風評被害への対応策~口コミの削除手続~

木川 和広

【連載コラム】これだけはおさえておきたいECの法律問題
アンダーソン・毛利・友常法律事務所 弁護士 木川和広

第15回:EC事業者に代金全額賠償請求?日本版クラスアクションの解説
https://www.ecnomikata.com/column/11187/

 EC事業者にアドバイスをする中で比較的多い相談が、ネット上の口コミによる風評被害への対応です。事業者が提供する商品やサービスに関する誹謗中傷はもちろん、求人情報サイトへの事実無根の書き込みなど、EC事業者にとってネガティブな情報を何とか削除できないかという相談を受けることがあります。

 初めに明確にしておきたいのは、EC事業者にとってネガティブな情報が全て削除の対象となるわけではなく、事実に反する内容が記載されていたり、根拠もなく事業者を誹謗中傷するような口コミだけが、削除の対象となるという点です。

 こうした口コミは、EC事業者の営業上の信用や名誉を毀損するもので、不法行為に基づく損害賠償請求の対象となり得るものですから、削除されるべきものと言えます。しかし、そうではない正当な口コミは、社会に対する情報提供として有益なものであり不法行為を構成しませんから、削除の対象とはなりません。

口コミサイトへの送信防止措置依頼(削除依頼)

 ネット上の口コミを削除するために、口コミサイトの運営者に対して、問題の口コミの削除(送信防止措置)を依頼することができます。プロバイダ責任制限法(特定電気通信役務提供者の損害賠償責任の制限及び発信者情報の開示に関する法律)では、「情報の削除」ではなく、「情報の送信を防止する措置(送信防止措置)」と表現していますが、これは必ずしもデータを削除までしなくとも、公衆に対する送信を防止すれば、違法状態が解消されるためです。

 通常、口コミサイト上にはサイトの運営者に関する情報が記載されていますので、その運営者に対して、送信防止措置依頼書(削除依頼書)を送付することにより、多くの場合、早ければ数日、遅くとも10日前後で問題の口コミが削除されます。一般社団法人テレコムサービス協会が提供する下記のURLに、送信防止措置依頼書の雛型が公開されていますので、記載の方法については、この雛型を参考にすると良いでしょう。優良なサイトであれば、送信防止措置依頼のためのフォームが準備されていることもあります。

(プロバイダ責任制限法 関連情報Webサイト)
http://www.isplaw.jp/

 問題は、口コミサイトにサイトの運営者が記載されておらず、フォームも準備されていない場合です。その時は、サイトのドメインから登録者の情報を確認する必要があります。下記のアグスネットの検索サイトを利用すると、ドメインの登録者の氏名や電話番号、メールアドレスが確認できますので、そのメールアドレス宛てに送信防止措置依頼書を送る方法があります。

(aguse)
https://www.aguse.jp/

 口コミサイトの中には、ドメイン名が日本語で表示されるものがありますが、そのままではaguseで検索できません。その場合は、下記のJPドメイン名サービスのサイトで、いったん通常のドメインに変換した上で、aguseで検索する必要があります。

(JPドメイン名サービス)
http://punycode.jp/

 aguseで検索したドメインの登録者がドメイン取得代行業者である場合には、口コミサイトの運営者ではないので送信防止措置依頼書を送っても無意味です。したがって、代行業者の先にいる真のドメイン登録者を割り出す必要があります。その場合は、代行業者に登録者情報の開示を請求することになりますが、基本的には、裁判上の手続を経るか、少なくとも弁護士からの請求でなければ応じてくれないようです。

裁判による削除の手続

 送信防止措置依頼書を送ってもサイト側が任意に口コミの削除に応じてくれない場合、裁判によって削除を求めることになります。通常の裁判であれば判決が出るまでに1年以上かかることもありますが、仮処分の申立であれば1~2か月ほどで「口コミを仮に削除せよ」という命令が出ます。法律上は「仮」の処分ですが、裁判所から命令が出たのに従わないという例はあまりないようです。


著者

木川 和広 (Kazuhilo Kikawa)

アンダーソン・毛利・友常法律事務所スペシャル・カウンセル
国際的な案件も含め、EC関連企業の法律問題を幅広く取り扱う。
(木川弁護士プロフィール)https://www.amt-law.com/professional/profile/KLK