コロナでEC化が加速したコスメ業界。コスメECアプリ「NOIN」が予想する、今後高まる消費者ニーズとは?
2020年、新型コロナウイルス感染症拡大の影響で、激動の年であったEC業界。なかでも、「実際の発色がわからない」「自分の肌に合うかどうか試せない」など、ECにおいて課題が多いように見えるコスメ業界には、どのような変化があったのだろうか。
そこで、コスメのショッピングアプリ「NOIN」を運営するノイン株式会社 取締役 千葉 久義氏にインタビュー。コスメ業界における2020年の消費者動向の変化と、2021年以降生まれるであろうニーズについて話を伺った。
■コスメのショッピングアプリ「NOIN」とは?
250万ダウンロードを突破した、コスメに特化したネットショップアプリ。商品販売だけではなく、新作コスメやコスメレビューといったコンテンツなど、編集部独自の情報を発信しているのが特徴だ。
新型コロナウイルス感染症によって起こった、コスメ業界の変化
ーー新型コロナウイルス感染症拡大を受けて、コスメ業界にどのような変化がありましたか?
ECに参入するハイブランドのコスメブランドが急激に増えています。「NOIN」を立ち上げた2017年あたりは、ECではなく実店舗でコスメを販売するのが主流で、「NOIN」に出店するハイブランドのコスメブランドはなかなか増えませんでした。しかし、2020年になって外出自粛の流れが到来し、百貨店などが休業したことで、コスメブランドの販路が急に途絶えたのです。
実店舗で販売できないとなると、コスメブランドの売り上げはゼロになってしまいます。とはいえ、これまで販路を絞ってハイブランドのバリューを作っていたから、大型ECモールなど、ECで販路を広げすぎるわけにはいきません。そこで、コスメを専門としているショッピングアプリを運営する私たちに、お問い合わせをいただくようになりました。
「NOIN」に出店するハイブランドのコスメブランドは、長らくゼロの状態でした。しかし、2020年になって15ブランドに増加。大丸松坂屋百貨店と連携し「Amuse Beauté(アミューズ ボーテ)」というコスメセレクトショップも出店したため、「JILL STUART」「ADDICTION」といったハイブランドの商品が並んでいます。通常であればかなり時間がかかるはずの出店ですが、3月にご相談をいただいてから半年ほどで話がまとまり、実際に2020年10月から販売がスタートしました。
新型コロナウイルス感染症拡大の流れがなかったら、今お話ししたように、コスメ業界に大きな変革は訪れなかったでしょう。コスメECは伸びていくことが確実だと思っていましたが、今年に入って予想を上回るペースで急激に伸びたので、私たち自身も驚いています。
ーーコスメ業界のEC化が進んだことで、ECでのブランド同士の競争は強まりましたか?
ECに参入するコスメブランドが増えることによって、ECでのブランド同士の競争が強まる動きは、今はありません。コスメECというジャンル自体が成長している過程なので、実際「NOIN」に出店している全ブランドのECでの売り上げが伸びています。
実店舗の売り上げが減少しているなか、減少分の売り上げをECでカバーしきれていませんが、コスメECの伸びしろは大きいでしょう。実際、「NOIN」のトラフィックも増えており、ECの売り上げの割合は今後高まっていくことが予想されます。
今、消費者は何を求めている? 購買行動の変化
ーー2020年になって、消費者が求める商品に変化がありましたか?
はい。外出する機会が減り、「メイクする必要はないけど、肌はきれいに保ちたい」とコスメではなくスキンケア商品が注目されるようになりました。
また、マスクをつけるのが主流となったことで、マスクで隠れてしまうリップメイク関係のコスメの売り上げが落ち、アイメイク関係のコスメが売れています。なかでも、カラーアイライナーやカラーマスカラなど、カラーものが売れる傾向にあります。
ーー消費者の購買行動はどう変化しましたか?
今までは店舗に行ってから購入する商品を決めていましたが、インターネット上で情報収集をし、買う商品を決めた状態で店舗に行くように変化しています。
これまでは、店舗にサンプル商品がズラッと並んでいて、自分で気軽に塗って試せるのが魅力でした。しかし現在は、新型コロナウイルス感染症対策として、サンプル商品に透明のシートがかけられています。試したいときはスタッフに声をかけなければならず、サンプル商品を気軽に試せなくなりました。買う気でないとスタッフに声をかけにくくなったので、消費者はまずインターネットで情報収集をするようになったのです。
そのため、コスメ業界において、メディアが発信するコンテンツの重要性が高まっています。コスメブランドは、顧客を獲得するために、インターネット上の情報発信のマーケティングに力を入れていく必要があるでしょう。
「コスメのテクスチャーや色味までわかるようなコンテンツ」を発信するメディアに出稿するなど、店舗でサンプルを試さなくても商品の魅力が伝わるよう、戦略的に施策を打つことが重要です。
ーー消費者が自分に合う色を確かめられるよう、AR技術を導入するコスメブランドもありますよね。
そうですね。技術は日々進化していますが、AR技術だけで購入を決断してもらうにはまだ課題が大きいと思います。例えば、ウォータープルーフの商品のなかには、塗ってから10秒後に効果を発揮するものがあります。
そういった商品は、塗ってから10秒経つまでは、少し擦ってぼかすなど、発色を調整することが可能です。今まで実店舗でスタッフが説明していた「どのタイミングでどのようにぼかすことで、理想の色味を出せるのか」といった深い情報は、AR技術だけで伝えるのは難しいでしょう。
実店舗でタッチアップをするハードルが上がった今、接客のプロがやっていた仕事を、デジタルの領域でカバーしなければなりません。そこで代替する手段が、情報を詳しく記載したコンテンツのほか、インターネット上でカウンセリングを受けられる「Eカウンセリング」の存在だと思うのです。2021年以降、Eカウンセリングのニーズはどんどん増していくのではないでしょうか。
今後、コスメブランドが勝つために必要なものとは?
ーー今後、コスメブランドはEカウンセリングに力を入れていくべきなのでしょうか?
そうですね。実際にコスメを試せる場が減っているなかで、オンラインでカウンセリングを受けたいという声は増えていきます。
消費者のなかには「スタッフに話しかけられたくない」「カウンターに座ってしまうと、買わなければいけなくなってしまう」と接客に抵抗感をもつ層も一定数いるのが事実です。実店舗からデジタルの接客に移行していくことで、接客に苦手意識をもつ消費者も獲得しやすくなります。
コスメブランドは、最初はチャットからスタートし、最終的には自社ECサイトでカウンセリングできる仕組みを構築するなど、消費者が気軽に相談できる環境を実現していくべきでしょう。実店舗での体験をそのまま移行するのではなく、実店舗の体験をECでどうアップデートできるのかが、消費者の心を掴むカギといえます。
ーー今後「NOIN」もEカウンセリングに注力されていくのでしょうか?
はい。私たちは「NOIN」を運営するだけではなく、コンテンツも制作しているため、商品の知識を豊富にもっています。実際に在庫を抱えていて、コスメをすべて試したうえでリアルな情報を発信しているため、レベルの高い接客をする土壌は整っています。そのため、「NOIN」ユーザーに対して、自社のスタッフが受け答えをする形でEカウンセリングをスタートさせるつもりです。
あとはEカウンセリングとともに、商品レコメンドにも注力していきます。利用者が増えてユーザーの多様性が高まっているうえ、出店ブランドが増えて商品の選択肢が多くなっているからこそ、ユーザーの興味関心を引くような商品をレコメンドし、CVを高めていきたいです。
ーー最後に、これからコスメ業界のEC化が加速するにあたり、コスメブランドはどういった戦略を立てていくべきでしょうか?
デジタルにシフトしていくからこそ、インターネット上でデータを取り、分析していくことが重要だと思います。これまでコスメ業界は実店舗での販売が主流だったため、インターネット上で取れる情報はあまりありませんでした。
そこでコスメブランドが行っていたのが、大きな広告宣伝費をかけ、マスに商品を宣伝することです。データがないなかで広告宣伝費を投下しているため、届けるべき消費者に効率的にアプローチできているとはいえません。
しかし、これからEC化が進むにつれ、「どういった消費者が商品に興味をもっているのか」「何がきっかけで商品を知ったのか」といったデータが溜まっていきます。「NOIN」でも、出店ブランドに対して、「どのブランドの商品と比較検討されたのか」「どこで商品を知って、購買に至るまでどのような行動があったのか」など公開できる範囲でデータを共有しています。
デジタルだからこそ得られるデータを分析し、これまで大規模にかけていた広告宣伝費を、然るべき施策に割り当てていく。こうして、いち早くデジタルマーケティングにシフトするコスメブランドこそ、コスメECで成功していくのではないでしょうか。