SUPER STUDIOと三井不動産が戦略的資本業務提携を締結 オムニチャネルの深化へ意欲

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大矢根 翼

2025年5月16日、統合コマースプラットフォーム「ecforce」を展開する株式会社SUPER STUDIO(以下、SUPER STUDIO)は、日本のコマースビジネスにおけるオムニチャネル戦略の進化とイノベーション創出を目指し、三井不動産株式会社(以下、三井不動産)との戦略的資本業務提携を発表した。

同日行われた記者発表会には、SUPER STUDIOの林紘祐 代表取締役CEOと花岡宏明COO兼CPO、三井不動産の髙波英明 イノベーション推進本部ベンチャー共創事業部長、渡辺誠 商業施設・スポーツ・エンターテインメント本部商業施設運営一部長が登壇。両社の連携におけるアジャイル体制の有効性や、オムニチャネル施策の深化、今後の事業展望について語られた。

「アジャイル」で引き寄せたコマースDXへの事業拡大

SUPER STUDIOの花岡氏は「アジャイル」を「将来にわたって市場環境やビジネス要件の変化に対して素早く対応できる状態を重視したマインドセットや事業基盤を有していること」と定義。計画可能な範囲で完璧さを求める「ウォーターフォール型」(※)よりも柔軟な変革が可能になると語った。

「アジャイルの概念は浸透してきていますが、コマース事業における開発プロセスはベンダーに発注する関係でウォーターフォール型になりがちです。人と仕組みの両方が柔軟な変革に対応できなければ、アジャイル型の実行は難しい」と花岡氏。

※要件定義から設計・開発・テスト・運用までを順番に段階的に進める、直線的な開発モデル

株式会社SUPER STUDIO 花岡宏明COO兼CPO

ecforceはアジャイルなシステム基盤が高いカスタマイズ性と要件適合度を実現しているという。SUPER STUDIOはアジャイル体制を活かして三井不動産との協業でオフラインのコマースへと進出した。三井不動産はSUPER STUDIOの戦略への共感、高い課題解決力、迅速な開発力を高く評価している。

三井不動産はベンチャーキャピタルのGlobal Brain社との協業でコーポレート・ベンチャー・キャピタル(CVC)を行うベンチャー共創事業部を創設。SUPER STUDIOを含むベンチャー企業に対して、総額435億円の出資を約80社に対して行っている。SUPER STUDIOに対しては2022年から出資を開始しており、今回が3回目の出資となる。

来場者2000人のデータから見えたオフライン施策の可能性

これからのコマースに求められる顧客価値を問われたSUPER STUDIOの林氏は以下のように述べた。

「コロナ禍で急激にEC化率が上昇し、従来は『目的買い』が多かったところ、消費者がオフラインと同様な買い物をするように変化しました。オフライン回帰の動きもあるので、購買データをオンラインとオフラインで統合し、一貫した顧客体験を提供することで満足度を高めることが重要になっています」

実店舗に詳しい三井不動産の渡辺氏は、店頭でのショッピング動向についてオンラインとオフラインを使い分ける消費者が増えたと解説。実店舗での接客を要する試着や体型診断と、オンラインでのカウンセリングやAIファッション提案などの使い分けを例として挙げた。いずれの場合でもIDや在庫情報をシームレスに連携させることがサービス提供に必要だと語る。

三井不動産株式会社 商業施設・スポーツ・エンターテインメント本部商業施設運営一部長 渡辺誠氏

SUPER STUDIOは2022年4月にEC同様の顧客データを取得する実証実験としてRAYARD MIYASHITA PARKにポップアップストア「&BASE」を展開。POSやオペレーションといったシステムの課題を発見したほか、2000人の来場者からデータを取得できたことで、オフライン施策の可能性が強く感じられたという。

同年6月に三井不動産からの出資を受けた後、2023年7月にはECブランドが週替わりで出店する「THE [ ] STORE」を開店。2022年6月の出資から翌年7月の開店というスピードを実現できた背景には三井不動産のスピーディーな対応があったという。「THE [ ] STORE」は2年間で60店舗を誘致し、目標に対して2倍の成果を達成。現場のナレッジも蓄積したことで、事例を示しながら誘致を継続できていると林氏は語る。

株式会社SUPER STUDIO 代表取締役CEO 林紘祐氏

アジャイル開発で新たな顧客価値の創造へ

今後の事業展開に触れる前に花岡氏は、先行事例として実店舗をオンライン予約し、診断に応じてファッションを提案してもらえる「LaLaport CLOSET」を挙げた。同プロジェクトは要件定義から実装まで4カ月程度で実装。この実現には、「ecforce」の既存機能の要件適用度が高いことが理由として挙げられる。

「館内での試着を横断的に実現したい」と語ったのは三井不動産の渡辺氏。「館内まとめて試着・購入サービス」と銘打たれた該当サービスは、消費者が店舗から商品を自由に持ち出し、最後にまとめて購入できる新たなサービスだという。

林氏は「知見をもとにプロダクトを進化させ、統合型プラットフォームとしてエンタープライズ企業向けコマースDXに注力したい」と語り、オムニチャネルの深化に意気込みを見せた。

三井不動産株式会社 イノベーション推進本部ベンチャー共創事業部長 髙波英明氏

「SUPER STUDIOは我々にしか提供できない購買体験の創出に不可欠なパートナーです。ベンダーは言われた通りにやろうとうしますが、SUPER STUDIOは『それは顧客にとって価値ある体験なのか』と議論を深めてくれることが新鮮でした」と髙波氏。

変化の激しいコマース環境では、プロジェクトの要件定義時と実際のローンチ時で状況が大きく変わっていることも珍しくない。100点満点の完璧な実装を目指すよりも、まずリリースして実際のデータをもとに改善を重ねるアジャイルな進行が、現実的かつ効果的な選択肢となる。アジャイルを単なる開発手法ではなく、組織全体の考え方として根付かせることが、今後のEC事業を左右する重要な要素となりそうだ。


記者プロフィール

大矢根 翼

2018年法政大学卒業後、自動車部品メーカーに就職。
ブログ趣味が高じてライターに転身し、モータースポーツメディア『&Race』を副編集長として運営。
オウンドメディアの運営、記事制作など、複数ジャンルで記事制作をメインに活動している。

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