自分たちは何者か?──価格競争を脱し仕入れ体験の再設計に挑んだcottaのBtoB EC変革

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ECのミカタ編集部

BtoB ECを立ち上げたものの、気づけば価格訴求に頼ってしまう。サイトに商品を並べ、販促を打っても、顧客に選ばれる理由をつくりきれない。そんな課題を抱える事業者は少なくないだろう。

製菓・製パンの材料や資材を販売する株式会社cottaが運営するBtoB EC(業務用仕入れサイト)「cotta business」も、かつて同じ壁に直面していた。コロナ禍を追い風に成長したものの、やがて新規顧客数は頭打ちとなり、サイトが「カタログ化」しているのではないかという課題感が生まれた。

そこで同社が向き合ったのは、単なるサイト改善ではなく、「自分たちは何者か」という問いを起点に顧客の仕入れ課題と自社の提供価値を捉え直すことだった。価格訴求型ECから、顧客解像度を高めた「提案型EC」へ。cotta businessはどのように変化していったのか――。

※本記事は2026年5月開催「ECのミカタ カンファレンス」で行われた株式会社cotta 法人事業部 マネージャー 斉藤みなみ氏のセッションをレポートしたものです

急成長の先に見えた「強くないEC」という壁

急成長の先に見えた「強くないEC」という壁画像提供:株式会社cotta(カンファレンス登壇資料より ※以下同じく)

cottaは、製菓・製パンに必要な食材や道具、ラッピング資材など約2万SKUを扱い、BtoC向けEC「cotta」とBtoB向けEC「cotta business」を展開する企業である。法人向け事業は約28年前、乾燥剤を電話やFAXで受注するオフラインビジネスとして始まり、2019年にBtoB EC化。コロナ禍では、焼き菓子やパンの販売を始めるスモールビジネス層の増加を背景に、会員数や売上を伸ばした。

しかし、開業ブームが落ち着くと、新規顧客数は頭打ちに。売上の成長も鈍化し、運営側には「なんか『強く』ない」という漠然とした違和感が残った。

その違和感の正体の一つが、サイトの“カタログ化”だった。商品を並べてはいるものの、顧客に対して十分な提案ができていない。同社の斉藤みなみ氏は「運営する自分たち自身もサイトに誇りを持ちきれていなかった」と振り返る。

「提案をしたいのに、何を提案すればいいのかが分からない。『強くないEC』になってしまっていた本質的な原因は、リアルなお客様の解像度が足りていなかったことでした」(斉藤氏)

BtoB ECの競合は、単体のECサイトではない。問屋やメーカーの営業担当者が、実際に店舗を訪問し、オーナーと会話しながら商品を提案している。cotta businessは、ECでありながら、そうしたリアル営業の提案力とも戦う必要があった。にもかかわらず、当時のサイトには提案が足りなかった。その根本には、顧客解像度の不足があったという。

サイト改修の前に「自分たちは何者か」を問い直す

課題が見えたときに同社が取った行動は、安易なサイト改修ではなく、「自分たちは一体何者なのか」という問いに本気で向き合うことだった。

斉藤氏らは、社長も交えて顧客の店舗を訪問し、1〜2時間かけて話を聞く活動を続けた。その中で見えてきたのが、製菓・製パン業界特有の仕入れ課題である。

パティスリーやカフェのオーナーは、食材、包装資材、消耗品などを複数の仕入れ先から調達している。仕入れ先が多すぎること自体に、顧客自身が気づいていないケースもあった。また、業界内の情報環境が閉じており、商品や販促のアップデートを受けにくい店舗もある。有名店にはメーカーや問屋の営業が提案に来る一方で、そうではない店舗には提案自体が届きにくいという情報格差もあった。

また、製菓・製パン業界には、母の日、クリスマス、バレンタインなどのイベント需要が自然に発生する特徴がある。販促を仕掛けなくても一定の仕入れが生まれるため、業界全体としてDXが進みにくい側面もあった。

こうした業界構造を踏まえ、cotta businessは自社の強みを整理した。

約2万SKUを持つ「問屋」としての要素、PB商品を開発する「メーカー」としての要素、ECとして販売できる仕組み、そしてBtoC ECで培ってきたメディア・見せ方のノウハウ。この4つを掛け合わせることで、単なる仕入れサイトではなく、「顧客の仕入れ体験そのものを支える存在」になる。そう定義し直したことが、以降の施策の起点になった。

価格訴求から脱却するために、商品開発と見せ方を変える

自社のあるべき姿を定めたうえで、同社はEC運営を5つの観点から再設計した。その一つが、「価格」を「価値」に変えることだ。

cottaは長らく、BtoC向けECとBtoB向けECを両方運営してきた。そのため商品開発や販促も、個人客と法人客のどちらにも訴求できるものになりやすかった。結果として、セールや価格訴求に寄りがちだったという。

これを変えるために、法人事業部としての組織体制を見直し、BtoB顧客に向けた商品開発へ舵を切った。商品開発のフローやフレームを見直し、プロモーションも安さではなく「なぜこの商品に価値があるのか」を伝える表現へ変えた。その結果、PB新商品の売上は約1.5倍に伸びた。

営業の役割は「売る」から「聞く」へ

cotta businessは、多くの営業担当者を抱える組織ではない。過去にはテストマーケティングとして法人営業を採用したが、斉藤氏は当時を「売る営業では、問屋さんやメーカーさんの営業に全く太刀打ちできませんでした」と振り返る。

そこで同社は、営業の役割を「売る営業」から「聞く営業」へと再定義した。売上目標は追いながらも、それ以上に顧客解像度を上げ続けることをミッションに据えたのである。

営業担当者は店舗を訪問し、顧客がどのような悩みを抱えているのか、cottaの商品を実際に店頭に並べた後にどのような反応があったのかを聞き取る。その内容は訪店調査シートに記録され、法人事業部全体で共有される。

重要なのは、顧客の声を営業担当者だけの情報にしなかった点だ。マーケティング、商品開発、事業開発など、顧客に向けて発信する部署が同じ顧客理解を持てるようにし、顧客の声を組織に還流させることで、商品開発や販促企画の精度を高めていった。

一律接客をやめ、顧客の文脈に合わせる

以前のcotta businessでは、来訪頻度や購買状況が異なる顧客にも、同じバナーや販促を表示していた。ロイヤルカスタマーや“離反気味”の顧客といった定義はあったものの、実際の接客には十分に反映されていなかったという。

現在はMAツールを活用し、来訪頻度や購入履歴、閲覧ページなどに応じて、バナーやポップアップ、フロートを出し分けている。クロスセルや特集への誘導も、顧客の状態に合わせて設計する。

加えて、サイト外接客にも取り組む。離反気味の顧客は、どれだけサイト内の表示を工夫しても、そもそも来訪してもらえなければ見てもらえない。そこで同社は、メルマガなどを通じて再来訪のきっかけをつくっている。

例えば、来訪頻度が低い顧客に対し、ポイント特典を付与するメルマガをテストしたところ、開封率に大きな差はなかった一方で、ポイント訴求を加えたグループはクリック率が高まり、来訪後の滞在時間や購入にもつながったという。BtoB ECにおいても、顧客を一括りにせず、関係性や購買文脈に応じた接客が必要になっている。

思い込みに頼らず、ABテストで接客を磨く

マーケティング施策は、担当者の感覚や過去の成功体験に依存しやすい。cotta businessでは、そのセンスが本当に正しいのかを常に問い、ABテストを重ねている。

象徴的なのが、クリスマス商材のバナー検証だ。従来の感覚では、世界観のある写真やシリーズ訴求のほうが反応が良いと考えがちだった。しかし実際にテストすると、クリスマスギフトを探している顧客には、より具体的な単品訴求のほうが効果的だった。訴求商品の購入CVRは、世界観重視のシリーズ訴求バナーでは9〜13%だったのに対し、単品訴求バナーでは22〜33%まで伸び、最終的な購入コンバージョンは約3倍の差になったという。

「よいクリエイティブ」かどうかではなく、顧客の購買文脈に合っているか。思い込みで進めず、検証して当たった方に寄せていく姿勢が、提案型ECへの転換を支えている。

単発購入を定着へ変えるロイヤルティ設計

価格訴求をやめることは、顧客に「cottaは安くなくなった」と受け止められるリスクもあった。そこで同社は、買い続けるほどメリットが生まれるロイヤルティプログラムを導入した。複数の仕入れ先に分散していた発注を、cotta businessに集約してもらう狙いもあった。

設計上の特徴は、毎月ランクが変動することだ。多くのロイヤルティプログラムは半年や1年単位でランクを固定するが、cotta businessでは、直近の購買を反映して月次でランクが変わる仕組みにした。製菓・製パン業界は冬から春にかけて繁忙期を迎えるため、年間固定のランクでは閑散期に購買意欲が下がりやすい。毎月買う意味を持たせることで、仕入れ行動の習慣化を促した。

また、仕入れ時にネックになりやすい送料を特典化し、一定の購入がある顧客には送料無料チケットを付与した。さらに、購入頻度と購入額のバランスを見ながらランクを設計し、商品ページやカートページでも現在のランクを表示。顧客が自分のランクを意識し、ランクダウンを避けたいと思える接点をつくった。

この取り組みにより、ロイヤル顧客の売上は前年比107%、顧客一軒あたりの年間売上は4244円アップ。ブロンズからシルバーへの昇格率も4%改善したという。

顧客解像度を起点に、仕入れ体験を設計する

5つの再設計を経て、cotta businessは「なんとなく強くないEC」から、質を伴った成長へと転換した。高単価層へのアプローチが進み、客単価は前年比107%に伸長。ロイヤルティプログラムと1to1接客により、ゴールドランク以上の顧客UU数は前年比114%に増加した。さらに、価格競争から脱却したことで、粗利額も前年比109%まで成長した。

斉藤氏は、この変化の起点を次のように振り返る。

「自分たちが何者かという答えを探せたことが一番大きい」

サイトの見せ方やCRM施策、ロイヤルティ設計は、その問いから逆算された具体策だった。

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価格競争から抜け出すには、単に値引きをやめるだけでは不十分だ。顧客の課題を捉え、自社がどのような価値を提供するのかを決め切り、商品開発や接客、検証、定着施策まで一貫させる必要がある。cotta businessの取り組みは、顧客の選択肢が多く、継続購入が重要となるBtoB ECにとって、顧客解像度を起点に仕入れ体験を設計する重要性を示している。

斉藤 みなみ
株式会社cotta 法人事業部 マネージャー
2012年、外食企業へ入社し、店舗運営をはじめ、店舗統括・業態開発など幅広い業務を経験。2022年、株式会社cottaへ入社。CRM担当として顧客コミュニケーション設計や販促施策に従事した後、BtoB事業部マネージャーに就任。商品開発・マーケティング・法人営業など各ユニットの役割を見直しながら、製菓製パン業界における“仕入れ体験”の再設計を推進。顧客解像度を軸に、事業成長と組織進化の両面からBtoBブランドの強化に取り組んでいる。

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