売上300倍を達成した常陸風月堂が明かす「高単価商品を売る5段階の価値設計」
株式会社常陸風月堂 代表取締役社長 藤田浩一氏
地方のわずか一店舗を構える老舗和菓子店が、広告費をかけずに1本1万5000円の羊羹をECで爆発的にヒットさせた。
茨城県日立市の「常陸風月堂」が手がける栗蒸し羊羹「万羊羹(まんようかん)」は、発売後にメディアで次々と話題を呼び、自社ECの売上を一時300倍にまで押し上げた。その理由は、単なる「高級化」パッケージングではない。商品の見せ方、物語、価格の意味づけを通じて、顧客が「大切な人に贈りたい」と思える理由へと価値を設計し直す取り組みだ。
価格ではなく意味で選ばれるための「5段階の価値設計」について、株式会社常陸風月堂 代表取締役社長 藤田浩一氏が語った。
●本記事は2026年4月開催「EC MARKETING CONFERENCE」(ECのミカタ主催)で行われた、株式会社常陸風月堂 代表取締役社長 藤田浩一氏のセッションをレポートしたものです
「こだわり」を言葉で語らない。一目で価値が伝わるプロダクト設計
1948年に創業し、茨城県日立市で一店舗のみを構える和菓子店「常陸風月堂」。三代目の藤田浩一氏は、毎朝大福を丸める職人でありながら、地方の和菓子店がこの15年で三分の一に減少している現状に強い危機感を抱いていた。
「すべて手作り」をモットーとする同店では、数百円の商品を大量に作って売上を伸ばそうとすれば、現場の負荷が増え、スタッフが疲弊する。そこで藤田氏がたどり着いたのが、付加価値の高い高単価商品で勝負する方向性だった。
こうして生まれたのが、1本1万5000円(税抜)の栗蒸し羊羹「万羊羹」だ。この高単価商品は、発売後にメディアで相次いで取り上げられ、自社ECの売上を大きく押し上げることになる。
藤田氏は「高価格の根拠は、単に『希少だから』だけではない」点を強調。万羊羹がここまで注目された理由を、商品・物語・価格という3つの変化として整理した。
まず変えたのは、商品そのものだった。1個数百円の商品を箱詰めで売っても、大きな金額にはなりにくい。だからこそ素材と仕様を見直し、「高く売るため」ではなく「価値が伝わる形」にする必要があった。
その中心にあったのが、茨城県の茨城町で栽培される飯沼栗だ。
画像提供:株式会社常陸風月堂(カンファレンス登壇資料より ※以下同じく)
通常の栗は一つの毬イガに2〜3粒なるが、飯沼栗は1粒のみの「一毬一果」を目指して作られる栗である。生産農家は現在わずか8戸、全国の栗の収穫量の0.2パーセント程度にとどまる超希少品だ。
高級果物店では6〜8粒が4000〜5000円ほどで売られる希少品で、GI登録(地理的表示保護制度)も取得している。農家は通常の約3倍の手間をかけ、収穫後に熟成させて栗本来の甘みを引き出すという。
しかし、希少な素材を使うだけでは価値は伝わらない。ECサイトでは手に取ることも試食をすることもできない。
「だからこそ、言葉でこだわりをダラダラと語ることではなく、商品を見た瞬間に一目で違いが伝わる仕様に落とし込むにはどうすればいいかを、とことん考えました」(藤田氏)
藤田氏がとった手法は極めてシンプルかつ大胆だ。ぜいたくに栗を11粒敷き詰め、「断面の約8割を栗が占める」という圧倒的なビジュアルへと振り切った。商品ページを開いた瞬間に「これなら高いのも当然だ」と視覚的に納得させる。これが最初のEC価値設計だった。
スペックを並べない。1万円のハードルを越える「用途と意味の翻訳」
商品の次に見直したのが、「物語」と「価格の意味づけ」だ。
●物語の主役を農家にする
自社の製法をアピールするのではなく、「農家さんがこれだけ一生懸命作った栗をふんだんに使った」という、地域資源とつくり手の思いを伝えるストーリーマーケティングへ組み替えた。
「農家さんたちがこれだけ一生懸命作っている栗を、これだけふんだんに使いましたよということを伝えたかった」(藤田氏)
●用途を「自家消費」から「人生の節目」へ
数百円の大福のような普段使いではなく、就任、受賞、周年、結婚の顔合わせなど、「ここぞという節目に贈る品」として位置づけを明確にした。
そして、価格の意味を変えた。
一般的な贈答品の相場は5000円〜1万円。藤田氏は、1万5000円という原価計算上のハードルを越えるため、価格を説明するのをやめたのだ。
「大切な人の人生の節目に、最上級の格を贈るという理由へと意味を翻訳したのです」(藤田)
この発想は、藤田氏自身の原体験に根ざしている。万羊羹に至る前、藤田氏は従来よりも高い価格帯の商品開発に挑戦していた。その最初の一歩が、1本2500円の栗蒸し羊羹である。当時の同店の商品は高くても1個1000円程度。親からは「そんな高いものはこんな田舎じゃ売れない」と言われたが、それでも販売に踏み切り、実際に売れたことで手応えを得た。
その動機は当初から純粋だっただけではない。知人にリーフレットを見せると、親を見返したいという本心を一瞬で見抜かれたという。その指摘が、自分は何のためにつくるのかを問い直すきっかけになった。
「おいしいものを大切な人に食べてもらいたいという原動力の発見でした」(藤田氏)
親を見返したいからではなく、大切な人に喜んでほしいという動機。万羊羹はつくり手の確信から生まれた商品だが、その熱量の源は自問自答にあった。つくり手と農家の思いを紡ぎ、ストーリーとして伝える発想も、そこから育っていった。
価格をハードルにせず、「格を贈る」「節目に選ぶ」理由として意味づける──この発想の転換にこそ、事業再生の重要な示唆がある。
リブランディングの総点検と、ECで1万円超を成立させる「5段階の動線」
藤田氏は、同社の一連の取り組みを単なる高級化ではなく、「価値が伝わる接点の総点検(リブランディング)」と位置づけている。
価格を上げることが目的なのではない。商品の見られ方、呼ばれ方、贈られ方という複数の接点を総点検するプロセスには、次のようなポイントがあった。
1. 商品設計
栗の圧倒的な存在感が一目でわかる「断面約8割」の仕様。
2. ネーミング
万葉集の歴史と「万(よろず)の栗」を重ねた『万羊羹』で格を感じさせる。
3. パッケージ
木箱・余白・静けさで、贈答時の美しい所作をつくる。
4. 言語化
「高い」のではなく「別格(他のものとは違う)」である理由を整える。

これらを一つずつ点検し、価値が正しく伝わる形へと組み替えた先に起きる変化を、藤田氏はこう表現する。
「見た目・言葉・使われ方というシーンがつながった瞬間に、商品は価格ではなく意味と価値で選ばれ始めます」(藤田氏)
この考え方はECページの設計に直結する。藤田氏がたどった「ECで1万円超を成立させる価値設計」は次の5段階で振り返ることができる。

「ECページは商品説明の場ではなく、『この価格で買う理由』を順番に設計する場なのです」(藤田氏)
高単価商品ほど、スペックを並べるだけでは購入に至りにくい。これは食品に限らず、自社商品を持つEC事業者に共通する視点であり、ページ上で何を最初に見せ、どの順番で理解を深めてもらい、どのタイミングで価格への納得感をつくるか──その設計こそが、価格競争から抜け出す鍵になる。
広告費ゼロでEC売上300倍。プロダクトアウトがつくる「語られるブランド」
万羊羹の販売開始は2021年12月。「日本一高い羊羹」という明確な意味を持たせた結果、広告に頼らずとも地元新聞やクラウドファンディングを起点にメディア露出が連鎖的に発生した。

結果、自社ECへの流入は爆発的に増え、売上は一時約300倍を記録。さらに、世界的なパッケージデザインアワード「Pentawards」でのシルバー賞受賞や、ニューヨークのイベントでは1本300ドル(約4万8000円)で売れるなど、国内外で「語られるブランド」へと一気に駆け上がった。
「万羊羹は綿密なマーケットインではなく、つくり手の純粋な熱量から始まったプロダクトアウトでした。今は、これがマーケティングの正解なのかなと感じています」(藤田氏)
広告で認知を買うのではなく、語りたくなる理由を商品自体に持たせたことが、自然な波及を生んだ。価格の高さも障壁にはならず、「高いから一度買ってみたい」という新規顧客も生まれた。従来の地元固定客とは異なる層を獲得し、価格競争から降りるきっかけにもなっている。
「おいしいものを大切な人に食べてもらいたい」という職人のピュアな思いから発し、機能的な価値(スペック)ではなく、自分たちのストーリーや強みを問い直す「価値の再定義」を、「顧客の『贈りたい理由』」へと丁寧に翻訳した常陸風月堂のリブランディング・アプローチは、型にハマった販促テクニックに悩むすべてのEC事業者に、ブレイクスルーのヒントを提示している。
株式会社常陸風月堂 代表取締役、三代目当主。茨城県日立市の老舗和菓子店を継ぎ、地域資源と伝統技術を活かした高付加価値ブランドづくりを推進。希少な飯沼栗を用いた高級栗蒸し羊羹「万羊羹」を開発し、和菓子業界の常識を超える価格と価値提案に挑戦してきた。国内外での評価も高く、リブランディングやストーリー設計を通じて、和菓子の可能性を広げている


