有名人の広告利用に関する法律問題

木川 和広

【連載コラム】これだけはおさえておきたいECの法律問題
アンダーソン・毛利・友常法律事務所 弁護士 木川和広

第16回:風評被害への対応策~口コミの削除手続~
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 今回は、顧問先からの相談を受ける中で、最近続けて質問を受けたトピックについて解説したいと思います。質問の内容は、有名人(芸能人やスポーツ選手)の名前の一部を商品名に使ったり、有名人の写真を商品のLPに掲載したいが、これらの行為が著作権侵害になるか、著作権侵害を回避するためには、どのような対応を取れば良いかというものです。

有名人の広告利用は著作権侵害よりもパブリシティ権侵害の問題

 著作権法は、著作物を「思想又は感情を創作的に表現したものであって、文芸、学術、美術又は音楽の範囲に属するもの」と定義しています。したがって、その有名人が個性的な芸名を使っていたとしても、その芸名に著作権が発生することはありません。なお、芸名が商標登録されれば、その芸名に商標権が発生しますが、今回の本題からは少しずれてしまいますので、詳しくは別の機会にご説明したいと思います。一方、カメラマンが撮影した有名人の写真は「写真の著作物」として、著作権法の保護を受けますので、その写真を商品の広告に利用する場合にはカメラマンから利用の許諾を受ける必要があります。

 しかし、カメラマンから写真の利用許諾を受けただけで有名人の氏名や写真の広告利用が無条件で許されるということになれば、有名人のCM出演契約は全く無意味なものになってしまいます。そこで、判例上、有名人には、自分の氏名や肖像を財産的に利用する権利が認められています。この権利は、一般的に、「パブリシティ権」と呼ばれています。ピンク・レディーの写真を掲載した週刊誌の記事がパブリシティ権侵害に当たるか争われた事件において、最高裁は、「人の氏名、肖像等(以下、併せて「肖像等」という。)は、個人の人格の象徴であるから、当該個人は、人格権に由来するものとして、これをみだりに利用されない権利を有する。」と判断しました。その上で、以下のような場合で、もっぱら肖像等のもつ顧客誘引力の利用を目的とする場合には、肖像等を無断で使用する行為が不法行為に当たるとしました。

(1)肖像等それ自体を独立して鑑賞の対象となる商品等として使用する場合
 例:有名人のブロマイド写真を無断で販売する行為
(2)商品等の差別化をはかる目的で肖像等を商品等に付す場合
 例:商品名に有名人の氏名を使ったり、パッケージに写真を印刷する行為
(3)肖像等を商品等の広告として使用する場合
 例:商品のLPに有名人の氏名や写真を掲載する行為

 したがって、有名人の氏名や写真を無断で広告に使用すると、その有名人からパブリシティ権侵害として損害賠償を請求される可能性があります。

すでに亡くなっている有名人のパブリシティ権

 日本においては、パブリシティ権を規定した法律はなく、死者にパブリシティ権が認められるかどうか明文の規定はありません。また、裁判例においても、この点について明確に判断がされたものはありません。一方、アメリカでは、死者のパブリシティ権を認めるかどうかについて、州ごとに法律が異なります。カリフォルニア州では死後70年はパブリシティ権が存続するのに対し、ニューヨーク州では死亡と同時にパブリシティ権が消滅するとされています。

 マリリン・モンローのパブリシティ権侵害が争われたアメリカの裁判では、ニューヨーク州法が適用され、死亡と同時にパブリシティ権が消滅したと判断されました。マリリン・モンローは1962年にカリフォルニア州ロサンジェルスで死亡しましたが、当時の登録住所がニューヨーク州だったので、ニューヨーク州法が適用されたようです。

 なお、マリリン・モンローのパブリシティ権は消滅したものの、その氏名や肖像の使用が、マリリン・モンローの遺産管理団体の商標権を侵害するとして、新たに別の訴訟が提起されているということですので、無条件に使用して良いかどうかは、まだ未確定のようです。


著者

木川 和広 (Kazuhilo Kikawa)

アンダーソン・毛利・友常法律事務所スペシャル・カウンセル
国際的な案件も含め、EC関連企業の法律問題を幅広く取り扱う。
(木川弁護士プロフィール)https://www.amt-law.com/professional/profile/KLK