ブランドとサービスは切り離さない 3ブランドが語るそれぞれの想い〜後編〜
取材前編はこちらから→https://ecnomikata.com/original_news/22389/
オーダーメイドの市場は拡大していっている。その実感を取材前半で語ってくれた深山氏、森氏、相川氏。しかしオーダーメイドという今まで主流とは言えない市場に参入するには様々な苦労があった。
自分の考えに共感してくれる外注企業との取り組みや、そもそもオーダーメイドが活気付いている理由、ECでオーダーメイド商品を展開する意味について議論が交わされた。
――ECでのオーダーメイドは従来とは異なる業務フローが多くなるビジネスシステムですし、提携する企業とのやりとりもかなり苦労があると思います。
深山:外部のパートナーとのやりとりはとても重要です。例えば工場1つ取っても、同じものを大量に効率よく作ってコスト削減するのが従来の方法でしたが、オーダーメイドだと、小ロットをいかに効率的に回すかが重要になります。
業務の動かし方は全然違うので、意思統一をしっかりと行う必要があります。
――工場側からするとリスクも大きいですよね。どのように説得するのでしょうか。
深山:現場レベルの話ではないので、工場のトップを説得することが必要になります。オーダーメイドの商品は増えており、工場など外部のパートナー企業のトップも腹を括ってやっていると思います。
時代の流れとして国内だけではなく、世界的に見てもオーダーメイド、パーソナライズ商品が高価格帯のビジネスモデルになっていくと思っています。その為業界を一緒に盛り上げたいという想いはあります。
なので外部の企業さんには「オーダーメイドがこれから流行します。外から流行を傍観して見ているのか、実際に手を動かして業界を盛り上げるかどっちのプレイヤーになりますか?」とよく聞いています。(笑)
時代の流れとして国内だけではなく、世界的に見てもオーダーメイド、パーソナライズ商品が高価格帯のビジネスモデルになっていくと思っています。その為業界を一緒に盛り上げたいという想いはあります。
森:最適な1社を探すことがとても大事ですよね。
深山:そうですね。FABRIC TOKYOさんは工場とどのようなお取り組みをされているんですか?
森:今はおかげさまで複数の工場で製造が行えています。しかし、ここまでに至るまでには最適な1社と仕組みを構築してきたことが大きいですね。
――皆さんは最適な1社はどのような経緯でお取り組みが始まったのでしょうか。
森:社員にも言ったことないのですが、最初はタウンページに掲載されていた商工会議所一つ一つに電話をしました。そして会ってくれた人たちにプレゼンをしましたが、当時は99%断られましたね。
ただ1社でもお取り組みを始めることができれば、実績を積むことで昔断られた企業さんにも再度アプローチすることができます。
深山:まさにその通りで、今提携している企業さんって昔断られているんですよ。実績を積み、お客様のニーズが見えたことにより、改めてお話を聞いてくれた形になりますね。
相川:私達もサザビーリーグのブランドではありますが、スタートアップのブランドですので、お取引先も0からの選定でした。
ただ衣服やヘアケアに比べるとジュエリーはまだ手作業が多く、カスタマイズの負担は大きくありません。そういう意味ではこれからジュエリー系をオーダーメイドで事業展開したいと考えている人たちも多いんじゃないかなとも思いますね。
――時代の流れの中でカスタマイズが勃興したと言いますが、今はどのような時代だと考えていますか?
森:今はモノが溢れている時代ですよね。基本的には今の生活に満足している人が多いと思います。しかし、新しい情報はネットなどを通じて流れてきています。新商品や、トレンド情報ですね。
そうなると、満足している生活を更に良いものにアップデートしたいという欲求が発生します。その時にどの情報を選べばいいのかわからない。周りの人の意見も多種多様である。その時に自分自身にカスタマイズされた商品が刺さるのだと思います。
今はブランドの力も弱くなっている時代になりつつあります。それよりは自分らしさを大事にするお客様が多い。このような消費行動とオーダーメイドは相性がとても良いと感じます。
深山:オーダーメイドは昔からルイヴィトンなどが手がけていたり、歴史はとても古く、非常に高価で、一部の人しか利用できませんでした。しかし、森さん言うように時代の流れと共に、一般の人のニーズも増え、比較的手軽に手に入れることができるオーダーメイド商品が増えています。
オーダーメイドでの製造は効率性が悪く大変で費用がかかるように思われるかもしれません。しかし、この大変な理由は、同じものを大量に生産する従来のフローでカスタマイズ商品を製造した場合ですよね。そうではなく、小さな工場でもオーダーメイド商品を製作する技術はありますし、難しいことではありません。
今の時代は製造業の技術発展、IT化による情報量の爆発、多種多様な消費者ニーズがうまく噛み合って、中価格帯のオーダーメイドに注目が集まっているのだと思います。
相川:高価になりすぎないのが、オーダーメイドをECで行うメリットだと思います。
実店舗で測定をする従来の形ですと、人件費が少なからず発生します。
しかし、ECだとシステムの力をうまく活用し、サイズ測定や好みのパーソナライズが可能です。そしてどんどん最適化できます。その為、人件費を抑え、商品価格も高価格帯になりにくいという特徴があります。
ECにこだわりを持たずにブランドとしてこだわりを持つ
――リアルの場でも顧客接点を作ることもあると伺っています。
相川:そうですね。三越伊勢丹や高島屋などでポップアップストアを運営し、その場でカスタマイズを行なったのですが、面白かったのが初めから石自体を決めた状態で訪れるお客様が多かったです。
実際に店頭で行うことはパーツや石の向きの調整でした。
森:オンラインを主軸に行うことが間違いだとは思わないですけど、実店舗を出すことで新しい発見って多いですし、顧客目線からすると実店舗ってあった方がいいですよね。
ARTIDA OUDさんのポップアップストアに訪れる人って意外とブランド既知な方が多くないですか?
相川:かなり多かったです。既に商品を購入したことがある方などもポップアップストアに足を運んでいただきましたね。その為、接客も非常にしやすかったですね。
森:すごく共感できます。FABRIC TOKYOも関西初となる梅田に店舗を4月20日にオープンしました。それまでは関西のお客様も、出張や旅行ついでに関東の店舗を利用していただいてましたが、梅田の店舗にもおそらく来て頂いて、生地選びやヒアリングなどをさらに楽しんでいただけると思っています。
――ECと実店舗両方をうまく活用することが大事ということですね。
森:オーダーメイドとは少し関係のない話にはなってしまうのですが、基本D2Cのビジネスで商品を小売に卸すことはしていないので、ECとリアルの目標がバラバラになることはありません。
EC化率という言葉も事業者目線の話であって、消費者には関係ありませんよね。そのブランドが好きでECサイトや店舗に訪れてくれているので、全体観を考えることが大事なのかなと思います。
深山:ブランドでありサービスであるというのは私達も意識して行かなければいけないと思います。単純にシャンプー・トリートメントを売っているブランドという認知のされ方ではなく、商品を通じてお客様の生活を快適なものにする、そんなサービスでありたいと思っています。
さらに言うと、デジタルマーケティングは厳しい時代になってきています。今やデジタル広告の市場も大手広告代理店が参入するようになり、我々、中小ブランドには苦しい時代です。顧客獲得単価もどんどん高騰してしまっている。なので逆にオフラインにチャンスが巡ってきているとも思います。
相川:デジタル広告コストは悩みの種になっています。
今後D2Cビジネスは広告費をかければかけるほど赤字になっていってしまいます。そのため顧客獲得の場はリアルにどんどん移行しています。
最近では紙雑誌などに新商品のリリースを送ることで、取り上げていただくことが多いです。タイアップ広告を出稿する予算は限られていますが、商品の説明を詳細に行うことで編集者の方がリリースを取り上げてくれるケースは少なくないと思います。
深山:オンラインも監査体制はとても厳しくなりつつありますし、今後もオンラインが厳しい流れは続くと思います。そういう時に“ECでオーダーメイド“だけより、リアルの顧客体験を強化し、口コミやニュース、コミュニティを作り、オンラインにつなげることも今後大事になると感じています。
森: またプラットフォーム依存だと、大元の土台が崩れた時に非常に大きな打撃を被ることになります。
例えば、数年前のFacebookの状況と今は全く違いますよね。昔はFacebookなどの知識を持つ人が多くなく、分析を行えば顧客獲得単価を抑えて、一人勝ちできる状況もあったかもしれませんが、今だと獲得単価はものすごく高くなります。
最近ではInstagramやTik Tokを攻略している企業が効率的な顧客獲得を行っていると思いますが、徐々に顧客獲得コストは高騰し始めていると思います。
ツイッターやFacebookのフォロワーが多かったとしても、アルゴリズムの変更があるとリーチ数が突然数分の一に減少してしまうという過去もありました。そういうリスクをプラットフォームは抱えています。
それならば、深山さんや相川さんの言うように、リアルでの体験価値を高めることは顧客獲得のリスクヘッジをできることと、そこからファン作りに繋げていける可能性は高まるという側面があると思います。
深山:SEO依存の企業もかなり厳しい状況に陥っているのかなと感じます。グーグルのシステム変更で表示順位が落ちると売上に大きな影響をもたらします。ECでの競合企業も多くなってきていると思います。
――1周回って販促活動の場が、雑誌などリアルに戻ってくる?
森:雑誌は最近かなり読みます。
深山:ネットの情報は多すぎて逆に分かりづらい時もありますよね。
相川:感度の高い読者が多いですし、雑誌によって読者層もある程度しぼることができるので、戦略も立てやすく、デジタル広告よりコスパはいいかもしれないです。
森:他にはリアルでの意見交換の場として会食はすごく大事だなと感じます。他の業界に起きているトレンドは必ず横の業界にも関わってくるので、現場で体験している人たちから直接お話を聞いておくことは重要です。
深山:パーソナライズやD2Cって考え方のスタンスってだけで明確な基準はないのかなと考えています。あれはパーソナライズで、あれはD2Cではないとかって誰かが決めることではないので、新しい体験とかを積極的に行う企業が増えると業界も盛り上がってどんどん楽しくなると思っています。
――最後に皆さんの目標を教えてください。
深山:短期の目標でいうと実店舗展開を行い、リアルを含めて顧客体験価値の向上を推し進めていくことですね。もう少し先の話をすると、製造から販売の仕組みを変えて、誰でも自分の個性を価値化し、消費財を作れるような文化を作っていきたいと思っています。
森:私達はオーダースーツ、オーダーシャツのD2Cブランドですが、そこにこだわりを持つのではなく、これからもお客様の顧客体験価値が何かを深く考えていきます。そして選んでいただいた後に、お客様のライフスタイルをアップデートするサービスを提供していきたいと考えています。
つまり、ブランドでありサービスでもあるんです。そのような「ブランド×サービス」のリーディングカンパニーを目指していきます。
相川:サザビーリーグの創業者の言葉で「一歩先ではなく、半歩先」という言葉があります。一歩先では行き過ぎる。半歩先でお客様の痒いところに手が届く、そうそうこれが欲しかったんだよという提案をすることが大事という意味です。
ARTIDA OUDは正にそのような想いを込めて、ジュエリーをECでカスタマイズできるモデルで運営しています。今後はサザビーリーグが運営している他のブランドへのECでのカスタマイズのノウハウは少しづつ共有できればと思っています。
森・深山:すごいいい言葉、、、。