ビームスが実践する「店舗の熱量をECでも届ける」ギフト体験設計とは 一貫した世界観でECと店舗をつなぐ
(写真左)株式会社ビームス マーケティング本部 宣伝販促部 イベント課 課長 伊藤正宏氏、(写真右)株式会社ビームス マーケティング本部 本部長 山崎勇一氏
2026年に創業50周年を迎えた株式会社ビームス。ファッションを中心にライフスタイルグッズを幅広く取り扱うセレクトショップとして長年愛される同社は、ギフトを単なる「季節の販売機会」とは捉えていない。
――ギフトは、普段ビームスを利用しない人がブランドと出会う入口であり、「贈って安心、もらってうれしい」という体験が、次の購入やブランドへの信頼につながる接点でもある。
本稿では同社 マーケティング本部の山崎勇一氏と伊藤正宏氏によるセミナーから、話題を呼んだ「BEAMS HOLIDAY 2025」の裏側や、マーケティング戦略におけるギフトの役割、そして店舗とECを融合させた体験設計を紹介する。
●本稿は2026年3月開催「ECのミカタ カンファレンス」で行われた、株式会社ビームス 山崎勇一氏と伊藤正宏氏のセッションをレポートしたものです
ギフトはブランドへの入口。3つの戦略的役割
山崎氏はまず、マーケティング本部の役割について、「買いたい気持ちと、その仕組みを作っていくこと」だと語る。
「お客様に『買いたい』と思っていただける空気感・気持ちを作っていくこと、さらに買い続けていただける仕組みを設計していく」(山崎氏)
同本部では、宣伝販促、クリエイティブ、ブランドエンゲージメントなどの役割・機能が横断的に連携。オウンドメディアのコンテンツ制作やフォトクリエイティブ、デザイン機能を社内に持つことも、ビームスらしい表現の一貫性を支えている。
画像提供:株式会社ビームス(カンファレンス登壇資料より) ※以下同じく
マーケティング戦略の骨子にあるのは、「BEAMSを構成するモノ・コト・ヒトの魅力を発信し、その価値に共感・熱狂する人が増え続ける状態を目指す」という考え方だ。セレクトショップとしての「モノ」だけでなく、店舗での体験やスタッフの提案といった「コト」「ヒト」も、ブランド価値の重要な要素として捉えている。ビジョンである「happy life solution communities」も、このマーケティング思想の土台にある。
その中で、ギフトには大きく3つの役割があると伊藤氏は説明する。

1つ目は「ギフト領域でのブランド想起」だ。ビームスで買い物をしたことがない人や、ブランドにまだなじみのない人に「ビームスで贈り物を選べば間違いない」「ビームスには気の利いたものが多い」と想起してもらう。それが、ブランドを知ってもらうきっかけになると考えている。
2つ目は「新規客のブランド体験」。普段はビームスの洋服を買わない人でも、贈り物であればビームスを選ぶことがある。伊藤氏は、そうした接点を「チャンス」と捉えている。
「単純に買ってもらうだけではなく、ブランドごと体験してもらう機会を作りたい」(伊藤氏)
3つ目は「ギフト体験を通じた信頼のサイクル」である。贈った相手に喜ばれた体験は、贈り手に「やっぱりビームスで買ってよかった」という確信を与える。その成功体験が、「次もビームスでギフトを買おう」「今度は自分用に買ってみよう」という好循環を生む。
ギフトを一回限りの売上機会ではなく、ブランド想起・新規接点・信頼形成のサイクルとして設計しているところに、ビームスのギフト戦略の核がある。
「ビームスの熱量は店にある」。ギフトECでどう再現する?

「ビームスの熱量は間違いなく店にあります」。伊藤氏は、ビームスの価値を語るうえで店舗の存在を強調した。商品があり、店舗ごとの世界観があり、そこにスタッフがいる。この3つが揃っていることが、ビームスの強みだという。
店舗では、商品がただ並んでいるだけではない。什器やディスプレイ、植物、スタイリングなどが重なり、独自の空気感がつくられている。そして、その世界観を最も強く体現するのがスタッフだ。スタッフそれぞれが商品を自分なりにスタイリングし、顧客に提案する姿こそが、ビームスらしさを支えている。
一方で、ギフトを探す顧客のすべてが店舗に足を運べるわけではない。この問いが、ギフトサイト「BEAMS GIFT」の設計の出発点だった。

●参考:ビームスのギフトサイト「BEAMS GIFT」
「BEAMS GIFT」は、単に商品を並べるECサイトではない。伊藤氏は、店舗でスタッフに相談しているような親密さや、気の利いた提案、商品の背景にあるストーリーを感じられる場として設計していると説明する。
「雑誌を読む感覚で見て読んでおもしろい、こんなアイテムがあるのかという期待感のあるコンテンツが集まったサイトにすることを大事にしている」(伊藤氏)

「BEAMS GIFT」では、スタッフが実際に商品を使う様子を紹介するフォトログやレビューなどを掲載。スタッフ自身の言葉で商品の使い方や魅力を伝えることで、EC上でも店舗で接客を受けるような納得感を生み出している。モノを売るのではなく、体験ごと売る場所として設計されているのだ。

ナビゲーションにも独自の工夫がある。「結婚祝い」「出産祝い」など目的で絞れる【CATEGORIES】と、「POP & PLAYFUL」「NIPPON STYLE」など気分や雰囲気で絞れる【STYLES】の2軸を並列で設けている。
ギフトECでは、ユーザー自身がまだ“正解”を持っていないことも多い。だからこそ、商品を並べるだけでなく、贈る相手を思い浮かべながら選べる導線と、選択への納得感を支える情報をどう設計するかが重要になる。
「買って」と言わないホリデー施策。世界観でECと店舗をつなぐ
2025年のホリデーシーズンに合わせて実施された「BEAMS HOLIDAY 2025」は、EC、店舗、SNS、インフルエンサー施策、TikTok Shop 、AnyGIFT(※1)などを横断して設計された大型キャンペーンだ。伊藤氏がプロジェクトマネジメントを担った。
キャンペーンのコンセプトは「HAVE A HAPPY HOLIDAY」。伊藤氏は、直接的に購買を訴求しないことを意識したと説明する。背景にあったのは、物価高などで世の中のムードが沈みがちな中でも、ホリデーシーズンには少し特別な時間を過ごしてほしいという思いだった。
「このシーズンだけは、ちょっと特別な時間を過ごしてもらえるようなメッセージにしようと組み立てていきました」(伊藤氏)
「贅沢な時間を大切にしよう。あなたらしいスタイルで、いつもの日をちょっと特別にしよう」というコピーのもと、イルミネーションや街の明かりをイメージしたビジュアルを制作。キャンペーンサイトや店内装飾、ショッピングバッグなどに一貫して展開した。
※1:「AnyGift」はAnyReach株式会社が提供するeギフトサービス
「BEAMS HOLIDAY 2025」キャンペーンは2025年11月21日〜12月25日に開催された
全体設計では、コンセプトムービーやSNS広告などで認知を広げ、キャンペーン特設サイトへ誘導。そこから店舗、BEAMS GIFT、AnyGIFT、TikTok Shopなどへつなげていく導線を用意した。SNSでは、期間限定ショッパーを起点にした投稿キャンペーンも実施。店舗ごとのInstagramアカウントを活用し、各店舗が独自のムービーや投稿を発信することで、全社を挙げてキャンペーンを盛り上げた。
伊藤氏が特に重視したのが、ECと店舗における世界観の一貫性だ。Webでキャンペーンに触れた顧客が店舗を訪れた際にも、また店舗で装飾を見た顧客が後から特設ページを訪れた際にも、同じトンマナでホリデーの世界観を感じられるよう設計したという。
伊藤氏は、こうした世界観の一貫性を「キャンペーンを大きく打つ中で一番大事なところ」と位置づけた。
オンラインとオフラインで別の印象を与えてしまうと、ブランド体験は分断される。特にギフトのように情緒性が問われる領域では、接点ごとの一貫性が、ブランドへの信頼や記憶に直結する。
AnyGIFTも、重要な取り組みだった。伊藤氏は「住所を知らなくても贈れる」「相手がサイズや色を選べる」といった利便性に触れた。年末の忙しい時期に、住所がわからない、サイズが不安、好みを選びきれないといったギフト特有の摩擦を減らすことで、より自然なギフト体験が実現できる。

利便性と特別感。ギフトECに求められる2つの価値
山崎氏は(本カンファレンスが開催された)3月末の時点で「キャンペーン設計に非常に長い時間をかけており、もうすぐ2026年のホリデーキャンペーンをどうするか、検討が始まる」と語っている。
この言葉からも、ギフト施策が季節の「イベント」ではなく、通年で考え続けるブランド戦略の一部であることがうかがえる。
山崎氏は、ホリデーギフトを「お客様の感情を動かす大変重要なカテゴリー」と位置づける。カテゴリーエントリーポイント(あるカテゴリーでブランドが最初に想起される接点)の観点からも、ギフト領域でポジションを確立することは、ブランド体験の創出につながるという。
そして今後追求すべき軸として挙げたのが、「利便性と特別感」だ。これは、機能的価値と情緒的価値とも言い換えられる。
「この2点を追求し続けなければ、おそらくお客様が離れてしまう。これをビームスならではのものに変換させながら、ギフトという領域において戦っていきたい」(山崎氏)
便利だが味気ない体験では、ブランドへの印象は残りにくく、世界観は魅力的でも贈りにくい体験では購入につながらない。
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ギフトECに求められるのは、商品を並べることだけではない。贈る相手を思い浮かべながら選べる導線、スタッフに相談しているような納得感、ブランドらしい世界観、そして贈りやすさを支える機能——そのすべてが組み合わさって、初めて「贈ってよかった」と思える体験になる。
創業50周年のビームスが実践するギフト体験の設計は、ECを単なる販売チャネルではなく、ブランド体験の場として再設計するうえで、多くの示唆を与えてくれる。


