日本参入から1年、Allbirdsのデジタル戦略とインフラ構築の現状は?

ECのミカタ編集部

allbirds
(左)Marketing Director 蓑輪 光浩氏
(右)EC Senior Manager 石井 孝憲氏

スニーカーを中心としたアパレルのD2Cブランド「Allbirds(オールバーズ)」。2016年の創業から2年間で約100万足を販売し、累計2億ドル以上の出資を受けるなど急成長を続けている。2020年1月には東京・原宿で直営店をオープンし、日本市場に参入した。現在は直営店と自社ECサイトを通じ、国内で売り上げを伸ばしている。「オールバーズ」の日本事業における初年度の取り組みや、今後の事業戦略について、Allbirds合同会社の蓑輪光浩氏と石井孝憲氏に話を聞いた。

「オールバーズ」はどのようなブランド?

「オールバーズ」はどのようなブランド?

──まずは「オールバーズ」の事業の概要と、グローバルにおける事業展開の現状を教えてください。

蓑輪氏:弊社はスニーカーを中心としたアパレルブランドです。天然由来のサスティナブル(持続可能)な素材を使い、快適な履き心地とシンプルなデザインのスニーカーを販売しています。サッカー元ニュージーランド代表であるティム・ブラウンと、バイオテクノロジーの専門家であるジョーイ・ズウィリンジャーが2016年に米国サンフランシスコで創業しました。

現在は北米やヨーロッパ、中国、日本など35か国以上でECサイトを展開しているほか、欧米やアジアなどの主要都市で直営店を合計22店舗運営しています(2021年2月末時点)。スニーカーの販売実績は創業から2年間で100万足、顧客数は2年半で100万人を超えました。また、これまで累計2億ドルの出資を受けています。

「オールバーズ」のECサイト。スニーカーはサスティナブルな素材を使い、履き心地とシンプルなデザインが特徴

原宿店の売上高は世界1位。ブランドの浸透に手応え

──2020年1月に東京・原宿に路面店を出店し、2020年4月には日本語の自社ECサイトを開設しました。日本における初年度の業績を、どのように評価していますか?

蓑輪氏:「オールバーズ」の商品が日本の消費者から一定の支持を得られたと思っています。原宿の路面店の2020年における売上高は、世界中の直営店の中で1位でした。昨年は新型コロナウイルスの影響があり、一部の国や地域で店舗の営業時間に制限があったことを差し引いても、原宿店の売り上げが大きいことは間違いありません。

──「オールバーズ」は履き心地やデザインだけでなく、サスティナビリティ(持続可能性)を強く打ち出している点で、他のシューズブランドと一線を画しています。サスティナビリティというコンセプトは、日本でも受け入れられているのでしょうか。

蓑輪氏:商品を購入する理由としてサスティナビリティを重視する消費者の割合は、ヨーロッパでは60〜70%に上るのに対し、日本は約30%にとどまるという調査結果もあります。「サスティナブルだから」という理由で「オールバーズ」の靴を買う日本の消費者は、海外と比べれば少ないかもしれません。

しかし、原宿店の売り上げが世界1位だったことからも、サスティナビリティというコンセプトを支持してくださっているお客さまは日本にも確実に存在します。私たちは実店舗やECサイトを通じて、ブランドのコンセプトを発信し、サスティナビリティに価値を感じてくださる消費者を増やしていくことが使命だと考えています。

日本人の価値観に合わせたコミュニケーションを重視

──「オールバーズ」のブランドコンセプトを消費者に伝える方法は、日本と海外で違いがあるのでしょうか。

蓑輪氏:サスティナビリティに対する価値観や、気候変動に対する問題意識は、日本と海外では違いもあります。ブランドコンセプトを説明する際は、できるだけ簡単な言葉を使い、語りかけるように説明することを重視しています。メディアを通じた情報発信だけでなく、お客さまに送るメールや直営店での接客など、すべてにおいてブランドトーンには注意を払っています。

──日本人の価値観に合わせて伝え方を工夫しているのですね。情報発信のポリシーやブランディングの方針などは、日本法人が決定しているのでしょうか。

蓑輪氏:「オールバーズ」本社はローカルスタッフの自主性を尊重してくれます。日本のスタッフがベストだと考える施策を、本社がサポートしてくれています。そのため本社の方針で日本での取り組みが動きにくいといったことはありません。

デジタル広告で認知から購入までの流れを創出

デジタル広告で認知から購入までの流れを創出

──日本におけるブランドの認知拡大や販促を目的として、実施している施策を教えてください。

石井氏: SNS広告やサーチエンジン広告、ディスプレイ広告といったデジタル広告のほか、オーガニック流入を増やすための検索対策や、SNSアカウントの運用などを行っています。

──デジタルマーケティングを実施する上で意識していることはありますか?

石井氏:コンシューマージャーニーの上流から下流まで、バランスよく施策を打つことが重要だと考えています。消費者は「オールバーズ」を知ってから商品を購入するまでに、リスティング広告やSNS広告、クチコミ、ECサイトの情報など、さまざまなコンテンツに接触します。デジタルマーケティングを行う際は、消費者とのタッチポイントを増やし、認知から購入までの流れを作ることを意識しています。

──そういったマーケティングの戦略も、日本法人の自主性が保たれているのでしょうか。

石井氏:そうですね。販促の方針について、本社から細かく指示を受けることはありません。キャンペーンや広告は、同じような施策を打っても国や地域によって成果が大きく異なる場合もあります。そのことを本社も理解しており、日本法人の知見を信用して任せてくれています。

ただし、各国のマーケティングの成功例をグローバルで共有しており、ヨーロッパで成功した施策を日本で試すことはありますし、逆に日本の成功事例を海外に伝えることもあります。

商品の基本デザインは世界共通

商品の基本デザインは世界共通

──消費者が「オールバーズ」を選ぶ理由を日本と海外で比較した場合、違いはありますか?

石井氏:「オールバーズ」の靴の特徴である「シンプルなデザイン性」「履き心地の良さ」「サスティナビリティ」の3つに関しては、世界共通でお客さまから支持されていると思います。ただ、欧米では家の中で靴を履く習慣があるため、自宅で快適に過ごせる靴を好む傾向があり、その点は日本と違います。

──商品は国ごとに異なるのでしょうか。

蓑輪氏:商品は世界共通です。ただし、国や地域によって限定カラーを販売しており、日本でしか買えないカラーもあります。

各国のECサイトはShopifyで構築

──ECサイトのシステムや物流、決済など、日本事業におけるインフラについて伺います。「オールバーズ」のECサイトを日本で運営するにあたり、ECシステムの選定やサイト構築を、どのように進めたのでしょうか。

石井氏:「オールバーズ」のECサイトは、中国を除き世界共通でShopifyを使って構築と運用を行なっています。ECサイトの枠組みやコンテンツマネジメントシステムは共通化されており、ECサイトのページを追加する際は、グローバルチームがフレームワークや画像を用意し、各国のスタッフが現地の言語で文章を追加するという運用フローです。

──ECシステムを共通化することで、 ECサイトの構築や運営を効率化しているのですね。

石井氏:その通りです。ECシステムが共通化されているからこそ、グローバル展開がスムーズに進んでいるのだと思います。

──決済や物流のインフラを構築する上で、苦労したことはありますか?

石井氏:日本は現金払いの比率が欧米よりも高いため、クレジットカード決済以外の決済手段が必要でした。弊社はコンビニ払いを導入することで現金払いのニーズに対応しています。

また、日本では注文翌日の配送が当たり前になっており、スピード配送を実現するオペレーションが欠かせません。弊社は正午までの注文は、一部地域を除き翌日に商品が届くオペレーションを組みました。

物流パートナーと連携して返品交換サービスを実現

──「オールバーズ」のECサイトで購入した靴のサイズが合わなかった場合、試し履きした後でも返品や交換が可能ですね。迅速な返品交換のオペレーションを実現するには、物流倉庫との連携も必要ですね。

石井氏:日本における物流業務は、「オールバーズ」が中国や韓国などでも提携している物流会社に委託しています。物流や配送を担うパートナー企業さまのご協力により、返品交換や注文翌日の配送といった「オールバーズ」の強みとなるサービスを実現できました。

──ECシステムをグローバルで共通化することでECサイトの構築や運用を効率化し、同時に、決済や配送サービスは日本にローカライズしているのですね。

石井氏:おっしゃる通りです。「オールバーズ」のECサイトのベースになっているShopify Plusは、サードパーティが提供しているアプリケーションのアドオンや、API連携によって機能を拡充できます。拡張性が高いことを生かし、日本の商習慣に合わせた決済サービスや物流サービスとの連携を進めています。

サスティナビリティに対する意識を変えていく

サスティナビリティに対する意識を変えていく

──2021年2月から日本事業の2年目がスタートしました。事業の展望や今後の抱負をお聞かせください。

石井氏:新規のお客さまを増やすために、「オールバーズ」の認知拡大を目的とした施策を引き続き実施していきます。同時に、既存のお客さまにリピーターになっていただくため、さまざまなサービスを追加していく計画です。例えば、靴の返品や交換をスマホで行える機能や、自分の足に合ったサイズの商品をECサイトで買いやすくするサービスなども準備しています。

蓑輪氏:ファッション業界はこれまで、製造や輸送において多くのCO2を排出してきました。大量生産と大量廃棄によって、環境に負荷がかかっていることも問題です。弊社は、孫の世代まで地球をきれいに保つため、製品の生産過程における環境への負荷をできるだけ少なくすることを目指し、全商品にカーボンフットプリントを記載しています。「オールバーズ」の商品を販売することを通じて、環境に優しい商品を買ったり、商品を長く使ったりすることの価値を消費者に伝え、日本人のサスティナビリティに対する意識や行動様式を変えていきたいです。すでにそのムーブメントは始まってきています。


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