AIが購買を担う時代へ 富士ソフトが「次世代コマース基盤」構想を発表
富士ソフト株式会社 代表取締役 社長執行役員 兼 CEO 室岡光浩氏
2026年8月6日、富士ソフト株式会社は、AIエージェントが購買を担う「エージェンティックコマース」時代に向けて新たなコマース戦略を発表した。国内EC市場はBtoCで26.1兆円、BtoBで514.4兆円規模へ拡大している(※)。購買接点の多様化が進む中、同社はEC・店舗・決済・受発注・基幹・物流までを横断して支援してきた実装力を活かし、AI接点と企業の業務基盤をつなぐ「次世代コマース基盤」の構築支援を開始。戦略の詳細が語られた記者発表会をレポートする。
AIが変える購買行動、「エージェンティックコマース」が本格始動
本説明会は、4月27日を皮切りとする戦略説明会シリーズの第3回目として開催された。富士ソフトはAI×IT×OTの融合を目指す全社戦略「Gen.2」を掲げている。「Gen.2」の中核となるAI戦略のなかで、今回取り上げられたのがエージェンティックコマースだ。
エージェンティックコマースは、AIエージェントが人間の代わりに商品の検索・比較・購入・決済までを自律的に行うECの仕組みだ。代表取締役の室岡光浩氏は、1990年代からのEC市場における購買体験の変化を分析した上で「ECによる購買行動は、『人が探す』から『AIが支援代行する』方向にシフトしています。この変化に対応できるかどうかが、企業の競争力を左右します」と語った。

エージェンティックコマースに対応するためには、AIが商品情報を正しく参照でき、AIからの注文を受注システムに接続し、決済認証や不正対策を講じ、適切なガバナンスを構築することが求められる。室岡氏は「重要なのは、これらの対応が従来のシステムに置き換わるのではなく、段階的に積み重なっていくという点です」と強調した。
ECの対応、チャネル対応、データ・業務連携、AI接続、取引対応といった複数の要素が同時並行で進められていく時代には、顧客接点から物流・サプライチェーンまで、コマース全体を横断してつなぐ力が不可欠となる。

(※)2024年のデータ。経済産業省「電子商取引に関する市場調査」より
AIに選ばれるため、企業に求められる6つの対応領域
富士ソフト株式会社 執行役員 ソリューションビジネスユニット ネットソリューション事業本部長 柴田晃宏氏
エージェンティックコマース時代には、具体的にどのような対応が必要になるのだろうか。同社執行役員の柴田晃宏氏は、企業に求められる6つの対応領域として以下を挙げた。
①店舗・ECを横断した購買体験の統合
IDを統合するなどして顧客管理を整備し、オンラインとオフラインをまたいで一貫した体験を実現する。
②AIへの正確な商品・価格情報の提供
Googleなどが定める仕様に準拠した情報提供が必要になる。情報の一律性・正確性が不可欠。
③リアルタイム在庫連携
日本は店舗購買の比率が高いため、特に重要な対応領域となる。店舗在庫をリアルタイムでAIに提供できない企業は、AIから紹介されなくなるリスクを負う。
④注文・決済・受注の接続
チャット上で購入後に店舗でキャンセル・交換など、多様なシナリオへの対応が大事になる。AIからの問い合わせに自動・正確に回答できる体制の整備が必要。
⑤基幹システムとの連携
販売、受発注、会計などの基幹システムと連動させ、様々な情報をAIが正確に参照できる基盤が必要になる。
⑥需要変動への対応(物流・サプライチェーン)
AI経由で特定商品に需要が集中するリスクへの備え。需要予測に基づく増産指示・配送リードタイム最適化が競争力の鍵となる。

富士ソフトグループの現場知見×パートナー連携で描く「実現像」
柴田氏は、富士ソフトグループがパートナー企業と連携することで6つの領域全てに支援対応できると発言。グループ全体でコマース全体をカバーできる一気通貫の支援体制を明らかにした。
例えばグループ企業のVINXは、流通小売業に特化したIT企業として、長年にわたりGMS、食品スーパー、ドラッグストアなど日本を代表する小売企業を支援してきた。日本の流通小売市場の大部分を支える顧客基盤を持つVINXの強みは、単なるIT知識ではなく、小売業の現場オペレーションを深く理解していることにある。店舗で何が起き、どのような意思決定が行われ、データがどう流れるのかという実践的な業務知識を蓄積しているのだ。
また、決済処理サービスを行うStripe社の「Stripe Partner Ecosystem」に、パートナーとして参画することが明らかにされた。Stripeの決済機能と富士ソフトグループのシステム構築を組み合わせ、AIエージェントの提案から注文・決済・業務処理までを一つの取引フローとして構築する。
柴田氏は「6領域の中でもとくに決済基盤は重要視すべき」と強調した。誤配達やなりすまし詐欺が発生すれば、事業として致命傷になるためだ。ハッカーの脅威が巨大化する中、リスク対策はさらに重要な課題となる。Stripe社のリスク管理における知見は、エージェンティックコマースにおいて非常に有益だという。

次世代「つながるコマース基盤」で日本の小売・ECの競争力を向上
柴田氏は説明会の最後に、同社が描く次世代コマース基盤について考えを述べた。富士ソフトが提供しようとしている業務基盤の本質は、多様化する購買接点をこの基盤によって最適化することにあるという。
同社は現在、長年にわたり関係を築いてきた顧客との間で、密度の濃い協議を重ねている。どのタイミングでどこまで対応するのかを丁寧に詰めながら、顧客企業のニーズに応じた柔軟な展開を図っているのだ。柴田氏は「こうした取り組みを通じて、最終的にいい基盤が実現され、それが日本の小売業全体の強みとなり国益に繋がるところまで考えています」と述べた。

説明会を締めくくる形で、柴田氏は「つながる基盤を実現して、グループ全体で世の中を変革する」というメッセージを掲げた。エージェンティックコマースの時代において、富士ソフトグループが果たす役割についての決意表明といえるだろう。
富士ソフトは全社戦略「Gen.2」の実現に向け、こうした取り組みをさらに展開していく予定だ。業界全体の変革期において、同社の継続的な発信に注目が集まる。


