AI時代を見据える「au PAY マーケット」の新戦略――「検索型」から「提案型」へ

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佐藤周平

auコマース&ライフ株式会社 代表取締役副社長 八津川博史氏

現在、総合ECモール市場では「AIを活用した購買体験の変化」が急速に進んでおり、ユーザーが検索経由で商品を探す従来型から、一人ひとりの嗜好や行動データを基に商品を提案する「提案型コマース」への転換も加速しつつある。

そうした中、KDDIグループのEC事業を担うauコマース&ライフ株式会社は、運営する「au PAY マーケット」の2026年度の戦略として、Ponta経済圏におけるさらなる連携と、AIを活用したマッチング高度化、そして店舗運営支援の強化を打ち出した。同社 代表取締役副社長の八津川博史氏へのインタビューから、同モールが描く次世代のECモール戦略を読み解く。

AIを駆使した「提案型コマース」への変化

au PAY マーケットが2026年度戦略として最も強く打ち出すのが、「AI時代のEC」への対応である。取材冒頭、八津川氏は、EC市場そのものが大きな転換点にあるとの認識を示した。

同社では、従来の「検索型コマース」から、「提案型コマース」への変化が進むと分析している。これまでのECは、ユーザーが検索ボックスにキーワードや商品名を入力し、比較検討を経て購入に至る導線が主流だった。だが今後は、AIがユーザーの嗜好や過去行動を分析し、商品との新たな出会いを創出する形へ移行していくという考えだ。この市場の変化を「AIの登場&定着により商品との『出会い方』が変わる時代」と位置付け、「検索されるのを待つ」のではなく、「新たなファンと出会う戦略」への転換を目指す。

この背景には、生成AIの普及だけでなく、ユーザー接点そのものの変化がある。つまりSNSや動画、外部メディアなどを経由した購買行動が一般化する中で、「モール内検索を『待つ』だけでは顧客接点を最大化できない」という危機感だ。

そのため同社では、顧客の「嗜好データ」を軸としたマッチングプラットフォームを構築。Ponta経済圏や会員制サービス「Pontaパス」を起点としながら、ブランド軸、レビュー軸、外部サイト軸など、多面的な接点で商品との出会いを増やす構想を掲げる。

八津川氏は「グループ内からの送客だけではなく、SNSや外部プラットフォームでの露出も今まで以上に強化する」と説明。さらに、auやPontaが保有するデータと掛け合わせることで、「より最適なタイミングで、最適な商品を提案する精度を高める」と語る。

ここで特徴的なのは、「AI導入」を単なる効率化ツールではなく、「新しい購買体験の創出」として位置付けている点だ。広告最適化や運営効率改善を中心にAIを導入するECモールも多いが、au PAY マーケットでは“出会いそのもの”を変えるインフラとしてAIを捉えている。

Ponta経済圏との連携をさらに深化。“送客力”を強みに

八津川氏はau PAY マーケットの「2025年度の振り返り」として、Ponta経済圏との連携強化が一定の成果を上げたことも示した。特に会員向け特典「Pontaパス ポイントUPセレクト」は、2025年10月から毎週入れ替わる厳選対象商品と対象の店舗数を拡大して以降、大きく伸長したという。Pontaパスアプリ内で直接商品を訴求できる点や、「Pontaパス会員だけがお得に買える商品」を設けられる点が特徴で、最大50%のポイント還元設定(※1)にも対応する。

八津川氏は、「PontaパスアプリのトップページというPontaパス会員との最も大きな接点に商品が常時露出される構造」を強みとして挙げる。キャンペーン時だけでなく、日常的な導線として商品を見せ続けられる点が、他モールとの差別化要素だという。

2026年度は、この「Pontaパス ポイントUPセレクト」をさらに拡張。商品バリエーションの強化に加え、「au PAY」「au Pontaポータル」への掲載も拡大し、Ponta経済圏全体での送客力向上を図る。さらには、今後ランディングページのリニューアルも予定しており、タッチポイント強化を進める。

一方で、同社は「経済圏依存」だけではない成長も志向する。八津川氏は「従来はPonta経済圏内での露出が中心だったが、今後はSNSや外部プラットフォーム上での露出を一段強化する」と説明。特にデータを活用した広告・レコメンド配信によって、非auユーザー層への接点拡大を狙う方針を示した。

EC市場では、ポイント経済圏を背景にした囲い込み競争が続く一方、ユーザー獲得コストの上昇も深刻化している。そうした中、既存会員基盤を活用しながら、外部流入との掛け合わせで送客力を高めようとする同社の戦略は、総合ECモール各社の中でも特徴的なアプローチと言えそうだ。

※1:「Pontaパス ポイントUPセレクト」の詳細は公式サイトを参照

「レビュー」「ブランド」「店舗運営」までAI活用を推進

au PAY マーケットは、露出の“面”の強化に加えて、ユーザーと商品のマッチングの強化も進めていく方針を打ち出す。

その主な施策が、新たなインターフェースの導入とレビューシステムの刷新である。同施策では、従来の商品一覧型UIではなく、ウインドウショッピング感覚で商品と出会えるUI/UXを提供する。AIによるレコメンドを組み合わせることで商品の発見性向上を狙うとともに、蓄積された嗜好データを提案精度のさらなる向上へ循環利用する設計を目指す。

レビュー施策について八津川氏は、「誰でも書ける汎用的なレビュー」ではなく、“熱量の高いレビュー”を重視すると説明した。ロイヤルユーザーを中心に、画像や動画も含めた濃度の高いレビュー投稿を促進し、それをAIが分析することで、より精度の高い商品提案へつなげる構想だという。

また、「ブランド軸のマッチング」施策にも注力する。象徴的な取り組みが、2026年5月に開始した「FULL JACK」だ。これは、トップページや検索ボックス、ホームアイコンなど、モール内のあらゆる接点を単独ブランドの世界観で統一する施策で、総合モール型ECとしては国内初をうたう。第1弾では「コカ・コーラ」と連携し、特設販促やポイント還元を展開。単なる広告枠販売ではなく、ブランド体験そのものをEC上で提供する新たなマーケティングチャネルとして位置付けている。

「FULL JACK」第1弾として「140周年記念『コカ・コーラ FULL JACK』が2026年5月に行われた(キャンペーンはすでに終了)

また、店舗向け支援でもAI活用を進める。「店舗さまTOPページ自動生成」では、閲覧履歴やランキング、クーポン情報などを自動反映し、CVR最大化を目指して店舗のTOPページを自動生成する。テスト的に実装した店舗では、商品遷移率が10%改善したという結果も出ているという。

さらに、サイト内のPPC広告「プラチナマッチ広告」の高度化も進められており、商品登録フロー刷新とAIサポート導入による“おまかせ運用”を目指す。加えて、店舗の管理ツール「Wow! manager」内の分析ツールも強化。カテゴリ内でのポジション分析、時間帯別売上情報などを拡充し、AIによるアクションプラン提案もできる仕組みを導入した。

八津川氏は、「自社の店舗が競合環境の中で、どこにアドバンテージがあり、どこに課題があるのかを、データに基づいて判断できるようにした」と説明。店舗運営の“勘と経験”を、データドリブンへ移行させる狙いがある。

EC市場では、広告運用や販促設定の複雑化により、モール運営負荷が年々増している。特に中小事業者にとっては、運営リソース不足は大きな課題のひとつ。そうした中で、「AIによる運営支援」を打ち出す姿勢は、出店ハードル低減にもつながる可能性がある。

「安心・安全」とLTV強化で差別化を図る

au PAY マーケットの2026年度戦略のもう一つの柱が、LTVの向上と、「安心・安全な売り場づくり」である。

LTV拡大のための施策として打ち出すのが「サンキュー配送」プログラムのさらなる強化だ。対象の商品・店舗で3980円以上購入時の送料無料設定を行い、Pontaパス(有料)会員には日曜日のポイント還元施策も展開する(※2)。また、会員プログラムの刷新も予定しており、従来の経済的メリットだけでなく、「体験価値」を重視したロイヤリティ施策へ進化させる方針。加えて、店舗の公式LINE拡大も図る。メール依存から脱却し、セグメント配信やメッセージ最適化によるCRM高度化を推進。実際に、LINE経由の流通額は7倍強まで成長しているという。

一方、「安心・安全」領域では、不正取引排除やAIによる監視体制強化を継続。改善リードタイム短縮を進めるほか、優秀な顧客対応を実施した店舗には「グッドCS賞」として表彰する制度などを設け、店舗品質向上も後押しする。

※2:「サンキュー配送」プログラムの対象商品や適用条件など、詳細は公式サイトを参照

Ponta経済圏×AIで実現する独自路線

国内の総合ECモールにおいて、セールやポイント付与による顧客獲得競争は年々激しさを増し、購買体験やモール全体の信頼性に対するユーザーの要求も高まるばかり。そうした中でau PAY マーケットは「Ponta経済圏連携×AI×安心・安全」を軸に差別化を図る。八津川氏は「ユーザー・店舗・モール運営者の“三方良し”のためのAI利活用は、他社と比べても積極的に進めている」と語る。

すでにau PAY マーケットは、強力なユーザー基盤を持ち、Amazon・楽天市場・Yahoo!ショッピングと売れ筋商品が異なるという独自色も備える。今後は同社グループのアセットや技術力でさらにその強みを磨き、ユーザーへのロイヤリティ施策をベースとした「おトク+α」を提供していく構えだ。

他モールとの真正面からの規模競争ではなく、データ活用とロイヤルユーザー育成に重点を置く同社の戦略は、2026年度のEC市場において注目すべき動きの一つと言えそうだ。


記者プロフィール

佐藤周平

佐藤周平

WEBディレクション、ライティング、デザインからバックオフィス業務までやってきた雑食系。自身でECショップも運営しており、スタンスはかなりEC担当者寄り。取材にかこつけて、トップランナーたちからトレンドやノウハウを吸収しようとしている。

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