消費者とのコミュニケーションのあり方〜国内ECの実態とこれから【後編】〜

利根川 舞

日本国内のBtoC-EC市場規模は16.5兆円、前年比9.1%増という勢いで成長をしている。しかしそれらの数値も世界規模で見れば、市場規模世界ランキング1位の中国の約12分の1程度なのである。

では、今後日本のEC市場が拡大するためには、もとい、各EC事業者が成長するためには何が必要なのか。
後編となる今回は、消費者と企業のコミュニケーションのあり方、そして今話題の「ライブコマース」についても話を伺った。

広告もCRMがポイントに

ーーWEB接客やチャットの導入、LINE@の登場などで消費者と企業のコミュニケーション手段が多様化しています。コミュニケーションのあり方は今後どのように変化していくのでしょうか。

的場 デジタルマーケティングの側の人間からすると、”アドレサブル(CRM広告配信とも)”という言葉がキーになると思っています。それが何かと言いますと、今まではLINEのビジネスコネクトを使ったOne to Oneマーケティングなどが行われてきましたが、でもそれは、あくまでもLINE内の会員に対してだったんです。

しかし、今はそれに自社サイトのCRMのデータを繋ぎこむことができるようになりました。そうすると、LINEに顧客の購買情報を入れた上でOne to Oneマーケティングができます。それがどんどん拡張してくと自社のメルマガだったり、僕らが配信するGoogleの広告、Facebookの広告、すべてが繋がったOne to Oneの世界ができます。この世界は、この数年ぐらいで確立されるんじゃないかと思っています。僕もOne to Oneのコミュニケーションやアドレサブルな世界を推進していこうと思っています。

ただ、僕たちのクライアントであるEC事業者の持つ顧客データが無くては成りえない世界です。どこからかデータを買うということでは無く、あくまでも自社のお客様とどうコミュニケーションを取るかというデジタルインテグレートの考え方かなと。

これらの施策はロイヤリティを上げるということの意味合いの方が強いんですよ。僕が自分のECサイトを運営していたのは2005年。インターネットが1995年くらいから普及しはじめて、当時のデバイスとしてはまだPCがメインです。インターネットで商品を見るという行為は、PCの前、かつYahoo!で検索という、場所としても手法としても限定されたものでした。

ところが今はデバイスが多岐にわたり、私たちはインターネットと四六時中つながっているわけですよ。そうなると、お客様であるユーザー像がイメージしにくくなってくるんですよね。ミレニアルズという言葉がありますが、その世代の人たちを分類しようとすると、本当に難しく、もうわけがわからない状況になっていると。

ところが、新規顧客を取っていかなければなりませんし、まだ来ていないユーザーのペルソナも考えていかなければなりません。今までであれば、広告も”ファッション”という言葉で絞って配信していたと思うんですが、そういう時代ではなくなってきています。このユーザーはこういった趣味趣向で、自社のサイトにはどういうワードできている、だから、こういうことも気になっているだろうという、派生イメージが必要になってきています。そういうところまで、コミュニケーションとしての設計を考えなければいけない時代になっているのです。

ムーブメントを起こす人はインターネットの海に隠れている

ーーかつてメディアが生み出ししてきた流行ではなく、個人発信や「バズる」といいった小規模な流行が増えていると、時代や世代に括りにくくユーザー像はつかみにくくなりますね。

的場 「バズる」っていうキーワードってすごくいいなと思っているんです。日本でセレブリティを確立した人たちがF1層にいるかというとそうではないと思います。そうではなくて、ソーシャル上に隠れた、バズを起こす人やムーブメントを起こす人たちがいる。そういう人たちを探していく必要性があるかなと思っています。ソーシャルリスニングをかけたりして、実際に自分たちにとってどういう人たちが有益な人なのかを探さなきゃいけなくなっていますよね。

ーー「バズ」やちょっとした流行を生み出しているInstagramもフィードへの投稿からストーリーへ移行してきているなんて話や、LINE離れなんて話も聞きます。そこも対応していかなければならないということですよね。

的場 18歳以上の人たちってダーゲットとして捕捉できるのですが、実際のターゲットとしては皆さんが18歳以上な訳ではないんですよね。今の人たちって本当に捕捉しにくいんですよ。そういう時は調査を入れますが、今の若い子たちって、まだLINEやInstagram、Twitterは依然として利用は高い状態です。Yahoo!などの検索エンジンには接することなく、Instagramでストーリーを見て、気になったものをクリックする、みたいな状況だと思うんですよね。なので、僕らもInstagramのストーリーというのはある程度、可能性があると思っています。

ストーリーは静止画も投稿できるんですけど、動画フォーマットの方がひきが強いんです。とはいえ、EC事業者がそれなりにちゃんとした動画を作ろうとすると、コストがかかっちゃうんですよね。そこの採算合うかどうかっていうのがあるとは思うんですけど、可能性はあると思います。

ーーSNSの運用もそうですが、コンテンツーマケティングという言葉が広がり、成功されている企業さんもいる一方で、ECサイトの運営だけで手一杯な方も多いと思います。

的場 やはり、コンテンツマーケティングをできるEC事業者様ってある程度の規模があると思うんですよ。ECの担当者はフルフィルメントに出していない限り、相当大変なんですよね。その中でコンテンツマーケティングをEC担当者ができるかといったら、そうではないと思っています。なので、コンテンツマーケティングをやるということであれば、別途組織作りをする必要があると思います。

ーー同様に「ライブコマース」も流行っていますが、そうした事業者にとってはライブコマースはさらに難しくなりますね。

的場 ライブコマースって流行ってますよね。しかし、EC事業者だけでライブコマースを完結させるっていうのは、なかなか非現実的だと思うんです。ですから、ライブ配信専門の事業者さんにお願いして、社内の工数はできるだけ簡潔にするべきだと思います。

しかし、ECはモノを売って利益を稼がなければ潰れてしまうんですよ。ライブコマースに対して多額の投資が必要なのであれば、一度ちゃんと立ち止まって今本当に必要かというのを考える必要があるでしょうし、もちろん商品単価も考えなければなりません。単価1000円の商品でライブコマースをやって、爆発的に売れればいいですけど、売れなければ危険もはらんでいると思います。しっかりとバランスを取りながらやっていくべきかと思いますね。でも面白いと思いますけどね。

ーー最後に、EC事業者へのメッセージをお願いします。

的場 まず、ECの運営については何も私から言うことはないと思っています。それは皆さんの方が絶対的にできるはずなので。例えば物流であったり、商品登録であったり、目利きに関してもそうです。それに対して言うことは何もないんですが、広告業界にいるという立場から言わせてもらうと、皆さんがデジタルマーケティングに対して、もう少し情報を取りにいく、かつチャレンジをしていって欲しいと思っています。

ちゃんとユーザー像を把握して、タッチポイントやコミュニケーションを作り上げていくということを踏み込んでいかれるのが良いような気がします。ですが、デジタルマーケティングってどうしても専門的なことも多く、インハウスでできないことでもあったりすると思いますが、EC事業者の皆さんがもっと積極的に情報を取れれば、消費者とのコミュニケーションも良いものが作れるんじゃないかなって思っています。そのような事から、僕としては企業の大小に問わず、今後もEC事業主に携わる仕事っていうのをずっと続けていきたいと思っているんです。

日々のアップグレードは必須に

日々のアップグレードは必須に

全3回にわたり、的場氏に語っていただいた、「国内ECの実態とこれから」。的場氏の語る「これから」は決して、近未来的な話では無く、すでに目前に迫っている世界なのだ。

刻一刻と変化するEC業界の中で、お客様や自社サイトと向き合い、適切な施策を行っていく。そしてお客様に対して、どのような購買体験をもたらすことができるのかが、これからのEC業界を生き抜く鍵となりそうだ。


記者プロフィール

利根川 舞

ECのミカタ 副編集長

ロックが好きで週末はライブハウスやフェス会場に出現します。
一番好きなバンドはACIDMAN、一番好きなフェスは京都大作戦。

ECを活用した地方創生に注目しています!
EC業界を発展させることをミッションに、様々な情報を発信していきます。

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