンサーを知らない新規顧客の獲得や、個人では管理できないほどお客様が増えたことで従来から行なっていたコミュニケーションの濃度が薄くなってしまうケースが多いです。インフルエンサー ブランドが国内で成功した事例が多くない理由の1つは、ここにあると思います。そうならないためにお客様が多くなるタイミングで、顧客データを構築し、根拠をもとにした施策・接客をEC上でも行なっていかなければなりません。

その顧客データ管理をしたい、より事業を伸ばしていきたいと考える事業者さんにはBRANDIT system を通してサポートしていきたいですね。

また、会社としての目標はアパレル業界のDX化です。単にシステムだけではなく、モノづくりにおいて適正な数のみを生産することで廃棄物を少なくしたり、デジタル人材をアパレル業界に送り込んでいきたいと考えています。

DXは1つの点ではなく、線で考えるべきだと思うのでECシステムの前にある商品生産・納品書なども含めてデジタル化することで、正しい形のアパレルビジネスを行なっていきたいと考えています。


記者プロフィール

西村 勇哉

メディア運営事業部 編集チーム所属
見た目はヒョロイのに7歳から空手を習っています。
他にも水泳、サッカー、野球、弓道の経験有り。
たまにメルマガに登場しますが乃木坂46の話しかしません。
連絡先→nishimura@ecnomikata.co.jp

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