「売上至上主義」の限界をどう突破する? 利益20%増を実現するための処方箋

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ECのミカタ編集部

(左から)コマースメディア株式会社 代表取締役 井澤孝宏氏、株式会社生活の木 マーケティング本部 デピュティゼネラルマネージャー 中村佳央氏、アンファー株式会社 取締役 吉岡真実子氏

売上拡大と利益確保のジレンマに悩むEC企業は少なくない。広告費の高騰やモールの手数料負担が重くのしかかる中、どうすれば「残る利益」を最大化できるのか。

チャネル別の収支算出、部門間の衝突を回避する評価設計、クーポン依存からの脱却という現場の生々しい葛藤を抱えるP/L(損益)責任者の悩みは尽きない。さらに、「予実管理」を回し、「経営層の巻き込み」や「現場の評価」も設計していかなければならない。

山積する「利益にまつわる課題」の解決に向けて、試行錯誤のうえ見事に“山”を乗り越えたコマースメディア、生活の木、アンファーの「利益責任者」に具体的な処方箋を聞いた。

※本記事は2025年11月開催「ECのミカタ カンファレンス」で行われたセッションをレポートしたものです

EC事業における利益の位置づけ

――まずは、EC事業における「利益」をどう位置づけているかをお聞かせください。

コマースメディア株式会社 代表取締役 井澤孝宏氏(以下、コマースメディア 井澤氏) 当社は実店舗を主軸としていないため、ECで着実に利益を創出することは、いわば「事業継続のための絶対条件」です。

単一のモールに依存するのではなく、卸売も含めた複数のチャネルを統合的に管理し、事業全体での利益最大化を追求しています。楽天、LINEギフト、TikTok Shopなど、その時々で最適なプラットフォームは変動しますし、時には卸売の方が利益率が高い場合もあります。そのため、状況に応じて機動的にリソースを配分できる体制を敷いています。

株式会社生活の木 マーケティング本部 デピュティゼネラルマネージャー 中村佳央氏(以下、生活の木 中村) 売上の6割を占める店舗は体験の場として割り切って、利益創出はECで行う戦略を取っています。以前は全チャネルで利益を追っていましたが、現在は役割を明確に分けました。「店舗は体験の場」「モールは売れる広告(認知)」と割り切り、最終的な「利益の源泉は自社ECと卸」に集約させる戦略です。

アンファー株式会社 取締役 吉岡真実子氏(以下、アンファー 吉岡) 従来はモールイベントに時期をあわせたプロモーション、売上高重視でしたが、現在は「EC利益率」を最重要KPIに置いています。モールの利益構造を精緻に分析した結果、自社ECの収益性が圧倒的に高いことが判明したため、現在は自社EC比率の向上に注力しています。

――利益を仕組みとして管理するために、どのようなツールや指標を使っていますか。

コマースメディア 井澤 多岐にわたるチャネルの数値を個別に把握するのは困難ですので、Google Cloud Platform(GCP)にデータを格納し、Looker Studioで表示することで数十サイトのデータを一元化しています。全プラットフォームの売上や指標をリアルタイムで可視化することで、自社のEC事業が今どのような状況にあるのか、広い視野で捉えることが可能になります。

これを支えているのが「工数管理システム」です。「誰が、どの業務に、何時間費やしたか」を算出し、人件費を含めた「プロジェクトごとの利益率」を可視化しています。どの事業にどれほどのリソースが投じられているのか、その実態を明らかにするところまで踏み込んで支援できる点が、当社の強みだと考えています。

生活の木 中村 当社では部門ごとに番号を振り、SKUやチャネル単位で売上、利益を見える化しています。以前は「店舗 vs EC」で在庫や顧客を奪い合う摩擦があり、利益率の高い商品をECが優先すると店舗側が不満を抱くこともありました。そこで評価は個人単位ではなく、BtoBとBtoCという大きな予算単位で行う仕組みにしました。

また、チャネルごとにKPIは異なり、自社ECでは会員獲得とLTV向上、モールでは広告予算とROI、製造部門では原価率削減を指標としています。2025年9月からは工数や利益率を含めた見える化を進め、部門間で同じ指標を見て、共通の目的に向かえるような体制を整えました。

アンファー 吉岡 当社ではブランドごとにPLを独立させています。現場の店長にはCAC(顧客獲得単価)やクーポンコストの管理権限を持たせつつ、ブランド側の戦略とズレないよう、関与する範囲のKPIを切り分けて運用しています。直近ではモールのポイント・クーポンコストが膨らみすぎていたため、コストを前年の半分に設定し、売上目標もそのぶん下げて、利益重視へと方針転換しました。

評価制度と「兼任」が利益を生む

――ここまで各社で利益の見える化や可視化の取り組みについて伺ってきました。経営的な観点からも利益を指標として組織全体で共有される中で、実際にどのような体制を敷いているのでしょうか。

コマースメディア 井澤 弊社では、「個人がいかに利益貢献したか」を賞与に反映させる仕組みを取り入れています。また、組織運営においてはあえて過度な分業をせず、「CSとマーケティングの兼任」などを積極的に推奨しています。

各部門の苦労を分かち合える、いわば「越境した体制」を敷くことで、セクショナリズムを防ぎ、部門間での深い相互理解と共通認識を育んでいます。管理面での煩雑さは伴いますが、個人のキャリア停滞を防ぐとともに、何より社員一人ひとりに自分の業務が利益にどう繋がっていくのかを考えるきっかけを作っています。

コマースメディアの「利益への執着心」を育む取り組み

生活の木 中村 当社は思い切って「EC事業部」を解体し、他部門へ統合しました。店舗とEC、さらに卸とECが社内で競合し、価格競争によって利益が下がるケースが出ていたためです。ターゲット顧客が同じであれば、オンライン・オフラインを分ける必要はありません。この再編により、社内での顧客の奪い合いがなくなり、全体のLTV(顧客生涯価値)最大化に集中できるようになりました。

アンファー 吉岡 当社ではブランドごとのPL管理を前提に、EC事業部の利益改善指標を限定しています。具体的には、売上高目標の達成、ポイント・クーポンコスト率の目標達成、自社販路比率の目標達成、そして広告宣伝費に対するCAC、ROASの目標達成です。各部門に担当を分配し、それぞれが自分のミッションに集中できるようにしています。

ブランドごとにステージが異なるため、スカルプDと新規ブランドでは広告費やクーポンコストの水準も違います。そこで楽天市場など店舗単位でPLを語るのではなく、ブランドごとにミッションを分けて管理する体制に切り替えました。

成果としては、特にポイント・クーポンコストへの意識が大きく変わりました。従来は「掛ければ掛けるほど売上が伸びる」という前提で、コストが膨らみがちでしたが、制限したことで利益改善につながっていると感じています。

モール利益改善と「TikTok Shop」の衝撃

――ECでの利益確保については、各社が苦戦されているという声をよく耳にします。そうした状況の中で、利益を出すために事業としてどのような工夫をされているのか、お聞かせください。

生活の木 中村 楽天のクーポンと広告費を大幅に削減しましたが、驚くほど売上への影響はありませんでした。いかに「出さなくていいコスト」を払っていたかを痛感しました。

アンファー 吉岡 うちもポイント・クーポンコストを削減しましたが、新規顧客については影響がありませんでした。とはいえ、リピート客に戸惑いが見られました。そこをどのようにコミュニケーションして復活させていくかが課題です。

コマースメディア 井澤 TikTok Shopをはじめとする、新しいチャネルへの挑戦も欠かせない要素です。当社は「TikTok Shop Partner」として支援を開始しておりますが、ライブ配信のシナリオ作りや迅速なコメント対応など、「運営側の熱量」が利益に直結する非常に興味深い市場であると感じています。

生活の木 中村 当社もTikTok Shopに注目しています。2025年10月から開始し、2カ月で売上400万円を達成しました。伸びが非常に速く、運営体制を最初に整えることが重要で、実店舗の販売スタッフによるライブ配信のノウハウがそのまま活きています。

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3社の議論から見えたのは、利益創出は「単なるコストカット」では続かない、ということだ。

●データの可視化によって現状を直視する。
●組織の壁を取り払い、インセンティブ、評価の仕組みを整える。
●チャネルの役割を再定義し、「削るべきコスト」を見極める。

この3つのサイクルを回し続けることが、EC事業の持続可能な成長を実現する唯一の処方箋といえるだろう。


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