最新!米国オムニチャネル視察レポート・AmazonGoから見えてくるものとは?

小松崎聡美

オムニチャネルという言葉が浸透して数年、日本でもECとリアル店舗をつなぐ施策が行われ始めています。最近では中国の躍進が目立ちますが、Amazonを始めとするアメリカの動向も忘れてはなりません。「一歩先ゆくECは何をしているのか」というテーマのもと、JECCICA有志にてアメリカ視察ツアーが行われました。

今回のセミナーでは実際にリアル店舗での体験を元に、JECCICA講師:株式会社ISSUN 代表取締役 宮松利博氏と株式会社柳田織物 代表取締役 柳田 敏正氏によるディスカッション形式で報告が行われました。
(以下敬称略)


今、なぜアメリカなのか?

今、なぜアメリカなのか?

なぜ今回あえてアメリカを選んだのでしょうか?


宮松:「Whole Foods」というアメリカ最大手であり、お客様にも従業員にも支持を得ている生鮮スーパーがAmazonに買収されたのはなぜなのか?目指す所は何なのか?実際に目で見てみようと考えたからでした。

柳田:今は中国が台頭しているが、数年前まではアメリカがリテールという部分で進んでいました。アメリカの今を見てみたかったからでした。


視察が決まった段階ではまだAmazon goのオープンが決まっていない状態でしたが、視察日程のタイミングでちょうどオープンしたため、ラスベガスで開催されたSHOPTALKからサンフランシスコ、シリコンバレー、シアトル、ニューヨークとアメリカを横断するツアーとなりました。


生鮮スーパーも買収、進む「アマゾン村」化

生鮮スーパーも買収、進む「アマゾン村」化

本社のあるシアトルでは小さなお店が潰れて行き、宅地改革でAmazonの敷地となっていく中でのホールフーズ買収。オーガニックを中心とした新鮮な食材を安定供給する全米でも人気のスーパーがAmazon傘下になりどのように変わったのか。


宮松:店舗に入るとすぐ目の前にAmazonロッカーが設置されています。Amazonで購入した人が食料品を買うついでに荷物を受け取れるよう、反対に荷物を受け取るついでに買い物が出来るようになっていました。

2015年にはAmazonが世界最大のスーパーマーケット: ウォルマートの市場規模を抜いたと言われています。さらには、名だたる有名スーパー・百貨店を合わせた市場価値よりもAmazonの方が大きくなったとも考えられています。そのような中、Amazonのプライベートブランドは現在20億円くらいですが、着々とPB化を進めて利益を伸ばしている状態です。


アマゾン・エフェクトと戦う大企業達

Amazonの本拠地シアトルで他の大企業はどのように戦っているのか。
ノードストロームやメイシーズなど今売れている店舗を実際に訪れました。

柳田:アメリカのショッピングモールは良いか悪いかの二極化が進んでいます。
今回は良い方のモールへ訪れました。
モール内には自動で動く、監視ロボットが配置されています。

クリック・アンド・コレクト

柳田:今ほとんどの店舗がECとリアル店舗の融合を進めています。ECで買って店頭で受け取る仕組みが当たり前のように全国的に行われています。日本ではこの取り組みを行っている企業はまだまだ少ないのが現状です。


クリック・アンド・コレクト帰りを待ち構えるAmazonロッカー

クリック・アンド・コレクト帰りを待ち構えるAmazonロッカー


柳田:アメリカは再配達がないので、出かける先で受け取るような仕組みが拡大しています。ですのでこういったクリック・アンド・コレクトを行う店舗の前にAmazonロッカーが設置されています。


宮松:ロサンゼルスのUCLAの前にはロッカーで受け取るだけでなく、荷物を空けて商品が気に入らなかったら返品をするための梱包材や不要のダンボールを捨てられる仕組みになっています。これはUCLAの学生が寮で荷物を受け取れないため、いつでもこのロッカーで受け取れるようになっています。ECで購入する学生はほぼ全員がこのAmazonロッカーを使用しているのです。そのようにニーズに合わせてAmazon
ロッカーは拡大を続けています。


それでも大企業は頑張る。セルフレジからの更なる無人化

それでも大企業は頑張る。セルフレジからの更なる無人化

ウォルマートのピックアップタワーやメイシーズのモバイルチェックアウト等まだまだ試験的な部分はありますが、受け取りやセルフ決済の取り組みが行われています。


柳田:画像は百貨店にあるバーチャル試着システム。iPadにつなぐとSNSでシェアすることが可能。ただ、店舗にあるので実際に試着してシェアした方が早いのではという疑問も。とりあえず新しいことをやってみたという状態が多いように思います。


宮松:新しく導入することはニュースになりますが、辞めた情報は出ないですね。


最先端技術のショッピング体験を導入する所は多いですが、実際の便利さとは少しかけ離れているようです。


Amazon goとはどんなものなのか?

Amazon goとはどんなものなのか?

Amazon初のレジに人がいない無人コンビニがシアトルにオープン。
いったいどのように運営しているのかを観察しつつ、買い物をしてみました。

まずはAmazon go のアプリを入れて、入り口のゲートでスキャンします。
天井には無数のセンサー、レジこそ無いものの、店内には多数のスタッフが常駐しており、商品の補充をしており、説明を受けることが可能です。手に持っているものや買い物かごに入れている商品はセンサーで読み取られ、スマホに今何をいくつ持っているかが表示されます。
会計はゲートを通るだけで終了。


柳田:Amazonとホールズフーズで同じ商品をパッケージ違いで売っているのに気付きました。ホールフーズの特徴は食材の良さと陳列の綺麗さ。Amazonフレッシュの受け取り拠点を増やすだけでなく、Amazon goを見据えてのことだったのではと、実際の店舗を見て感じさせられました。


宮松:Amazonに対抗する大手企業、それを迎え撃つAmazon。Amazon単体では勝てない部分もありますが、それをホールズフーズのように買収することで戦っているのではないでしょうか。


Amazonより元気な小さいお店の秘密

Amazonより元気な小さいお店の秘密

小さいお店が全てダメなのかといえばそうではなく、オリジナリティーのあるサービスを提供し、Amazon以上に元気のある店が登場しています。

□Philz Coffee
親子で始めたコーヒーショップですが、息子さんに代替わりしてからfacebookを使い、どんどん知名度を上げています。facebookのマーク・ザッカーバーグがこの味を気に入ったことから、facebook本社でも提供がされています。テスト的にアプリから予約システムを導入しており、受け取り時間の指定だけでなく、スタッフの指名も可能になっています。

□BONOBOS
置いてある商品は全て試着用。商品は配送で送られてきます。
驚くべきはそのサイズの豊富さ。同じMサイズでも丈や肩幅、ヒップ周り等細かくサイズが設定されており、お直しの必要が無いのが特徴です。さらにそれぞれのサイズの在庫が全て配送センターに在庫があり、店舗で注文が入ったものはすぐ発送することが出来るのです。

□b8ta
ガジェット好きにはたまらない、IoTブティックベータ。
最新テクノロジーを使った趣味のものから実用品まで様々な商品を手にとることが可能。
それぞれの商品にはiPadが置かれており、商品の仕様や動画を見ることが出来ます。
この店舗の特徴は企業がマーケティングを行えるということです。来店者がどの商品に興味を持って動画を見たのかどうか等、リアルなデータを取ることによって顧客のニーズをいち早く掴むことが出来るのです。

□UBER
タクシー配車サービス。
今回視察組は全員事前にUBERアプリを入れて訪米し、タクシー移動は全てUBERで行いました。
タクシーを探す手間が無いのはもちろん、目的地を入れれば事前に料金が分かり、位置情報で自分の予約したタクシーが今どこから向かっているのか分かります。決済やチップはアプリに登録したクレジットカードで完了。評価制度があるので、ドライバーは愛想の良い人が多いのも特徴です。
ドライバー所有の車を使用するため、UBERは車を一台も保有せず、テクノロジーを駆使して成長している企業です。


まとめ

柳田:リアルとECは繋がなくてはいけないと感じた。
ウォルマートでピックアップタワーを使っている人がいないのに対し、Amazonが利用されているのは元々の顧客のリテラシーの違いなのだと感じました。
ウォルマートは極力簡単に無人にしようという意図が見え、Amazonは仕組みで利便性を高めようとしている。 Amazon goは今は人が多いがデータを取っている段階なので、行く行くは在庫補充等も自動化するのではないかと思います。
メイシーズは新しいものに飛びつくがデータを取るのに失敗しています。
技術革新はそのうちやってくる。その時に蓄積したデータをどう活かすか。
データの活用が今後の鍵となるのではないでしょうか。
Amazonに勝つ負けるではなく、すみ分けが出来れば良いのではないかと思います。


宮松:今回、システムで人件費を減らして事業の生き残りに賭ける企業、システムに人を加えて顧客満足度を向上させる企業、少ない人数からテクノロジーを駆使して古い体制に挑む企業など、最先端とはいえ、様々なケースを目にすることが出来ました。
これらをいかに見極め、日本のECにどう落とし込むか、数多くの課題とアイデアが見えてきた米国出張でした。





柳田 敏正

株式会社柳田織物 代表取締役

大学卒業後、ライフスタイルのセレクトショップ=バーニーズニューヨークを運営する(株)バーニーズジャパン入社。横浜店にてメンズ全般の接客に従事する。1999年、バーニーズジャパン退社。父が社長を務めるシャツメーカーの柳田織物に入社。
2002年、オリジナルのシャツを販売する自社ドメインのオンラインショップ「ozie」を開設。BtoCへ進出。2013年4月、代表取締役に就任。
2014年6月 六本木1丁目にショールームをオープンさせ、現在はBtoBの営業に加え、EC店舗4つとECを窓口とする法人営業に力を入れている。

宮松 利博

株式会社ISSUN 代表取締役
JECCICA 客員講師

2000年より自社製品販売のECを立ち上げ、2006年に株式上場させる。同時に保有株を売却し、渡米などで海外のEC研究後、国内外でコンサルティングサービスを提供。


著者

小松崎聡美 (Satomi Komatsuzaki)

EC-Dips代表、JECCICA ジャパンEコマースコンサルタント協会 参事
会社員時代に複数店舗の統括や月商7000万を達成した経験から支援側に転向。運営コンサルの他、店長代行やSNS集客、業務効率化、実践的なアドバイス等の現場に寄り添ったコンサルティングを行う。