ZENBはなぜ「注文ゼロ、LTVも伸びない」状態から成長できたのか 失敗に学ぶ顧客起点の実践
株式会社 ZENB JAPAN ダイレクトチーム チームリーダー 和田悠氏
220年以上続くミツカングループの哲学を受け継ぎ、2019年にゼロから立ち上げられたウェルビーイングフードブランド「ZENB」。2025年は楽天市場やAmazonのアワード、JAPAN EC大賞などを受賞(※)するまでに躍進したが、ここまでの道のりは決して平坦ではなかった。
輝かしい成功の裏側で、ZENBは発売直後の注文件数ゼロ、NPSの急落、ビジネスモデルの見直しなど、数々の失敗と向き合ってきた。本稿では、これまでのZENBの歩みと、そこから導き出された「顧客起点」の実践を紹介する。
●本記事は2026年3月開催「ECのミカタ カンファレンス」で行われた、株式会社ZENB JAPAN ダイレクトチーム チームリーダー 和田悠氏の講演をレポートしたものです
※楽天ショップ・オブ・ジ・エリア2025 (東海・北陸エリア賞/2年連続受賞)、Amazon.co.jp マーケットプレイスアワード2025(タイムセール賞)、JAPAN EC大賞(食品部門賞)
「捨てられるものを活かす」。ミツカンの原点がZENBを貫く
画像提供:株式会社ZENB JAPAN(カンファレンス登壇資料より。以下同じく)
ZENBはミツカングループのミッション「やがて、いのちに、変わるもの。」のもと、「おいしさ」と「からだにいい」を両立する新しい食生活の実現を目指す事業である。
その背景にあるのが、「普段は捨てられるものを有効活用する」というミツカンの思想だ。1804年創業の同社は、酒粕を発酵させて酢(粕酢)をつくることから始まり、この発想を受け継いできた。
この思想はZENBの商品設計にも直結している。野菜や黄えんどう豆を丸ごと使い、皮や芯まで無駄なく活かす点が特徴だ。黄えんどう豆はタンパク質・食物繊維・鉄分・亜鉛・カリウムを豊富に含み、低糖質・グルテンフリーという特性もあわせ持つ。
現在はZENB NOODLE(ゼンブヌードル)やZENB BREAD(ゼンブブレッド)などを含めた50品以上を展開し、「365日×6食」のコンセプトで日常的な取り入れを提案。販売は自社サイトとECモールを軸に、サブスクモデルを中心としている。

また、ミツカンの企業理念「買う身になって まごころこめて よい品を」「脚下照顧(きゃっかしょうこ)に基づく現状否認の実行」は、ZENBにおいて「顧客起点」と「PDSA(Study重視)」として実装されている。「やってきたことから学び、失敗からも学び、チームで共有し次につなげる」サイクルだ。
なぜ売れなかったのか。注文ゼロから見えた“認知・ニーズ・導線”のズレ
ただ、立ち上げ期はなかなかうまくいかなかった。
2019年3月、ZENBは「植物を、普段は食べずに捨てている分まで可能な限りまるごとぜんぶ」をコンセプトに、ZENB PASTE(ゼンブペースト)とZENB STICK(ゼンブスティック)の2商品でスタートした。
和田氏が最初に挙げた失敗は、この立ち上げ期における“思い込み”だった。ミツカンの既存事業では高い市場シェアを誇る商品が多く、テレビCMへの投資も続けてきた。「何か商品を出せば自然とお客様の目に触れて、知っていただける」という感覚が社内に染み付いていたという。
ところがいざ発売すると、現実は厳しかった。発売直後は関係者や家族の購入で数百万円の売上が立ったものの、数カ月後には注文件数ゼロの日が続く事態に陥った。

社内で原因を分析すると、複数の問題が浮かび上がった。「かっこいいことを言えば売れる」という思い込みによるメッセージの文脈のずれ、環境配慮を前面に押し出したものの売れないという顧客ニーズとのずれ、そしてECとしての購買導線が曖昧で、ブランドサイトとの区別がつきにくかったUI設計である。
和田氏はこの経験を「これを見てお客様が何か買おうと思えるか、というと、そうは思えないようなサイトだった」と振り返る。
LTVが伸びなかった理由。食生活に入り込めなかった初期設計
2つ目の失敗は、食品ECのビジネスモデルに対する理解の甘さだった。「ECの世界では当たり前のことですが、それを理解するのに時間がかかってしまいました」と和田氏は明かす。

食品は単価が高くないため、新規顧客の獲得コストは1回の購入では回収できない。複数回の購入と継続率によって初めて損益分岐を超える構造になっている。しかし当初のZENB PASTEとZENB STICKでは、購入頻度・継続率を高めることが難しかった。
転機となったのが、2020年のZENB NOODLE、さらにZENB BREADの投入である。主食カテゴリーの拡充により食生活への浸透が進み、「商品が揃うことで、お客様の食生活に入り込める機会が増え、継続率も上がっていった」と和田氏。現在は自社サイト・ECモール・リテールの3チャネルで展開し、定期購入ビジネスを核として成長を続けている。
NPS急落、原因は “情報設計”のズレにあった
3つ目の失敗は、ZENB NOODLEが軌道に乗りつつある時期に発生した。
ZENBではNPS(ネット・プロモーター・スコア:顧客ロイヤルティを測る指標)を日々計測しているが、ある日突然「−5.5」を記録。ユーザーのコメントを深掘りすると「うまく作れない」「硬い」「おいしくない」といった不満が急増していた。
原因を突き詰めると、意外なところに問題があった。ゆで時間の異なる「丸麺」と「細麺」のパッケージデザインがほぼ同じだったため、お客様が区別できずに誤ったゆで時間で調理していたのだ。商品ではなく「情報設計」の問題だった。
この気づきを受け、サイト改修、SKU整理、広告表現、同梱物の見直しを実施し、パッケージもリニューアルした。「NPSに真摯に向き合い続けていたからこそ、早期に発見して改善できた」と和田氏は強調する。

「共感」をどう広げるのか。インフルエンサー・コミュニティ・企業連携の三層構造
理念への共感を起点に、ZENBはインフルエンサー、コミュニティ、企業コラボの三層で関係性を広げてきた。こうした取り組みも、事業成長を後押ししている。

料理研究家やシェフ、研究者など価値観に共鳴する発信者がブランドの考え方や使い方を発信。ファンが参加するコミュニティでは、新商品の先行体験や試食イベントを通じて得た声を商品開発に反映している。
さらに、食事管理アプリ「あすけん」との食生活改善プログラムや、日本航空の機内食としての提供、ホテルニューオータニとのコラボなど、価値観の近い企業との協業を通じて、信頼と認知を高めてきた。また、表参道での提供イベントやポップアップなど、リアル接点も継続的に構築している。
「解約するお客様」も情報源に。ZENB流・顧客理解を深める分析設計
ZENBの顧客分析は、インタビュー・VoC(Voice of Customer:顧客の声)・アンケート・サイト分析を組み合わせ、新商品開発や品質改良に生かしているのが特徴だ。その結果、顧客数の増加とLTV向上が進み、さらに顧客理解が深まるサイクルが生まれている。「ここに経営を巻き込むことでスピード感アップにつながっている」と和田氏は語る。
同社が重視するのは、自社メンバーが主体的に関与することだ。そうすることで、購買データと紐づけた分析が可能となり、調査の質と施策のスピードが向上する。加えて「お客様自身も『私の意見を聞いて』という姿勢で本音を語ってくれる」という効果もあるという。
VoCは社長参加の会議で共有され、全社に展開。各部門が顧客の声に触れることで、継続率やLTVへの意識が組織全体に浸透していく。新商品発売後は約3週間でアンケート・インタビューを実施し、満足度や不満点を収集。さらに解約フローにもアンケートを設置し、離脱理由を分析している。また、“非購入者のほうがサイトを深く読み込んでいる”という分析結果から、情報不足が離脱要因である可能性が示唆され、コンテンツ改善につながった例もあるという。

和田氏は最後にこう語った。
「お客様とともに成長し続けられるのがDtoCの強みだと考えています。お客様の声を改善活動につなげ、その結果を『ZENBの樹』として発信することで、『自分たちの声が反映された』という実感につながる。この積み重ねがビジネスの成長にも、お客様満足度の向上にもつながっていくと信じています」
注文ゼロの日々から始まり、NPSの急落を乗り越え、成長を遂げたZENBの軌跡は、「失敗を次の打ち手に変え続ける組織」の実践例といえる。PDSAの“Study”が示す通り、学びを組織に組み込むことこそが、顧客起点を形骸化させないカギなのだろう。

2006年にミツカンへ入社。日本、アジア、アメリカ、イギリスの各市場にてマーケティング業務に従事し、ブランド戦略立案から商品育成まで幅広く経験。2016年より検討を開始したZENBブランドには、2019年のブランド立ち上げ時からマーケティングとして参画し、ゼンブヌードルをはじめとする新商品の発売を推進。2022年以降はダイレクトチームとして、広告、CRM、顧客分析、モール運営、フルフィル、システム、デザインなど販売領域全般から事業拡大に取り組んでいる。


