レシート買取アプリ「ONE」を1865年創業の鈴廣が有効活用!レシート情報を活用するマーケティング手法とは?

西村 勇哉

21474_thumbnail_suzuhiro_thumbnail.jpg (左)ワンファイナンシャル株式会社 COO 佐原 恭平氏
(右)鈴廣蒲鉾本店 統括役員 鈴木 智博氏

日本には多くの伝統産業が各地に点在している。鎌倉時代や江戸時代から姿形を変えながら、100年以上会社を存続させている。また一定の土地に定住し、地場産業としての活動しているのも特徴の一つだ。

しかし、課題を抱えている企業が多いのも事実だ。安価な輸入品、後継者不足、ニーズの変化など様々な要因から、伝統産業は下火になってしまっている。その伝統産業企業でも、時代のニーズに対応し、新しいサービスを取り入れることで大きく成長している企業はもちろん多い。

今回は1865年に創業した「鈴廣かまぼこ」と、2018年にサービスを開始し、既に65万人に利用されている、レシート買取アプリ「ONE」の取り組みについて鈴廣蒲鉾本店 統括役員の鈴木 智博氏とワンファイナンシャル株式会社 COOの佐原 恭平氏にお話を伺った。

小田原に根ざした地場産業「かまぼこ」

小田原に根ざした地場産業「かまぼこ」

鈴木 鈴廣は、漁商として慶応元年(1865)に創業しました。副業として、4代目がかまぼこ製造を始めたのが原点になっています。もともと小田原は魚が非常に豊富な地域だった為、保存食として作られていました。しかし、宴などでかまぼこが振る舞われるなど高級品だったものから海運なども発達しお弁当や夕食で手軽に味わえるように変化していきました。

私たちはかまぼこを作り、市場に卸して終わりではなく、より多くのお客様にお届けしたいと考え、昭和37年、風祭に工場や直売店を設立しました。今ではこの風祭の土地は鈴廣が運営しているレストランや博物館など様々なコンテンツで賑わっています。

鈴廣が運営するレストランで

ーー箱根に車で訪れる観光客が途中で寄っていくに非常に好立地の為、海外からの観光客も風祭では何人か見かけた。しかし、観光地であるがゆえの悩みもあるという。

鈴木 噴煙・氾濫などの自然災害が起こった時にはやはり訪れていただける人も減少してしまいます。また売上のピークも2000年代で、いい製品を作り続けることは引き続き行なっていきますが、作るだけで売れる時代ではないと改めて認識をする必要があると思っています。その為に、工場見学や体験コーナーなど、かまぼこの美味しさだけではなく、かまぼこそのものに興味を持ってもらえるよう努力しています。

ONEとの出会い、今まで獲得できなかったデータ分析が可能に!

モノ消費からコト消費に柔軟にシフトしつつある鈴廣だが、実際にかまぼこにどれくらいの人が興味を持っているのか、どれくらいの人が風祭に足を運んでくれるのか、そのような疑問も多かった。そのような課題を解決したのが、2018年に多くの人に注目されたレシート買取アプリ「ONE」である。

佐原 ONEのサービスは非常にシンプルで。レシートを買い取り、そこから抽出した購買情報を企業にお渡ししています。鈴廣さんとのお取り組みでは、かまぼこを購入したレシートの買取価格を通常のレシート買取より少し高めに設定し、同時にプロモーションを実施しました。

これにより、どの年代の方が、どれくらいの頻度で、どこでかまぼこを購入しているかがわかるようになります。

鈴木 佐原さんとお会いしたのは、ONEがリリースしてから本当にすぐでした。リリースが6月12日でしたが、その1週間後くらいに打ち合わせをさせてもらって、9月からスタートできるよう社内で調整を進めました。

老舗企業とは思えないスピード感でONEと提携した鈴廣。その秘密は会社全体で共通認識としている社是にあった。

鈴木 ONEの導入は他の案件に比べてもかなり早かった方だと思います。もちろん費用が発生する以上、費用対効果は確認しますが、サービスが面白いので使ってみたい!という考えの方が強かったです。「老舗にあって老舗にあらず」というのが鈴廣の社是です。歴史ある会社ですが、新しい取り組みは積極的に活用するようにしています。

鈴廣の課題として、これだけのお客様に支えていただいているのに「またお店に行きたい」、「鈴廣のかまぼこをもう一度食べたい」という方々へのアプローチが十分ではありませんでした。一度足を運んでくださった方や、商品を購入してくれたお客様の熱は他の人よりとても高いと思います。このような方々へのアプローチにはSNSやECは非常に効果的だと思いますが、どのようにアプローチするのが正解なのかに悩んでいました。

ONEであれば購買情報に基づくアプローチが可能になるので実店舗・EC両方の戦略を動かすことができると思います。

佐原 実際に、鈴廣さんとのお取り組みは当初予想していたより反響が大きかったです。かまぼこを購入したレシートの買取枚数は1日の中で上限を決めていました。余裕のある設定をしていたつもりだったのですが、数分で1日の上限に達してしまうことが多かったです。

このことからも、”思っていたよりも、多くの人がかまぼこを日常的に購入している”ことがわかりました。そのような方々に対して、レシートを買い取った後に鈴廣さんの広告をアプリ上で表示しました。実際に鈴廣さんが行なっているかまぼこ作りを行うプログラムの体験プログラムや、かまぼこを手作り出来るキットのご案内をしたところ、CV率も3〜4%と非常に高い数値でしたので、かまぼこって多くの人に興味を持たれているんだなと改めて認識しました。

課題解決の為、鈴廣は何をしていくのか

課題解決の為、鈴廣は何をしていくのか

鈴木 まだまだリピーターの獲得には課題が多く残っています。

もちろんクーポンなどを配ればスポット的には売上は伸びるかもしれません。しかし、私たちはかまぼこづくりに真剣に取り組んでいます。例えばどの季節の場所の魚がどのような弾力を出せるのかなどの研究もしております。またかまぼこ1本には7匹もの魚を使いますので、高タンパクな食品なのです。

かまぼこの価値をを知ってもらうことが弊社の大きなミッションだと思っております。この魅力を発信する際にはONEさんにもまたお手伝いして欲しいですね。

佐原 是非やりましょう!笑。今回の鈴廣さんとの施策は双方が満足できる最高の結果だったと思います。我々もまだまだサービスリリースしてから間もない状態での取り組みではありましたが、鈴廣さんのような歴史ある企業と今回のような取り組みが行えたのはいい経験になりました。

実際にONEの営業では、鈴廣さんとのお取り組みを紹介させていただいています。

鈴木 いい事例になってましたか?笑。良かったです!

今後の展望も佐原氏と鈴木氏それぞれに伺った。

佐原 レシートのように今まで捨てられてしまうだけの物に、価値をつけることで様々なサービス展開が可能になりました。鈴廣さんには情報の提供と、工場体験の送客をお手伝いしましたが、今後は購買情報をもとにした分析レポートも提供してゆきます。

日々のマーケティング業務で必要となる購買情報の分析など、レシートにはまだまだ可能性が秘められています。レシート以外の買取も行なっているのでもっと色々な企業様とお取り組みができればいいなと考えております。

鈴木 まだまだ弊社は観光客依存になりがちなので、もっとお客様と接触回数を増やしていかないといけないなと思います。その方法としてはECやSNSが挙げられると思います。しかし、まだまだECの割合は低いですし、サイトの設定も改良していかなければなりません。もっと実店舗と同じレベルの購買体験をお客様ができるようECと、実店舗のギャップは無くしていきたいですね。

SNSも最近私のTwitterアカウント(鈴廣11代目見習い)で活動し始めたのですが、日々試行錯誤です笑。ただかまぼこの魅力をしっかり消費者に伝わるように、必死に活動は行なっていきます。今回のONEもその中の一つです。新しいチャレンジにはこれからも挑戦し続けていきます!

ECのミカタ編集部の見解

江戸時代に創業し、小田原という土地の地場産業としても盛り上げている鈴廣。老舗であることに慢心せず、需要の変化や商品開発に懸ける鈴木氏の考え方はまるで職人のようでした。ONEという今までにはない新しいサービスに対しても情報収集の感度を高めていたからこそ、しっかりキャッチできたのだと思います。

伝統産業の課題としてよく挙げられがちな、昔ながらの固定概念を払拭できずに柔軟な対応が欠けてしまうようなことは鈴廣からは感じませんでした。常に最前線のマーケティングを追いかけ、自社の新陳代謝を促す姿勢が今回のONEとの取り組みにつながっています。

少しでも外に目を向ければ、面白いサービスはたくさんあります。忙しさを理由にせず、鈴木氏のように情報収集を行なってみてはいかがでしょうか。鈴廣のように全く新しいビジネスを行うことが可能になる可能性はこの記事を読んでいる人、すべてに共通しているのではないでしょうか。


記者プロフィール

西村 勇哉

メディア運営事業部 編集チーム所属
見た目はヒョロイのに7歳から空手を習っています。
他にも水泳、サッカー、野球、弓道の経験有り。
たまにメルマガに登場しますが乃木坂46の話しかしません。
連絡先→nishimura@ecnomikata.co.jp

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