【第3回】♠欲しい!をもたらす表現マジック〜「スマホウェブ or スマホアプリ」?〜

幅 朝徳

 ゲーム産業という異業種からやってきた、EC業界の「新参者」がお届けする、ボーイ・ミーツ・ガール風コラム。ゲーム業界で培った最先端技術で、EC業界に新風を巻き起こします。
消費者のみなさんに「欲しい!」と思ってもらえるための、まるでマジックのような表現や手法を、実際のユースケースや豊富なデモとともにご紹介。

 FLASHが動かない!
 全画面でしか動画を再生できない!
 複数動画の同時再生や自動再生もできない!

そんな「ないものだらけ」の、まるで牢獄のような「スマホ動画」の世界を、ミドルウェア技術のチカラで解放します。

マジックは、タネ明かしよりもパフォーマンスのほうが好き!という方にはピッタリなコラムです。毎号、カップヌードルの待ち時間くらいで読めるボリュームでお届けします!

CRI・ミドルウェア
エヴァンジェリスト
幅朝徳

【第1回】〜ゲーム産業からこんにちは!〜
https://www.ecnomikata.com/column/11973/

【第2回】〜動画がECに効く3つの理由とは?〜
https://www.ecnomikata.com/column/12425/

「スマホウェブ」か「スマホアプリ」か?

EC事業にたずさわられている方なら、一度は悩まれたことのあるテーマだと思います。

当コラムのバックナンバーでもすでにご紹介のとおり、ECにとってもはや「スマホ」は主戦場であることは疑いもなく、EC展開をされている多くの業界や商材において、すでにPCアクセスよりもスマホアクセスが圧倒的に上回っている状況かと存じます。

そのような状況で、やっぱり気になるのは、

 1.「ウェブ」をスマホに最適化させて訴求する戦略
 2.「アプリ」を開発して顧客を囲い込んでいく戦略

いずれの戦略を選ぶか、という点かと思います。
(もちろん両方できれば最高ですが・・・)

もともとスマホがこれほどまでに普及する以前は、ECの主流は「PCブラウザ」でした。

PCではそもそも「インストールを伴うアプリ(ケーション)をECに活用する」という文化そのものが無かったので(少なくともB2C領域においては)、EC事業を始めることは、ECのウェブサイトを立ち上げることを指していました。

この状況が、スマホの登場によって様変わりします。

PCでのユーザ体験は「ブラウザ」を中心に行われます。仕事や作業が目的でなければ、情報収集や消費行動に「アプリ」を使うことはまずありません。
スマホの場合は、OSが用意したホーム画面のレイアウトを見れば一目瞭然ですが、さまざまな「アプリ」がズラリと並んでおり、ブラウザはあくまで、そうしたアプリの1つに過ぎません。

「自社のアプリを、ユーザのスマホのホーム画面に置いてもらうこと」

このことが、企業とユーザの継続的なタッチポイントを確保する意味で、重要な目標となり、実にさまざまなアプリが開発され、AppStoreやGoogle Playに並んでいきました。

確かに、アプリの数が限られていた時期は、先行者受益として、とても有効な手段でした。

ですが、今や国内だけでも月に2000〜3000種類のアプリが絶えずリリースされ、アプリを「出すだけで注目される」時代ではなくなりました。アプリを作っても、そのアプリの訴求のために相当量の広告費や施策が不可欠です。

▲日々ふえ続ける膨大な数のスマホアプリ

また、アプリの開発には、相応の費用が発生します。これだけ世の中にアプリが氾濫していても、じつは企業アプリの開発費はあまり低減しておらず、UI/UXのトライアルやQAの過程を含めると、競争の激化によりむしろ開発費は高止まりの傾向にあります。

十分な予告期間もなく絶えずアップデートされるOSのバージョンに応じて、継続的にアプリを更新し運営していくために必要なランニングコストも無視できません(初期費用だけ想定し、この運営コストを事業計画に含めずに炎上してしまった案件を私も数多く目撃しています)。

iPhoneとAndroid、両方のOSに対応しなければいけないというのも大きな負担になります。

ゲーム業界においても、両OSに自動的に対応が可能となるゲームエンジン「Unity」や、当社のミドルウェア「CRIWARE」を使って開発されるケースが急増していることからも、今や、「どちらのOSを選ぶか?」ではなく「いずれのOSにも対応する」ことが大前提となっています。

もちろん、アプリやスマホならではの特性を活かした戦略で大成功を収めている例も数多く存在します。導線をスマホにあえて限定し、既成概念を覆し「まず写真を撮る」というUXで多くのユーザの支持を獲得したフリマアプリ、「メルカリ」などは、その好例です。

話を、ECに戻します。

そもそも、スマホアプリの市場システムは「デジタルコンテンツ」や「継続型サービス」に適したものとして設計されています。

すでにご存じかと思いますが、AppleやGoogleは、アプリを通じた有料コンテンツや有料サービスに対して、課金代行をしてくれます。その手数料として30%が差し引かれるという仕組みです。

30%という割合についてはさまざまな考え方があるとは思いますが、私の出身業界であるゲーム業界に関していうと、ガラケー時代に比べるとかなりの手数料UPであることは事実ですが、この負担だけでAppleとGoogleが展開する全世界市場にたいして事業展開ができるという意味で、ひろく受け容れられている傾向にあります。

でも、リアルな物流を伴うECとなると、ちょっと話は変わってきますよね。

実際にAppStoreやGoogle Playを眺めてみると、もちろんEC系のアプリもありますが、どちらかというと、ユーザ同士のコミュニケーション促進のためのアプリや、口コミやバズ生成のためのアプリ、各種キャンペーンに連動したアプリなど、物販そのものを目的としたアプリよりも、ブランディングやグロースハックを目的としたアプリのほうが圧倒的に多いことに気付きます。

なぜ、ECアプリの数がそれほど多くないのか?

単なるウェブアプリ(=アプリの中身が単に既存のウェブサイトを閲覧するだけのようなもの)では、アプリ市場への登録の際の審査に通りにくいという背景事情もあるかもしれませんし、単発的なアプリや期間限定のアプリのほうが、先述の運用費やOSバージョンアップへのアップデート対応コストを抑えられるという理由によるものかもしれません。

おそらく最大の理由は、「オウンドECアプリ(=特定のいち企業やいちブランドのECに特化したアプリ)」が、ユーザのスマホのホーム画面に居続けることの難しさ、だと私は考えます。

市場には星の数ほどのアプリがすでに存在し、しかも日々増えていく一方ですが、ユーザのホーム画面に置けるアプリの数は有限です。

ECにかぎらず、あらゆるアプリがホーム画面にどれだけ居続けることができるか?という、し烈な椅子取りゲームで競い合っています。

ゲームにおいても、スマホが登場したばかりの頃は「買い切り型」のゲームが主流でしたが、現在では「F2P型」のモデル(アプリは無料でゲーム内で追加課金していくビジネススタイル)が主流となっています。いったんはアプリをインストールして遊び始めても途中でアプリを削除してしまった離脱ユーザに、いかにしてアプリを再インストールしてもらうか?という広告施策(=リテンション)に、かなりのコストが投下されています。

自社商材にとって、よほどのリピーターやロイヤルカスタマーでなければ、オウンドECアプリを長期にわたってホーム画面に置いてもらうことは難しいと言わざるを得ません。
逆に、モール型のECアプリやキュレーション系のECアプリは、相対的にユーザの支持を得やすいという側面もあります。モール系のEC事業者は、スマホブラウザでの来訪者に対し、かなり積極的に自社ECアプリのインストールを促すメッセージをアピールしているので、囲い込みに成功しているのは当然とも言えます。(しかし、ブラウザ上でのユーザの購入体験をスポイルしていることには評価が分かれるでしょう。)

▲アプリにするか?ウェブにするか?それが問題

ここで、アプリとウェブの「UX(=ユーザ体験)」の違いについて、ご紹介したいと思います。

アプリの場合、よりOSに近いレイヤーでプログラムが動作するので、ボタン操作やページ遷移、DB処理などは(アプリの作り方や使っているエンジン/フレームワークにもよりますが)かなり機敏に動作します。また、ネットワークやクラウドとの連携も、アプリ内で共通で利用する画像パーツなどをローカル上で用意することでほぼ最小限のデータ通信で済ませられるため、結果的に「サクサク」とした利用体験をユーザに提供できます。

ウェブの場合、OSの上でブラウザという「アプリ」が動作し、さらにその上に「HTML」ベースのコンテンツが動作するので、OSからの距離は(アプリに比べると)少し離れます。また、通常はあらゆるユーザ操作が「リンク」によって行われ、都度、通信が発生しページの生成のためのデータ通信とページ遷移が発生するため、アプリと比べると、やや「モッサリ」とした利用体験になりがちです。(一般的なウェブページを想定して言及しています。)

ただし、こうした差異は、スマホの高性能化やOSの進化によって、だんだん気にならないものになってきています。

一方で、当コラムのバックナンバーでもすでにご紹介したとおり、OS提供事業者の思惑や狙いもあってか、スマホブラウザで行える「表現手法」には、一定の制約が存在します。例えば、動画再生が全画面再生になってしまったり、FLASHのように複数の動画を扱えなかったり、UIが大幅に制限されてしまう、などです。

こうした課題については、その制約を解決するためのソリューションや各種技術が提供され始めていますし、OSレベルでの機能向上により、ゆっくりではありますが改善されつつあります。
ちなみに当社でも、スマホブラウザでのWeb動画表現に特化したパッケージ技術の提供を始めています。私自身、その引き合いの多さからも「アプリからブラウザへの回帰」の大きなトレンドを日々実感しています。

ちなみに、意外に思われるかもしれませんが、、、
ゲーム業界でも、アプリからブラウザへのシフトが少しずつ始まっています。

決済の仕組みは自社で用意する必要がありますが(その代わりアプリ市場で発生する手数料は不要)、ネイティブ・アプリでなければならない理由がないゲームや、あるいは、ミドルウェア技術の活用によって、ネイティブ・アプリでしか実現できなかった表現手法をスマホブラウザで実現したゲームが、登場し始めています。(ガラケー時代はブラウザゲーが主流だったじゃないか!という指摘があるかもしれませんが、さすがにスマホ主流の現在、ガラケー時代のようなHTMLベースのゲームはユーザに受け容れられません。)

アプリからブラウザへの展開を、当社が技術面で協力した事例をご紹介します。

ゲーム企業最大手である株式会社スクウェア・エニックスの「乖離性ミリオンアーサー」です。もともとPlayStation4やPlayStation Vita、iOSやAndroidのアプリとして提供されていた大人気ゲームですが、当社ミドルウェア技術の採用によって、ブラウザ版をリリースされています。

[ご参考]
CRI、ブラウザゲーム向けに新ミドルウェア「CRI ADX2 for ブラウザ」を提供開始
採用第1弾にスクウェア・エニックス「乖離性ミリオンアーサー PC版」
http://www.cri-mw.co.jp/newsrelease/2016/e78k1e000000hpmc.html

アプリの場合、iOSやAndroidなどのOSごとの対応や、OSバージョンアップに対する継続的な対応コストが不可欠であるとお伝えしましたが、ウェブの場合、原則として、これらの課題から解放されます。HTMLという共通のシステム上で動作するので、OS依存の問題が回避できます。実はこれってかなり大きなメリットになります。

このコラムの連載先メディアでもある「ECのミカタ」が今年の11月に行った調査でも、興味深い結果が出ていますので、この場を借りてご紹介しておきます。

その調査によると、ショッピングアプリをダウンロードしても、なんと過半数の人がネットショッピングの利用頻度が「変わらない」もしくは「下がった」と回答しているのです。

ブラウザによる消費体験が、いかにすでに浸透しているかを痛感できる調査結果と言えるでしょう。

▲アプリは消費頻度にあまり影響しない!?

※調査の詳細については、以下のページからご参照下さい。
https://www.ecnomikata.com/knowhow/detail.php?id=12278

最後に、アプリとウェブとの「ステップ数の違い」について触れておきたいと思います。

最近、筆者が、EC事業を営まれている企業とのお打ち合わせの際に、必ずといっていいほど話題にするテーマです。ほとんどの事業者さまに「その通りなんですよ!」とお返事いただいています。

自社アプリをインストールさせるにしても、自社ウェブに誘導するにしても、いずれも「URL」を何らかの方法で伝える必要があります。電子メールやウェブ広告であればリンクでOKですが、印刷物や交通広告等では「QRコード」が一般的でしょう。

では、それぞれのステップ数について、見ていきましょう。

【スマホアプリのユーザ操作ステップ】
STEP 1)URLやQRコードの訴求
STEP 2)AppStoreやGoogle Playにアクセス
STEP 3)当該アプリのダウンロードボタン押下(設定によっては要ログイン操作)
STEP 4)DL完了までの待ち時間
STEP 5)ホームボタンでアプリを探して起動
STEP 6)アプリの立ち上げ
STEP 7)目的ページまでの操作(ディープリンク活用など)

【スマホウェブのユーサ操作ステップ】
STEP 1)URLやQRコードの訴求
STEP 2)ブラウザ上で目的ページが即表示される

・・・どうでしょう?
違いは明白ですよね。

アプリよりもウェブのほうが、ステップ数を3分の1以下に削減できるというわけです。

このような記事を書くと、アプリを全面否定しているように思われるかもしれませんが、それは違います。むしろ、リピーターやロイヤルカスタマーの囲い込みなど、その目的が明確であり、かつ、アプリの初期開発コストと運用コストを負担してなおROI(投資対効果)が望めるのであれば、アプリ展開による施策をやらない理由はありません!

別の言い方をすれば、ユーザのホーム画面に自社のアプリが居続けることができる自信があるのなら、ぜひ果敢にアプリに挑戦して頂きたいと思います。四六時中、ユーザとともに一日を過ごす肌身デバイスであるスマホに自社との継続的なタッチポイントを築けることは、絶大な武器になるでしょう。

ただし、こうした条件をすべてクリアするのは、そうカンタンなことではありません。

アプリ開発を標榜するデベロッパーは多いですが、各社、得意不得意があるのも事実。クライアント側の事業内容や市場特性などを理解したうえで、最も効果的なアプリを提案/実現できるような企画力と技術力を併せ持つような開発会社は残念ながらそれほど多くはなく、そうしたパートナーと出会うことが、アプリ展開の成否を大きく左右します。

おそらく当コラムの読者の多くは、「自社商材のEC戦略」について関心のある方だと思います。いかにして、素晴らしいアプリを開発するか、がメイン・ミッションではないはずです。

だからこそ、オウンドECであれば、無理をしてまでアプリを開発する必要はありません。

先述のとおり、かつて「アプリでしか実現できなかった表現やUX」は少なくなり、アプリと同じことがブラウザ上でも実現できる時代になってきているのですから、既存のECサイトをスマホに最適化していくことこそが、最優先で取り組むべき課題ではないでしょうか?

アプリを開発するのは、ウェブ展開が上手くいった後でも、決して遅くありません。
PCからのユーザも無視せずに済みますしね!

「スマホファースト」とは、スマホに集中特化することであり、PCを無視して良いというわけではありません。潜在顧客を含む、顧客とのタッチポイントは実はさまざまですから。

実は「古くて、新しい」ウェブのポテンシャルを最大限に活用されることをオススメします!

Stay Tuned…

それでは次号【第4回】のコラムでお会いしましょう。
みなさんのビジネスが、ドラマティックでマジカルなものになりますように!


著者

幅 朝徳 (Haba Tomonori)

学習院大学卒業後、CSK総合研究所に入社。ゲームプランナーを経て、現CRIに創業期から参画。任天堂・ソニー・マイクロソフトの家庭用ゲーム機向けビジネスに従事する傍ら、モバイル事業の責任者としてスマートフォン向けの新規事業立ち上げを行う。その後、ゲームで培った技術やノウハウを異業種に展開すべく、大手製薬会社向けのSFAシステムを開発、業界シェアNo.1を獲得。最近は、大手電機メーカーへのコンサルティングや異業種領域での「動画の活用手法」のエヴァンジェリスト活動などを手掛ける。

2016年10月、満を持して、EC業界でのミドルウェア事業をスタート。

Web上のあらゆる動画を手軽に扱うことのできる技術「LiveAct PRO」や、MP4等の動画ファイルサイズが画質そのまま半分になる「DietCoder」など、EC業界でも急速にニーズが高まりつつある技術やソリューションの研究開発や事業推進のために、多忙な日々を送っている。

Web動画ソリューション「LiveAct PRO」:http://www.cri-mw.co.jp/liveact/
CRI・ミドルウェア:http://www.cri-mw.co.jp/