【前編】共通の「送料込みライン」から一年 楽天COOが語る「これまでとこれから」

濱田祥太郎

昨年、大きな議論に発展した楽天市場の「共通の送料込みライン」。「楽天市場と出店店舗の継続的な成長を実現するための大きな変革」と語るのは、楽天グループの執行役員、コマースカンパニーCOO&ディレクターの野原彰人氏だ。現在の状況や、ユーザー・出店店舗とのコミュニケーションについて聞いた。2回に分けて紹介する。

導入率は約9割

「共通の送料込みライン」は現在のところ、約9割の店舗さんに導入していただいています。

さまざまな課題がありましたが、可能な店舗さんから始めましょうということで、やってみました。

送料についてはユーザーのニーズが最も高く、かつ楽天市場として相対的に改善すべき点とユーザーから求められていた部分でもありまして、実際ユーザーを調査すると結局、「楽天市場って送料が分かりにくい」というところに落ち着きます。

ユーザーにとっての「送料の分かりやすさ」を訴求していかないと難しいという事情がありました。

共通の送料込みラインは「三方よし」に向き合った結果

まずは、売り場を提供することによって、多種多様な店舗さんに入ってもらう、それが前提の楽天市場です。

いわゆる「アーリーアダプター」といわれるような、初期からECにふれてきたユーザーからは、「楽天市場はそういうビジネスモデルで、送料の体系もお店ごとに違うのは当然ですよね」と理解していただいていました。

ところが、顧客基盤が拡大してくるにつれ、当然のことですが「使い勝手を良くした方がいい」という声が大きくなってきました。

私どもが「楽天市場というのは店舗さんの集まりで(送料が)それぞれ違うのは前提なんです」と訴えても、「いや、それ面倒だよ」と、ユーザーに言われてしまうんです。それは仕方のない事です。

そこに対して、送料問題に向き合った結果が「3980円(税込)以上の購入で送料込み」だったわけです。

「送料のわかりにくさ」という楽天市場の課題を解消し、ユーザーにより多くのベネフィットを提供することで、さらに集客力を向上させ、流通増を図ることで、長期的には店舗さんにより多くの利益を還元できる、店舗さんが成長すれば、ひいては楽天市場の成長にもつながるという「三方よし」の考えが根本にあります。

全都道府県で説明会を開催

このコンセプトを発表してから、各方面で様々なコミュニケーションを重ねました。

具体的には、楽天の経営陣が47都道府県の店舗さんのもとへお伺いしてコミュニケーションを取る「楽天タウンミーティング」などを通じて、店舗さんからのご意見も頂きながら、調整してきました。公正取引委員会の調査などもあり、今振り返ると、この当時はかなり忙しかったです。

本施策について、店舗さんからは、賛否はもちろんながら、多様なご意見をいただき、いただいたご意見は、社内に持ち帰って検討し、制度の運用にも反映させていただきました。

残念ながら本施策にご賛同いただけず、退店をご検討される店舗さんに対しても、例えば出店料の返金など、お金の面でご迷惑をお掛けしないように、最大限のサポートをさせていただきました。また、「共通の送料込みライン」を導入いただくにあたり、楽天が送料を一部支援する「安心サポートプログラム」という、いわば“激変緩和措置”を導入しました。

店舗さんをサポートする専任の担当者、ECコンサルタントとして、楽天からのサポートも付きますし、成功店舗さんが他の店舗さんに対し、成功体験を伝え、店舗さんが実装できる仕組みを作って、その中で、なぜ「送料込みライン」を作るのか、本施策を活用しよりユーザーに選んでいただくためのノウハウなどを説明してきました。

その中で、店舗さんから「ここはこうしてほしい」とのご意見は頂きました。そのご意見を踏まえて、一方的にならないよう、「共通の送料込みライン」の内容について、修正を加えるべき点は修正して、1年がかりでやってきました。

ネガティブな意見も当然ある

ネガティブな意見も当然ある楽天市場では大きく3つの物流サービスを提供している(楽天市場資料より)

楽天市場で新たな施策を行った場合、プラットフォームに参加している店舗さんから様々なご意見が出ることは、プラットフォーム提供者の立ち位置でいうと仕方のない部分もあります。

楽天市場においても、楽天はユーザーと店舗さんに売買の場を提供しておりますが、店舗さん側にすべてを委ねるとなった場合は、ユーザーのためにならない部分が出てくることもあります。そこは楽天として、ユーザーが安心・安全にお買い物をいただけるような場を提供する責務があるので、店舗さんに対して一定のルールを設けてきましたし、これからもユーザー保護の視点で、そのスタンスはかわりません。

しかし、それは店舗さんと利害が対立しうる部分でもあるのは承知しており、一部店舗さんからネガティブな意見が出てくるのは当然だと思っています。

楽天が物流に取り組む理由

足元の物流クライシスなども含めて、物流への配慮も、意識としてはあります。3,980円(税込)以上のお買い物で、ユーザーからすると送料無料ということですが、物流のコストは発生しています。

楽天は、「楽天市場」の出店店舗の商品の保管から出荷までを担う、総合物流サービス「楽天スーパーロジスティクス(RSL)」を通じて、在庫保管料と注文に応じた出荷作業料、配送費用からなる安価な料金体系で総合物流サービスを提供するなど、店舗さんを物流面から支援する取り組みにも着手しています。

中長期的な成長戦略の中で、店舗さんには「共通の送料込みライン」をうまく活用いただきたいと思っています。

「商流」を制する者は「物流」を制すべき

また物流の部分での支援では、これから日本郵政さんとの提携も、より深まっていきます。

最終的には、商いの流れ「商流」というのは、情報の「情報流」、お金の流れ「金流」、物の流れ「物流」と、この3つで成り立っていると考えています。

今までは「情報流」だけで勝負していけば良かったんですが、これからは「商流」を制する者は「物流」を制さないといけません。

最新の主戦場はここに来ていますので、「物流」を制するには、プラットフォーマーが、トランザクションが終わったら、確実にユーザーの手元に商品が届くまで、責任を持たなくてはいけません。こうした部分のサポートもやってきました。

効果も出ています。導入店舗と非(未)導入店舗では、成長率が約25ポイント(2020年4月~12月)高い結果となっています。

ユーザーからすると、3,980円 (税込)未満で送料がかかるくらいだったら、もう少し買って送料込みの方が、結果的に客単価が上がるということです。

店舗からの支持が得られている

やってみて、店舗さんやユーザーからの支持も得られているという手応えはあります。

これはチャレンジでしたが、やって良かったとは思います。この施策に対して疑問をお持ちの店舗さんに対しては、丁寧なコミュニケーションを取っていくしかないとは思っています。

そして、丁寧なコミュニケーションを取るための時間は十分にとってく必要があると思います。

結果も出ていますよ、という事も個別に一生懸命にご説明して、ご納得頂いて、「共通の送料込みライン」にどんどんとご賛同を頂いて、進めている。そんな状況です。
(続)


記者プロフィール

濱田祥太郎

新卒で全国紙の新聞記者に4年半従事。奈良県、佐賀県で事件や事故、行政やスポーツと幅広く取材。東京本社では宇宙探査や宇宙ビジネスを担当。その後出版社やITベンチャーを経てMIKATA株式会社に入社。ECのミカタでは行政、規制系・老舗企業のEC事例に興味があります。千葉県我孫子市出身。

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