食べチョクが目指す、こだわりのある生産者が評価される世界

ECのミカタ編集部

株式会社ビビッドガーデン 代表取締役社長 秋元里奈氏

品質にこだわる生産者から食材などが届く、産直通販サイト『食べチョク』では、生産者の立場にフォーカスし、類まれな勢いで売り上げを伸ばしている。運営元の株式会社ビビッドガーデン 代表取締役社長の秋元 里奈氏にサービスへの思いや具体的な取り組み、今後の展望をうかがった。

大規模流通では評価されにくいこだわり食材を直販ECで

ビビッドガーデンは「生産者のこだわりが正当に評価される世界」を事業ビジョンに掲げて2016年にスタートし、2017年に『食べチョク』をリリースしました。食べチョクは、生産者と消費者を直接つなぐマーケットプレイスです。

現在の農業の課題として、これまで中間流通によって強化されてきた安定供給の仕組みに対して、人口減などのため需要にギャップが生まれたということがあります。以前からJAさんが取り組まれているような、均一の品質のものを大量に作って流通させるシステムは素晴らしく、私たちの生活に欠かせないものです。ですが消費者からすると、食材自体の量は十分に足りているなかで「よりこだわったものを食べたい」「珍しい食材が欲しい」などのニーズは多様化しているのです。

しかし大規模流通では、形が均一でないと買い取ってもらえないなど、こだわればこだわるほどに損するしくみとなっています。食べチョクではそうしたギャップを解消するため、生産者がECで消費者と直接つながれる販路を提供しているのです。

農作業の手伝いなどで地道に生産者を開拓

実は産直ECは珍しい仕組みではなく、10年前くらいからあります。ですが農業に詳しい方もチャレンジしてきたなかで、失敗事例も多くありました。

私たちのサービスには、こだわりを持つ生産者さんの存在が欠かせませんが、そういったこともあり、最初の頃は生産者さんの開拓に苦戦しました。そのなかで、外の業界から一人で飛び込んだ私は農業・漁業界とのつながりもありませんでしたので、最初のうちは生産者の信頼を得るために、直接お話を聞きに行ったり、農作業をお手伝いしたりしながら交流を深め、少しずつ登録者を増やしていきました。

地道な活動が実を結び、登録生産者数は立ち上げ当初の60軒から、コロナの影響もあって現在は2,300軒以上に増えています。当初は自分で直接営業して登録していただいていたのですが、今は先方からの申請がメインとなりました。今後は2万件、4万件と増やすことを目指していくなかで、コミュニティとしての仕組みを強化し、生産者との距離感を縮めていくことの必要性も感じ、強化しているところです。

協業・出資プログラム参加でビジネスの基盤を構築できた

食べチョクと通常の流通ルートの比較

食べチョクが大きく成長した要因にはコロナの影響もありますが、二つのアクセラレーションプログラムに採択していただいたことも大きいです。一つは東京都がやっているシード期のベンチャー対象のプログラムでした。

プレゼンでは、産直ECの失敗事例は多いものの、当時と今とでは大きく状況が違うことを、メルカリを引き合いに出しながら説明しました。消費者がスマホでものを売り買いすることに抵抗がなくなり、等価値のものを売り買いしたいニーズが高まっている今なら、絶対に成功できるとお話しして、サービスリリース前に採択していただきました。結果、東京都に支援してもらっているサービスということで、生産者さんからの信頼も得られやすくなったと思います。

もう一つはクックパッドさんのプログラムで、生産者集めの実績が評価されリリースしてすぐ採択していただきました。クックパッドさんでもその前年まで産直便事業をしていましたが、生産者集めには苦労されていただけに、その点を評価していただけたのだと思います。クックパッドさんではオフィスのスペースを1年間お借りし、スタッフさんにも協力いただくなど、さまざまな連携をしていただきました。

モールやカート、大規模流通とのすみ分けを意識

食べチョクのサービスは、よく他サービスと比較されるのですが、私はうまくすみ分けができていると考えています。例えば楽天やAmazonなどの大きなモールではモール内での広告出稿が売り上げにつながるため、ある程度資本力のある企業の方が売りやすくなります。

一方、農作物の場合は生産者の94%が中小規模で、家族経営の方も多くいらっしゃいますので資本力で戦うということができません。そうした方々は、自身のホームページや、BASE、STORES、メルカリなどで売っていたりもするのですが、売り先の消費者を自分でつかむことは難しい。そこで食べチョクが間に入り、中小規模の生産者が直販で売れるようにサポートしています。

またJAとの違いですが、食べチョクでは8割の粗利で販売することができますが、代わりに箱詰めや集荷など出荷の手間はかかります。大量の作物を一気に出荷しているような生産者が取り組むのは難しいでしょう。逆に中小規模の生産者さんで、梱包の手間はかかっても利益が取れる方がいいなら、食べチョクが適していると思います。

作物の種類や時期によって違うのであくまで参考程度の数値ですが、生産者の利益はJAさんの流通ですと約3割、食べチョクだと約8割です。食べチョクが販売時に20%を頂き、送料は消費者負担となります。小さい規模の生産者さんからすると、食べチョクは収益が上がりやすい仕組みだと思います。

消費者の熱を上げるため、さまざまな企画を提案

マーケットプレイスの難しさは、需給の調整だと考えています。食べチョクでは現状、売りたいニーズの方が圧倒的に多いので、消費者からの評価を集めるために、さまざまな施策を用意しています。収穫してから最短24時間以内でお届けする取り組みもその一つです。

また、生産者のこだわりを伝えるために、商品ページの下に顔写真付きのプロフィールとともに、コメントも掲載しています。コメントは生産者自身に書いてもらいますが、消費者側のメリットを入れるよう弊社からもお願いしています。例えば「堆肥に○○を入れています」と言われても消費者は自分にとって何がメリットなのか分かりませんよね。「味がおいしくなる」「こういう料理に使いやすい」など消費者に直接刺さる文言が必要です。

またもう一つ消費者に刺さるのは、環境への配慮。これは消費者の生活に直接影響はありませんが、理念に共感していただけることが多いのです。ですので「〇〇は〇〇なため環境に優しい堆肥です」などのメリットとその背景が分かるように書いてもらいます。

商品の見せ方も大切です。生産者はセレクトや梱包が楽な「お任せ野菜セット」などを出したがる傾向にありますが、消費者からすると使いにくい。そこで食べチョクでは「バーベキューセット」「鍋セット」「福袋」などの企画を提案して、商品を作っていただいています。

生身の生産者とつながれる消費体験の感動も提供

食べチョクを利用しているのは、主にお子さんのいる家庭やご夫婦世帯など、誰かのために食事を作っている方が多いです。ご愛用の理由についてお客様にインタビューすると、「新鮮で美味しい食材が買える」という実利の面もありますが、「生産者とつながっているから安心できる」という声も多く聞きます。

スーパーでも生産者の顔写真やプロフィールは掲載していますが、今やそれも当たり前の風景でしょう。食べチョクの場合はそうした生産者の顔が見える工夫に加え、食材が届く箱の中に手紙やおまけが入っていたり、段ボールに直接マジックで「ありがとう」と書いてあったりなど、生産者一人一人の個性と気持ちが直接届くので、生身の人間とやりとりする消費体験をしていただけるので、購入してからより一層ファンになっていただくケースも多いのです。

産直サイトのニーズは今までもありましたが、買う場が少なかったのだと思います。たとえば、青山ファーマーズマーケット(以下、青山FM)など都内のマルシェは大人気ですよね。青山FMは1日に1万から1万5千人の来場者がいて、毎週2日、それぞれ武道館規模とかなりの集客力です。会場の隣には安いスーパーがありますが、子連れの方も青山FMの方で買っている。食べチョクをスタートする際も、青山FMの事例を知っていたので可能性を感じましたし、ビジネスの参考にもしています。

コロナをきっかけに高齢生産者の支援にも着手

コロナ禍では生産者からのSOSが多くありました。過去にも災害などに相談はありましたが被害がでるのは2〜3県と局地的なので、軒数もそこまで多くはありませんでした。コロナ禍では全国各地の生産者に影響があるので、多いと1日に500軒あったこともあり、これを受けて3月2日から私たちもコロナ支援を始めました。

売り上げが減ってもギリギリになるまで声を上げなかったり、3月の時点で困っていても、「自分以上に大変な人がいるから、自分が声を上げるのは申し訳ない」と考えている方も多いためか、特に5〜6月から切羽詰まった状態でのSOSが増えました。相談内容として目立ったのは、給食やイベント、飲食店に食材を卸していた方が、卸先がなくなって在庫が余ってしまったというケースです。

食べチョクでは初めての直販をサポートするため、出品フローの整理や出荷周りの準備をお手伝いしました。トマト1キロなど個人向けには売りにくい量については、シェフのレシピとコラボする企画をスタートしました。これは自分のお店が運営できなくなったシェフのためのサービスにもしたいと考え、シェフにはレシピ代をお支払いするだけでなく、1個売れたら300円を還元し、シェフと一緒に売っていく報酬型にしました。この企画がとても好評で、中には月に30万円を売り上げているシェフもいらっしゃるほどです。

コロナ禍でもう一つ目立ったのが、高齢の生産者からの相談です。以前より食べチョクでは高齢の生産者をサポートしたいと考えていましたが、それを実現するきっかけとして「ご近所出品」をスタートしました。これまで食べチョクでは登録している生産者のみの出品しかできませんでしたが、複数の生産者がグループ出店できるようになり、ネットに詳しくない高齢者も地域の若い人と組んでの出品が可能になりました。

また、グループで魚とご飯を組み合わせた「和食セット」や卵と鶏肉で「親子丼セット」など、さまざまな組み合わせの食材のセット提供もできるようになりました。また、自治体との連携も強化しています。まず佐賀県で、食べチョクをよく使っている生産者さんを現地サポーターにして、30件のグループでスタートしました。当初の構想段階では、現地サポーターが見つかるかどうか心配もあったのですが、幸い熱量のある方が名乗りを上げてくだいました。その方はすでに食べチョクで成功していましたが、「自分だけでなく、同じモデルを作って地域に貢献したい」「地域に育ててもらったから恩返しをしたい」という使命感で取り組んでくださっています。

プラットフォームというと、人と人との距離が遠いイメージもありますが、農業だと血の通った、地域のコミュニティを生かしながら運営ができる。その仕組みを作るのが、食べチョクの役割だと思っています。

食べチョクが目指す6次産業の未来とは

今後は6億の資金調達をして、生産者側の使い勝手を向上させたり、物流面でもヤマト運輸さんと、生産者さんが出荷しやすくするための連携を取るとともに、広告宣伝費や開発にも力を入れていきます。

また「ご近所出品」以外でも、地域のネットワークを活かしながら、高齢の生産者がより出品しやすい仕組みを考えていきます。消費者の熱を上げる施策としては、アプリをiPhoneでリリースし、Androidでも開発を進めています。Webに加えてアプリもあると運営コストが2倍以上になるため、あえてこれまで着手せずにいましたが、成功モデルが見えてきたのでやっとスタートできるようになった次第です。

食べチョクに登録する生産者は2月末時点では750軒でしたが、コロナの影響で今は2,300軒と、3倍になりました。今、食べチョクが拡大しているのは、タイミングも大きいと感じていて、メルカリもなく、ここまでスマホが普及していない10年前に始めていたらうまくいかなかったとも思います。

スタートして、波に乗り出した頃にコロナがきて登録生産者が急に増えましたが、プラットフォームが整っていて、サポートできる人材もいたので運営を続けることができています。拡大傾向にあることは喜ばしいのですが、同時に私がビジョンを曲げてはいけない、曲げた瞬間にどこにでもあるプラットフォームになってしまう、という危機感も持っています。

私が食べチョクの仕事を頑張り続けられるのは、「生産者のためのビジネス」だからです。株式会社ですから、ちゃんと従業員を食べさせるために稼がなくてはいけませんが、そのために当初から掲げているビジョンを見失ったら、ビジネスの意味がなくなってしまいます。そのため私は、生産者さんの利益を削って消費者に安いものを届けようとは一切思いません。

以前、コロナの影響で困っていた生産者さんの手元に余ってしまった食材を販売したとき、「余ったものの割に高い」と言われたことがありましたが、食べチョクでは単に在庫をはくのではなく、生産者さんの収益につなげるために、余っているからこそ正規の値段で販売したのです。このことは、あらためて自分の立ち位置を確認した出来事となりました。

コロナ禍では売り上げがほぼなくなったものの、食べチョクを始めて直販で成功した生産者もいます。すごくいいものを作っている生産者が廃業の危機に陥るような状況の中で、安心して生産を続けていただけるようにしてこそ、食べチョクも継続していくことができます。

消費者への観点では、市場ではお目にかかれない、地域に眠っている良質な食材と出合えることや、生産者の体温が感じられる買い物ができることなどが他のサービスとの差別化ポイントだと思っています。ネット環境が発展してリアルなつながりが薄くなる中で、ネットでつながる先にいる人の温かみを体験したい人が増えています。

今、食品系のECプラットフォームは増えていますが、食べチョクでは今後もそうしたニーズにしっかりアプローチしていきたいですね。スタート時から今に至るまで、食べチョクは生産者の立場にフォーカスしたサイトなので、作るものが良い、思いが強い、と言った本気度がある生産者であれば、売るための力がなくても、ちゃんと売れるようにしたい。

生産のプロであっても売り方のプロではない方に、こちらから企画を提案して、それに乗る形で売ってもらう。そうした媒介者の立ち位置で、今後も存在していきたいと考えています。

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