EC事業の目的をとことん考える【構想から始まる利益改革】
ネクトラス株式会社 代表取締役 中島郁氏。講演題目は「なぜ、ECが伸び悩むのか? “本気でECを成功させる”構想の考え方」
「売上は伸びているのに、なぜ利益が残らないのか?」
多くのEC事業責任者が抱える根源的な問いだろう。
市場競争が激化する今、目先の売上だけを追うだけでは限界を迎えつつある。ECのミカタが2025年11月20日に開催した「EC“利益”改革カンファレンス」には、持続的な利益創出を実現する経営手法を体系的に解き明かす、各分野のプロフェッショナルが集結。経営判断に直結する知見を提供した。
自分ごととして、ちゃんと考えよう
立ち上げたが利益が出ない、成長段階では順調だったが成熟期に入ったとたん、利益が伸び悩むEC事業は多い。
この課題を含めたECの利益課題に対し、EC・オムニチャネルのコンサルティングを手掛けるネクトラス株式会社 代表取締役の中島郁氏は、「最大の問題は本気でないこと、ちゃんと考えていないことにある」と断言する。
中島氏は、トイザらスなどでEC事業の立ち上げを経験し、ベンチャーから老舗まで名だたる企業の新規事業やECをゼロから数百億円規模へと成長させた実績を持つ。中島氏は、市場の成長や競合の動向に流され十分に考えないままECに参入した結果、「戦略も人材も整わず、迷走する」のは当然と感じている。
「なぜ、ECが伸び悩むのか?」という問題提起に対し、中島氏の答えは明快だ。「本気で」「構想」をすべき。
中島氏が重視する「構想」とは、戦略よりも上位の位置づけ。コンセプトだと誤認されるため、あえて「構想」としているが、事業全体の旗印であり、チームがぶれずに、成長のさせるための基準であり、目指すべき「どんなECなのか」を明確にすることでもある。
中島氏は、例えば「自社ECの構想を2行で言えますか」と問う。キャッチコピーではないが、よく練られた「構想」はシンプルでわかりやすいから。そして、かかわる全員にちゃんと伝わり徹底できることが重要。
さらに、規模別の成長にも言及し、小規模ECは構想云々というより、戦術の徹底で利益を目指せる一方、大規模ECは、初期投資、売上、損益を含め、どのように成長させるかを事前に構想する必要があると述べた。
「知っておくべきは、店舗とはもちろん、ECでも、商材、品揃え、規模などが異なる他社とは利益構造が違うこと。なので、単純に他社のまねをせず、自分ごととしてちゃんと考えるということ。そして、外部に丸投げはしない。特に自社の強みは内製化できないと、利益は出にくい」(中島氏)
そのために会社や担当者にどのようなスキルが必要なのか。中島氏は、「海図ではなくコンパス」と言う。現代の変化の激しい世界では、固定的な“海図”より、自身で方向を見出せる “コンパス”、要は自分ごととして考えるスキルが必要だと論じた。ECにおいても、立ち上げだけでなく、成長につれ、新しい取り組み、ソリューションなどがどんどん登場してくる。それらを検討していくのにも“コンパス”は有効である。
利益を蝕む「ボトルネック」とは
中島氏が指摘する「ポータブルスキル」の一例は、EC事業のP/L責任者たちのリアルなエピソードとして披露された。この日行われた3社によるパネルディスカッションのテーマは、収益を管理する立場で、EC事業の課題を解決する方法を模索した“道筋”であり、各社が従来の固定観念を脱して見つけた「将来的に稼ぎ続ける仕組み」への着眼である。
まず“利益”の位置づけについて、コマースメディア株式会社 代表取締役 井澤孝宏氏が「利益の創出は、事業継続のための絶対条件。卸売も含めた複数のチャネルを統合的に管理し、事業全体での利益最大化を追求する」と説明。株式会社生活の木 マーケティング本部 デピュティゼネラルマネージャー 中村佳央氏は「店舗は体験の場。モールは売れる広告(認知)、利益はECで創出」と役割を分けて「利益の源泉は自社ECと卸に集約させる戦略」であると明言。アンファー株式会社 取締役 吉岡真実子氏は「従来のモールイベント重視のプロモーション、売上高重視から、現在はEC利益率を最重要KPIに置いて、自社EC比率の向上に注力している」と語った。
(左から)コマースメディア株式会社 代表取締役 井澤孝宏氏、株式会社生活の木 マーケティング本部 デピュティゼネラルマネージャー 中村佳央氏、アンファー株式会社 取締役 吉岡真実子氏
重視すべきマネジメント指標と組織体制
3社は全社的なマネジメント指標としても利益(率)を重視するなかで、どのような組織体制が敷かれているのだろうか。
井澤氏は、「個人がいかに利益貢献したかを賞与に反映させる仕組みを取り入れる一方、過度な分業に傾かないための『業務の兼任』を推奨するほか、『越境した体制』を敷くことで、セクショナリズムを防ぎ、部門間での深い相互理解と共通認識を育んでいます」と語った。
中村氏は、部門を大きく再編し「EC事業部」を他部門へ統合することで社内競合を解消したという。
「対象顧客が同じであれば、オンライン・オフラインを分ける必要はありません。この再編により、社内での顧客の奪い合いがなくなり、全体のLTV(顧客生涯価値)最大化に集中できるようになりました」(中村氏)
吉岡氏はブランドごとのPL管理を前提に、EC事業にKPIを限定し、目標の軸を一本化したことで、各部門の意識が大きく変わったという。
「ブランドごとにステージが異なり、広告費やクーポンコストの水準も違います。そこで楽天市場など店舗単位でPLを語るのではなく、ブランドごとにミッションを分けて管理する体制に切り替えました」(吉岡氏)
最後にはモール利益改善の話題となり、中村氏が楽天における広告費削減、吉岡氏がポイントコストの制限を報告。井澤氏はTikTok Shopへの展開を進めていると語った。
利益を創出するための具体策
同カンファレンスでは、中島氏の指摘に応えるような施策やツール、改善例も多く紹介された。EC支援サービスは目覚ましい進歩を遂げており、各セッションではEC事業の持続的成長に向けた具体策とともに、それぞれのサービスの“強み”が共有された。
ストライプジャパン株式会社 アカウントエグゼクティブ 吉井隆人氏は、ワンクリック決済や3Dセキュア最適化で離脱防止を図り、生成AIと連携した「エージェンティックコマース」による新たな顧客接点の創出機会を説明。将来はAI同士が購買を完結する時代に備え、決済システムのアップグレードが必須と訴えた。
「IBF AIサーバー」を展開するインターネット・ビジネス・フロンティア株式会社 代表取締役 宇都雅史氏は、独自ドメインEC支援で培った経験を基に、顧客事例から業績改善のヒントをピックアップ。合理的な経営判断のために売上至上主義から脱却し、短期売上より中長期収益性を重視する重要性を説いた。
ec vision株式会社 代表取締役 小野稜太氏は、「売上は虚像、利益が真実」と題し、売上がアップしても広告コストの増大で利益率が圧迫されるECモール運営の課題を指摘。利益可視化ツール「利益Navi for楽天市場」を紹介し、売上至上主義から利益重視への転換を示した。
(左から)ストライプジャパン株式会社 アカウントエグゼクティブ 吉井隆人氏、インターネット・ビジネス・フロンティア株式会社 代表取締役 宇都雅史氏、ec vision株式会社 代表取締役 小野稜太氏
また、日本コンセントリクス株式会社 デジタルソリューション&サービス デジタルマーケティングコンサルタント 山根木正人氏とSAI DIGITAL株式会社 ビジネスデベロップメントマネージャー 菊田雅人氏は、拡大するEC事業の課題を「人材×システム」の両面から解決する方法を提示。「人の整理とシステムの強化を同時に進めることが、成長できるEC運用のポイント」と説いた。
(左から)日本コンセントリクス株式会社 デジタルソリューション&サービス デジタルマーケティングコンサルタント 山根木正人氏、SAI DIGITAL株式会社 ビジネスデベロップメントマネージャー 菊田雅人氏
また、3分間のプレゼンでサービス紹介を行うソリューションピッチでは、STORES株式会社 ビジネスグロース部門 市場開発本部 リテールグループ 今井長優氏が、「ブランドアプリ」を紹介。店舗×ECの「クロスユーザー率」向上に寄与するアプリを披露した。またセミナー後の懇親会では登壇企業と参加者が集まり、対面ならではの活発な情報交換が行われた。

カンファレンス登壇者の提言から浮かび上がったのは、「利益の見える化」と「チャネルごとの役割明確化」が持続的成長に不可欠であるという共通認識だ。さまざまな視点からの知見が交わるのがカンファレンスの醍醐味である。参加したEC事業者は利益改善に挑む意欲に満ちている。さらに懇親会での交流を通じて、実践的なヒントを得たり、次のアクションが生まれる機会を得たりと、有意義な時間となった。


