[第2回]ザ・ボディショップがオムニチャネルを推進する理由

斉藤 正賢

ザ・ボディショップのオムニチャネル推進環境づくり

みなさま、こんにちは。
コスメブランド「ザ・ボディショップ」でEC運営/オムニチャネル推進を担当している斉藤です。

前回、オムニチャネルは小売業にとって必須ではないこと、オムニチャネルが手段の目的化に陥りやすいことをお伝えいたしました。

過去記事
[第1回]オムニチャネルは手段の一つでしかない
https://ecnomikata.com/column/22112/

今回、ザ・ボディショップはどのような経緯でオムニチャネルを推進しているのかをお伝えいたします。

ザ・ボディショップはなぜECサイトをオープンしたのか

ザ・ボディショップはなぜECサイトをオープンしたのかザ・ボディショップ オンラインショップ

ザ・ボディショップの自社ECサイトは2005年にオープンしました。

ECサイトをオープンした理由として、販売チャネルの拡大という要素はもちろん含まれてはいます。
しかし一番の理由は別にあります。

その当時、全国に店舗を構えていたにも関わらず、本社への電話注文やファックス注文が多くあったのです。

「香りや使い心地がわかっている商品をわざわざ店舗に行かずとも注文したい」というお客様のニーズを捉え、利便性を高めるためにも、このECサイトをオープンさせたのです。

なぜ会員ID統合をオムニチャネルが広く認知される前に行えたのか

当社は2013年、自社ECサイトリプレイスのタイミングで会員ID統合を行いました。

オムニチャネルが話題になり始める前、手前味噌ではありますが国内でもかなり早い時期に実行しています。

なぜそんなことができたのか?それはただ「統合したほうが便利に使っていただける」からとの想いがあったからです。

自社ECをオープン後、お客様の行動に変化が見られました。

具体的には
・商品ページを印刷して店舗スタッフに在庫の確認を行う。
・リピート商品を購入する際、ECサイトから新商品などの最新情報を知ることで、香りを試したい!実際に新商品を見てみたい!と店舗を訪れる。

お客様は事業者ほどオンラインとオフラインに明確に区切りを設けていません。無意識で使い分けており、オンラインとオフラインで購入している方がいる。しかし無意識であるがゆえ、どこで買ったかを記憶している可能性も高くなく、ご自身の購入履歴を確認するには不便さが伴っていました。

その解決策として私達は会員ID統合を行いました。

なぜザ・ボディショップアプリをリリースしたのか

なぜザ・ボディショップアプリをリリースしたのかメンバーズカードはプラスチックカードからアプリへ

近年はブランド公式アプリに会員カード情報をもたせることは珍しくありません。そしてユーザーのスマートフォンの中で枠を確保できるように各社がしのぎを削っています。

数年前、この現象は財布の中で起きていました。免許証や健康保険証などを初め、Tポイントなどの共通ポイントカード、ショップのハウスカード。財布のカード入れはいっぱいです。

ザ・ボディショップもLOVE YOUR BODY カスタマークラブという会員プログラムを運営しており、プラスチックカードも発行しています。

しかし私達の製品は高頻度で買うものではありません、そんな私達のメンバーズカードは財布のカード入れから外されてしまうこともしばしばありました。(もちろん持ち続けてくださったお客様もいらっしゃいます。)

多くの方が経験したことがあるように、あると思っていたカードが財布に入っていなかった時、非常に残念な気持ちになります。ポイントが後日付与できる仕組みを入れていたとしても「再来店する」という、もう一つの追加アクションが必要になってしまいます。これはユーザー体験とし決して優れたものではありません。

私達はLOVE YOUR BODY カスタマークラブの会員様の残念な体験を一つ減らすべく、ザ・ボディショップアプリをリリースいたしました。

結果としてのオムニチャネル

ここまでの内容をお読みいただくとザ・ボディショップは決して「オムニチャネル」施策を進めようとしていたわけではないことを分かっていただけるかと思います。

ECサイトオープン・会員ID統合・アプリリリース、オムニチャネルを構成する要素は全て「お客様に便利に使っていただけるから」という理由で実施しています。それぞれ単独の施策が積み重なった結果”たまたま”オムニチャネル施策となりました。

もちろんテクノロジーの進化、SaaS型サービスの普及による低価格化などの時代背景、パートナー企業の心強い協力体制など実現可能となった環境的要因もあります。

近年、ECサイトの初期構築費用はぐっと下がりました。またASPでサービス提供しているカートのカスタマイズの幅も広がり、データの持ち方の自由度も以前と比較し上がっています。

アプリも大企業が潤沢な予算を投じて制作するものだけではなく、クラウド型の安価ながら高機能なサービスも登場しています。ポップアップストアもショッピングセンターだけではなく、レンタルスペースなど様々な契約形態で出店できるようになりました。

つまり、オムニチャネルは中小企業でも実行しやすい環境が整っています。

しかし環境が揃っても私達事業者がお客様に「何を提供するのか」「何を不便と思っているのか」を常に考え続けていないと何も提供することはできません。各施策でお客様の不便を解消し、つなぐことによって相乗効果を生むその結果がオムニチャネルとなる。

ザ・ボディショップのオムニチャネルはあくまでも各施策のシナジー効果で形成されています。そしてこれからもお客様の不便を解消し利便性を上げていくことによってオムニチャネルを推進できると考えています。

次回は「ザ・ボディショップが仕掛けるオムニチャネルの今後」についてお伝えいたします。

[第3回] ザ・ボディショップが仕掛けるオムニチャネルの今後「店舗の体験をデジタルで向上させる」
https://ecnomikata.com/column/22206/


著者

斉藤 正賢

1986年東京生まれ。
2007年、包装用品、店舗用装飾品、慶弔用品、事務用品などを扱う専門商社に販売員として入社。
2010年、自社ECサイト立ち上げを機にEC運営に携わるようになる。その後、モール店立ち上げ、公式SNS、LINE@など様々なサービスの立ち上げ、受注管理システム導入などを主導で進める。商品導入の商談から受注対応、出荷業務、広告運用までEC運営に必要な幅広い業務を担当。立ち上げから7年連続二桁成長を達成し退職。
その後ECパッケージベンダーにてwebディレクターを経験、複数クライアントの運用支援に従事。
2018年より現職。株式会社イオンフォレスト(ザ・ボディショップ)にてモール運営、オムニチャネル推進・自社サイト/アプリ開発などデジタル分野に広く携わっている。


THE BODY SHOP(ザ・ボディショップ) オフィシャルサイト
http://www.the-body-shop.co.jp/shop/