なぜカンロはEC限定品を完売し続けられるのか 【リアル体験✕EC】によるファン作りへの挑戦
カンロ株式会社 マーケティング本部 フューチャーデザイン事業部 マネージャー 武井優氏
リアルイベントで生まれたファンの“熱狂”を、いかにしてEC売上につなげるのか――。創業1912年の菓子メーカー、カンロには、キャンディ市場で国内トップシェアを持つにもかかわらず、「お客様の中で商品名と会社名が結びついていない」という課題があった。
コロナ禍をきっかけにEC事業に本腰を入れ、EC限定商品の開発や有料ファンイベントの実施など、リアルとデジタルを横断した顧客接点の構築を進めているカンロ。顧客接点を統合する仕組みがなかった同社は、いかにして「ファンが購買をドライブする」状態をつくることができたのか。現在進行形で挑戦を続けているという、カンロの「ファンマーケティング」の取り組みをレポートする。
●本記事は2026年1月開催「ECのミカタ カンファレンス」で行われた、カンロ株式会社 武井優氏のセッションをレポートしたものです
【課題】なぜ「ピュレグミ=カンロ」にならないのか
2026年で創業114年目を迎えるカンロは、「“Sweeten the Future” 心がひとつぶ、大きくなる。」をパーパスに掲げ、飴・グミを中心とした菓子メーカーとして成長を続けている。
画像提供:カンロ株式会社(カンファレンス登壇資料より ※以下同じく)
グミ市場の伸長という追い風もあり、2024年には過去最高売上を更新。キャンディ市場全体でもグミ2位、飴1位でトータル首位に立った(※)。その一方で武井氏は、率直に課題を語る。
「キャンディ市場は各社のシェアが10%台で横並び。実は『“ピュレグミ”がカンロの商品』だと認識しているお客様は1割程度しかいません。圧倒的なブランド力を持つ企業が存在しないのがこの市場の特性であり、我々の課題でもあります」
商品名は広く知られているものの、顧客の中で商品名と「カンロ」という会社名が結びついていない。こうした状況を背景に、同社ではデジタルで顧客接点を整理し、顧客との双方向コミュニケーションに注力することで、ファン化の推進に取り組んでいる。
※出所:インテージSRI+。シェアは2024年小売販売金額ベース。「キャンディ」は飴(あめ)/グミ/錠菓・清涼菓子/その他で構成
分散していた顧客接点を統合し、ECも進化
カンロがECに本腰を入れるきっかけとなったのは、直営店「ヒトツブカンロ」のコロナ禍による臨時休業だった。急きょECを開始した当初は、アンケートフォームと銀行振込のみという仕組みで、本社の従業員が梱包・出荷を行う体制だったという。
その後、ECを全社横断のプロジェクトとして推進する中で、同社はデジタルマーケティングの目的を次のように整理した。
「Webやテクノロジーをテコにして、カンロが積み上げてきたビジネス資産を活用・強化し、CX(顧客体験価値)を向上させ選ばれるブランドになる」

「お客様の中で商品名とカンロという会社名が紐づいていない状況だったので、デジタルを活用して選ばれるブランドになろうと考えました。お客様と直接会話しながらファンをつくり、その声を商品開発に戻していく循環を目指しています」(武井氏)
こうした考えのもと、カンロはEC戦略を段階的に進化させてきた。まず基盤整備としてShopifyへの移行と全社横断プロジェクトの立ち上げを行い、ECとカスタマーサポートを軸に顧客接点を集約するプラットフォーム「Kanro POCKeT(カンロポケット)」を構築。当時は各商品ブランドが個別に活動しており、顧客接点の集約はゼロからのスタートだったという。

Kanro POCKeTは、商品情報、EC(オンラインショップ)、コミュニティ、各ブランド、カスタマーサポートなどを一体化した顧客接点基盤となるプラットフォームだ。会員コミュニティである「Kanro POCKeT ×(カンロポケットクロス)」は、ユーザーに獲得ポイントに応じた特典を提供する仕組みを導入している。
ECだから実現できた「体験を売る」商品設計
賞味期限や耐久性などの制約から一般流通が難しい商品を、ECならではの自由度で展開するシリーズが「アメージングカンロ」だ。
武井氏は「社内に眠る技術の可能性を引き出し、本当においしい、ワクワク体験を届けることをテーマにしています」と語る。

その代表的な事例の一つが「ホシフリラムネ」だ。“ラムネを売るのではなく、ストーリーと体験を売る”というコンセプトのもと、満点の星空をモチーフにしたラムネと専用瓶をセットにして、自ら詰める体験を含めて販売している。SNSで話題となりテレビにも取り上げられ、初回は発売から9日間で完売した。
ファン化を加速させた「対話設計」のあり方とは
現在力を入れているファン化推進は、カンロとして統括的なコミュニケーションを行い、顧客エンゲージメントを強化することを目的としている。

ファン化戦略の中核となるのが、前述のコミュニティサイト「Kanro POCKeT ×」だ。Kanro POCKeTと統一IDで連携しており、ファン度の高い会員を対象に、プレオープンを経て2025年に本格公開された。
設計にあたっては、まず「カンロにとってのファンとは何か」を社内で定義した。「商品への好意に加えて、カンロのパーパスにも共感して積極的に情報交換してくれる強力な助っ人たち」。この定義がコミュニティ運営の根幹となっている。
「会員同士の交流ももちろん大切ですが、最も重視しているのはカンロ社員とお客様との直接対話の場であること、そしてファンの声を吸い上げる場所であることです」(武井氏)

「Kanro POCKeT ×」では、商品開発の裏側を限定公開する、社員の疑問を起点に投票やコメントを募集するなど、双方向のコミュニケーションを重視している。また、ファン度を約50項目で定量把握し、コアファン・ライトファン・(ミドル)ファンの特性を整理。ECだけでなく店頭売上への貢献度も追跡できる体制を構築中だという。
なぜ有料イベントを「10分で完売」することができたのか
「Kanro POCKeT ×」内でのリアル施策として紹介されたのが、有料ファンイベント「カンロ祭(まつり)」だ。
以前からハロウィンやクリスマスなどの無料イベントを実施していたが、「有料化することで景表法の制約を超えてより豊かな体験を提供したい」という考えから、有料イベントの開催に踏み切った。
「ファンに本当に喜んでもらえる場を作り、そこでの熱狂を話題化・拡散することで、次のファンを生み出すことにつながるのではと考えました」(武井氏)

2025年11月の「カンロ祭」は親子をメインターゲットに3部制・各部40名で開催。缶の中にグミを詰めてデコレーションするワークショップ、社員によるクイズ、ポップアップショップ、廃棄包材を活用した缶バッジ制作など、体験と社員との対話を軸にプログラムを構成した。結果として、募集開始からわずか10分で応募枠が埋まる反響を呼んだ。
「参加者の反応が非常によく、社員にとっても直接お客様とコミュニケーションできる場としてモチベーションの向上につながりました。当日は社長も参加し、参加者からは『担当者と直接話せてうれしかった』という感想をいただきました」(武井氏)
2025年11月に開催されたファンイベント「カンロ祭 2025」の模様(画像提供:カンロ株式会社)
PR頼みから脱却、「ファンが売上を生む」構造へ
まだ試行錯誤の段階ではあるものの、「アメージングカンロ」シリーズの販売から、ファン施策の効果も見え始めている。
第1弾「ホシフリラムネ」を販売した当時、Kanro POCKeTの会員数はまだ少なく、SNSバズやPRによるメディア露出を主軸とした拡散戦略に頼っていた。しかしシリーズ第3弾の「スノーマロウ(Snow Mallow)」は、メルマガやLINE、プレスリリースのみで完売し、購入者の約6割が既存ファンだったという。
「EC専用商品の売上規模はまだ大きくありませんが、今のお客様に向けて商品を開発して届けることで、着実に売上を拡大できることが見えてきました」(武井氏)
PR頼みの拡散からファンへのリテンション中心へ――。この変化こそが、ファン化戦略の成果が出始めたことを示している。
※「スノーマロウ」はすでに今季の販売を終了
さらに、カンロ飴発売70周年を記念してアクセサリーブランドのHARIO Lampwork Factoryとコラボした実寸大の「カンロ飴ネックレス」(税込1万1000円/限定70個)も、プレスリリースとメルマガのみで完売。
「社内でも売れるのか懸念する声があった中、『ファンの方はこのような商品も買ってくれるんだ』という、うれしい驚きがありました」(武井氏)
※実寸大「カンロ飴ネックレス」はすでに販売を終了
最後に、武井氏は次のように締めくくった。
「少しずつですが、“ファン化”が売上につながっていくことを実感しています。ただ、効果測定の指標整備はまだ道半ば。今後は、店頭購入個数の変化も追っていくことで、全社売上への貢献度を可視化していきたいです。そうすることで、カンロがキャンディメーカーの中で本当に選ばれるブランドになることを目指していきます」
リアルイベントやコミュニティを通じてファンとの関係を深め、その熱量をECの売上へとつなげていく。カンロの取り組みは、ファンマーケティングとEC戦略をどのように結びつけるかを示す好事例と言えるだろう。
2010年、カンロに入社。情報システム、マーケティング、EC、広報を経験するなかで、各デジタル領域を担当。2021年にデジタルマーケティングを推進する全社プロジェクトのリーダーを務めたのち、デジタルコマース事業にて戦略立案・EC商品の開発・サイト運用を経験。現在は、広報・デジタルマーケティング・EC事業を通じて顧客をファンにすることをミッションにしたCX推進部のチーフマネージャーを務める。2026年はECを含めた新規事業を促進するフューチャーデザイン事業部に着任。2024年ネットショップ担当者アワードMVP受賞。


