【宅配クライシス】ヤマト運輸・日本郵便・佐川急便だけでは限界か

西村 勇哉

大手物流企業の相次ぐ値上げにより、多くの事業者が頭を悩ませているとこだろう。また去年から「宅配クライシス」という言葉を聞くようになった。ECの利用により、多くの商品が日々運ばれている。そのなかで再配達問題は宅配業社にとっても悩みの種なのではないか。EC業界の成長に社会インフラがまだ追いつけていない、そのようにも見える。

今回は最近のニュースをまとめながら物流業界の今と今後を考えていこうと思う。

【最近読まれた物流業界ニュース】
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成長するEC業界・増える荷物・増える再配達

EC業界が成長すれば宅配量は増える。当たり前のことなのだが、EC業界の成長があまりにも急激すぎた。物流側の対応が後手後手に回ってしまったようにも思える。平成28年度の国内の宅配便の取扱個数は40億1900万個となっている。その約9割がヤマト運輸、佐川急便、日本郵便の大手3社が担っているとされているが、各社ともに許容量は超えてしまっており、人員増強、受取方法の多様化など多面的な対策が必要になってくる。

マイボイスコム調べ

さらにここに拍車をかけるようにのしかかってくるのが再配達問題だ。マイボイスコムによると、直近1年で「再配達にはならずに荷物を受け取っていた」割合は20%を切る。逆に荷物が「5割以上再配達になる」と答えた人は約30%となっている。この一因となっているのが荷物の受取場所だ。

受取場所で最も多いのが自宅となっており97.2%。その次が宅配ボックスで10.9%、コンビニ・スーパー受取が7.5%と続く。

宅配ボックスは本当に求められているのか

宅配ボックスは本当に求められているのか

再配達を防ぐための宅配ボックスは利便性が高いように一見思えるが、内閣府政府広報室が平成29年10月に調査した結果によると宅配ロッカーを「利用したい」という割合が42.9%に対して「利用したくない」が50.9%と上回っている。

さらに東京都区部では「利用したい」30.7%で「利用したくない」が58.0%とさらに開きがあることがわかる。理由としては「手間がかかる」「再配達してもらえばいい」「セキュリティに不安がある」といった意見が見られた。

そもそも宅配ボックスの数はまだまだ少なく、インフラの末端としての活躍はまだ難しい印象をうける。とはいえ新築マンションには宅配ボックスが設置されているのが当たり前にもなりつつある。今後設置数が多くなることにより利便性が高まっていくのか、それとも人員不足などの影響で管理しきれなくなっていくのか、慎重に見定めていく必要があるだろう。

コンビニ受取が意外と流行らない理由とは?

コンビニ受取が意外と流行らない理由とは?

では私たちの生活により身近で、数も多いコンビニ受取はなぜ宅配ボックスより割合が低くなっているのだろうか。一つにはやはり宅配ボックスがマンションなどに設置され始めた影響はあるだろう。家の下に設置されていれば、外に出る必要はない。しかしコンビニ受取が少ない本質的な理由ではないだろう。

以下は楽天市場とAmazonを利用した際に商品の受取ができるコンビニだ。

楽天市場
・ローソン
・ファミリーマート
・サークルK
・サンクス
・ミニストップ
Amazon
・ローソン
・ファミリーマート
・ミニストップ

これを見てわかるように、日本で2強のECモールで商品を購入する際には、日本最大手のセブン-イレブンで商品受取りができないのだ。このことは利用率が低い一因と言っても過言ではないだろう。セブン-イレブンはオムニ7商品の受取口として機能しているため、そこまで余裕がないのかもしれない。しかし今後コンビニが小売業だけではなく社会インフラの一端を支えるようになったときに今のままでいることは難しいだろう。その時、最大手のセブン-イレブンがどのような選択をするのかは非常に興味深い。

楽天・Amazonにも大きな変化が

物流で問題となっているのは再配達だけではない。大手3社の値上げ、この問題は去年から非常に多くの事業者を悩ませている。では毎日多くの商品が取引されている楽天市場やAmazonはどのような対応に追われたのだろうか。

株式会社ウケトルが発表したデータによると、楽天はヤマト運輸が請け負っている商品の割合が1年で46%→24%と大幅な減少となっている。一方で佐川と日本郵便の割合が増加している。すでに数値上の割合は2社ともヤマト運輸より多くなっており、数値に大きな差がないとはいえ大きな変化といえるだろう。




Amazonも顕著な結果となった。去年は71%もの商品をヤマト運輸が請け負っていたが、1年で49%と半数以下まで減少した。その代わりに増えたのがデリバリープロパイダだ。(5%→20%)デリバリープロバイダとはAmazon.co.jpと提携している地域限定の配送業者の総称を指す。大手3社だけではリソースが足りていないのだろう。今後もデリバリープロパイダの割合は増えて行くのではないだろうか。おそらくデリバリープロパイダに新加入してくる企業も出てくるのではないだろう。

楽天はヤマト集中を避け、バランス良い比率にしている。Amazonは未だヤマトが半数を請け負ってはいるが、デリバリープロパイダに今後どれくらいの商品を任せていくのかは注目しておくべきだろう。

2社に共通したことはヤマト運輸の割合が下がっていることだ。運賃を引き上げ、荷受を抑制するなどヤマト運輸ですら捌き切れないほどの商品が今ECで取り扱われていると思うべきだろう。

物流業界が求められることとは

今後、日本は超高齢化社会となり働き手の数はどんどん減少する。その一方でネットに慣れた世代が高齢化したら外で商品を購入するよりECで商品を買う人が増えるのではないか。つまり、超高齢化になればなるほどECの需要が増えるということだ。

高齢者だけではなく、学生の頃からスマホを手にし、”ネットを利用している”意識すらない世代が大人になることでECはさらに加速するだろう。

その時に今のままのインフラ、ビジネスモデルでは間違いなく対応しきれない。新しいサービスや考え方を柔軟に取り入れていかないと、この社会問題には太刀打ちできないのではないだろうか。ぜひ色々な場所で多くの情報を仕入れることに努めてほしい。1社でできなくとも他社と協力すれば可能になることも非常に多いのではないだろうか。

もちろん物流業界だけの問題ではない。EC業界全体が危機意識を持つべきなのだ。物流企業は値上げしたくてしているわけではない。EC事業者側も値上げを適正な価格帯だと認識すべきなのかもしれない。一番大切なのはECに対しての顧客満足度だ。値上げをしても、多くの人にECを利用してもらうためには何をすべきなのかを業界全体で考える必要があるのだと感じた。

宅配クライシスは、EC業界への警鐘であることを再認識し、他人事として捉えないことが求められる。EC業界の成長を妨げないために何をすべきか、何ができるか、一丸となって考える必要がある。

ECノウハウ


記者プロフィール

西村 勇哉

メディア運営事業部 編集チーム所属
見た目はヒョロイのに7歳から空手を習っています。
他にも水泳、サッカー、野球、弓道の経験有り。
たまにメルマガに登場しますが乃木坂46の話しかしません。
連絡先→nishimura@ecnomikata.co.jp

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