継続購入のカギを握るのは「肯定度」、Googleがひも解く「なぜ明確な理由がないのに買い続けてしまうのか」

ECのミカタ編集部

Googleは、生活者の消費行動変化のうち、「何となく」買い続けてしまう深層心理に着目。「肯定度」をキーワードに、「なぜ明確な理由がないのに買い続けてしまうのか」を解き明かす調査結果のレポートを公表した。

継続購入のカギを握る「肯定度」とは

継続購入のカギを握る「肯定度」とは

特定のものを「何となく買い続けている」生活者は多く、「なぜ強い愛着がなくても購入し続けているのか」という理由をはっきりと答えることは難しい。習慣的に購入し続けることは、これまで顧客ロイヤリティによって説明されてきた。ところが実際には、顧客ロイヤリティの考え方も幅広く、「ロイヤリティ」という大きなくくりだけでは説明が難しい継続的な購入も多々ある。

これまで Google マーケットインサイトチームが実施した調査によって明らかになった生活者の買い物行動のうち、次の3つが特に重要な特徴として挙げられる。

①多くの商品が「経験財」から「探索財」へ
従来「経験財」と呼ばれていたマッサージや飲食などの商品・サービスは、購入して実際に体験・経験する前までは、なかなか価値を知ることができないものであった。しかし情報技術の発展により、他の人の口コミや評価などを見て、ある程度その技術や味を予測できるようになった。加えて現在では、利用者による動画投稿や AR / VR などの最新技術を活用することで、商品・サービスに関する情報は、よりリアルなものとなりつつある。

つまり多くの商品・サービスが、直接経験しなくても事前の情報探索を通して把握できる「探索財」へと変わっているのである。

②生活者は自分の選択に自信を持ちたい
生活者は、合理的思考よりも、直感を信じて選択することが増えている。また、「情報探索を通じて自分の直感に自信を持ちたい」「頼れる商品やブランドを探したい」という心理が強いことも明らかになっている。今回の定性調査でも、「信頼できる情報が自然と入ってくるように情報源を整理する」 全体像を把握して自分の判断軸を確立する」といった行動がみられた。

③買い物は疲れるもの
EC と流通の充実により買い物に関する情報と選択肢が一気に増えた。しかしこれはただ便利になっただけではなく、買い物がより疲れるものになったことを意味している。

買い物の中で再購入というルーティンを導入することは、情報量の増大に対する自然な反応であり、ほぼ無意識的な行動だ。「信じる商品を継続購入する」という心理と行動は、生活者が買い物にかかる負担を最適化した結果であるとも言える。

継続購入のカギを握るのは「肯定度」

継続購入のカギを握るのは「肯定度」

合理的ではなくとも「自分の選択に何らかの自信を持つこと」が重要という生活者意識の心理を探るべく、複数カテゴリでの初回購入と購入時を対象に、購入直前の生活者態度に関して調査分析した。

その結果、再購入時では、初回購入時より選択に対する自信が強いことがわかった。再購入時には、すでに商品・サービスの利用経験があるため、選択商品やサービスに対して、より多くの質が高い情報を持っている状態と言える。

初回購入だけを対象に分析をした場合、とても強い自信を持って購入した人もいれば、購入したにもかかわらずあまり自信がなかった人もいる。そこで、初回購入にもかかわらず商品・サービス体験前から強い自信をもって購入をしている人が一定数存在し、差があることに着目。

選択に対する自信の強度を「肯定度」と名づけて調査を行ったところ、「肯定度」が、商品と生活者との長期的な関係性を理解するための手がかりとなることがわかった。

①「肯定度」によって購入後の体験も変わる
「肯定度」が高い買い物では、購入後の商品・サービスの利用体験を向上させることが明らかになった。

「肯定度」を高めるプロセスは、自分が直感で決めた商品・サービスに関して情報収集をすることで本当にこれでよいか再確認し自信を強める行動だ。「肯定度」が高い購入は、そのような体験を通したものだからこそ、購入後の利用でも満足することが多いことがわかった。

②再購入する可能性は、初回購入前から醸成
再購入の意向は、初回購入前の情報接触によって醸成される「肯定度」と関係していることもわかっている。カテゴリによって差はあるものの、「肯定度」が比較的高い場合のみ、再購入する意向もさらに高まる可能性がある。

③「肯定度」がLTV最大化に寄与する
情報接触により選択した商品に対する「肯定度」が変化するという視点、また「肯定度」が購入後の心理にも影響を与えているという発見から、購入前後の生活者に対してどのようなコミュニケーションが有効なのかを考えることは、結果的に初回購入者が継続購入者になってもらうための施策にもつながる。

自ら探し求めた情報で「肯定度」が上昇

自ら探し求めた情報で「肯定度」が上昇

生活者は数々の情報に接することで、商品・サービスに対する「肯定度」を高めていく。まず、買い物に関する情報探索の方法が多様化する中で、情報探索は「肯定度」の醸成にどのように関係しているのかを調査した。

その結果、意図せず触れる情報よりも「自分で検索して見つけた情報」「自分から店舗に見に行った実際の商品」など自ら探し求めた情報から大きく影響を受けていることがわかった。与えられた情報よりも、自分で探した情報によって選択したほうが自信につながるということだ。

さらに、「肯定度」を高める情報探索行動の特徴を調べるため、購入前の「肯定度」が高かった生活者、低かった生活者の報探索の特徴を分析した。その結果、購入前の「肯定度」が高かった購入と低かった購入では、情報探索の仕方にも差があることがわかった。

購入前の「肯定度」が高かった購入の情報探索の特徴

購入前の「肯定度」が高かった購入の情報探索の特徴

①自分が求める価値を軸に検索する
初回購入前の「肯定度」が高い場合は、そうでない場合よりも、検索のキーワードが具体的であることがわかった。特に重視点を検索ワードにしやすい日用品で目立つ行動であり、例えば「髪のきしみ」とシャンプー商品名を掛け合わせた検索、「肌荒れ予防」と洗顔剤名を掛け合わせた検索などが該当する。そうすることで、その商品が自分向けであると肯定していると考えられる。

一方、「肯定度」が低かった場合は、検索キーワードが単純であり商品名だけになっていることが多々あった。商品購入に際して自分の重視点がわからない、もしくは言語化できない場合もあると考えられる。

②あえてネガティブな情報を検索する
初回購入前の「肯定度」が高い場合、選択した商品に関して、あえてネガティブな情報を調べるような検索をする傾向がある。ネガティブな検索をしても、それを打ち消すような記事に流入することもあり、先に不安を解消しておいたり、あるいは自分の中で期待値をコントロールしようとしたりする動きがあると考えられる。

③頼れる情報は複数回閲覧する
選択した商品に関連するページについて、時間をおいて何度も検索し閲覧する行動がみられた。単純に情報を確認したいという目的だけではなく、時間をおいても自分の気持ちが変わらないことを確かめたり、自分の気持ちを後押ししたりするための行動といった意味合いもあると考えられる。

「肯定度」が上がると情報収集は減少

「肯定度」が上がると情報収集は減少

「肯定度」の醸成は、どんな情報に接していたかだけでなく、その情報をどう求めていたのかとも関連している。特に「検索」など、自ら意図を持って行った情報収集が「肯定度」の醸成に大きく影響しているようだ。

そのような意図的な情報収集と「肯定度」の関係性をマクロな観点で分析してみたところ、「肯定度」が低い状態では情報収集が増え、「肯定度」が高い状態では情報収集が減ることがわかった。

情報を集めると選んだ商品に対する「肯定度」が高まり、購入または再購入を繰り返す。その結果、さらに「肯定度」は高まり、情報探索の必要性は減少していく。商品選択に対して、「肯定度」が高い状態では、自分の選択に自信がある、あるいは行動は正しいと思いたい状態である。第三者の情報を自ら探しにいくことはその自信を維持するうえでかえってリスクになるため、意図的な情報収集は減少する。

一方「肯定度」が下がってくると、自信を維持するためには第三者の肯定的な情報が欲しくなる、あるいは自信を持てるほかの選択肢を探し始めるなどの心理的なメカニズムがあると考えられる。つまり、自社商品に関連する意図的な情報収集がどれくらい行われているかを参照することで、既存顧客と潜在顧客の「肯定度」、ブランドスイッチの可能性に関して予測できると言えそうだ。

「肯定度」は情報のアップデートによって維持される

「肯定度」は情報のアップデートによって維持される

生活者の「肯定度」は、意図せずとも接触しているさまざまな情報からも影響を受けている。

購入スパンが短く、購入頻度が高い商品カテゴリでは、初回購入時よりも継続購入時に「肯定度」が高くなっていた。逆に、購入スパンが長く、購入頻度が低い一部の商品カテゴリでは、継続購入時の「肯定度」が初回購入の時と大きく変わっていないことがわかっている。

このことから、選択した商品に関して新しい情報に接することがない状態が続くと「肯定度」が下がる、単純に言うと「飽きる」と考えられる。

つまり、「肯定度」が高く情報収集に消極的な既存顧客に継続購入を促すには、「肯定度」を維持させるための企業からのコミュニケーションがより重要になってくることを意味する。また、商品カテゴリとマーケティング課題によってアプローチの方法が異なってくる。

購入周期が短いカテゴリで、ブランドスイッチを狙いたいのであれば、そのカテゴリに対して積極的に情報を発信し、生活者の自発的な検索や情報に触れる機会が増えるようにする必要があるだろう。

購入周期が長いカテゴリでは、「肯定度」をいかに維持させるかを考える必要がある。例えば、車や家電のようにハードウエアの買い替えサイクルが長い商品であっても、ソフトウエアの更新による何らか定期的な改善などを通じて、初回購入の「肯定度」をより長く維持させることができるかもしれない。

このように、「肯定度」をキーワードにして消費者心理を深堀りすることで、従来のマーケティング理論では説明がつかなかった消費傾向が見えてくるのではないだろうか。

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