令和はパーソナライズ・オーダーメイドの時代に?〜前編〜
IT技術の向上により消費者は様々な商品情報をネットやSNSなどで簡単に得られるようになった。
しかしその反面、情報量の多さから本当に自分に正しい情報が何かわからないという消費者も多いのではないか。
そんな情報が溢れている今、その人の好みやニーズを掬い上げることができるのが、オーダーメイド商品だ。従来はオフラインがメインだったが、ECでもオーダーメイドの市場が拡大していることをご存知だろうか。
なぜ今、オーダーメイドが人気なのか。消費者の好みやデータをパーソナライズし、商品をオーダーメイドで手がけているブランド3社にお話を伺った。
ブランド紹介
MEDULLA:髪質や悩みに応じて成分配合を変えることのできる、オーダーメイドシャンプーを提供するブランド
FABRIC TOKYO:サイズはもちろん、ライフスタイルまで深掘りをしたオーダーメイドのスーツ・シャツを提供しているブランド
ARTIDA OUD(アルティーダ ウード):オンラインを中心としたジュエリーブランド。リングのセミオーダーコンテンツ「Stone Customize」では数ある表情豊かな石からお好みのものをセレクトし、地金やサイズ、石の向きまで調整してオーダーメイドできる。
――早速ですが、皆様がオーダーメイド商品を手がけている理由を教えてください。素人からすると、値段も高く、購入ハードルも高いような気がしています。
深山:本当の意味で個人に合うシャンプー・トリートメントを届けたいという想いから着手しました。
シャンプーって非常に多くの種類がドラッグストアに置かれていますよね。ただその中から自身の髪質に合う商品は分かりません。季節によってケアの方法を変えたい人も多い。そのようなニーズを妻や周りの人から聞き、オーダーメイドで月1程度の期間でアップデートしながら商品をお届けできたら面白いと考え、今MEDULLAというブランドを運用しています。
森:私は、自分自身がオーダーメイドを体験しとても楽しい購買体験だと感じたからです。私自身はファッションがとても好きなのですが、体型に合う洋服がとても少なく買うことができないという苦い思い出がありました。
そんな時に友人からオーダーメイドを進めてもらいまして、実際に利用したところ感動してしまって。オーダーメイドという素晴らしい購買体験を周りに広めるファンになってしまいました。
友人に普及している中で気づいたことが、世の男性のニーズほどオーダーメイドが身近な存在でないことです。だったら自分で供給側になっちゃおう!というのがFABRIC TOKYOの始まりです。
相川:ARTIDA OUDはサザビーリーグのブランドの中で初のECからスタートしたブランドです。ECサイトでも実店舗レベルのサービスをお届けしたいという考えがありました。
その時に出たキーワードがカスタマイズです。サイト上で、石とリングやチェーンを自由に組み合わせることが可能な為、自身の好みに合わせた指輪・ネックレス・ピアスをECサイト上で作成することができます。
――皆さんオーダーメイドを始めたきっかけは微妙に違うんですね。ただ質の高いサービスを提供したい、という共通点があるように思います。顧客の満足度を高める工夫で意識していることはあるのでしょうか。
森:ファン作りですね。お客様にファンになってもらい、オーダーメイドをより楽しく体験していただく。そこに対しての創意工夫はとても重要だと思います。
深山:MEDULLAでは今はECのみの販売ですが、実店舗展開を行う際にオーダーメイドシャンプーをどう提供できるかを考えています。実店舗はお客様とリアルでの接点が作れる場所になるので、ファンづくりをする上では欠かせないと思います。
森:ファンづくりを行うためにはお客様の事をしっかりと把握しておかなければいけません。そこで弊社が注力していることがデータの有効活用です。
ECと実店舗両方の側面から様々な情報を集めて、商品開発に活用しています。こう考えるとECだけではなく、実店舗の存在の大きさを感じますね。
――お客様個人の情報というのはサイズや体型のことでしょうか?
森:もちろんスーツを作る上で欠かせない情報ですが、それとは他にライフスタイルについてもヒアリングしています。例えば花粉症であるとか、自転車通勤、過去にやっていたスポーツなど様々な情報を深掘りし、定量化を行うことで適切な商品をレコメンドできるようにしています。
相川:ジュエリーだとお客様の悩みを解決するソリューションという意味合いは薄くなってきます。しかし、ファンになっていただくという視点は同じですし、ブランドとしてもとても大事なことです。
例えば石には意味があり、自分自身の石を決めている方はとても多いです。誕生石や星座石がわかりやすいかもしれません。
私たちのサイトでは、お客様が思い入れのある大切な石と、自身の好きなデザインを選んでオーダーメイドしていただける。シンプルですが歯痒いところに手が届くようなUI/UXを心がけることで、使いやすく、再度訪問しやすいサイトになっています。
オーダーメイド共通の悩み サプライチェーン
森:オーダーメイド商品を展開している事業者共通の悩みがサプライチェーンだと思います。EC販売のメリットはリピート率の高さです。足を運ばなければいけない実店舗に対し、ECはスマホから注文することができます。
そして特にオーダーメイドの商品は、繰り返し購入していただかないと利益が確保しにくいビジネスモデルになっています。
その為、納期遅れや商品不備などはとても怖い。オーダーメイドは買ってもらってからがスタートなので、次にどう繋げるかは多くの事業者は考えていると思います。商品を買っていただくのはこれまではゴール、でも現代ではスタートなのです。
深山:確かにその通りです。
MEDULLAは定期通販で商品を提供しています。定期にする理由は、MEDULLAは髪の手入れをサポートするサービス、と考えていただきたいという想いからです。ただシャンプーを販売しているのではなく、毎日お客様のヘアケアをサポートしているのです。
実際にボトルにはお客様のお名前が入っており特別感を演出しています。しかし、リスクもあります。例えば誤った名前を登録してしまい、ボトルを送ってしまった場合、特別感が裏目に出てしまいます。オーダーメイドを謳っておきながらミスをしてしまうことは避けなければいけません。その為、サプライチェーン周りの業務フローは徹底的な管理をしています。
相川: ECって通りがかる人がいないですよね。探していただかないといけない。新規の獲得は広告もうまく活用しながらですが、1つの商品を買っていただくだけでは商売としては難しいところがあります。その為、リピート率は社内でKPIに設定するほど大事な指標です。
それに加えて、森さん、深山さんの言う通り、サプライチェーンもとても大事だと思います。弊社は、インドで生産の石があり、安定供給にはまだ課題が残ります。集客数に合わせて、サプライチェーンの構築は引き続きの課題だと考えています。
森:そのサプライチェーンの悩みすごくわかります!例えば、前に購入した商品を、再度購入したいという需要はオーダーメイドだと結構よくある話なんです。ただそこで在庫切れを起こしてしまうと、お客様をがっかりさせてしまう結果になってしまいます。
FABRIC TOKYOでも少し前まで在庫切れには課題がありました。例えば、ジャケットはまだ着用できるが、下のズボンを引っ掛けて破いてしまった、のようなお問い合わせに対して在庫切れのためお待たせさせてしまうことがありました。
そうならないためにも、供給源の確保はオーダーメイドでは特に重要になってくると思います。
――オーダーメイド商品は小売店で販売されている商品に比べると単価は高くなってきます。それでも購入されるお客様は増えています。どのようなニーズを持っている人が多いのでしょうか。
森:人によってポジティブなニーズとネガティブなニーズの両方があると私は思います。
例えば「楽しく買い物をしたい」といったニーズ。オーダーメイドってそれだけでワクワクさせられる購買体験です。もう一つは体型に合う商品がないというネガティブなニーズです。私のようにサイズの悩みを解決するためにオーダーメイドという選択をする人は多いと思います。
深山:MEDULLAでは髪に悩みを持っている人が確かに多いですが、その人たち全員が今まで高いヘアケア用品を購入していたかというとそういうわけではない。
ドラッグストアのシャンプーを今まで利用していたというお客様も多いです。にも関わらず、MEDULLAのような高価格のシャンプー(2本:6800円+税)にどんどん移ってきています。
お客様にヒアリング進めていくと、多くの人が「手を抜きたかったわけではないが、今までは様々な商品があり、選択肢が多く、忙しい中じっくり選ぶことができなかった。しかし、自分に合わせたヘアケア商品があるのであれば、そっちを選択する」とのことでした。
森:今までは安いシャンプーを買っていた人が、顧客になり得るんですね。
深山:そうです。市場自体がどんどん拡大してきているのかなという実感はあります。それに加えて、最適な商品が今まではわからなかったが、何かのきっかけでオーダーメイド商品があることを知り、実際に手に取っていただくケースが多いです。
森:これもすごくわかります(笑)。FABRIC TOKYOも同じで、初来店のお客様の約7割がオーダーメイドスーツ購入経験の無い人です。私達の商品単価も他の企業に比べると高い価格設定なので、市場自体が拡大しているという実感はあります。
なぜオーダーメイド市場は拡大したのか
ZOZOSUITなどに代表されるように、ECにおけるオーダーメイドは珍しいものでは決してなくなった。ではなぜオーダーメイド商品や、カスタマイズ可能な商品にスポットが当たり始めたのか。
【後編】ブランドとサービスは切り離さない 3ブランドが語るそれぞれの想い
https://ecnomikata.com/original_news/22392/