越境ECとは?出店前に市場規模や配送方法を抑えよう

福島 れい

 インバウンド需要や東京オリンピック開催決定など世界から日本に注目が集まるなか、日本から海外に向けて商品を販売する「越境EC」に乗り出す企業が増えている。これから越境ECに取り組もうとする方に向けて、越境EC事情や、始め方、各国の特徴をまとめた。

越境ECってなに?

越境ECってなに?
 越境ECとは国を越えインターネットを使用して商品やサービスの売買を行うことを言い、2020年には4兆円超の市場となることが予想されている。越境ECが注目されているのは、大きく2つの理由からだ。1つは、日本市場消費が減少していること、もう1つは中国をはじめとする海外で日本の商品が人気を集めているためだ。

越境ECと海外進出の違いとは?
越境ECとは日本国内に事業所を置き、日本からECサイトの管理や、商品の仕入れ、発送等を行うことを言う。一方、海外進出は現地に事業所を構え、ビジネスを行うことを言う。国内に拠点を置く越境ECは、現地法人が必要ないことや、主要な取引は日本円で行うなど海外進出に比べ始めやすいという特徴がある。

なぜ越境ECなのか?

なぜ越境ECなのか?

日本市場消費の減少と拡大する世界市場
 越境ECが注目される1つ目の理由、日本市場消費の減少を詳しく見ていこう。EC市場は拡大を続けているが、日本の消費市場全体を見ると縮小傾向にあることはご存知のことと思う。その大きな原因の一つは人口の減少による消費者の減少にある。

 日本市場が縮小する一方で、海外には急速な人口増加、経済発展、インフラ整備が進む国が多数存在する。縮小する日本市場に留まらず、拡大する世界市場でビジネスを展開しようという狙いが越境ECにはあるのだ。

 また、経済発展中の国においては、日本ほど買い物環境が整っていない地域があるというのも、越境ECを行うポイントとなる。日本であればEC店舗で、リアル店舗でと状況に応じて使い分けるユーザーが多いが、買い物環境が十分に整っていない地域においてはECサイトでの購入が特に好まれるという場合もある。こうした拡大する市場においては成長チャンスを掴みやすいといえる。

海外での日本商品人気
 2つ目の理由、日本商品の海外人気について考えてみる。日本製品のクオリティーの高さは世界中で評価されており、言語や関税による価格高、また物流などの問題をクリアしてでも手に入れたいと考える外国人は非常に多いのが実情である。最たる例として、中国人が旧正月に来日して炊飯器や化粧品などを大量購入するいわゆる「爆買い」が思い当たる。

 また、tensoサービスの調査によれば、Buyee(ヤフオク)において、海外からよく購入される商品は「おもちゃ・ゲーム」「ファッション」「家電」「食品」などのカテゴリーが上位を占めており、高機能製品は日本ブランドとして高い人気を誇っていることがうかがえる。

越境ECの市場規模は?

日本の越境市場規模・現状は?
 これらの理由から越境ECが注目を集める一方で、アメリカや中国に比べて、日本の市場規模はまだまだ小さく対応が遅れているという声も聞かれるのが現状だ。実際に2013年の越境EC市場規模を見てみると、アメリカで7197億円、中国で8072億円であるのに対し、日本は1915億円規模となっている。利用者の数も中国人の3人に1人は越境ECを利用しているという統計があるのに対して、日本人はわずか10人に1人程度となっており、日本における越境ECはまだまだ発展途上と言える。

 日本の店舗としても、これまで越境ECへの対応が鈍く、結果的に機会損失を生んでいた。そうした中、経済産業省が東日本大震災の復興支援策として越境EC支援を打ち出して以降、ようやく越境ECをサポートする企業が増えてきている。また2020年の東京オリンピックが決定したことも越境ECの後押しとなっている。来日する外国人に商品を販売できるのはもちろんのこと、マスメディアを通じて世界中に日本製品をアピールできる大きな機会として期待されている。

 実際、経済産業省の発表によれば、2013年時点での日米中の3カ国相互間の越境EC市場規模は約1.7兆円だったが、インターネット利用率やEC利用率、今後の発展状況を加味した予測では、2020年には4.1兆円にまで拡大する可能性があるとみられている。 越境ECに対応するには外貨や決済、翻訳、法務から国の文化や風習に関わる海外マーケティングまで様々な準備が必要になるため、早めの取り組みが望まれる。また、東京オリンピックをにらんだ一過性の取り組みに終わることなく「越境ECのリピート」をも視野に入れることが重要である。

【さらに詳しく】経済産業省発表 2015年の越境EC市場規模について
https://www.ecnomikata.com/ecnews/9579/

各国の特徴とは?

 ひと口に越境ECといっても、進出先によって文化や商習慣が異なり、当然売れる商品も異なる。以下で各国の特徴を見ていこう。

【アジア】
中国への越境EC
 中国のネット利用ユーザーは6.7億人とも言われているが、普及率ではまだ50%程度となっている。日本でのインターネット普及率が80%を越えていることを考慮すると、中国にはまだまだ成長する見込みがある。

 また、中国国内では偽物や粗悪品の流通が大きな問題となっている。食品や化粧品のように粗悪品では人体に影響を及ぼす可能性があるような商品については、高額であってもより良いものを購入したいというニーズがあり、そのニーズを満たすものとして日本製の商品が人気を集めている。

台湾
 台湾は、人口およそ約2,350万人(2016年4月時点)からなる島国であり、国土としては日本の九州ほどの大きさを持っている。漢民族の文化をベースとしながら、アメリカや日本の外来文化を受け入れており、特に1895年から1945年まで続いた日本の統治時代の影響を残す日本の文化は各所にみられ、世界有数の親日国としても知られている。

 EC市場としては、台湾のシンクタンクであるMIC(台湾産業情報研究所)が発表したデータによると、2014年のBtoCそしてCtoC市場合わせて8,833億元(日本円でおよそ3兆5千億円)に達している。

【さらに詳しく】東南アジア越境EC進出の鍵「台湾」攻略
https://www.ecnomikata.com/ecnews/10130/

東南アジアへの越境EC
 これまで東南アジアのEC市場は、インターネットやスマートデバイスの普及が急速に進んでながらも、物流や決済サービスの整備が進まず停滞していた。しかし、経済成長と所得の拡大に伴って、急速に成長しはじめている。

 また、東南アジアは日本製品へのニーズが高い地域でありながら、まだまだ日本製品の流通が少ない市場と言える。競合性の少なさのみならず、6億人のASEANマーケット、16億人のイスラムマーケット、そして12億人のインドマーケットにリーチできる市場規模と将来的な成長性も魅力と言えるだろう。

【さらに詳しく】フィリピンの最新情報まとめ
https://www.ecnomikata.com/ecnews/9703/

【欧米】
 通販大国とも言われるアメリカでは、通販での購入が50%を上回るなど、EC・通販が非常に盛んな地域だ。日本とは売れるものが異なるため商品の選定は慎重に行う必要がある。特に茶器や着物、額縁、扇子などの日本の骨董品やゲームなど日本商品の人気が高い傾向にある。

越境ECの始め方

越境ECの始め方

越境ECと国内ECの違いは?
 越境ECを始める前に、国内ECと越境ECの違いを把握しておきたい。大きく分けて6つ、注意するべきポイントがある。

○商品
 日本で売れるものが海外でも同様に売れるとは限らない。また国や地域によって人気のある商品は異なるため、商材選びは重要になる。

○国・言語
 日本の越境EC対応が鈍いと言われる原因の1つは、言語の壁があるためだとも言われている。対応範囲の広い英語圏、人口の多い中国語圏をはじめとし、どの言語でビジネスを行うか検討する必要がある。また、翻訳サービスを活用するという手もある。

○為替
 進出先の通貨、為替を配慮しなければならないのは国内ECとの大きな違いと言える。

○決済手段
 国内ECで利用されている「銀行振込」や「後払い決済」、「クレジットカード決済」など定番の決済手段の多くは越境ECで利用しにくい場合がある。例えば台湾では、日本に比べクレジットカードの普及率が低く、商品と引き換えでの支払いが好まれる傾向にある。進出先に合わせた決済手段を準備する必要があるだろう。

○配送
 海外輸送の過程では、日本での輸送に比べ荷物が雑に扱われることも多く、物損が出ないよう厳重な梱包が求められる。また、輸送コストがかかること、インボイスが必要になることなどを頭に入れ、配送方法を検討する必要がある。

○税関
 「輸入品に課される税」のことを言う。商品や取引相手国によって持ち込める品目や税率が変わるため、事前に確認が必要になる。

越境ECでの販売方法は?
 販売方法として、現地に独自ショップをもって販売する方法とモールに出店・出品する方法がある。独自ショップの立ち上げの際にはシステム構築会社に依頼する方法か、海外向けのショッピングカートを利用する方法があり、契約後すぐに利用できるショッピングカートの利用が人気を集めている。一般に独自ショップで販売すると利益率は高くなるが、認知度を上げるための施策が重要になってくる。
 一方でモールに出店・出品すれば、自店の認知に関わらず売り上げを立てやすくなる。世界各国に広く展開しているebayやAmazonを利用する店舗も多いことだろう。

決済手段は?
 日本でよく利用される代金引換や銀行振込は海外ではあまり利用されておらず、海外展開のための決済手段を用意する必要がある。クレジットカードがあれば個人で利用しやすいPayPalは海外で人気の決済手段の1つとなっている。一方クレジットカードの普及率が5%程度と言われる中国では、アリペイ(Alipay)、銀聯(China UnionPay)などが主流で、他国に比べ独自の決済サービスが展開されていると言える。

配送方法は?
 海外の物流サービスは日本に比べまだまだ整ってないのが現状だ。国によっては中身が入れ替わったり、抜き取られたりということが起こる場合もあり、注意が必要だ。また、海外への発送にはインボイスが必要になることや、移動距離が多くなるため物損が生じないよう、頑丈な梱包資材を用いることも忘れてはいけない。

 日本から海外に向けた発送でよく利用されているのは、「日本郵便のEMS(国際スピード郵便)」「ヤマト運輸の国際宅急便」「佐川急便の国際宅配便」、その他各社物流サービスを利用する方法もある。


【さらに詳しく】ヤマト/佐川/日本郵便、越境EC配送比較
https://www.ecnomikata.com/ecnews/8416/

越境ECの出品先は?

Amazonに出品する方法
 Amazonは世界14か国で展開、11か国で出店モデルをとっている(2016年5月時点)。11か国すべてにおいて、日本のAmazon.co.jpと同じくマーケットプレイス型になっているため、いずれかの国でAmazonに出品している事業者であれば、他国でも出品しやすいというのが特徴だ。

 またAmazonの出品者に人気が高いのはFBA(Fulfillment By Amazon)を利用した配送だ。 FBAを利用すると商品を入荷後の商品の保管、注文処理・出荷・配送・返品に関するカスタマーサービスまでをAmazonが代行してくれる。商品を一括納入することで輸送コストの削減が実現。また、注文後、現地の倉庫より発送されるため、時差などに関わらずスムーズな配送ができる。Amazonマーケットプレイスへの注文に限らず、他のモールからの注文にも発送できるというのも人気の理由となっている。

ebayに出品する方法
 ebayは世界約190か国に展開、1.57億人の購入者を抱える大型ECサイト(2015年時点)。ebayに出品すれば、190の様々な国の消費者が見ることになり、販売チャンスが拡大する。ebayには、3種類の出品方法があり、「オークション形式」「固定料金形式」「オークションと固定料金形式の組み合わせ」から、選択することができる。

ECノウハウ


記者プロフィール

福島 れい

ECのミカタ編集部に所属するバドミントンと和服、旅好きの記者、通称れーちゃん。ミニ特集「アパレルECの未来(https://goo.gl/uFvr2C)」等、これからEC業界がどんな風に発展していくのか。に注目しながら執筆しています。2017年の執筆テーマは、”私にしか書けない記事をタイムリーに”。

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