BULK HOMME・N&O Lifeが考える「100年続くブランド」の秘訣
昨今では“D2C”“サブスクリプション”等の時代の変化に合わせ、通販ビジネスの戦略やあり方も進化が求められる。
一方で、新しい概念への理解が浅く、既存の通販ビジネスの手法から脱却できず新しい手法に挑戦できないなどの理由で、変化に対応できていない企業も未だ多く存在している。
これらの背景を踏まえ、ECのミカタではD2CブランドとD2C支援企業の対談連載記事をお送りする。上記課題を払拭し、より多くの企業がビジネスをアップデートできる事例や生の情報をお伺いする。
こちらは連載予定企画となっており、連載第一弾は、メンズスキンケア市場をほぼ0から開拓したバルクオム代表の野口氏、P&G出身で楽天ショップオブザイヤー2019も受賞したALOBABYを始め4つのブランドを運用しているN&O Life 代表の西口氏、多くのD2Cブランドが利用しているEC基幹システム 「EC Force」を提供するSUPER STUDIO エヴァンジェリスト 真野氏の3人に、【ブランド】について対談していただく。
連載予定企画(変更の可能性あり)
・第1回
BULK HOMME 野口氏×N&O Life 西口氏×SUPER STUDIO 真野氏
https://ecnomikata.com/original_news/25896/
・第2回
BASE FOOD 齋藤氏×アライドアーキテクツ 村岡氏
https://ecnomikata.com/original_news/26512/
・第3回
DINETTE 尾崎氏×アライドアーキテクツ 村岡氏
https://ecnomikata.com/original_news/26994/
・第4回
SEAM 石根氏×SUPER STUDIO 真野氏
https://ecnomikata.com/original_news/29002/
・第5回
Sparty 西田氏×アライドアーキテクツ 村岡氏
https://ecnomikata.com/original_news/28448/
D2Cブランド創業者にとっての「ブランド」とは
―――西口さんと野口さんはご自身で創業し、ブランドを0から立ち上げました。お二人にとって、「ブランド」とはどのような意味を持っているのでしょうか?
西口:そうですね。「ブランド」とは消費者の知覚だと考えています。私たちが行うマーケティング活動などあらゆる施策の結果、お客様の頭の中に何かしらのイメージが出来上がります。そのイメージが、「ブランド」と呼ぶべきものです。
私は前職のP&Gで学んだブランドの考え方を基本的に踏襲しているのですが、「ブランド」として外してはいけない「ブランドエクイティ」をブランド毎に定めています。このブランドエクイティがブレないように様々な販促チャネルに最適化した形でブランド運用を行なっています。
野口:私も西口さんの意見とほぼ一緒です。実際、P&Gご出身の方の本などからブランドについて学んだことも非常に多かったです。少し補足させていただくとしたら、私たちBULK HOMMEにとってのブランドエクイティは、「認知度と好感度の総和」だと考えています。
つまり、ものすごくニッチな層から圧倒的な支持を受けているブランドもあれば、ユニクロのような、誰でも知っている認知度にものすごい力を持ったメガブランドもあります。
私達もマーケティング施策を行う時には、この施策は認知度、好感度のどちらを高めるための施策なのか、考えた上で動くことにしています。
西口:広告はわかりやすいですが、お客様との接点全てがブランド形成に関わってきます。その他にも、コールセンターもお客様とやり取りを行う場になりますし、メルマガもお客様が読まれるものです。その為、会社のメンバー全員にもブランドエクイティは浸透させる必要があると思っています。
直接の接点はないかもしれませんが、バックオフィスのメンバーも同様です。社員には組織のいち歯車と思って欲しくありません。顧客との接点が直接あるかないかより、メンバー全員で1つのブランドを作り上げている、といったチームの意識を徹底させることにも注力しています。
その結果、私たちのブランドがお客様の中で育っていくと考えています。
何を思って「ブランド」を創業したのか
―――お二人が起業された当時は、どんなブランドを作りたいと思っていましたか?
西口:創業当時はメイドインジャパンのブランドをグローバルジャパンにしたいという気持ちがありました。
私たちは堀江さんや藤田さんなど、いわゆるヒルズ族に学生時代から憧れた世代で、ベンチャーへの憧れは漠然とありつつ、新卒時はまずは基礎スキルを高めたいという想いでP&Gに入社しました。P&Gで一定の経験を積んだ後、友人が立ち上げたITベンチャーに参画し、その後N&O Lifeを創業しました。
P&Gでは貴重な経験ができた一方、外資系の企業でしたので、日本のために働きたいという想いも募っていきました。ITベンチャーではベンチャーの大変さが身に染みてわかりました。本当に多くのことを自分一人でやらなくてはいけない。そうなると本当に好きで、24時間365日考えられる領域じゃないと続かないし、好きな人達に勝てないと思いましたね。
その時に自分自身はやっぱり消費財が好きで、日本発のグローバルブランドを作りたい!と思ったのが創業当時の想いですね。
真野:世界展開へのこだわりはやはりP&G時代の影響が強かったんですか?
西口:そうですね。やっぱり日本人ですし。日本の力を世界に見せつけたいとは思いましたね。
P&G時代に「日本の消費者は世界一厳しい目を持っている」とよく言われました。これは、日本人としても誇りに思える部分ですよね。だからこそメイドインジャパンブランドを作って、グローバルに行きたいという思いは強かったですし、今も変わってないですね。メイドインジャパンのプライドを崩さないよう、品質には一層のこだわりを持つようになりました。
真野:野口さんはどうですか?
野口::私も西口さんと同じくヒルズ族に憧れた世代でした。
ブランドにおいてもたまたまですが、日本発の企業として世界に通用するブランドを作りたいと思っています。
私は、最初はWebサービスなどを作っており、モノづくりの業界にいたわけではありません。ただ、そのときはあまりうまくいかず、その当時の反省点を踏まえ、新たに挑戦するときに日本の優れている技術やメーカーに目をつけました。特に優れているのは西口さんも仰っていたように美容や健康の領域です。特に化粧品の製造技術や、評価技術は圧倒的です。
ただメンズ領域はそこまで活発ではなかった。もちろん感覚だけではなく、冷静にマーケット分析を行い、参入できるかどうかはしっかりと分析を行いました。またWebサービスを展開していたこともあり、実店舗ではなくECでも十分ブランドとして成長できると思っていました。
2013年にブランドを立ち上げたんですけど、ちょうどスマホが普及する過渡期だったように思います。大変なことの方が多かったですけど、背中を押してくれた時代だったとも思います。
―――真野さんは日々、様々なブランドと接していると思います。その中で、これからブランドを立ち上げたいという人は増えている実感はありますか?
真野:そうですね。2年前までブランディングは二の次で、ただ「売れる」商品を作りたいという相談が多かったのですが、広告費の高騰や消費者ニーズの変化、特に消費者は機能的価値を重視した商材から情緒的価値も兼ね備えた商材を買う傾向となり、ブランディングを意識するメーカーが増えました。
そのような背景から継続性が低くて儲かる商品よりも、資生堂のような100年続く商品を作りたいという創業者が増えてきています。
―――立ち上げ期のブランドがよく悩まれていることはありますか?
真野:D2Cが何なのか、から入る人の方が多いです。D2Cという言葉は流行っているけど従来の通販と何が違うのか?また、Amazonや楽天を使うことはD2Cではないのかということで悩まれているメーカーが多くいます。
また、D2C事業を運営する上でのコスト把握も悩まれているポイントです。商品開発の適正費用、フルフィルメント立ち上げの最適コストはどれくらいかなどの相談はよく受けます。
SUPER STUDIOは、現在D2Cコンサルティング事業と、EC基幹システムの「EC Force」を提供するSaaS事業を展開しています。D2Cブランドとのお付き合いが非常に多いので、ブランドコンセプトのアドバイス、データからわかるノウハウなどをお伝えすることは多いですね。
さらに、EC Forceのみでのお手伝いから、OEM会社や広告会社の選定、物流、コールセンターの立ち上げ相談まで幅広くお手伝いさせていただいております。
今まで自社でEC、D2Cをやってきた経験を基にした限りなく「正解」に近いノウハウを提供することでメーカーの悩みを解決させていただいています。
創業時から今、考え方が変化したことは?
真野:創業当初と比較すると、市場の状況や、顧客とのコミュニケーションの手法が変化してきていると思いますが、そもそものブランドについて、創業時の考えが変化してきた、ということはあるのでしょうか。
西口:ブランドを守る難しさは感じるようになりました。P&G時代でのドラッグストアでの店頭ビジネスの時は周りも大手で、一定のルール、慣習の中で勝負していました。
EC業界は本当に様々なプレイヤーさんがいらっしゃる。発展途上の業界でもある為、異種格闘技みたいな部分もあるわけです。
このような状況で、正しい姿勢を貫き、売上を拡大し、ブランドを育てるというのは、業界特有の難しさがあると思います。結局は正しい施策を広く深く実行するしかないのだと強く感じます。
野口:私は20代とか、これからD2C始めるぞという方たちに投資させてもらったりもしています。その方たちの中でもスタイリッシュなブランドに勝手になってしまう課題とか、正攻法の分かりやすいFacebookなどのSNS広告とか出稿して当たりませんでした、で止まってしまう人は凄く多いんですよ。
Webマーケティングは総当たり戦のパターンが劇的に増えた環境になったので、あらゆる媒体に対して、あらゆるパターンの組み合わせを一個一個凄いスピードでつぶしていく勝負です。それをやり切れない人が非常に多いです。ゲームのルールがわかっていないという印象です。
―――SUPER STUDIOさんにも、そういった悩みを持たれているブランドさんからの問い合わせがあるのでしょうか?
野口:想像ですが、たぶんSUPER STUDIOさんとか話題のサービスは、「EC Force使うと売れるんですか?」みたいな体で問い合わせが来ることが多い印象です。
真野:そうですね、野口さんや西口さんにもご協力いただいて、EC Forceをメディアに露出した際に、記事を見て問い合わせをいただくことが多いのですが、バルクオムさんやN&O Lifeさんと同様にブランド構築ができる、正解となるノウハウを得られれば、それをもとにすぐに事業をグロースできると考えて問い合わせいただくことはわずかながらもあります。
急に、野口さんや西口さんと同じ考え方になるのは難しいです。だからSUPER STUDIOとして重要なのは、ブランド運営は簡単じゃない、事業者の方々が頑張らないと厳しいことを示唆してあげることだと感じています。
しっかりと現状の運用や商材、将来やっていきたい運用などをヒアリングさせていただき、そのメーカー様に合った運用が実現できるようにアドバイスをしています。ただ知見をお伝えするのではなく、データから導き出されている結果とロジックを共有し、説得力を高めています。そうして、事業者のやりたいこと、頑張りたいことを負荷なくシステム上で実現できるように、常にアップデートを繰り返してサービスを提供していくことを心掛けています。
D2C市場は毎日のように変化します。例えば広告規制についてですが、昨日までOKであった広告表現が、今日になってNGとなるケースはよくあります。また、数年前まで標準であった「方程式」も昨今では通用しないなどの例も多く出てきています。メンバーが最新の情報をキャッチアップし、それをシステム化できるように開発チームと協議し実装を重ねております。
―――事業者の頑張りをよりサポートしてあげるという事ですよね。
真野:そうですね。事業者から要望をいただく強くてオフィシャルな武器を、いかに装備させるかを考えています。(笑)
―――具体的には、どのような武器をどのように装備させているのでしょうか。
真野:わかりやすい事例として、チャットボットシステムの実装が挙げられます。
1年ほど前に広告代理店界隈で「単品定期ECでもチャットボットがCVRに寄与する」という情報が回った際、どのようなサービスか調査し、支援先のメーカーで実装を行いました。ただのチャット形式にしただけではそこまで数字の変化がなかったため、さらに深堀り、数字が上がる機能を特定し、自社でチャットボットシステムを作ることを決定しました。その期間はわずか1ヶ月でした。
そして実装から1〜2ヶ月で受注件数が約2倍になるという結果を得られました。自社でPDCAを回して結果を出し、加盟店にも展開するという流れにより、より「強い武器」をメーカー様に持っていただくことを心がけております。
―――真野さん、ありがとうございます。西口さん、野口さんは創業時からブランドの考えは変わらなくとも、当時考えていた展開と異なることはありますか?
西口:それで言うと、こんなにECメインで展開するつもりではなかったです。
当然最初はECが始めやすいから、という理由でブランド展開を行なっていました。ただ自分自身、実店舗から来た人間だったので、小売りに対してオフラインのイメージが強かった。
今もオフラインは重要だと思っていますが、現状はオンラインが強い会社といった見られ方をされていますよね。
真野:確かにECは2013年の頃とは比べものにならないくらい重要視されるようになりましたよね。オンライン決済の多様化とターゲティング広告の高精度化を背景に、マスの広告を売って店舗にきてもらうという流れからデジタルシフトによってオンラインでの購買が増加、その結果ECの重要度が上がっていったと思っています。
野口さんは創業時と今で感じる変化はありますか?
野口:広告もブランドも、男女差が非常に大きいということを年々強く感じます。創業した時より今の方が、実感ありますね。
男性向けの化粧品ブランドさん、やっぱり目に入るので拝見しますけど、綺麗にうまくいくところは一切ないです。BULK HOMMEも最初の数年間は全く売上出せなかったですし。逆に言うと、男性向けのスキンケア、化粧品業界、男性向け化粧品市場は、参入バリアが勝手に効いていると、ポジティブに捉えられると思います。
BULK HOMME・N&O Life、2つのブランドの強み
―――メンズスキンケア領域ではバルクオムさんが頭抜きんでていますが、その要因をどのように捉えられてますか?
野口: Webマーケティングのトライアンドエラーの回数ですかね。間違いなくうちが世界中のメンズスキンケアの会社で一番多いです。
―――回数なんですね。
野口:そうです。アクションの質量です。
真野:これはバルクオムさんと接していく中で強く感じるところですね。試行回数がとにかく物凄く多いです。EC Forceのアップデート回数は1ヶ月に20箇所以上。しかし、それでも間に合わないスピードでご要望をいただくこともあります。
野口:他社さんに比べて、うちってどのくらい多いんですか?
真野:だいたい2、3倍はあると思いますよ(笑)。
野口:どの社員からもガンガンご要望させていただきますからね(笑)。やっぱりEC業界は変化が非常に速いので、ここの対応はしっかりしていきたい。ただ私たちの要望にしっかり応えてくれるシステムはEC Forceさんだけなんです。やりたくてもやれない事がある事業者は多いかもしれないですね。
西口:変化への適応は大事ですよね。N&O Lifeでも心がけてます。
真野:N&O Lifeさんはどちらかというと、地道ながらも堅実に粛々と施策を進めているイメージです。斬新な施策より、基礎固めに注力されている印象です。前述したチャットボットのシステムについても、私たちからの提案にはすぐに乗らず、しっかりと自社の体制を整えてテストしてから導入いただくなど、良い意味で慎重に、手堅く運用を進めておられる姿勢を常に勉強させていただいています。業界の性質上、トレンドにすぐに飛びつく企業も少なくないのでこのような姿勢はビジネスをする上でも参考になります。
西口:本当は様々な施策を手がけていきたいのですが、余裕がないだけです(笑)。
真野:先ほど、異種格闘技戦とも話されていましたが、他の企業を見て何か新しいことをしなくてはいけないなど不安に駆られることはあまりないんですか?
西口:突拍子も無いことをしなくてはいけないとは考えていないです。逆にやらない方がいいと思っていますね。
意識しているのはWHO・WHAT・HOWです。「誰に、何の商品を、どうやって販売するか」、ですね。この中でも、WHOとWHATはブラさないようにしています。逆にHOWの部分は、常に最新情報にアンテナを張り巡らせて変化させていくようにしています。
少し前にチャットボットの需要が高まった時にはEC Forceさんにすぐ要望をあげました。ただ、ブランドの軸や根幹に関わる商品や顧客ターゲットはそう簡単に変えられるものではありません。
上手くいってない時は、WHO・WHATを変えたくなってしまうんですけど、変えてはいけないんです。いかに強い信念を持って継続できるかは、ブランドにとって分岐点になるのではないでしょうか。
真野:信念を持って貫ける人は、業界の上位数%だけですよね。何かを思いついた人のうちそれを実行し、さらに継続させていく人は1%という法則もあるくらいです。やりきれるかどうかは、売上が伸びるかどうかも要因としてありますが、正解がない暗闇の期間を抜けられる信念があるかどうか、なのではないかと思います。
―――ブランド運営の泥臭い部分ですよね。西口さんはどのように暗闇を抜けたんですか?
西口:先ほども説明させていただいた通り、好きな消費財で今のブランドを立ち上げています。24時間365日、考えていても苦にならない領域だからこそ、耐えられました。やはり好きであるか、夢中になれるかはブランド運営において非常に重要だと思います。
しかも最近はオフラインもだいぶ様変わりしていますよね。必ずしも大手百貨店に出店できる事=イケてるブランド、ではありません。やはり、消費者目線でどの店舗に置くべきか、ブランドによって正解が異なります。
D2Cブランドは卸やモールに出店してはいけないの?
―――D2Cの考え方として顧客との直接取引が挙げられます。ただバルクオムさんもN&O Lifeさんもモール運用、実店舗展開を行なっています。そのチャネルでは自社の介入が制限される部分があると思いますが、ブランド毀損やコミュニケーション不足が発生する、といったことはないのでしょうか。
野口:そうですね。この話もやはりブランド毎、お客様目線で考える必要があり、お客様からニーズがあれば全然問題ないと思っています。
例えば、BULK HOMMEはAmazonでも展開していますが、Amazonのスムーズでシンプルなデザインとワンクリック決済フローは男性から好まれます。やはりAmazonや楽天市場などECモールの先には非常に多くの消費者がいます。なので、出さない理由はない、と考えています。
西口:私も野口さんと同意見です。ALOBABYは自社ECより楽天市場の方が売上比率は高く、2019年のショップオブザイヤーも受賞しました。ただ他のブランドでは自社ECの方が売上比率は高いなど、ブランドそれぞれによって相性は様々です。各チャネルの先にお客様は必ずいるので、自社サイト・楽天市場・Amazonなど、チャネル毎に最適化していくことが重要です。D2Cブランドだから自社ECのみと固定観念を持つのは危険とも言えます。
野口:おっしゃる通りだと思います。BULK HOMMEの場合は商品を単品で注文する場合はAmazon。その分、自社サイトで定期購入していただける方は様々な特典をつけてあげる。消費者目線で設計を行えば、自ずとAmazonや楽天市場にも展開していくブランドは多いと思います。
実店舗への卸も同様の考えを持っています。ブランド毀損を危惧する気持ちもわかりますが、バラエティ・ストアや百貨店ではそもそも私たちが介入することそのものが無意味だと思っています。
最近の若い世代の人々は、百貨店以外のお店で見かけるブランドに対して「イケてない」とは考えない傾向があると思うんです。そのあたりを気にするより、街でたまたま見かけてくれた人が商品を買いたいと思い、実際に買ってくれる方がありがたいと思っています。
真野:実店舗での小売販売も変化している部分はありますよね。海外D2Cの事例では、実店舗を販売目的とせず、ファン獲得の場にしているブランドも目立つようになりました。振り切っているブランドは実店舗を改良して展示場にし、出口で少し商品紹介をするところまで出てきました。日本でもこういった店舗が増えてくるのではないでしょうか。
西口さんはそれこそP&G時代は実店舗、N&O LifeではECをメインに見るようになったかと思いますが、ECと小売の相互作用について以前と変わったなと感じることはありますか?
西口:変わった部分ももちろんありますし、変わらない部分もありますよね。
ネット発のブランドは増え、お客様に知っていただく場がWebに遷移しました。私たちもまさにそうです。オンラインで知っていただき、オフラインで購入される、つまりオンラインで頑張って認知した結果が、オフラインにも伝播するようになりました。このような動きはP&G時代とは異なります。
逆に、変わらない部分としては「実際に試したい」というニーズは変わらず高いです。我々のような赤ちゃん向けの商材なら尚更です。その為、オフライン設計もECと同様しっかりと考えなくてはいけないのはP&G時代とは変わってないですね。
―――ECと実店舗の連携には多くの企業が課題を抱えていると思います。オンライン発のブランドが今後直営店を持つ動きも少なからずあると思いますが、SUPER STUDIOでは何か支援などは行う予定はありますか。
真野:POSデータなど、これまでオンラインと連携できなかったデータを、基幹システムとつないで、マーケティング活用させていきたいと考えています。
来たるニューリテールの時代を実現していくために、EC Forceとして仕組みづくりを始めています。これまでO2O、OMOなどの世界観が未来予想的に語られてきましたが、肝となるデータ連携がうまくいかずになかなか進まなかった感覚があります。しかし、D2Cがフレームワークとして普及したことで、データ活用のハードルがかなり下がっていると感じています。
西口:やっぱりオンラインとオフラインの顧客情報のデータ連携、これが出来ればとてもありがたい。オンラインで知ったお客様が私たちの商品をオフラインで買っていることもあると思います。ただECのデータだけ見るとカゴ落ち、離脱客になってしまいます。優良顧客を把握しきれていないのが現状です。
ですのでこの仕組みは早く世の中に欲しいですね。
100年続くMade in Japanブランドを目指して
―――海外展開にも積極的な2社ですが、どのように海外展開行なっていますか?
野口:いくつかのフェーズに分けて戦略を作っています。詳細はもちろん国によって変わる前提ですが。ただ基本的には、各国の状況に詳しい独占販売代理権を付与した会社とご一緒してお取り組みをさせていただいています。
その後は、施策を繰り返し、データを蓄積し、ある一定を超えた時点で自社サイトを立ち上げたいと思っています。海外展開に近道はないですね。地道に進んでいくしかないと思います。
世界で共通しているのはスマートフォンの普及です。その為、スマホ上でブランド構築できる感覚は非常に強いので、最後は自社展開して、デジタルマーケティングハックに成功するしかないと考えています。
西口:N&O Lifeでも、各国それぞれの知見を取り入れないといけないのは大前提としています。しかし、やってみないと分からない部分も凄く多い為、基本的にはスタート時は日本の戦略をそのまま実行します。スピード感を持って海外展開を行えれば、テストも速い。どの数字が想定内で、どこが想定外なのかを細かくチューニングして、それぞれの国にとっての最適化を行なっています。
事例として特徴的なのはシンガポールです。日本と同様にECから始めましたが、シンガポールでは展示会が盛んです。日本でも、ビッグサイトや幕張メッセなどで行われているBtoBの展示会がありますが、そのBtoC向けと考えてください。
この展示会に出店を行うことでブランド認知を高め、リピート顧客の導線はECという形を導入して3年間で構築しました。これもやはりPDCAを回してわかったことです。他の国も同様にローカライズした展開を行うことで、海外売上比率は無視できない数字になっています。
真野:スマートフォンの普及により、EC化が加速しました。実店舗を構えるよりはコストを抑え、リードタイムを短縮してブランドを立ち上げられるようになりました。また、D2Cであればブランドメッセージや背景となるストーリーを直接顧客に伝えられるようになりました。インフルエンサー発のブランドなどもここ数年で増えてきていますね。競合も多くなる中で、継続的に、例えば今後100年間続くブランドにしていくためには何が必要だと思いますか?
野口:繰り返しにはなりますが、時代の変化に合わせることが長く続ける秘訣だと感じています。ブランドを作る側や事業者のエゴではなく消費者目線を持ち、その時代に合わせたブランドエクイティを醸成しつつ、あらゆる場所や方法で商品をお届けするに尽きると思います。ただ100年続くブランド作りについては西口さんの意見、とても気になります(笑)。
西口:実は100年続くブランドを作りたいというのは社内とかではよく言ってるんですよ(笑)。例えば、参考になるのはマクドナルド。マクドナルド誰が見ても強いブランドじゃないですか。子供世代の頃のイメージと親世代のイメージはほとんど変わらず、「みんなで楽しく食べられる」。この認識は世界中でも一緒なんです。
こういうブランドが強いブランドだと思っています。ですので、私にとってはスタイリッシュかどうかとかは全然気にならない。
大事なのは、常に一貫したことを継続することです。
変化をしないという意味ではありません。実際にマクドナルドはレジ混雑の緩和のため、自動注文ができるシステムを導入したり、一人席を増やしたり、変えている部分はとても多い。しかし、ブランドの根幹はブレていない。非常にお手本になります。私らも、ブランドとして変えてはいけないことと、どんどん変えていくこと、2つを明確に決めて実行していくことが、ブランドが長く続くために必要になることだと思います。
―――SUPER STUDIOさんはまさにブランドのHOWの部分を大きく担っているのではないでしょうか。
真野:そうですね、やはり西口さんと野口さんに言っていただいている通り、変わっていかなければいけないことに対して、その変化を実現できるシステムを提供するのは大前提になります。
その上で、ただ言われていたことを変えていくのではなく、SUPER STUDIOのメンバーもメーカーと同じ目線に立ち、何が求められているのかの最先端を走り、さらには最先端を自分達で構築し、ブランドを支援しなくてはいけないと考えています。
最近ですとパーソナライズ機能を持たせて「診断から購買」の導線をつくりたいという要望が増えてきました。実際市場にもパーソナライズブランドが数多く出てきているので、SUPER STUDIOのメソッドを加えたパーソナライズ機能を開発しています。一般の開発会社であれば、「機能の将来性」を理解し開発するべきか迷うところだと思いますが、SUPER STUDIOだからこそ理解でき、既存の概念に囚われることなく変われることが強みだと考えております。
―――今、真野さんが考えている最先端とは何でしょうか。
真野:D2Cの領域は少し前にトレンドになりました。その分の跳ね返りが来ると考えています。本気のブランド以外が淘汰されていくといった流れです。なぜなら、「売れる商品」は作れても、「売れ続ける商品」を作り続けることは難しいからです。試行錯誤を繰り返しながら事業計画を再構築し、本気でプロダクト開発に取り組んでいないと徐々に商品への想いが薄れ、売れなくなっていってしまいます。私たちも多くのメーカーとお会いし、お手伝いもさせていただいてきましたが、本気でない商品は2年と持たないケースもありました。
それこそ、バルクオムさんのように他社を圧倒する試行回数や、N&O Lifeさんが行なっている各チャネルの最適化やブランドへの信念などは、当たり前のように思えて多くの事業者さんが実践できていないことです。だからこそ、お二人のブランドは伸びているのだと感じます。
ですので、私達はブランドが実践したい施策の支援を十分にできるよう、体制を整えていく必要がありますし、いつでも頼っていただけるパートナーにならないといけないと考えています。