人流解析システムにより小売業の現場にはさまざまな変化が生まれている。国内、海外の導入事例を紹介(人流解析対談Vol.3)

SBクラウド株式会社

SBクラウド株式会社 野嶋 将光、スプリームシステム株式会社 営業部部長 沖野 聖史氏

中国の小売業界では、OMO(Online Merges with Offline)という概念でオフラインとオンラインを融合させたマーケティング・販売手法を行い、今までにない顧客体験を提供する活動が浸透してきています。

これは中国に限った話ではなく、日本国内に目を向けても顧客の購買行動は変化してきているため、小売業界のデジタル化は避けて通ることのできない課題です。

そこで当コラムでは、スプリームシステム株式会社の沖野聖史さんとSBクラウドの野嶋将光の対談をもとに、OMOの実現を支援する「人流解析」をテーマに計5話のコラム記事をお届けします。                   
第3話は、人流解析システムがオフラインの小売業の現場を具体的にどのように変えているのか、国内・海外の事例を交えて紹介します。

人流解析システムにより「売り場をメディアに」

野嶋:第1回のときに「従来のID-POSで取得する購入者の属性情報だけでは解決できない課題が人流解析によって解決できる」という話がありましたが、具体的に購入者の属性情報から人流解析のデータにバージョンアップすることによって、どのような効果があるのでしょうか?

沖野:1つの例として、最近よくスーパーでは肉売り場や魚売り場に、調理用のレトルトソースやスパイスなどがおいてありますよね。売上が上がると評判なので多くの店で見かけますが、Moptarを利用しているスーパーでは「肉売り場だけに行って買った」「両方の売り場に行って買った」「ソース/スパイス売り場だけに行って買った」と顧客を分けて売上状況を見ていきます。

分析をしていくと、以前は20~30代がメインで購入していたのですが、「肉売り場だけに行った」50代が”ついで買い”で買うようになったことがわかりました。ここが売り上げアップのポイントだったと分かったんです。

この施策と分析はスーパーマーケットの売上改善効果を生むだけでなく、メーカーにとっても良いデータになります。さらに、この結果が出たことで、肉売り場が1つのメディアとしての価値をもつようになったんです。

野嶋:商品をどこに置くかは、メーカーにとっては「売れる、売れない」の大きな違いになるので、人流解析によって取得できるそのデータは貴重なものですよね。

沖野:弊社も人流解析を長く続けてきましたが、このような展開は見えていない部分がありました。店舗はこのデータを使って「いかにメーカーとともに売っていくか」を考えるようになり、結果的に店舗にとっては別のビジネスが生まれたという印象です。

「接客」がデータ分析によって変わっていく

「接客」がデータ分析によって変わっていく

沖野:小売業の導入目的は「接客のタイミングの改善」「レイアウトの改善」「オフラインのデータを製品開発に生かす」、大きくこの3つに分かれますね。特に接客は重要なポイントで、売り場はどのタイミングで接客をすれば売上があがるを強く意識しています。

野嶋:やはり小売業は接客で悩んでいるところが多いのですね。その課題に対して、御社はどのように対応しているのでしょうか?

沖野:接客のタイミングによって「ファースト接客」「ラスト接客」など、独自に細かいパラメーターを設置して分析しています。

以前は接客と売上の相関関係が明確に見えていなくて、店長の方針によって接客の方法が変わってしまうなど、現場の裁量で決められていたところがありました。

でも、Moptarを導入することでお客様のデータを可視化していき、接客の改善を行うことができると考えています。

野嶋:来店から何秒以内に声掛けをしたかが売上に関係する可能性があるわけですね。そこも人流解析システムでなければ取得できないデータです。

沖野:その通りで、接客時間が5秒か、10秒かは他のツールでは取得できませんでした。接客はチェックすべきポイントが細かくあって、接客されずに放置されている人が何人いるかなども見ていきます。分析の結果、接客をしたほうが売上はあがるとわかれば、ピーク時に販売員を増やすなどで対応することができます。

野嶋:面白いですね。接客の話でいうと、北米はECがスーパーマーケットを駆逐していて、無人店舗も出てきています。私のところにも、お客様のレジ待ち時間を短くするために、スーパーのレジのパートをどの時間に何人入れればいいか最適化したいという相談があります。

沖野:今は働き手が少なくなっているので弊社にも無人店舗の相談は一定数ありますね。人手不足というとネガティブな印象を受けますが、中には「人をもっと休ませたい」「有給を取らせたい」という動機で人流解析に取り組む店舗もあります。

未払い残業が問題となる中で、勤怠管理に使えないかという要望をいただくこともあります。働き方を効率化して、改善していくことで社員も定着する可能性がありますよね。こういう人流解析の利用方法は人手不足に対する回答になりうると思います。

海外では人流解析はどのように使われているのか?

海外では人流解析はどのように使われているのか?

野嶋:私が海外で担当した事例では、店舗外の通りの人流解析を行ったケースがあります。オンラインのGoogleアナリティクスにでたとえると、店舗内人流をサイトの中に入ってきたところとすると、店舗の外は検索されて、発見されて、クリックされる前の段階です。

そこでは、「人通りの数」「人の歩くスピード」などのデータを取りました。そのデータをもとに、「通勤時間は人通りが多いが、みんなが早足で歩いているからサイネージにプロモーション広告を出しても意味がない」「日中の人通りは少ないものの、ゆっくり見て歩く観光客が多いから観光向けのプロモーションを出す」など、さまざまな発見があり、工夫が生まれました。

他にも、海外の飲食店ではテスト店舗で通りのサイネージに「どの時間にタイムセールスしたか」などを試して、そこで成果が出たものを全国店舗で採用したというケースもあります。

沖野:弊社も外からの流入に関する人流解析はアパレル店舗などでやっていて、入り口のところにサイネージを置くことでどれぐらい来店客数が変わるかのデータを取得しています。その流れで店舗内に入ってからの人流解析も有効で、流行り物は完全に目的買いが多いので、もっと店の奥に配置したり、近くに購買ハードルが低いリーズナブルな商品を置いたりと改善することができました。

野嶋:なるほど。角度の違う人流解析の事例では、テナント料を上げたいビルが人通りの多さを証明した事例もあります。私は海外、特に中国関連の仕事をすることが多いのですが、日本のショッピングモールでも人流解析を生かせるのではないかと思うことがあります。

日本のショッピングモールのビジネスモデルは不動産からテナント料をもらうもので、テナントが抱える商品の在庫は把握していません。一方、アリババが出資している中国の「銀泰商業集団(インタイム・リテール・グループ)」は、テナントの在庫はもちろん、何が売れているかも把握・管理して、そこの売上を支援するサービスも行っています。つまり、中国のショッピングモールはただの場所貸しではなく、そこまで踏み込んでビジネスを展開しているんですね。その状況を見ると、今の日本のショッピングモールはこのままでいいのかと思う部分があります。

沖野:野嶋さんの言う通りで、日本のショッピングモールもテナントに対する意識も少しずつ高くなってきています。お客様にたくさん来てもらうためには良いテナントに入ってもらう必要があり、そのためには付加価値を提供していかなければいけません。弊社も人流解析システムを使ってテナントをどう支援していけるかは課題の1つと感じています。


著者

SBクラウド株式会社 (sbcloud)

SBクラウド株式会社は、ソフトバンク株式会社とアリババグループの合弁会社です。
Alibaba Cloudの日本市場への展開を支援しています。

パブリッククラウドサービス「Alibaba Cloud」の日本向けサービスのローカライズ、日本語サポート等を提供しています。

https://www.sbcloud.co.jp/